掲載日:2020年04月27日 試乗インプレ・レビュー
取材・写真・文/小松 男
SYM DRG BT
台湾に本拠を構えるブランドであるSYM。1960年代にバイク製造を開始し、日本では2000年代に入ってから販売が開始された。なんといっても台湾は世界有数のスクーター大国である。ストリートには日夜問わずスクーターが溢れかえり、人々の生活の道具としてなくてはならないものとなっている上、市民の心理としてもクルマを持っているよりも高性能スクーターを所有している方が認められるという文化が根付いている。
そんな”舌の肥えた人々”のニーズに合わせて開発、製造しなければならないのだから、メーカーが進歩するスピードもただならないものがある。現在SYMでは50~465ccのスクーターを製造しており、どれも高品質かつデザイン性に優れたモデルであり世界各国のライダーから支持されている。そんなSYMのニューモデル5機種が一挙に国内に上陸したのだ。今回はその中からDRG BTというモデルに焦点を絞り考察していこうと思う。
今回ピックアップするDRG BTは、排気量158ccのSOHC水冷4サイクル単気筒エンジンを搭載している。既存の日本の免許制度から考えるとイメージしにくいかもしれないが、世界的なマーケットを視野に入れたグローバルモデルとして、150~200ccスクーターというのは多くのメーカーがしのぎを削るマスであり、ここ10年程の動向を振り返ると日本ブランドでも、グローバルモデルとしてこのクラスのスクーターの開発に注力し、もちろん国内にも導入されている。
スクーターとひとことで言っても、そのスタイルには様々なものがあるが、DRG BTは高い運動性能を備えておりスポーツスクーターセグメントと考えて良いだろう。そもそも台湾ではストリートでのスクーターニーズだけでなくスクーターレースも盛んに行われていることもあり、スポーツ志向の強いライダーが多い。
さらに幅広い層に訴求するには、ただ単にスポーツ走行に特化させるのではなく、日常的な使い勝手に対する実用面においてもしっかりと念頭に置き開発をしなければならない。それらのポイントを考慮しながら、実車に触れてゆこう。
SYMが作り出すモデルはどれもスタイリッシュなものが多いが、DRG BTはボディパネルのエッジが強く立たされておりシャープで都会的な印象を受ける。そもそもDRGというネーミングはイタリアのドラゴン(龍)に由来し、車両デザインにそのイメージが反映されているそうだ。個人的に気に入ったのはリアサスペンションがモノショックであり、さらに水平に寝かされる格好でセットされていることから、テールセクションの跳ね上がりが際立っていることであり、スポーツバイク然としたスタイルに惹かれる。
車両に跨ると思っていた以上にシートが高かったが、この手のモデルとしては貴重なステップスルーフロアを採用していることもあり、足つき性の問題は感じないだろう。むしろヨーロピアンスポーツスクーターのような着座位置はヤル気にさせてくれるものだ。
ブレーキレバーを握り込みセルボタンを押すと、排気量158ccのシングルエンジンは即座に目を覚ます。暖機運転を意識しながら走り出すもののスロットルを軽くひねるだけでグイグイと前へと押し出し、むしろバイクの方がもっと開けろと言わんばかりの元気なキャラクターが持たされている。
125ccクラス並のコンパクトで軽量な車体なので、市街地での使い勝手の良さはピカイチ。ハンドル位置も良く視界も広い。CVTの設定も煮詰められており俊敏なスタートダッシュはもちろん、スロットルワークに対するツキの良さは特筆しておきたいものだ。さらにアイドリングストップ機能も備えており、アイドリングストップ状態からシグナルスタートの流れもとても自然に纏められている。
ワインディングに持ち込むと、さらに運動性能の良さが伝わってきた。着座位置を中心として前後の重量配分がほぼ50:50とされているのだが、これが効いており、腰をずらしてコーナーを攻めるようなライディングをしても非常に素直に走ることができる。これだけクイックなハンドリングだと直進安定性が気になるが、リアサスペンションが寝かせてセットされていることもあるかもしれないが、スピードを出すと安定志向が高まってゆくように感じられた。
ここ日本でのスクーターの歴史を振り返ってみると、スクーターの登場から70年代までの原付ノーヘル時代には経済を支える道具として根付き、さらにその後80~90年代にかけてはママさんスクーターとしてもてはやされてきたが、そのステージには電動自転車が台頭したうえ、その後社会現象にもなったビッグスクーターブームも駐車問題で終焉を迎えた。一方で台湾は私が初めて訪れた平成2年当時は家族5人乗車は当たり前の光景であったし、それから30年経った今現在もスクーター天国というスタイルが崩れていない。つまりは求められるニーズが多いため、おのずと製品が進化していったのである。
実際のところDRG BTの作り込み、そして走りのポテンシャルはかなりのものであり、ライバルと比べても一歩抜きんでている部分も多々感じられる。それに走りだけではなく、ステップスルーやコンビニフック、USB電源の装備、深みのあるカラーリングやメーターパネルなど全体的に見ても高級感がある。
確かに4大メーカーを有する日本においてシェア争いの頂上に立つことは難しいことかもしれないが、地球規模で考えた場合、欧州やアジア等スクーターが人々の生活を支えている文化を持つ国のライダーこそ、正しいジャッジをするのではないだろうか。現実的にそのようなステージではSYMは日本メーカーの脅威となっているに違いない。通勤通学に日本ブランドのスポーツスクーターを使用しているというそこのあなたにこそ是非とも一度試乗し、エキサイティングかつプレミアムなスポーツスクーターを身をもって感じ取っていただきたい。
ボディパネルやヘッドライト形状など、エッジの立たされたラインで纏められているDRG BTは、イタリアのドラゴンをモチーフにデザインされたもの。躍動感のあるスタイリングはストリートに映えるものだ。
前後13インチタイヤでフロントは幅120サイズとされている。ウェーブタイプのブレーキディスクを採用しており、ABSを標準で装備する。オーソドックスな構成でありながらもフロント接地感が高い。
パネルそのものが独特な形状でデザインされた異形液晶メーター。角度やバックライト照射も良く、視認性は高い。メーター下部のボタン操作で、回転計や時計、走行積算距離などのインフォメーションを変更できる。
いたずら防止シャッター付きのキーシリンダーには、給油口オープン機能も備わっている。横のメットインオープナーはイグニッションオン時に作動可能。
キーシリンダーの下方には、スマートフォンをはじめとしたガジェット類の電源を取れる防水キャップ付きUSBソケットが備わっている。使い勝手の良い位置だが、スマホを脱落しないように注意したい。
ハンドルの下、センター部分には街中スクーターの必須装備であるコンビニフックが備わっている。ステップスルーフロアと相まって、日常生活での利便性も高い。
フロントパネルの左側には給油口が設置されている。キーシリンダー操作でオープンし乗車したまま燃料給油を行うことが可能だ。なおパネルのこの部分がエグられていることで、乗車時の膝周りのスペースに余裕がもたらされている。
若干アップタイプのハンドルバーは快適なライディングポジションをもたらす。右スイッチボックスにはセルボタン、アイドリングストップのオンオフ切り替え、ハザードスイッチが備わる。
ラジエーターは車体サイドに設置されており、その裏側に最高出力10.92kwを発揮する158ccSOHCシングルエンジンが、寝かされる格好で備わっている。スペースの効率や重心バランスなどよく考えられている。
リアタイヤは幅130の13インチで、スポーティかつ軽快な切り返しを堪能することができる。SYM独自の特許を取得したとされる軽量マフラーは、ショートタイプでマスの集中に寄与する。
後方に向かって跳ね上がるようなデザインとされたリア周り。テールランプは面発光タイプのLEDが採用されており、オリジナリティと外的視認性を両立している。タンデム用のグリップも備わっている。
リアサスペンションはセンターマウント方式のモノショックで、プリロード調整機構付き。かなり寝かされた格好でアンダーボーンフレームへと設置されているのが特徴的。
駆動機構はスイングアーム一体式で、そこにデザインされたエアクリーナーボックスが付随している。CVTのセッティングが絶妙で、クルージング時は静かに、スポーツ走行ではアグレッシブさを楽しめる。
同クラスのスクーターでは珍しくステップスルータイプのフロアが用意されている。スペースも広く乗り降りもしやすい。なおフロアの下は燃料タンクとされており、低重心化に一役買っている。
シート高は803mmと高いが前方に向かってシェイプされており、足つき性は悪くない。それよりも程よいクッション性のためスポーツもコンフォートも対応させているのが好印象だった。
シート下のユーティリティスペースは、おおよそヘルメット一個分のスペースが用意されている。割と深めの形状となっているため使い勝手も良い。
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