YOSHIMURA Engine Case Guard “PRO SHIELD” A Small Armor From Racing
ヨシムラのレーシングスピリッツがエンジンを守る。

掲載日/2019年8月23日
取材協力/ヨシムラジャパン
写真/井上演、稲垣正倫、ヨシムラジャパン 取材、文/石橋知也
構成/バイクブロス・マガジンズ
ヨシムラのエンジンケースガードKIT“PRO SHIELD”は、純正エンジンケースカバーの外側に装着する2次ガードだ。そして、これも多くのヨシムラパーツ同様にレースの現場から生まれたものだ。その開発・設計は、やはりヨシムラらしいコダワリがあった。

PRO SHIELD(プロ・シールド)は、万一の転倒時に、エンジンクランクケースの周囲を守り、クランクケース破損によるエンジンオイル漏れや、エンジン内部への砂などの進入を防ぐのが役割だ。ストリートバイク用の2次ガードパーツだが、ルーツはレース。もちろん高品質でデザインも素晴らしいからドレスアップ効果も非常に高い。

ロードレースでは現在多くのカテゴリーでエンジンケースガードの装着が義務付けられている。MFJでは2007年から推奨し、2008年からJSB1000やST600で装着が義務付けられた(FIMでは2007年から)。当初は樹脂製が指定されていて、カーボンなどが使われた。現在のMFJ規定ではカーボンやケブラーなど複合材は厚さ2㎜以上、アルミなど金属製は4㎜以上で、その部分の1/2以上をカバーすることと規定されている。鈴鹿8耐などのFIM・EWCではガードは金属製のみ許可されている。

CB400SF/SB(14-18)用エンジンガードKIT「PRO SHIELD。左がジェネレーターカバー(エンジン右側)で、右がパルサーカバー(エンジン左側)。本体はアルミ合金6061-T6をCNCで削り出しでカラーはスレートグレー。その外側に黒いエンジニアリングプラスチック製ガードをボルト留めする2重構造。ステンレス製黒塗装キャップボルトやワッシャーも付属。

「ヨシムラのレーサーも以前はカーボン製を使っていましたが、少し前からアルミ製にしました。カーボンは強固な材質ですが、2㎜厚ではすぐに削れてしまう。守るという目的では4㎜厚のアルミの方が良いので。もちろんCNC削り出しのレーサー用スペシャルパーツです」

設計部を率いる吉村秀人さんは不二雄社長の次男。ヨシムラDNAを受け継ぎ、POP(故吉村秀雄氏)の情熱と、父不二雄さんの理論を合わせ持つ新世代。

最新型のヨシムラGSX-R1000レーサーは、全日本選手権(JSB1000仕様)も世界耐久選手権 鈴鹿8耐マシン(EWC仕様)もアルミCNC削り出しガードをジェネレーターカバーやパルサーカバーの外側に装着している。また、樹脂製のシャーシスライダーも左右にあり、空気抵抗を考慮したウィング断面でなかなかカッコ良い。

ヨシムラレーサーのエンジンガードもアルミ削り出しを使用。削れにくく、割れないためカーボンではなくアルミ削り出しとしている。このレーサーでのノウハウがPRO SHIELDに生かされているのは言うまでもない。

「PRO SHIELDはレーサー用と同じ発想で開発・製作しました。材質はアルミ合金6061-T6で、CNC削り出しです。この材料の削り出しは粘りがあって割れにくく削れてくれる。厚みはレース用よりも厚くて7mm厚が基本で、軽量化した部分も4㎜厚と充分な強度を確保しています」

CNC削り出しで、強度が必要な部分と軽量化が可能な部分の厚みやデザインを巧みに使い分けているのも特徴。7mm厚を基準に、段付きや穴を開けた軽量部分は4㎜厚。このような断面方向から見るとよく分かる。

レース用よりも強度アップしてあるということだ。鋳造ではなく、遥かに強度が高い削り出しであることは見逃せない。レース用もカーボン製の方が軽いが、現在の最低重量がJSB1000で165㎏、EWCの夜間走行を含む8時間や24時間のレースでは175㎏と、重量規制がなかったTT-F1時代よりも厳しくないので、安全性を優先してエンジンケースガードはアルミ製を使っているということだ。

昔は軽量化やバンク角増大のため、純正に替えてマグネシウム製のエンジンカバーを使っていた。CB750FOUR、Z1、GSX1000Sカタナ、油冷GSX-R750などのスーパーバイクやTT-F1マシンには、そういったカバー類を装着していた。また、そのスタイルや質感はファンにはたまらなく、現在でもわざわざ当時のような砂型鋳造(アルミ)したカバー(CB400FOUR用など)を発売している。が、これらはあくまで当時の雰囲気を大切にしたカバーであって、エンジンを守ることが目的のガードではないからPRO SHIELDとは目的が異なる。

「アルミ削り出しの素材は、ただ硬いだけではダメなんです。エンジンケースガードは直接エンジンに装着するので、エンジンの振動をモロに受け、最悪割れてしまいます。振動対策は粘りのある材質を使い、デザインを充分検討することで対処してあります」

強度、耐振動性、耐久性は過酷なレースでの実戦を通して得た経験と解析がある。ちなみにストリート用PRO SHIELDの開発スタッフは、レース用も設計している。

もちろんデザインはCNC削り出しの良さを生かしたもので、斜面に残した筋状の切削痕や、軽量化の段差などはCNC削り出しならではの美しさだ。そして、アルミパーツの上に重ねた15㎜厚の樹脂パーツは、シャーシスライダーなどと同じ滑りの良いエンジニアリングプラスチック製(POM:ポリ・オキシ・メチレン)。軽い立ちゴケなどの転倒なら、本体のアルミパーツは傷めず、これだけでダメージが済むような設計で、交換パーツも用意される。

「バンク角の確保、路面と当たる位置、各パーツの形状などは検討を重ね、ヨシムラらしいデザインに仕上がっていると思います」

ヨシムラジャパン設計部の名島皓貴さん(右)と設計部部長の吉村秀人さん(左)。今回紹介するPRO SHIELDは名島さん設計の製品。同社設計部ではストリート用パーツばかりではなく、ヨシムラレーサーに使われるエンジンパーツや車体パーツ全般の設計も行っている。

PRO SHIELDは2ピース構造で、最も傷みやすい黒い樹脂パーツ(エンジニアリングプラスチック製)のみ交換パーツとして購入できるのはありがたい。

そして、もう1つ。ブレーキレバーを守るレバーガードもリリースされた。このレバーガードもレースからのフィードバック。MotoGPでは2012年から全クラス装着が義務付けられた。目的は他車とブレーキレバーが接触した場合、不意に意図せずブレーキがかかってしまう事で転倒しないようにするためだ。ストリートではそういうシチュエーションは少ないが、立ちゴケなどの場合はレバー自体を守ってくれる。

レバーガードのベース部分のパーツはアルミ削り出し(ヨシムラロゴをレーザー刻印)で、先端部が樹脂製(正面にヨシムラロゴをエンボス加工)。長さは120㎜と145㎜の2ポジション調整可能(ハンドルバー~アーム先端)。アルミベースのカラーはレッド、スレートグレー、ゴールドの3種類。ハンドルバー内径 14〜15.5mmに対応したφ14用と、16〜18.7mmに対応したφ16用がある。

「ガードは2段構造で、基部がアルミで、先端部が樹脂製。途中でレバーの形状に合わせて長さを調整できるようにしてあります」

先端部にヨシムラのロゴが成形されているので、機能パーツではあるが、お洒落なデザインになっている。

何かを守るためのパーツ。その目的はもちろん、生まれた背景を知っていれば、少しうれしくなる。ヨシムラのパーツは、レースから生まれる。それが小さなパーツでも、レーシングスピリットがちゃんと込められている。

Z900RSにレバーガードを装着。
これはショートポジション(120㎜)で調整。ハンドルバーに差し込む専用の振動軽減用ウェイトも同梱される。
なお、このグリップラバーもヨシムラ製(ロゴ入り)。

ヨシムラレーサー専用のレバーガード。
GSX-R1000ヨシムラレーサー(JSB/EWC仕様マシン)に装着されている。
これは全て樹脂製。

INFORMATION

住所/神奈川県愛甲郡愛川町中津6748

営業/9:00-17:00
定休/土曜、日曜、祝日

1954年に活動を開始したヨシムラは、日本を代表するレーシングコンストラクターであると同時に、マフラーやカムシャフトといったチューニングパーツを数多く手がけるアフターマーケットメーカー。ホンダやカワサキに力を注いだ時代を経て、1970年代後半からはスズキ車を主軸にレース活動を行うようになったものの、パーツ開発はメーカーを問わずに行われており、4ストミニからメガスポーツまで、幅広いモデルに対応する製品を販売している。