掲載日:2023年01月13日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/野岸“ねぎ”泰之
Vespa GTS SuperTech 300
ベスパはイタリアのバイクメーカーであるピアッジオ社が製造するスクーターで、スチールモノコック製のボディや前輪の片持ち式サスペンション、丸みを帯びたボディデザインなどが特徴だ。映画『ローマの休日』やTVドラマ『探偵物語』などに登場したことで知っている人も多いことだろう。ベスパとはイタリア語でスズメバチの意味で、もともと2ストロークエンジンを搭載して甲高い音を響かせていたことが由来となっている。また、昔はグリップ部でシフトチェンジを行うハンドシフトを採用していたのも特徴的だった。2000年代以降は4ストローク化とVベルト式CVTの駆動方式となったが、スチールモノコックボディやサスペンションなどの伝統は今も引き継がれている。
そんなベスパの現在のラインナップのうち、最もスポーティなモデルと言われているのが今回試乗したGTS スーパーテック300だ。ベスパの中でも大柄なラージボディと呼ばれる車体はもちろんスチールモノコックフレーム。ヘッドライトなどの灯火類にLEDを採用し、現代的でシャープなラインに整えながらも一目見て「ベスパだ!」とわかるデザインとなっている。丸型のヘッドライトなど伝統を守りつつ先進的なスタイルとの融合をはかり、うまくバランスさせながらトータルで美しいと感じさせてくれる車体づくりを実現しているのはさすがだ。
これに組み合わされるパワーユニットは、新設計の278cc水冷単気筒SOHC4バルブの300 HPE(ハイ・パフォーマンス・エンジン)と呼ばれるエンジンだ。吸排気系統の形状の見直しや最新型ピストンの採用のほか、徹底してフリクションロスを軽減することで、燃費向上とノイズを抑えることに成功。電子制御のインジェクションシステムと組み合わせることで、最高出力23.8HP(17.5kW)/8,250rpm、最大トルク26Nm/5,250rpmという、ベスパ史上最強で優れたレスポンスを誇るエンジンとなっている。
足元は12インチホイールにABSとASR(アンチスリップレギュレーション)と呼ばれるトラクションコントロールを装備し、サスペンションはフロントに伝統の片持ちリンクアーム油圧式サスペンション、リアにはプリロード調整可能なツインショックを採用している。
これらの装備を見るだけでも、GTS スーパーテック300がかなりスポーティな走りを意識したモデルだとわかるが、それに加えてメーターには4.3インチのフルカラーTFTディスプレイを採用。また、レッグシールド内側のフロントトランク内部にはUSBソケットを備えるなど、ユーティリティ面の装備も充実がはかられている。
ベスパのGTS スーパーテック300は、排気量の割にコンパクトなボディ、という印象だ。試乗車はオプションのトップケースを装着しているため全長が長く見えるが、マシン単体の数値をホンダの250ccスクーターであるフォルツァと比べて見ると、フォルツァの全長が2,145mmなのに対し、1,950mmとこちらのほうが短いのだ。ホイールサイズもフォルツァの前15/後14インチに対して前後12インチで、重量にいたっては26kgも軽い160kgとなっている。取り回しはさすがに125ccクラス並みとはいかないまでも、まずまず軽く行える。さらに丸っこいボディのため親しみやすく、扱いやすいイメージだ。
シート高は790mmと少し高めではあるものの、スッと背を伸ばして乗るのが似合うまさにヨーロピアンスタイルで、前方視界も広く気持ちがいい。そのままスロットルを開けると、体がグッと置いて行かれるぐらいの力強い加速感で車体が前に進む。驚いたのはそのなめらかさだ。パワフルなエンジンを積んだマシンの加速は、多かれ少なかれエンジンノイズや振動を伴うことが多いが、このGTS スーパーテック300はまるで船に乗っているかのごとく、妙な振動など感じないままスーッとすべるように加速し、いつの間にかスピードに乗っている。
さらに感動ものなのがサスペンションだ。道路を走っていると路面の凸凹や段差など、意外と荒れた場面に出会うものだが、このマシンの足周りはそれをライダーに伝えない。いや、正確には凹凸に応じてインフォメーションは伝わって来るものの、それが不快な突き上げではなく、1/100ぐらいに緩和されて伝わる感じだろうか。スチールモノコックのボディ自体が持つ強さとしなやかさも相まって、シルキーでジェントルな乗り心地でありながら、しっかりと路面に追従し続けるという、とてもハイレベルな仕上がりになっている。ホイールサイズが前後12インチと少々小さめなので、安定感はどうなんだろう? と気になっていたのだが、そんな心配は全く無用だった。さすがはヨーロッパの石畳で長年にわたって鍛えられてきたベスパだけのことはあるな、と実感させてくれる乗り味だ。
コーナーリングはフロントの片持ちサスペンションの影響か、車体を寝かせる前にちょっと粘るような独特のフィーリングがあるものの、すぐに慣れて違和感はなくなった。ブレーキはフロントのみだとやんわりとした利き方で、リアを同時にかけるとグッと制動力を発揮する独特なタッチだ。これはこれで慣れるとコントローラブルで、パワフルなエンジンと秀逸な足周りを組み合わせると、走るのがとことん楽しくなる。ペースの速い郊外のちょっとした峠などはもちろん、少々流れの悪い市街地であっても、ウキウキとした気分で乗れてしまうのが不思議で、ツーリングに出ても疲れずにどこまでも走れそうだ。それに加えて美しいボディラインはかなり人目を引くので、いつもは退屈なだけの信号待ちですら、少し誇らしいような嬉しいような、楽しい時間に変えてくれるのだ。“ベスパ・マジック”とでも呼びたくなるような不思議な感覚……魔法にかかった夢のような時間を、オーナーになれば味わえるかと思うと、792,000円(税込)というプライスは決して高くない。いや、むしろ破格なのでは、と思えてしまう。そんな魅力(もしかして魔力?)を持った1台だと感じた。
フロント中央、従来より長くなった“ネクタイ”には3本のスリットで際立たせたホーンカバーを配置。ヘッドライトとポジションランプはLEDを採用。
試乗車には純正オプションのフライスクリーンが装着されていた。防風効果とファッション性を兼ね備えたアイテムだ。
スイッチ類は指の動きに合わせて操作しやすいよう角度が付けられているが、ウインカーレバーが少々遠く感じられた。右下はメーター表示の切り替えや決定に使うジョイスティック。
ハンドル右側、赤いキルスイッチの上にあるのは、ASR(トラクションコントロール)のオンオフスイッチだ。
4.3インチのフルカラーTFTディスプレイを採用したメーター。燃料計や時計、外気温のほか、瞬間/平均燃費や航続距離など多彩な表示が可能だ。
中央には折り畳み式のフックを備える。その左のボタンはシート開閉用のもの。さらに左に見えるのはオプションで装着されていたETC車載器のインジケーターだ。
レッグシールド内側には開口部の大きいフロントトランクを備える。ETC車載器(オプション)の左にはUSBアクセサリーソケット、右上には車載工具が収まっている。
車載工具はドライバーやプラグレンチ、ヒューズ抜き、リアサスのプリロード調整用レンチなどが備わっている。
シートは肉厚で座り心地が良く、丁寧なステッチが施されている。前席の座面部分のみ滑りにくい表皮を使用。
シート下のラゲッジスペース。そこそこ深さはあるものの、幅がないので小ぶりなヘルメットしか入らない。その分、ヒンジ近くにピン状のヘルメットホルダーが2ヵ所設けてある。
ラゲッジスペースのボックスは上に引き抜けば簡単に外せる仕組みとなっており、整備の際に便利だ。
フロアボードは完全にフラットではないが、乗り降りは容易だ。線状に設けられた滑り止めのラバーはデザインも秀逸だが実用性も高い。
タンデムステップは1点支持の単なる折り畳み式ではなく、リンクを介してエレガントに開く。
リアサスはツインショックタイプで、4段階のプリロード調整が可能だ。
試乗車には純正オプションのボディ同色トップケースが装着されていた。容量は36Lで、フルフェイスヘルメットも楽に収納できる。
フロントは片持ちのリンクアーム油圧式サスペンションで、ブレーキのディスク径は220mmとなっている。タイヤサイズは120/70-12でブランドはMAXXISだ。
リアブレーキのディスク径はフロント同様の220mmで、タイヤは130/70-12とフロントよりワンサイズ太い。
スッキリとまとめられたリアビュー。テール/ブレーキランプはLEDを採用、ウインカーは前も含めてバルブタイプとなっている。
テスターの身長は170cmで足は短め。GTS スーパーテック300のシート高は790mmで、片足だと母指球まで接地し、両足でもしっかりとつま先が着くのでフラつきなどの不安はなかった。
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