取材協力/ウラル・ジャパン  取材・写真・文/前田 宏行
掲載日/2017年10月11日

テラコッタ・メタリックを纏うウラルの1WDモデル『CT』は、サイドカーにフロントバンパーを持たないため、全体の丸いフォルムがより強調されている。まるでクラシックなオープンカーのような佇まいだ。モデル名は「City」の略で軽量に仕上げられており、カタログに謳われるように「Daily Commuter(日々の通勤に使う乗り物)」として身近に、そして気軽にサイドカーを楽しめることがコンセプトとされている。2WD仕様の『Gear Up』との乗り味の違いを楽しみつつ、ウラル・ジャパン代表のブラドさんと神戸の街を駆け巡った。

FEATURE

人目を惹きつけ街の人気者になるCTは
オーナーに寄り添う頼れる相棒

街中も気軽に流せるジェントルなウラル・サイドカー『CT』

待ち合わせ場所のポートタワーに到着すると、あでやかなサイドカーがすぐに目に留まった。今回のポタリングのパートナーであるCTだ。テラコッタ・メタリックは、明るさと上品な落ち着きを合わせ持つ。

「テラコッタ」はイタリア語の「焼いた土」という言葉に由来し、素焼きの焼き物を指す色彩だという。日本語であればレンガ色、という表現が近いだろうか。スタンダードカラーとしてはシックなグレイメタリックも用意されている。また、オーダー時にカラーオプションをチョイスして自分だけのカラーコンビネーションも楽しめる。更にはエンジンのブラックアウトの選択も可能だ。

さて、まずはブラドさんの運転で突堤に向かい、潮風を感じながらランチをしようということでサイドカーに乗り込んだ。その最中「すごくキレイですね」と通りすがりのご婦人に声をかけられ、ご機嫌で出発と相成った。

街中も気軽に流せるジェントルなウラル・サイドカー『CT』

サイドカーのシートを覆うCTのトノーカバーは合皮製。以前は表に出ていた留め具が裏面のベルトに取り付けられ、すっきりとした印象となった。サイドの固定箇所はフックにゴムを掛けるだけなので、乗車準備に手間取らない。トノーカバーはグルグルっと巻いてスクリーンのステーへとラフに巻きつける。寒い時期は、トノーカバーが足元への風よけにもなってくれる。

乗車する際、CTの標準装備であるウイングシールドが少し前に倒れるため、慣れるとスムーズに乗り降りできる。大の大人でも足を伸ばすゆとりがあり、一度舟に乗り込むと、不思議とホッとする空間だ。

街中も気軽に流せるジェントルなウラル・サイドカー『CT』

パッセンジャーの乗車位置は低く、ゴーカートに乗っているような感覚に近いものがある。カー側のフレームにもサスペンションを備え、本体の後部は2本の太いラバーによるマウント。一般的なクルマと比べると、その座り心地はもちろんワイルドだが気になるほどではない。

交差点で右折の際、バイク側のドライバーから対向車を見ようと前進すると、カー側が対向車線にはみ出ることになるので注意が必要だと感じた。こういうときはパッセンジャーがドライバーに対向車を伝えるなど、アシストすることで互いの安全性が高まるのではないだろうか。ちなみに、1WDのCTを運転するには大型二輪免許とヘルメットの着用が必須となる。2WDは普通自動車免許で運転でき、ヘルメット着用の義務はない。しかし、ウラル・ジャパンではヘルメットの着用を強く推奨している。

街中も気軽に流せるジェントルなウラル・サイドカー『CT』

神戸の和田岬にある、レトロ感が漂う商店街へと進んでいく。フランスで経験を積んだ若き職人が、丹精込めて焼くパンが人々を虜にするブーランジェリーがお目当て。こちらでハード系のパンを物色。

狭い道幅にも関わらず、パン焼き場の前に難なく停車。店内から顔を出してくれたブーランジェの方に、「うわっ、かっこいいですね!」と笑顔で迎えていただいた。お店を訪れていたお客さんからも声をかけられたり、小さなお子さんにじっと見つめられたり。商店街を抜けたところでは、またしても女性に話しかけられた。

バイクに乗っていても、クルマに乗っていても、ここまで気軽に女性から(!)アプローチされたことはない。これがサイドカーマジック、いやこのテラコッタ・メタリックを纏うあでやかなCTマジックだろう。ブラドさんはそうした対応をパッセンジャーに一任してくれていたようで、我が愛車かのごとく鼻高々に、CTについてお話させていただいた。

街中も気軽に流せるジェントルなウラル・サイドカー『CT』

ここからは運転をバトンタッチ。今年からメーターがデジタル化され、キーをONにするとメーターの針が動き、デジタルインジケーターには「URAL」の文字が浮かぶ。

一呼吸してから750ccのボクサーエンジンに火を入れ、1速へと踏み込む。エンジンは、プッシュロッドが上下することで吸排気バルブを開閉するクラシックなOHVなので、規則正しいメカノイズが心地良い。

マシンの重量と大人2人を合わせて500kgを超える車体は、とてもスムーズに進み出す。久しぶりのサイドカーの運転は、やはり独特のクセをすぐに感じることとなった。

アクセルを開けると斜め右へ進もうとする。アクセルを閉じると斜め左へ。しかし身体が自然に反応し、ハンドル操作によって調整するため気負う必要はまったくなかった。バイクを操縦できれば、このサイドカーのクセを楽しみながらすんなりと運転できるだろう。

ブレーキは現代のバイクと同じ感覚で、フロントをやや強めにかけるといいそうだ。3輪共にディスクブレーキを装備しており、レバーを握れば握るほどにその制動力は強さを増す。その効き始めがソフトタッチなので低速でギクシャクすることがなく、全体の操縦性の印象はしなやかで、とても扱いやすい。

街中も気軽に流せるジェントルなウラル・サイドカー『CT』

突堤で軽くランチ。周りの釣り人からも声をかけられつつ、潮風を楽しむ。ブラドさんのようにカーのマッドガードに腰掛けるもよし、バイク側のサドルを使うもよし。普通のバイクと違い、のんびりするポジションにもバリエーションがある。カップルであっても、友人であっても、ちょうど良い距離感だ。

街中も気軽に流せるジェントルなウラル・サイドカー『CT』

サイドカーと言えば、片輪走行がひとつのエンターテイメント......と思われるかもしれない。右へと急ハンドルを切り、アクセルを勢い良く開けるとカーの車輪がフワリと浮く。

このCTでは専用のサイドカーフレームを採用することでGear Upよりも車高を低くし、各タイヤサイズの小径化とも相まって重心を下げる工夫がなされている。そのため旋回性能も高く、Gear Upと比べると片輪走行の難易度は高い。それだけ安定性が高められているのだ。

悪路を走破することを前提に地上高が高めに設定されているGear Upに対して、CTは安定性を求めて低めに仕立てられている。

サイドカーを乗りこなす楽しみは、コーナリングがその最たるものと言ってもいい。パッセンジャーを乗せているかどうかでそのさじ加減も変化し、どの程度のスピードで曲がることができるのか......という感覚を掴むには、それなりの経験が必要だ。

最初のうちは、コーナリング中にできるだけブレーキをかけないように意識し、カーブの手前で最初にしっかりと減速することを心がければ問題はない。そういう面でも、この「片輪浮かせ」は愛車のコーナリングの限界点を探る、ひとつの練習法とも言える。が、無理は禁物だ。

街中も気軽に流せるジェントルなウラル・サイドカー『CT』

サイドカーで街中をぶらつくと、当然駐車するシーンに出くわすだろう。パーキングスペースには少々頭を悩ますこともあるようだ。駐輪場では場所を取りすぎるため、基本的にはクルマ用のパーキングスペースへ停めることが多くなる。

駐車券を受け取る場所ではクルマと同じ扱いで駐車することがおおよそ可能だが、コインパーキングでは設置されているタイヤ留めが作動しないこともあり、駐車はほぼ不可能だとか。街中でのパーキングの際は、事前に停められそうなところに目星をつけておく必要があるようだ。

街中も気軽に流せるジェントルなウラル・サイドカー『CT』

繁華街へと場所を移し、待ち合わせを想定してみた。その道程で片側4車線の道路を走行したが、車線変更時の不安は感じなかった。珍しいサイドカーなので周りのクルマもこちらの挙動に良く反応してくれるように感じた。

ウインカーを出し、後方確認していると、クルマがすっと下がってくれる場面も度々あった。そうした際には、サッと手を上げて後続車に礼の合図をすることがマナーだろう。

道端に停車する際のコツとしては、ウインカーと併せて手による合図も行うと、後続のクルマに対して分かりやすくアピールすることができるだろう。左手を外に向け、スピードダウンを示すように手を上下させた。ウラルの車幅は160cm強で、一般的なクルマの車幅よりも10センチ以上スリム。軽自動車よりは幅があるものの、停車はスムーズに行うことができた。運転者が左側なので、道路端への幅寄せも容易だ。

街中も気軽に流せるジェントルなウラル・サイドカー『CT』

空冷エンジンのため、真夏の渋滞時や間隔の長い交差点で停まった際は、エンジンをオフにすることも推奨している。ただ、神経質に行なう必要はなく、シビアな状態だと思った場合のみで大丈夫なようだ。ちなみにエンジンオイルはモチュール製の20w-50の鉱物油を使用している。

街中での低速運転を体験後、神戸空港へ向かうバイパスを駆け抜けた。チェンジペダルはシーソー型になっており、靴を傷つけることがない優れものだが、踵を使ってのシフトアップはしばらく戸惑ってしまった。

ウラルの加速は優しく、全域でフラットなパワーを感じる事ができる。少々ギアがあっていなくても、低回転から粘りを見せてくれる。80km/hくらいで走り続けることにストレスを感じないため、じっくりと長距離運転を楽しめる感覚が良く分かる。バイクに急かされることもなく、操縦者がゆとりを感じながら走らせる事ができる。

ブラドさんによると120km/h巡航も難なくこなすという。車高を低めに設定し、タイヤも手に入りやすい18インチ化されているCTは、ちょっとした街乗りからロングツーリングまで、ストレスフリーで楽しませてくれる。

2WDという特殊な装備はウラルの魅力のひとつではあるが、アスファルトの一般道ではまず使うことの無い機構でもある。2WDを潔く省いたライトウェイトなCTは、ユーザーに合わせて寄り添ってくれる、頼れるパートナーのようなサイドカーだと感じることができた。

DETAILS

ウラル・サイドカー CTは本当に扱いやすい
そのディテールやライディングポジションなどに注目

ウラルのサイドカーの取り回しは一見大変そうだが、平坦な場所での押し引きは容易だ。バックギアも備えられ、小回りが効くので想像以上に扱い易い。ブラドさんによると、ウラルの外装部品はイタリアやドイツで生産されているものもあり、CTの佇まいは上品だ。細部へのアップデートも定期的に行われているので、本年度に採用されたディテールもいくつかご紹介しよう。

街中も気軽に流せるジェントルなウラル・サイドカー『CT』

2017年に新たに採用されたデジタルスピードメーター。これまでメーターの周りに配置されていたインジケーター類も1か所にまとめられスッキリとした印象に。

街中も気軽に流せるジェントルなウラル・サイドカー『CT』

パーキングブレーキのレバーがクラッチの付近へと移設された。このレバーを操作することで、本車の後輪ブレーキが作動した状態となる。

街中も気軽に流せるジェントルなウラル・サイドカー『CT』
街中も気軽に流せるジェントルなウラル・サイドカー『CT』

CTのスタンダードとして採用されているソロシートは、デザインが変更され、シート長も長くなった。ポジションの調整幅が広がったことで更に快適に。CTはソロシートモデルのため、本車の乗車定員は1名とサイドカー(側車)の1名となる。オプションにてロングシートへの変更も可能なので、新車購入時にリクエストすると、本車の乗車定員を2名で登録することも可能。取り付けにはマッドガードの穴あけが必要で、グラブレールも合わせて装着することとなる。

街中も気軽に流せるジェントルなウラル・サイドカー『CT』

トノーカバーはこのように巻いて畳み、パッセンジャーが乗り降りする。気候によっては、このカバーをひざ掛け代わりにし、防寒対策に使用することも。トノーカバーの開閉はあっという間に行なうことができるので、わずらわしさはまったく感じない。

街中も気軽に流せるジェントルなウラル・サイドカー『CT』

これまで本車とサイドカーのヒューズボックスが別々に配置されていたが、今回のアップデートではサイドパネル内にまとめられた。整備性が大いに向上したポイントだ。

街中も気軽に流せるジェントルなウラル・サイドカー『CT』

サイドカーのステッププレートに配されるラバーカバーに新デザインが採用された。こうした細部への作り込みもウラルの魅力。

街中も気軽に流せるジェントルなウラル・サイドカー『CT』

これまではレバー式だったバックギアがペダル式になり、足での操作が容易になった。バックギアへ入れる際は、ギアがニュートラルに入っていることを確認し、クラッチを握りながらペダルを後ろへ踏み込む。スロットル操作は通常通り。

街中も気軽に流せるジェントルなウラル・サイドカー『CT』

サイレンサーの上部から出ているフレームが、サイレンサーの横まで下がっている。これがGear Upとは違うCT独特のフレーム構造。余談だが、CTは1WDのためサイドカー部を切り離すことが可能。再登録や本車の右側ウインカーの移設など、時間と手間、コストはかかるがモーターサイクル単体で登録して使うことも、できると言えばできる。ただし、気分によって使い分けることは不可なのでご注意を。

街中も気軽に流せるジェントルなウラル・サイドカー『CT』

エキゾーストパイプは錆に強いステンレス製。パイプの焼け色の変化も味のひとつだろう。

街中も気軽に流せるジェントルなウラル・サイドカー『CT』

身長178cmのライディングポジションはごらんのとおり。ハンドルやステップの位置に何の違和感もなく運転できた。ソロシートが延長されたことで、より快適なポジションとなっている。

BRAND INFORMATION

所在地/大阪府大阪市港区田中1丁目15-1
プラザ1 101号室
TEL/06-4395-5685
営業時間/9:00~18:00(火曜~日曜)
定休日/月曜・祝日
1939年、第二次大戦前の旧ソビエトで創業したIMZ社は、長年にわたって「ウラル」のモデル名でヘビーデューティなサイドカーを製造し続けているブランドだ。ウラル・ジャパンは、2007年1月に日本の代理店としてのサービスをスタートし、正規輸入やアフターサービスを通じて日本のユーザーをサポート。大阪のショールームでは車両販売をはじめ、関連グッズも多数販売している。