
公道走行から一転、完全にドライな条件でサーキットへと試乗会場が移された。選んだのは、スズカサーキットの南コース。本コースに比べれば、もちろん距離も短いショートコースだが、クルマもバイクも数多くのイベントが開催されているメジャーコースのひとつである。サーキット走行が趣味のサンデーレーサーにも愛されているそんなコースでの試乗は、実際の評価に直結するものでもあるだろう。当日の気温は、22度。湿気も少なく、ベストコンディションと言っても良い。
スタートから数周で、早くも深いバンク角を与えるアグレッシブな走行に写った八代氏。しかし、10周ほどでピットインし、エアーチェックを始めた。
実用バンク角が62度という驚異的な数字が物語る、絶対的なドライグリップ力が最大の特徴。
「すぐにタイヤ温度が上がってグリップを増すから、エアー圧も上昇が早い。最初はバイクメーカー指定のエアー圧で走ったけど、タイヤ剛性が高いから轍でハネちゃうんだ。それで、少し落としてみたら、良い感じになったね」
轍とは、コースをクルマも走るために、バイクの走行ラインと交差する場所があるということだ。そんな外乱に、エアーが高めだとハネてしまうのである。
少し低めのエアー圧でも、フロントタイヤの剛性感は失われることはなく、フルブレーキングから、コーナリングに移る際の挙動変化は極めて少ない。つまり、かなり思い切ってブレーキングを奥まで引っ張ることが可能であり、もちろんそれは、ラップタイムを縮める効果は抜群だ。
ライダーは、コーナリング時に躊躇なく高荷重をかけられるというレーシングタイヤ並みの性能を持つ公道走行可能なタイヤなのだ。
「どこまでも軽快なハンドリングが身上のαシリーズとはまったく別のキャラクター。とことん安定志向と言うべきかな。大きな入力にも破綻しないタイヤの構造とグリップ力を感じるね。それって、レーシングスリックの乗り方に極めて似てくるんだけど、これは公道走行可能なスポーツラジアルの新次元なのじゃないかなぁ」
最適なエアー圧を探った後で、フロントサスペンションのスプリングプリロードを上げてみた。つまり、さらにハードブレーキングを想定した仕様となるが、タイヤが悲鳴を上げることはなくライディングはさらにアグレッシブになっていく。これがアメリカンライディングということなのか。
「フロントの安心感は絶大だったね。ちなみにリヤタイヤは、今日のコースのスピードレンジだと、まったく何も破綻しない。スーパーハイグリップのままだよ。常に安定していてグリップを失わないタイヤというのは、ライダーにとってありがたい存在だし、よりアグレッシブなライディングに挑戦できる信頼感を生むね」
フロントタイヤで特筆すべきは、ショルダーにカーボンファイバーフィラメントを使用し、テーパー状の形状としたことで剛性を格段にアップ。フルブレーキング時の高荷重にも極めて高性能になった。
強いブレーキングのままコーナリングアプローチできることは、サーキットなら、確実にタイムアップへと繋がる。
高剛性ながら絶大のグリップ力を発揮するフロントタイヤは、フルブレーキングを開始するタイミングを遅らせ、極めて短時間に車速を落とすことが可能だ。
テスト車両のBMWは、終始スポーツモードでの走行。ミッションは、タイトターンでは1速。その他は2速という選択のみでの走行だった。大きいRでの定常円旋回でも、安定性は群を抜いていて、ペースをキープしやすいことも特徴であるようだ。
ダンロップは、キャラクターの違うハイグリップタイヤをラインナップさせた。それはライダーにとって、選択肢が広がることに繋がるので、大きなメリットを生み出す。使用用途を公道のワインディングやツイスティーなサーキット。さらに、ハイペースを維持するためにはタイヤへの高荷重が前提になるサーキット等、走るフィールドを考えてタイヤ選択することがもっと楽しくなるはずである。
フルブレーキングから脱出加速に移るまでのパーシャル状態を、できるだけ短くすることがサーキットでは求められる。それはタイトコーナーでも大きなアールがついたコーナーでも同じだ。
クリッピングポイントからのダッシュ力を受け止めるのはリヤタイヤの役目。動的バンク角62度という脅威の性能は、トラクションを確実に路面へと伝えて、旋回していくことが可能だ。
タイヤのトレッド部分の両端にブランドマークが入れられている。これはメーカーの自信の表れとも言うことができるだろう。ショルダーのギリギリまで高性能と言う証である。
サーキットを走行した後のアブレージョンの出方は、今後サーキットのパドックで話題になりそうだ。ブランドマークの減り方やアブレージョンの印象で、ライダーの走りが論じられる時代だ。
ライダー「八代俊二」
鹿児島県出身の元世界GPライダー。当時の世界最高峰である500ccクラスでの最上位は4位。ランキング9位という実績の持ち主。ホンダワークスマシンであるNSR500の開発も担当。1994年でレースから引退後も、数多くのスポーツバイクをテストライドし、専門誌に執筆。その他、テレビ中継でのレース解説等も現在の活動である。