取材協力/ウラル・ジャパン
取材・撮影・文/前田 宏行  構成/バイクブロス・マガジンズ編集部  撮影協力/亀岡トライアルランド
掲載日/2016年12月26日

FEATURE

徹底したスムーズさの追求が
操作性と走る歓びを向上させた

サイドカーというと、車の流れに合わせゆったりと走行する......というイメージを持つ方も多いかもしれない。しかし、今年で75周年を迎えたIMZ社製「ウラル」のサイドカーは、ひと味もふた味も違う。元々は軍用車をルーツに持つウラルは、OHVという昔ながらの機構をじっくりと煮詰めたボクサーエンジンを抱き、アメリカをはじめ、世界各国で根強く愛され続けている。ソロのモーターサイクルに、サイドカーが後付けされているのではなく、サイドカー専用車として設計されており、サイドカー側の車輪も駆動するパートタイムの2WDを備えることで、悪路での走破性を高めている点も大きな魅力だ。今回は同社のフラッグシップモデルである、ウラル Gear Upのインプレッションをお送りする。

取材に同行してくださったのは、ウラル・ジャパンの代表取締役である、ボリヒン・ブラジスラーフ氏(以下 ブラド氏)。大学では日本語を専攻されていたこともあり、美しい日本語を話す人物だ。10代の頃、親から反対されつつも内緒でモーターサイクルを購入してしまったというエピソードに、思わず親近感を持つのは筆者だけではないはず。大自然に恵まれたロシア出身ということで、自ずとオフロードを走ることも多く、スポーツバイクも大好きだという、生粋のモーターサイクルファンだ。

ブラド氏が操縦するウラル Gear Upに乗り込み、我々は京都の山奥へと向かった。サイドカー(側車)から見る景色は、バイクとも、車とも違う。発進の際に、水平対向エンジンからの柔らかい振動を感じながら、前へと送り出される感覚が新鮮で胸が弾んだ。信号を待つ間に言葉を交わすこともあるが、走行中には別々の乗り物に乗っているので、一人の世界観に包まれる。ソロのバイクに乗っているのとも、車に同乗しているのとも違う、運転者とパッセンジャーとの不思議な距離感が印象的だった。

ブラド氏の運転するサイドカーは、車線のやや左側を走っていることにふと気が付いた。その時は単に氏の癖なのかと思っていたが、実際に自分が操縦してみると、その理由が分かった。サイドカーの特性として、スロットルを開けるとサイドカー方向へ、すなわち右斜め前方に車体が進んでいこうとするのだ。しかし慌てずとも、自然に体が反応し、ハンドル操作によってその動きを調整しようとする。バイクに乗られる方であれば、その感覚にはすぐに慣れるだろう。このGear Upは2WD用のドライブシャフトを備えるため、サイドカーが本車の右側に装着されている。そのため発進時や加速時は、道路の中央側へとマシンが進もうとする。このことから、自ずと車線の左寄りを走行する癖が付きやすいのかもしれない。また、エンジンブレーキの際は、逆に本車側の方向に進もうとするので、加減速時にもサイドカーならでは味わいがある。

コーナリングでは、ハンドルを右に、左にと意識的に操作する必要がある。身近なところでは、子供が乗っている3輪車と同じ操作感覚なのだろう。左回りの時は体も左に、右回りの時は右に、と自ずと体が動く。山道の連続カーブでは、どの程度の速度でコーナーを曲がれるのか、その塩梅を探る楽しみもあった。バイクの感覚で、すんなりと走らせることは出来るが、上手に操るには別の経験値が必要な乗り物、それがサイドカーなのだと実感した。

ウラルのGear Upが装備している2WDはパートタイム駆動であり、後輪のハブからロッドを介して、前方に伸びているレバーでオン・オフの操作を行う。デフを持たないため、サイドカーの車輪も本車の後輪と同じ回転をする。未舗装路で2WDを試してみると、その差にあっと驚いた。旋回しようと1WDと同じ様にハンドルを軽く操作しても、グングンと直進していこうとするのだ! その頑固さを抑えつけるようにして操作する必要があり、これは中々の力仕事だ。少し速度を上げて力任せに曲がろうとしようものなら、カーブに合わせてそれぞれのタイヤがまるでドリフト走行の様にスリップしていることが分かる。一般の舗装路ではこの2WD機構を使う必要が無い、というよりも2WDのまま舗装路を走ることは困難だろう。冬の気配を感じる、よく冷え込む山中での取材だったが、2WDモードで走行していると、まるでエクササイズをしているかのように汗ばんでしまうほど。オフロードであえてタイヤを滑らせながら豪快に走ることも、2WDならではの遊びとして病みつきになる方もいるに違いない。また、起伏のあるオフロードの登り坂をものともせずにグイグイと登ってくれる様には、2WDの醍醐味を大いに感じることが出来た。そしてスリッピーな茂みに入ってしまった際の後退時にも、2WDを使用することでスムーズに抜け出すことができた場面もあった。ロングツーリング中、ふと目に入ったオフロードにふらりと寄り道。そこで出会った景色の中で至福の一服......という姿を想像してしまう。サイドカーのイメージを、良い意味でひっくり返してくれたウラル Gear Up。サイドカー、そして2WDならではのアドベンチャーに、じっくりと出かけてみたいものだ。

PICKUP PRODUCTS

日常にも、旅の相棒としても、
自然体で付き合えるウラル

大阪のショールームではこのGear Upを試乗することが可能だ。この渋いアスファルトカラーが一番人気だという。ススキが生い茂る中に駐車し、このマシンを俯瞰してみると、その頼もしい存在感、まるで「基地」としてオーナーを待ってくれている堂々とした姿に心惹かれるものがあった。また、本車のブレーキペダル後方に備えられるバックギアの使い勝手も良く、手でも足でも操作が可能。もちろんパーキングブレーキも装備。

01Ural Gear Upはアスファルト、ウッドランドカモ、アーバンカモの3タイプのカラーリングが選べる。ミリタリーファンが購入することも多いそうだ。750ccのボクサーエンジンを搭載し、最大出力は41馬力と大人しいが、柔らかく粘りのある乗り味が魅力だ。

02クラシックさを引き立てる、トラクター・シートが日本では人気を博しているという。ロングツーリングにおすすめの、ベンチシートもオプションで選択が可能。

03サイドカーを使用しない場合には、シート部を覆うカバーが付属する。Gear Upでは1WDモデルと比べ、サイドカーのマウント自体が高く配されている。タイヤサイズは19インチで3輪とも共通。

04アスファルトカラーは都市にも、カントリーサイドにも良く似合う。重厚な佇まいに心惹かれるのは男子の性か。本車に装着されているウィンド・スクリーンはオプション。

05サイドカーの側面には、標準装備としてシャベルが取り付けられている。どれだけ必要になるかは、乗り手のアドベンチャー気質次第だろう。ウラルからの遊び心を感じるディティールだ。

062WDモデルは普通自動車の免許で運転が出来る区分のため、ヘルメットの着用義務はないが、安全のために普段の走行時の着用はモチロン必須。ちなみに高速道路では軽自動車・二輪の料金区分となる。

073輪共にディスクブレーキを備えるため、制動力は十二分だ。フロント周りは、サイドカーでのコーナリング時に発生する横荷重に打ってつけと言われるアールズ・フォーク。

08昔ながらのプッシュロッドによるOHVエンジン。ボアとストロークは78mm×78mmのスクエアとなっている。アイドリング時の、プッシュロッドの上下運動による、規則正しいメカノイズにはあたたか味を感じる。

09太い経を持つサイレンサーとマシンのバランスも程良く、静粛性にも優れている。

10計器類はシンプルで分かりやすい。マイルとキロの両方が表示されているスピードメーターの文字盤のデザインもユニーク。トップブリッジのナットにはロゴマークが配され、質感が高い。

112WDの切り替えは、このレバーによって手動で行う。エンジンが始動していても、ニュートラルであれば切り替えが可能。オン・オフの操作を手軽に行うことが出来る。

12ギアチェンジレバーはシーソータイプになっており、履く靴を選ばない。

13サイドカーにはステップがあり、乗降は容易。足元のスペースも十分で、ゆったりしていた。シンプルなシートは、カスタムで個性を出すことも出来るだろう。

14リアのディスクブレーキはコントロールしやすく、程よい塩梅。

15サイドカーのドライブシャフトのジョインとサスペンション部。

16サイドカーの後部は、太い2本のラバーによってマウントされている。サスペンションとも相まって、乗り心地は快適だ。

17クランクケースの前面にはIMZ・ウラルのロゴが誇らしげに。

18トランク内部には空気入れが。ツールセットも標準装備。マットもウラルのロゴがデザインされた専用品。

19タンク上部はツールボックスとなっている。鍵も付いているため、ちょっとした貴重品入れとして重宝するだろう。

20スペアタイヤは3輪のいずれにも使用可能なアダプターを備えている。その上部にはラックが装着されるので、積載力も抜群。

21サイドカー前方に装着されているのは、オプションであるLED Dual ライトキット。上部のスポットライトは標準装備であり、照射する角度を変更することが出来る。夜間のキャンプ設営時などに重宝しそうだ。

22今年5月に新オープンしたウラル・ジャパンのショールーム。車やバイクでもアクセスしやすい立地で、もちろん試乗も可能。大阪市営地下鉄中央線「朝潮橋」より徒歩5分。USJや海遊館の帰りにもおすすめ。

23ショールームではウラルのオリジナルプロダクツや、アクセサリーが豊富に。人気のTシャツやパーカーの他、今後はジャケットも展開される予定だという。

24Gear Upはもちろん、1WDのCTも展示されている。スペアパーツは現行モデルであればほぼ100%のストックを常備し、即座に対応出来るという。

25左がウラル・ジャパンの代表取締役であるボリヒン・ブラジスラーフ氏。ファーストネームをもじり「ブラド」氏と呼ばれることが多いそうだ。右はチーフ・メカニックの浅田氏。ショールームではこの二人が出迎えてくれる。

BRAND INFORMATION

所在地/大阪府大阪市港区田中1丁目15-1
プラザ1 101号室
TEL/06-4395-5685
営業時間/9:00~18:00(火曜~日曜)
定休日/月曜・祝日
1939年、第二次大戦前の旧ソビエトで創業したIMZ社は、長年にわたって「ウラル」のモデル名でヘビーデューティなサイドカーを製造し続けているブランドだ。ウラル・ジャパンは、2007年1月に日本の代理店としてのサービスをスタートし、正規輸入やアフターサービスを通じて日本のユーザーをサポート。大阪のショールームでは車両販売をはじめ、関連グッズも多数販売している。