レースの世界で鍛えられたOVER製品
『オーヴァーレーシング』は今年で創業 30 周年。創業者の佐藤健正氏は、1970年代にレーシングライダーとして活躍し、その後、あのモリワキでモノ創りの業を磨き、1982年に独立している。
その後の活躍は華々しいもので、現在では、知らぬ者はいないほどのビッグコンストラクターだ。もちろん、高品質なマフラーは有名だが、特にオーヴァーを語るうえで忘れてはいけないのが、ヨーロッパを席巻したオリジナルフレーム『OVシリーズ』だ。イギリス、オランダなどの選手権にオリジナルマシンで積極的に参加し、ヨーロッパ選手権でチャンピオンに輝くなど、オーヴァーのトータルでの “バイク創り” は、世界的にも高水準であることがわかる。
今回は、オーヴァーレーシングの高橋社長に、ヤマハ TMAX530 用のマフラーとその周辺パーツにについて、松下ヨシナリがお話しを伺いつつ、実際にライディングしてのインプレッションをお届けしよう。
オーヴァーレーシングの門を叩き、今年で22年のキャリアを誇る。常に開発の最前線に立ち、高水準のパーツを数多く世に送り出している。現会長の佐藤健正氏に代わり陣頭指揮を執る“超現場型社長”だ。今年はアプリリア RSV4 で7年ぶりの鈴鹿8耐に挑んだ。
松下「オーヴァー管、と聞くとミッション車をイメージしますが、実はスクーター用や4ミニ用も多数ラインナップされていますね」
高橋社長「そうなんです。ウチとしては、4ストロークエンジンであれば、どの車種でも、オーヴァーのマフラーを装着して “パフォーマンスが上がった!” と、喜んでいただける、より良い商品を作っていきたい、というスタンスです。シグナスXや PCX など、スクーターのラインナップもありますし、日々データーを取っています。
TMAX に関しては、前モデルからしっかりと作り込んだマフラーをリリースしていますので、TMAX530 には、トップエンドの 『TT-FORMULA』 を完全新設計で市場投入しました。我々としても、TMAXはスーパースポーツ・コミューターだ、と考えて開発しています。どう進化させてゆくか? をイメージしながらの製品開発はとても楽しいですよ!」
この 『TT-FORMULA』 シリーズは、2012年に新たにリリースされたトップレンジモデル。その特徴は何と言っても、インパクト抜群の異形5角形サイレンサーだ。しかも TMAX530 用のサイレンサーは 500mm と非常に長く、迫力抜群。
高橋社長「この断面形状は、後ろから見ると左右非対称なので、制作する上で非常に手間がかかりますが、バンク角が稼げるという事と、空気抵抗の面でも有利です。また他社さんにはない形状で個性的ですし、何より格好いいでしょう?(笑)」
走って喋れるモトジャーナリストとして、イベントMC、デザイナー、モデル、レーシングライダーなど多くの顔を持つ。世界最高の冒険ロードレース『マン島TT』へ日本人として唯一挑戦中。2012年は鈴鹿8耐、ル・マン24時間と、立て続けに完走を果たした。
松下「確かに。サイレンサー、長くて迫力満点ですね!」
高橋社長「 TMAX530 はフルカバードボディのスクーターですから、これぐらい長くてもデザイン的なマッチングがいい。それに、長いということは内部に遮へい板やバッフルなどを入れなくても消音効果を高くできますので、結果的に軽量化に繋がるなど多くのメリットがあります」
オートマチックのスクーターで在るがゆえ、どうしても加速騒音や近接騒音の問題がでてくるが、このマフラーは、しっかりと政府認証、排ガス規制対応を受けつつ、パフォーマンスもキッチリ上げている点が素晴らしい。
松下「チタンのエキパイ部分で、2本から1本になるジョイントが前作の 『GP-PERFORMANCE』とかなり異なりますね?」
高橋社長「お! 気付きましたか(笑)! そうです。テストにテストを重ねた結果、シリンダーから出る2本のエキパイが1本に集合するジョイント部分を、かなりエンジン寄りに設定しました。GP-PERFORMANCE の時はかなりサイレンサー寄りで集合していたんです。エキパイ設計の変更に伴ってパイプ径も試行錯誤しまして、よりトルクが太くなる仕様を採用したのが、いまご覧になっている最終仕様です」
音質と性能にとことんこだわる
待ち切れずにエンジンをかけてみると、ツインエンジンのサウンドが心地良い。アイドリングは確かに静かだが、“静か過ぎない”ところに主張がある。変な言い方だが、ただ闇雲に消音しているのではなく、音質に主張を持たせ、TMAX530 のアイデンティティをより際立たせているように感じた。
走り出すと、ノーマルと比較して低い回転域からのトルクが増大していることがわかる。一般道を流していても、必要な時に右手をグイッと捻るだけで、すぐにトルク&パワーを引き出せるのは有り難い。全開で長く引っ張ると、あっと言う間に 160km/h 辺りに到達してしまった。
「とにかく音質にはこだわりました、ノイズも最小限に抑えています」との言葉通り、小刻みな、ビート音にも似た 530 サウンドは、どの速度域でも気分が良い。スポーツライディングにとって、エキゾーストサウンドは大切な BGM 。だからこそ、オーヴァーでも時間をかけて作り込む部分なのだそうだ。
運動性能は折り紙付きの TMAX530。『TT-FORMULA』 マフラーは、スロットル開け始めのドンツキもなく、滑らかでトルキーなので、コーナリングの進入でも立ち上がりでも、車体姿勢を作り易かったこともご報告しておく。ついつい思い切り寝かし込んでしまったが、スロットル操作でリアにトラクションを掛けてゆくと、シャーシがライダーのイメージ通りの2次旋回をしてくれる。何の問題も感じないどころか、ライディングすることが楽しくて、1日中乗り回してしまった。
アルミホイールやスライダー類も充実
切り返し動作で、マシンがノーマルと比較して軽く感じた。これはマフラーの軽量化だけでなく、テスト車両に、11月発売予定のオーヴァー製スポーツホルールが装着されていたことも影響している。
このスポーツホイールは、ストリートで長く使用してもらいたいという願いから、10万キロにも及ぶベンチテストをクリアした製品とのこと。細くシャープなスポークデザインで、よりスポーティーな印象だ。
「ストリートでの使用をメインに開発していますので、そのぶん “軽量化” という面ではそれほど追い掛けていません。前後で1kg の軽量化に留めています。レースの世界ではとことんまでやりますけどね」と笑う高橋さん。
その他、TMAX530 用のパーツが続々リリースされている。『レーシングスライダー』はエンジンのサイドカバーを換装するタイプで、アルミ削り出しのカバーに硬質樹脂(ジュラコン)のスライダーが付いていて、転倒時のダメージを最小限に抑えてくれる。『フロントアクスルスライダー』、『リアアクスルスライダー』も同様に、転倒時にマシンを守る “転ばぬ先の杖” だ。フロント/リアアクスルスライダーはいずれも左右セットの価格設定でお得感が高い。レーシングスライダーは片側ずつの販売となっている。
ハンドルエンドに付く『レバープロテクター』は、11月発売予定の新製品。これは Moto GPなど、ロードレース競技の世界では標準装備となりつつある製品。レースでは接近戦になった時、ブレーキレバーが他車と接触して転倒する事故を防ぐための装備だが、一般公道で使用するメリットとは?
「ツーリング先で転倒して、レバーが反ってしまったり根元から折れた経験があったんです。でも、このガードを付けることでそれを防ぐことができた。レースだけでなく、ツーリングバイクにも装着メリットがあるんですよ。」
なるほど。確かにレバーやハンドルまわりのダメージを軽減するにも有益なパーツかもしれない。
オーヴァーの製品をテストするといつも感じることだが、作りと設計、全てが “誠実” だ。さらにそこへ “格好良さ” をプラスした、“ナルシスト” な製品ばかりを世に送り出している。オーヴァーレーシングは 『OVER』 という言葉が示すとおり、常に現状を超えてゆくモチベーションを持った、バイクが大好きな職人集団なのだ、と再確認した。
TMAX530 用の製品は今後、さらに種類を拡大していくということなので、ぜひ楽しみにしていただきたい。
取材を終えて
この TT-FORMULA マフラーのエンブレムは、このモデル専用に新たに作られたもの。ここにある『TT』とは、言わずと知れた「ツーリスト・トロフィー」を意味している。もちろん僕が出場しているマン島 TT レースに因んでいるが、実は1980年代後半から隆盛を誇った、全日本ロードレース選手権の TT-F1 クラスも、同時にイメージしたネーミングだと聞いた。オーヴァーレーシングが当時、特に注力していたカテゴリーだけに、その思いは現在でも強いという。
実はこの取材日、二日酔いでもないのに体調が優れず、密かに苦しんでいたのは内緒にしたかった。しかし、同行してくれた木村カメラマンに即座にバレてしまい、多くの部分で助けて頂いた。さすがベテランカメラマン、感謝である。走行撮影の時にはちゃっかり調子を回復してライディングを楽しんだ。
当日は「オトナのスポーツコミューター乗り」をイメージして、『 SHINICHIRO ARAKAWA 』のテーラードの革ジャンで決め、インナーには『ミッキーマウス×74daijiro』のTシャツでイケてるオトナの着崩しを狙ったのだが…ミッキーがあまりにも似合わない事に、写真を見て愕然…(笑)。嗚呼、お恥ずかしい限りである。
松下ヨシナリ
TMAX530 の運動性能はご覧の通り。もちろん、プロの走り方なので、いきなりマネをするのは禁物だが「ここまでイケる」という心理的な安心感が大きいマシンだ。ペンタゴン型サイレンサーは、長さも含め、ご覧の様に存在感抜群だ。
発売を控えているパーツも含めた、オーヴァーレーシングの TMAX530 用パーツをフルで組み込んだテスト車両。実はこの車両は、オーヴァーグループで運営している『レンタルバイク鈴鹿』で、カスタム済みのレンタルバイクとして一般に貸し出している。定期的なレンタル車両の入れ替わりがあるので、どの位の期間、このマシンが在庫されているのかは明言できないが、興味のあるかたは、いちど問い合わせてみてはいかがだろうか?
吹き出し口のテールエンドに注目。一般的なプレス加工のカールエンドではなく、一段太いリングを被せ、エンドに沿って一周、丁寧に溶接を施すことで、美しく味のある景色のテールエンドになっている。これは恐ろしく正確な溶接技術がなければ不可能だし、とても手間がかかる後加工だ。オーヴァーの技術力の高さと細部へのこだわりが、ヒシヒシと伝わってくる。
シリンダーから2into1のジョイントパーツへ、そしてサイレンサーへと至る全ての部分をじっくりと眺めて欲しい。全てにおいて隙のない作りこみには脱帽するほかない。取り付け精度は抜群だが、装着は信頼できるプロショップに任せることをお奨めする。
実は今年(2012年)の2月、袖ヶ浦フォレストレースウェイでのプレス試乗会は、生憎の雨だった。叶うなら「ドライのサーキットで思い切り走らせてみたい」と思わせる TMAX530。このオーヴァー TMAX は、ご覧のフルチタンマフラーとアルミホイールによる軽量化が効いていて、さらに扱い易く、スポーツ性能も向上していた。
踊るタコメーターを眺めながら、ゆっくりと一般道を流すのも一興。頭の後ろ側から耳に届く独特のツインサウンドは、オーヴァーレーシングの調律師が心を込めて造り込んだ、TT-FORMULA の奏でる音楽なんだ。
専用『スポーツホイール』はアルミ製。ストリートでのライフと強度は折り紙付き。カラーは3色、写真のチタン、ブラック、ゴールド。
写真はチタンカラーのアルミホイール。リア側はリム幅が広く、スポークのシャープさが際立って、スッキリとお洒落なイメージだ。
『OVER Racing』と刻まれたアルミ削り出しのケースカバーに、ジュラコンのスライダーが組み合わされたレーシングスライダー。左右片側ずつでの販売。
硬質プラスチック、ジュラコンのスライダー部分にも『OVER RACING』の文字が配され、レーシーな雰囲気に。
リアアクスルスライダーは、アルミ削り出しのチェーンブロックが付属となっている。これで左右セットはお買い得だ(TMAXはチェーンではなくベルト駆動)。
もともとは Moto GP などのトップレースの世界で、ブレーキレバーが他車と接触する事での転倒を防止するためのガードだが、ストリートでも有用だといち早く気付き、市場に投入してきたあたりは流石。3Dマシニングで有機的な形状を創り出す。切削跡が美しい紋様となっていて、素晴らしい出来映えだ。
2012年で創業30周年目を迎える総合バイクパーツメーカー。設立当初より積極的にレース活動を行い、実戦から得られたノウハウを製品にフィードバックしてきた。オリジナルパーツの開発には定評があり、特にオリジナルフレームの開発には多くの実績を有する。鈴鹿8耐や海外のシングルレースなど、OVERオリジナルフレーム車OVシリーズは好成績を残している。国内有数のコンストラクターである。
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