掲載日:2018年05月16日 試乗インプレ・レビュー
取材・文/佐川 健太郎 撮影/山家 健一
ベスパと言えば、誰もが知っているスクーターの代名詞。その名前から想像するにレースとは縁遠いものに思える。だが、ベスパの黎明期には果敢にレースに参戦し、実績を残してきた歴史がある。しかも、初代「Sei Giorni」はオフロードラリーで勝利したというではないか! これまた仰天なのだが、じつはその後の80年代には、パリ-ダカール ラリーでも4台中2台のベスパが完走するなど、実力を世に示している。モーターサイクルに今ほど明確なジャンルがなかった当時であっても、オフロード専用モデルに混ざってスクーターであるベスパが何故そんな偉業を達成できたのか? 疑問を抱くのは私だけではないだろう。ただ、今回「SEI GIORNI」に試乗し、そのポテンシャルの片鱗に触れた気がしたのだ。
車体とエンジンはGTSスーパー300がベースである。さすがに排気量は300cc近くもあるので低速から力強く加速するし、ゼロ発進から飛び出していく瞬発力がある。シングルエンジンらしい鼓動感があり、そのパルスが生む気持ちの良いトラクション感覚がまた路面をよくつかむ感じがするのだ。乗り味もしっかりしている。スチールモノコックボディはカチッとした剛性感があり、乗り心地はやや硬めだが鉄ならではの頑丈さがあり、ちょっとやそっとの衝撃では壊れたり歪んだりしなさそうな安心感がある。
また、前後ホイールは12インチと通常のモーターサイクルに比べればだいぶ小径ではあるが、その分バネ下も軽量で小回りも利く。さらにベスパ伝統の航空機由来という片持ち式リンクアーム油圧式サスペンションはタイヤ交換を容易にし、かつ航空機の離着陸時の衝撃を支えるだけのタフな構造と聞く。そして極めつけは、シート下トランクは素手で簡単に取り外すことができて、エンジンや駆動系、リアショックなどの重要ユニットに直接アクセスできるというメンテナンス性の良さ。これは長丁場の過酷なラリーではきっと大きなアドバンテージになったに違いない。かつての実物レーサーを見たことがないので詳しいことは分からないが、現代の「SEI GIORNI」を見ていてそう思うのだ。
シートは比較的スリムなので足着きも良く、レザーも滑り止め加工が施され形状的にもホールドしやすい。コンパクトなスクリーンも風を程よくいなしてくれるので有難い。また、前後ディスクブレーキは大柄な車体をきっちり減速させてくれて、ABSが標準装備されるなど安心感も高い。シート下のラゲッジスペースやUSBポート付きのグローブボックスなど、収納スペースの利便性はスクーターならではだ。そして「低い灯台」と呼ばれた特徴的なヘッドライトやLEDフロントウインカー、テールライトなどのディテールにも、ベスパらしいレトロ&モダンな高級感に満ちている。
この個性だから街では衆目を集めること間違いなしだし、安定感のあるゆとりのボディサイズとパワフルな走りで高速道路を使ったワンデーツーリングも難なくこなせそうだ。お洒落感の中にも歴史に裏打ちされたブランド価値とスポーツマインドを併せ持った、頼もしい相棒だ。