掲載日:2024年08月07日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/小松 男
YAMAHA XMAX
皆さんは250㏄クラスのスクーターにどのようなイメージを抱いているだろうか。上を見ればもっと排気量の大きなモデルがあるものの、スクーターセグメントとして考えるとトップクラスに位置すると考えられる。裏を返せば2000年代初頭に訪れたビッグスクーターブームがあり、石を投げれば当たるほどストリートには250ccスクーターが溢れかえった。国内4メーカーはもちろん、海外のブランドも矢継ぎ早に参入し、開発競争はエスカレートしていった。社会現象的に取り上げられるほどになったものの、一過性のものとして火は落ち着きを見せていく。その一方で台頭してきたのが、150~200cc程度のミドルスクーターだ。250ccスクーター人気を凌駕し世界中の都市部を中心に爆発的な盛り上がりを見せ現在に至る。これが250ccスクーターシーンにおける大まかな流れだ。
そのような中ヤマハに目を向けるとスーパースポーツバイクをも打ち負かすパフォーマンスを持たせたマキシスクーターTMAXや、革新的な機構を持たせたスリーホイールコミューターのトリシティなど独自の路線を拡充し技術力を高めてきた。ここで紹介するXMAXは、それらヤマハコミューターにおいて現在中核的位置づけとなっており、様々な技術を取り入れたプレミアムかつスポーティなモデルとして幅広い層に支持されている。
すでにオジサンの領域に入って久しい私だが、90年代初頭、当時世間ではオジサンバイクと思われていた250ccスクーターの便利さに気づき、高校生の頃から乗り回していた。いまも当時のことを知る仲間との酒の席では「ダンちゃんはビッグスクーターがブームになる前から持っていたものなあ」という話によくなる。昔話をするようになっては終わりだと考えているのだが、当時ブームの発端となったモデルの一つに、ヤマハ・マジェスティ250の登場があったことは事実なので、そこからXMAXまでのつながりを簡単に紐解いていきたいと思う。
初代マジェスティの登場は1995年のことだ。世間的には250㏄スクーターが受け入れられているとはまだまだ言えなかったころであるが、広々としたシート下ユーティリティスペースやイージーでありながらもスポーティな走りを楽しめるバランスの良さなどが一部のライダーに知れ渡り、徐々に人気は高まっていく。2000年に登場した2代目マジェスティで不動の地位を確立。ビッグスクーターはオジサンからワカモノのノリモノとなり、カスタムもこれまでのバイクとは違い、オーディオのインサートやエアサスなどの過激なカスタムなども楽しまれるようになっていった。
ブームに陰りが感じられたのは2006年に駐車違反の取り締まりが厳しくなってきた頃からだと個人的には思っている。250ccスクーターに限った話ではないが、シティヤングの気軽な足として重宝されていたバイクも駐車違反において厳しく対応されるようになったのだ。一方で原付二種クラスまで置くことができるコインパーキングは自転車駐輪場と併設されていることも多かったことや携帯電話の維持費面がかさんできたためバイクのランニングコストを抑えたいことなどの時代背景もあり、原付2種スクーターに潮流はシフトしていく。
マジェスティ250は今から10年前の2014年に生産終了となっているのだが、同年にヤマハ独自のLMW(リーニング・マルチ・ホイール)機構を備えたトリシティ(125cc)を発表し、2015年にはNMAX(155cc)が登場。2016年にはXMAX(300cc)が欧州マーケットで登場(欧州ではXMAXという名称のモデルがすでに存在していた)。2017年についにXMAXが国内で発表されることとなる。
発表当時のことで思い出されるのは、もっとコンパクトなスクーターや250ccクラスではミッションスポーツモデルが流行っていることを分かったうえで、250ccスクーターを求める声も多く、それに応えるとヤマハ開発陣が唱えていたことだ。マーケットに投入された新たな25ccスクーター、XMAXはしっかりと受け入れられた。2023年にモデルチェンジが行われ、現在に至る。ヤマハ250ccスクーターの長い歴史の中で、現在先頭を走るXMAXはどのようなモデルとなっているのか、じっくりと探っていきたい。
正直に話すとXMAXに触れるのは今回が初の事だった。恥ずかしい話、排気量も300なのか250なのかいま一つ分かっていないまま、テスト車両を引き上げに行ったことを白状しよう。
年がら年中ニューモデルインプレッションを行っている身でありながら、こんな状態だというのには、この手のスクーターモデルがほとんど250ccでなくなってしまったことにあるという言い訳をさせていただきたい。昨今触れてきたスクーターのほとんどが150~200のモデルだったのだ。
この背景にはそもそも25ccという排気量区分がドメスティックレギュレーションであり、アジアや欧州などのグローバルマーケットを見据えた際、日本では半端に感じる排気量となっているということがあるが、そんなことも今のライダー達には関係ないようで、すんなりと受け入れられているみたいだ。
そのような中、250ccスクーターだとわかると私は俄然ワクワクせずにはいられなかった。きっと我々日本人好みの味付けがなされているだろうと期待したからだ。実車を前にすると、デザインからか前後長はやや抑えられコンパクトに見えるのだが、跨ってみるとシートは意外と高い。これはヤマハコミューターモデルのフラッグシップ、TMAXのそれに通じるものを感じる。
エンジンを始動し走り出す。シートやステップボードが前後に長めに設定されており、ライディングポジションの自由度が高い上に、ハンドルセット位置幅なども絶妙で、どのように乗っても楽ちんだ。上下2分割とされたメーターの視認性は高く、回転計の表示スタイルなども現代的。さらに現行モデルではガーミン社のアプリと連動しナビを表示することなどもできる。
大型トラックをはじめ交通量の多い幹線道路でもストレスなくパスして高速道路へと入る。ウインドスクリーンの形状、サイズの設定が秀逸で、不快な走行風や風の巻き込みがない。このままどこまでも走り続けられると思わせるほど快適なのだ。
250ccスクーターと言えばシティランがメインステージとなるには違いないのだがヤマハスポーツスクーターの代名詞”MAX”という称号を得ているのであれば、とワインディンロードに持ち込んでみる。すると予想通り、いや想像以上にしっかりとスポーツライディングを楽しめるではないか。フロント15インチ、リア14インチというタイヤサイズの組み合わせも良く、小さいコーナーではステアリングが切れ込みすぎないのに、クイックにリズムよく切り返すことができる。一方で大き目のコーナーではしっかりとした粘りを感じられる安定した走りを楽しめるのだ。上りでは排気量の大きいマシンのパワーに叶わないが、下りならそこらのロードスポーツモデルをカモることもできてしまう。うーむ。これは楽しい。
シグナルダッシュでズドンと腹部に響くような加速感は持ち合わせていないが、マイルドでありながらも相当な速度域にすぐに持って行ってくれる特性で、これはむしろ上質さを演出したセッティングとも捉えることができる。シート下のユーティリティスペースはヘルメット2個を格納できるほど広大であり、今回の取材時には撮影機材のすべてを収めることができた。
それと是非ともタンデムライドも楽しんでほしい。私は250ccスクーターを究極のデートマシンだと思っている。これ以下では文字通り荷が重いだろうし、これ以上ではパッセンジャーに怖さを覚えさせかねない。250ccスクーターはデートで使うのにちょうどいいのだ。
現在も私は日常の足として250ccスクーターを使っているのだが、やはり便利なのだ。XMAXはその便利さはもちろん、長年TMAXを作り続けスポーツスクーター界をリードしてきたヤマハ特有の高い運動性能を併せ持ち、しかも細部まで高級感を持たせている。約一週間の試乗テストを終え車両を返却する道中「XMAXがあればクルマもバイクもいらないかもしれないなあ」とぼんやり考えていた。
加速性能と環境性能を併せもつ”BLUE CORE”と名付けられた249cc水冷SOHCシングルエンジンを搭載。滑らかな加速感は過不足なく気持ち良い。一週間に渡る試乗テストでの平均燃費は32.7km/L。
この手のモデルとしては大径の部類に入る120/70-15サイズのフロントタイヤを履かせる。ハンドルクラウンまでフロントフォークが繋がる“モーターサイクルタイプ”のテレスコピック型を採用することで、フロントタイヤの接地感、応対性が高い。
”X”をモチーフにデザインされたフロントマスク。ウインドスクリーンは高さ調節が可能。ウインカーの形状やカラーリングなど、総じてワンランク上の上質な雰囲気を持ち合わせている。
「Communication Control Unit(CCU)」を内蔵した、「4.2インチカラーTFTインフォテイメントディスプレイ」と「3.2インチLCDスピードメーター」からなる上下2画面構成のメーターを採用。ヤマハやガーミンのアプリと連動し様々なインフォメーションを表示することができる。
プレミアムスクーターでは一般的になったインテリジェントキーシステムを採用している。イグニッションのオンオフ、給油口やシートオープンなどが一か所に集約されキーレス操作することができる。
シート高は795mm。車体幅やステップボードなどの影響もあり、足つき性は良好とは言えないものの、昔から250ccスクーターはこのパッケージングであり、ユーティリティスペースや燃料タンク容量の確保などを考えると仕方ない。座り心地は良く、長時間乗っても疲れなかった。
ポジションランプ、テールランプ、ウインカーに至るまでLEDライトを使用している。テールランプも”X”が浮かび上がるようにデザインされているほか、シート後端には素材の違うパーツでヤマハエンブレムをあしらうなど高級感がある。
ウインカーやヘッドライトハイ/ロー切り替えなど基本的な操作のほか、ツインディスプレイメーター内の操作系統もまとめられた左側のスイッチボックス。最近のスイッチ類は以前と比べさらに直感的に扱えるので便利だ。
リアタイヤサイズは140/70-14。リアサスはオーソドックスなツインショックタイプだが、全体的なバランスが良く、深々とバンクさせてもタイヤはしっかりと路面を捉えるし、意地悪な入力をしても挙動が乱れない。トラクションコントロールも備える。
ステップボードは下に足をそろえても、前に足を投げ出すこともできるような形状になっている。MAXシリーズの象徴であるブーメランモチーフのサイドカバーは光沢のあるピアノブラックで仕上げられ、存在感をより強調したデザインとなっている。
フロントカウルセクションには左右にポケットが用意されている。右側はキー無しで開閉でき、左側はロックを備える上、中にUSBソケットが配置されている。
45Lと広大な容量を誇るシート下ユーティリティスペース。ダンバーが備わっており滑らかに開閉するうえ、LED照明も備わっているので、夜間もとても重宝した。一度使うと手放せなくなる便利さだ。
愛車を売却して乗換しませんか?
2つの売却方法から選択可能!