掲載日:2020年11月10日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/野岸“ねぎ”泰之
YAMAHA TMAX560 TECH MAX ABS
初代TMAXが発表されたのは2000年、日本国内では2001年に販売が開始された。見かけはスクーターだが、一般的なスクーターのようにスイングアームにエンジンを搭載するユニットスイング式ではなく、フレームにエンジンを搭載してベルトドライブで駆動するという、スポーツバイクと同じ方式を採用したことで、従来のスクーターとは全く違うスポーティな走りを実現し、大注目のモデルとなった。
基本となるエンジン懸架方式は代々引き継がれ、当初499ccだったエンジンはのちに530ccとなり、アルミ製フレームの採用やホイールサイズを14インチから15インチへとアップするなど熟成と進化を繰り返してきた。そして2020年5月には、今回紹介する排気量を561ccにアップさせた7代目となる「TMAX560」が発売された。
前モデルとなるTMAX530のエンジンをベースに排気量を31ccアップさせ、561ccに拡大。同時に吸排気系などを見直すことで中高速域からの加速性能を向上、高速道路などでもよりパワフルで、振動や騒音の少ない走りを実現した。また、触媒をツインタイプへと変更したことで平成32年排出ガス規制に適合するなど、環境性能も高めている。
フロントサスペンションはインナーチューブ径41mmの倒立タイプだ。モデルチェンジにあたってバネ定数や減衰力特性などを最適化し、さらに良好な乗り心地と路面追従性を獲得した。また、リアのリンク式モノクロスサスペンションもセッティングを見直し、低荷重時はソフトに、高荷重時にはハードに減衰力を得られるよう設定されている。
スタイリングに関しても変更されている。前モデルまではどちらかというとボリュームのあるデザインだったのに対し、このTMAX560はシェイプラインが強調され、よりシャープでそぎ落とされた印象となった。フロントはLED4灯のヘッドランプとカウルにビルトインされたウインカーで精悍な顔つきとなり、リアビューについてもLED導光体を使った、T字をモチーフにしたデザインでより洗練されたイメージとなった。
これらに加えて上級モデルであるTECH MAXは、クルーズコントロールや電動調整式スクリーン、グリップウォーマー、シートヒーターのほか、リアサスが調整機能付きとなるなど多くの装備が追加されており、快適性と利便性が高められている。
TMAX560のシート高は800mmと、データ上はそれほど高いわけではないのだが、座面幅が広く、車体の幅も広いため足つき性はあまり良くない。またシート前端に給油口とシートの開閉スイッチがあり、その部分が少し盛り上がっているため、信号待ちで体を前にずらす動作も行いにくいと感じた。
身長170cmで足が短めの自分にはちょっと扱いづらいかな……そんな考えが頭をよぎる。しかし、いったん走り出してしまえばそんな不安は吹き飛ぶほどの楽しさが待っていた。
まず、排気音からしてワクワクする。排気量の大きさもあるが、たとえば250ccクラスのスクーターならアイドリングからアクセルを開けていくと「ストトトト……トゥルルルル」という感じなのに、TMAX560は「バルルルル……グゥオーン」という、スクーターとは全く違う種類の音を発する。この迫力あるサウンドを聞きたいがために、ついついアクセルを開けがちになってしまうのだ。
音だけでなく、もちろん加速も強烈だ。一般道の信号ダッシュでは250ccクラスのスクーターを軽々と置いてきぼりにする。高速道路の合流でも胸のすくような加速で一気に本線に入れるし、そのまま流れをリードできるなど、感覚的にはナナハンクラスと同等かそれ以上のパワー感がある。
ワインディングでも走りは軽快だ。足をフロアの前方に出して突っ張るように乗るとマシンと人の一体感が増し、ヒラリヒラリとスポーティに走ることができる。特にキツめの上り坂が連続するような場所では、トルクとパワーに加えて一般的なバイクと同じ構造の足回りのおかげで、他のスクーターとは全く違う、まさに“オートマチックなスポーツバイク”といえる走りを楽しめる。ちなみに走行モードの切り替え機能を持ち、市街地での扱い易さを重視したTモードでも十分速いが、パワー感とスポーティな走りに適したSモードに切り替えれば、よりキビキビとした気持ちのいいライディングが可能だ。
この気持ちよさは41mmのインターチューブ径を持つフロントの倒立フォークやリンク式のリアサス(TECH MAXは調整機能付き)、大口径のディスクと対向ピストン4ポットのラジアルマウント式キャリパーを備えたフロントブレーキなどのしっかりした足回りがあってこそのもの。それに加えて、アクセルを開けてからタイヤにパワーが伝わって駆動するまでのタイムラグがほぼない、というのも大きい。一般的なスクーターではどうしてもこのタイムラグが気になるものだが、アクセルを開けると同時にガッと加速し、キュッと減速してバンク角をかなり深くとってもスタンドが接地せず、コーナー出口の再加速もスピーディでスムーズとくれば、これはもうスポーツバイクと呼べる走りで、とにかく乗っていて楽しいのだ。
さらに上級グレードのTECH MAXにはクルーズコントロールやグリップ&シートヒーター、乗車中も調整できる電動スクリーンなどを装備する。大容量のシート下トランクもあるので、通勤用途でも快適に使えるのはもちろん、週末のスポーツライディングや長距離ツーリングまで、オールマイティに楽しめる1台と言えるだろう。
ヘッドライトはLED4灯タイプで、サイドにはポジションランプも備える。ウインカーはカウル内にビルトインされているが、LEDを3灯使い、被視認性は十分だ。
左右にアナログタイプのスピードとタコメーターを設置。中央には3.5インチのモノクロ液晶モニターを配している。燃料や外気温、時計などのほか、トラクションコントロールやヒーターなど各装備のオンオフも表示する。
ハンドル左側にはクルーズコントロールのオンオフやセット、速度調節のボタンのほか、ヒーターなどの装備を調節するスイッチが備わる。下のレバーはパーキングブレーキだ。
ハンドル右側はスターターボタンとハザード、走行モードの切り替えスイッチなどが並ぶ。
カウル内側の右サイドには12V電源ジャックを装備したグローブボックスがある。細長い形状で、500mlのペットボトルが収納できる。
給油口はシートの前端部に設置されている。中央のスイッチは給油口とシートを開けるためのものだ。
しっかりと段がつけられ、座面の大きさや広さも確保してあるシート。お尻をしっかりホールドしてくれるのでスポーティなライディングが可能だ。
リアヒンジ式のシート下トランクはフルフェイス1個かジェットヘル2個を収納可能。庫内照明のほか、12Vの電源ジャックをこちらにも備える。
イモビライザー付きのスマートキーシステムを採用。電源やエンジン始動、シート&給油口のロック解除のほか、メインスタンド、グローブポックス、ハンドルのロックと解除が行える。
センター部分はボリュームがあるため乗り降りは少し面倒だが、フットスペースは縦に長くとられており、さまざまなライディングポジションに対応可能だ。
上級グレードのTECH MAXは電動でスクリーンの高さを135mm幅で無段階に調節可能。スタンダードモデルは高さ55mm差の2段階調整となる。
スクリーンをいちばん高い位置にセットすると、高速道路でも首や胸などにはほとんど直接風が当たらず、かなりの防風効果が得られる。
フロントブレーキは267mm径ダブルディスク、キャリパーは対向ピストン4ポットのラジアルマウントだ。タイヤは120/70R15M/C 56Hのチューブレスで、ブリヂストンのBATTLAX SCを履く。
リアブレーキのディスク径は282mmで、パーキングブレーキも装備する。タイヤは160/60R15M/C 67Hのチューブレス。
リアビューは前モデルから一新され、T字をモチーフにしたものとなった。LEDの導光体を使うことで、被視認性とデザイン性を両立させている。
テスターは身長170cmで足は短め。両足ではかろうじてつま先が接地しているが、かなり前に座り、足を内側に入れている。片足ならお尻の位置をほんの少しずらすだけで母指球まで接地する。
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