
現在の新型車はガソリンと空気を混ぜた混合気をエンジンに送り込むのにインジェクションを採用しているのが主流だが、2000年代の初めごろまでのマシンでは、その役割はキャブレター(気化器)が担ってきた。キャブレター内部のパーツはどれも小さく繊細で、オーバーホールやメンテナンスは大変だと思われがちだ。しかし、そんなオーバーホールも単気筒エンジンなら比較的簡単に挑戦することができる。その理由は、2気筒以上のエンジンだとそれぞれのシリンダーに付随するキャブレターも複数になるため、互いを同調させる必要があるが、単気筒ならそれを気にする必要がないからだ。
70~80年代を中心に、90年代のマシンも含めて500車種以上に対応している。
さて、そんなキャブレターのオーバーホールのハードルを、さらにグッと下げてくれる頼もしい存在が、岸田精密工業株式会社がリリースしているキースター「燃調キット」だ。初心者でも簡単にオーバーホールが行える理由は、このキットの中にはメインジェットやパイロットジェット、ジェットニードルからフロートチャンバーガスケットまで、キャブレター内部の構成パーツが車種別にすべてまとめて揃っていること。しかもジェット類やニードルは数サイズがセットとなっており、ノーマルだけでなくマフラー交換時などにも幅広く最適なセットアップができるようになっている。メンテナンス初心者にとってはこの「全部入りキット」さえ買っておけば間違いない、という便利な商品なのだ。
メインジェットは6つ、パイロットジェットは3つ、ジェットニードルは4本入っており、幅広いセッティングに対応する。
さて、ここからはいよいよYUさんがキャブレターのオーバーホール作業にチャレンジする。YUさんによればかなり昔に愛車SR500のキャブレターをバラしてみた経験がある、とのことだが、「最近はすっかりご無沙汰で、メンテ初心者だと思ってください」とのこと。
メンテナンスにはあまり自信がないんですが、私にもできますかね? と少し不安そうなYUさん。
今回使用する車両は、ホンダのXR250(1992年式)だ。YUさんはシートやタンクを手早く外すと、早速キャブレターの取り外しに着手。愛車とは多少構造が違うため戸惑う場面もあったが、同じ単気筒マシンに乗っているだけあって、それほど時間がかかることもなく、キャブレターを外すことに成功。ホース類などを取り外せば、いよいよオーバーホール作業のスタートだ。今回はメインジェットとパイロット(スロー)ジェット、パイロットスクリュー、ジェットニードルなどを交換する。
今回交換する主なパーツ。メインジェットとパイロットジェット、パイロットスクリュー。このほかにジェットニードルも交換。
今回の作業がメンテ初心者にも簡単、というポイントがまさにこの「交換」にある。一般的にキャブレターのオーバーホールではジェット類の清掃や洗浄など、細かくデリケートな作業が伴う。しかしキースターの「燃調キット」を使えば、劣化したり汚れたパーツをまるごと新しいものに取り換えるだけで、キャブレターの性能を新品に近い状態にリフレッシュできるのだ。しかもその作業はほぼドライバーだけで行うことが可能だから、手間もかからずとても簡単というわけだ。
キャブレターを外してから使う工具はドライバーとレンチだけ!
アイドリング~低速域を受け持つパイロットジェットを交換。ネジを緩めて取り外し、新しいパーツを同じように取り付けるだけ。交換前にネジ穴はパーツクリーナーで洗浄しよう。
中速~高速域を受け持つメインジェットはホルダーをレンチで押さえ、ドライバーで外して交換する。
混合気の供給量をコントロールするパイロットスクリューは全部締め付けてから少し緩めて戻す必要があるので、外す前に位置をマーキングして一旦締め付け、「2回転と1/4」など戻す際の回転数を記録しておくことが大切だ。
ネジ穴をパーツクリーナーで洗浄し、古いパーツと同じようにスプリングやワッシャーなどを組み付けて軽く止まる位置まで締め込み、記録していた規定位置まで戻せばOK。
上が古いパイロットスクリュー。状態は悪くないがやはり汚れている。
スロットル開度に応じて燃料の流量を変えるのが針状のジェットニードル。これも古いものを抜いて新品を差し込むだけで簡単に交換できる。その際、上部の風船状のダイヤフラムに破れがないかも一緒に確認しよう。
キースター「燃調キット」のパーツは形状やサイズが純正と同じで、外見からは色以外見分けがつかない(金色が新品)。それだけにどのパーツもピタリとはまる。
下からニードルを押さえつつ、ダイヤフラムが潰れていない状態を確認したらスプリングを組み込んでカバーをかぶせる。
フロートチャンバーのガスケットも交換。
古いガスケットのカスなどを取り除き、さらに汚れていたらパーツクリーナーなどで洗浄する。
新しいガスケットをはめる。形状が同じでぴったりはまるのが気持ちいい!
あとはキャブレターをマシンに元通り組み付けて、タンクやシートを元に戻せば終了!!
コツとしては、パーツを緩める際にどれくらいの力で締め込んであるかを覚えておき、組み付ける際には力加減を考えながら作業をすること。力いっぱい締めたりしなければ、まず失敗することはない。ジェット類には番手と呼ばれる番号が刻印されているが、基本的には古いパーツと同じ番手をチョイスしておけば問題ないだろう。キャブレターをバイクから外す作業は別として、燃調キットのパーツを交換するだけなら1時間程度もあれば終わってしまう。それくらいイージーな作業だ。
「難しい作業もほとんどなく、それほど時間もかからないでキャブレターのオーバーホールができちゃうんですね! 私にも簡単にできて驚きました。すごく達成感があって嬉しいです」とYUさん。キースターの「燃調キット」は、メカいじりにそれほど自信がない初心者にも、心強い存在だ。
撮影協力:カーサ・ガラージュ ルーラル