
Q4はもともとアメリカ向けに作られたモデルで、それをそのまま日本でも販売することになったという経緯がある。従来は、道路事情やバイクを取り巻く環境の違いから、海外向けのタイヤは国内市場で適合されにくいと思われてきた。ところが、バイクの高性能化に加え、サーキット走行を楽しむ機会が増えたことなどユーザーニーズの多様化が進み、これまでとは事情が変わってきたのだ。
当然、ライダーの経験値や技量にも一定の幅が出来ていて、とりわけよりアグレッシブな走りを追求したい層の増加が顕著だという。そこで、そういったハイレベルなライダーをターゲットとするのが、新しく発売されたSPORTMAX Q4というわけだ。
そのQ4のイメージを同じカテゴリーに属するα-13spとの比較で表現するならば、乗り手を選ばず誰でも軽快なハンドリングを実現するのがαシリーズで、それに対してQシリーズは能動的にバイクを操作したいライダーが求めるガッシリとした走行感がウリ。2カットブレーカー構造を採用している点で、Q4とα-13spの基本構造は共通しているが、タイヤ剛性には大きな違いがありそれが両者のキャラクターを分けている。
「妥協してないんだな、このタイヤは…って思いました」
では、Q4を装着したバイクで走行フィーリングはどういった感じなのか、インプレッションライダー八代俊二氏に話を聞いてみよう。このタイヤで一般公道を走るのは今回が初めてとのことで、リアルな感想が期待できそうだ。
「新品の状態で走り出したので、最初は皮むきとウォームアップを兼ねて、ゆっくり様子をみながら流しました。(インプレッションのルートが)山の上で気温も低かったので緊張していましたが、皮がむけて路面を捉え始めると自分のライダーとしてのテンションも上がり、走れば走るほどグリップ力が増していく感じで楽しめました。一言で言うと、(サーキット専用の)スリック(タイヤ)に寄せた感じですよね。グリップ力が強くて、タイヤの剛性感というか踏ん張る力が強いイメージ。スリック独特の剛性感というのがあるのですが、それに近い感じ。荷重をガンガンかけてもへこたれない強さ。
ストリート向けのハイグリップタイヤは、比較的柔らかいゴム質でグリップはするのですが、乗り心地のことも考えているから傾向としては柔らかさが強調される。それに対してQ4は割り切って作っているから、移動するための乗り物でいうところの居住性のような部分は重視しておらず、いわゆる乗り心地が良いとは言えないかもしれません。身体に伝わってくるのは堅さなんですが、だからこそその分、ゴリゴリに攻めても踏ん張ってくれるんですよね。妥協していないんだな、このタイヤは、って思いました。
誰に対しても優しいタイヤではないかも知れません。αシリーズは誰でも乗りやすいと感じるようなタイヤが曲がらせてくれるイメージもありますが、Q4は積極的なハンドリングでタイヤを自ら使っていく感覚が必要で、ただ、そういうつもりで走ると期待に応えてくれる強さがあります。
今回試乗に使ったBMW S1000RRは車重が軽く走りがシャープ。その分レスポンスもリニアというか敏感に伝わってきました。感触としては、堅さというよりしっかり感ですね。それは車重の重いビッグネイキッドやツアラーなどでも受け止めるレベルなので、激しい走りをしても十分に踏ん張ってくれるでしょう。重いバイクならその車重によって自然にできることですが、車重の軽いバイクの場合は路面にタイヤを押し付ける技量が必要で、それができないとタイヤに負けてしまう可能性があります。“タイヤに負ける”というのは、基本的にグリップはするが、このタイヤのポテンシャルを十分引き出して楽しく走ろうと思うと、路面に食い付かせる技量が欲しくなってくるという意味です。
同時にバイク側も、サスペンションのクオリティで差がつくかもしれません。一定以上のレベルにあれば問題ないのですが、サスペンションが車体の挙動を受け止めてくれないとバタバタしてしまうのです。加速時にタイヤが潰れて路面を捉える感覚はαシリーズに比べて感じにくいのですが、その分、加速が急激だったりバイクがハイパワーであったりしても、パワーをロスせず路面に伝えて確実な推進力に変換してくれるのです。
そう言うと中級者を相手にしないような印象を受けるかも知れませんがそうではありません。Q4はライダーを成長させてくれるタイヤだという見方もできるからです。タイヤをしっかり路面に押し付ける技術が上がるほど楽しく走れるわけですから、Q4を装着していたら自然と向上心が湧いてくるはずです。
もうひとつ言えるのは、Q4の持ち味はエッジのグリップ力の高さ。走り始めは少し繊細な感じがあるけれど、タイヤが暖まってくるにつれて楽しくなってきてコーナリングも攻めて行きました。走行を終えてタイヤを見るとエッジまで使っていたのですが、グリップ感に思い当たるような変化はなく、深いバンク角まで安心して使って走れた証拠でしょうね。
一般公道とサーキットの違いとしては急激なアップダウンが挙げられますが、今回の試乗コースではそのチェックもできました。上りはさきほど説明した加速時の感触に通じているので省略しますが、下りはコーナリングの手前で減速タイミングを遅らせても問題ありませんでした。強めにブレーキングすると短い距離で減速できたし、その際の極端なフロント荷重にもタイヤがしっかり踏ん張ってくれ不安感はなかったです。直進安定性は高いのですが、鋭い加減速やハンドリングにはしっかりついてきてくれる、ライダー自身が積極的にバイクを操作する楽しみは味わいやすいと思います」
『SPORTMAX Q4』のロゴが配置されているのは、サイドウォールぎりぎりの接地面。タイヤはサイド部分の消耗度合いでライダーの技量(もしくはバンク角)が推し量れるとされていて、Q4の場合はこのロゴが削れているかどうかがひとつの指標になりそう。このデザインは、そういった見方をされると計算したメーカーサイドの心憎い演出でもある。
アップダウンのあるワインディングでのインプレッション走行。もっと速く、もっと鋭く、より次元の高い走りを求めてもライダーの操作にきっちり対応してくれると、八代氏は満足そうに振り返った。
斜度の高い上り下りやワインディングは、バイクの性能とライダーの技量が試される側面もあるが、だからこそ挑戦する気持ちも奮い立つ。ダンロップSPORTMAX Q4は、そんな場面で操作する楽しみを感じさせてくれる、心強い味方になる。
SPORTMAX Q4のスタイリングはまさにレーシーそのもの。とはいえ、絶妙なラインで刻まれた溝がグリップ力を支え、その機能性はエッジまで行き渡っており、かなりの深さまでバンクさせてもしっかり路面を捉えてくれる。
場面ごとの踏ん張りの強さだけでなく、長時間走った後のパフォーマンスの低下も少ないという意味で耐久性も申し分ない。また、Q4は設計が新しい分、ライフも従来モデルと同等かそれ以上の長さがあるという。
このタイヤが万人受けするとは言いがたいし、メーカーサイドもそういった事情は想定内。ある意味、ターゲットを絞った尖った仕様と言うこともできる。ただ、そもそも、ビギナーから高い技量を持つライダーまであらゆる層のユーザーを、街乗りからサーキットまであらゆるシチュエーションにおいて、高次元で等しく満足させることなど事実上不可能ではないか。
一方で、誰にでもお勧めするわけではないと前置きしたうえで、ハイレベルのパフォーマンスを発揮するとしたメーカーの姿勢は潔いし、その商品説明は非常に説得力があり実際試乗した八代氏のコメントも十分に納得できるものだった。少なくとも従来モデルに物足りなさを感じていたライダーには、ダンロップが新たに投入したSPORTMAX Q4という待望のハイスペックモデルの登場が大いに歓迎され、そのパフォーマンスが高い満足度をもって受け入れられるだろう。
今回のインプレッション走行は4月上旬、鈴鹿スカイライン付近で行った。桜は花開くもまだ寒風吹き荒む時期だったが、タイヤが暖まった後はしっかりとポテンシャルを発揮して、八代氏のライディングも熱を帯びていった。
インプレッションライダー 八代俊二氏
ロードレース世界選手権で活躍した経歴を持つモーターサイクルジャーナリスト。現在はテレビ番組のレース中継でも解説を行っており、鋭い分析力はもちろんのこと、一般ユーザーにも分かりやすく解説するその話術は定評がある。
テスト車両 BMW S1000RR
レースシーンから一般ツーリングライダーまで広く使われている、対応レンジに幅のある高性能バイク。Q4の特徴を考えても、今回のインプレッションには最適なモデル。