掲載日:2020年09月11日 試乗インプレ・レビュー
取材・文/中村 友彦 写真/伊勢 悟
INDIAN Challenger Limited
1998年に復活してからの約10年間は、なかなか経営が安定しなかったものの、2011年にポラリスの傘下に入ってからは、かなりの上り調子を維持しているインディアン。10年前は数台だったラインナップは、現在では約30機種にまで増えているし、全米の注目が集まるAMAフラットトラック選手権では、ハーレーや日本勢を破って、2017~2019年に3連覇を達成。そのあたりを考えると近年のインディアンは、1910~1950年代前半に続く、第2の黄金時代を迎えつつあるのだ。
現在の同社のラインナップには、スカウト、FTR1200、クルーザー、バガー、ツーリング、ダークホースという6種のカテゴリーが存在する。ただし2019年以前を振り返ると、エンジンに関しては、空冷49度Vツインのサンダーストローク111/116(1811/1890cc)と、スカウトとFTRが搭載する水冷60度Vツイン(1133/1203cc)の2系統4種で、フレームは、サンダーストローク搭載車用、スカウト用、FTR用の3種のみ。つまり近年の同社は、主に装備の変更でラインナップを拡大してきたわけで、このあたりはハーレーにも通じる手法と言えそうだ。とはいえ、さらなる飛躍を目指すインディアンが、2020年から新たに発売を開始したチャレンジャーシリーズは、全面新設計のエンジンとフレームを採用している。
チャレンジャー用に新設計した60度Vツインを、インディアンはパワープラスと命名。このエンジンで最も注目するべき要素は、既存のサンダーストロークより少ない1768ccの排気量で、既存のサンダーストロークの151/168Nmを上回る、178Nmの最大トルクを獲得したことだろう。ちなみに178Nmという数値は、歴代Vツイン史上最高値で、ハーレーのCVOロードグライドが搭載する、ミルウォーキーエイト117(1923cc)の171Nmをも凌駕。そしてこの最大トルクに貢献したのが、水冷機構とOHC4バルブヘッド、ショートストローク指向のボア×ストローク:108×96.5mmだ。もっとも2013年から展開を開始したサンダーストームでは、クルーザーの流儀に従い、空冷OHV2バルブヘッド+ロングストローク:101×113/103×113mmを採用したインディアンだが、以後のスカウト/FTRでは、水冷DOHC4バルブ+ショートストローク:99×73.6/102×73.6mmを導入しているのだから、パワープラスの構成は、同社にとってはそんなに特筆するべきことではないのかもしれない。
一方の車体に関しては、アルミキャストフレームやリアのモノショックなど、既存のサンダーストローク搭載車に通じる機構を採用しているものの、φ43mm倒立フォークやブレンボのラジアルマウント式4ピストンキャリパー、独創的なデザインのフロントカウルからは、新世代のクルーザーを構築しようという意気込みを感じる。また、電子制御はインディアン史上最も豪華で、3種のライドモードに加えて、コーナリングABSやトラクション/ドラッグコントロールを導入。それらの制御には近年のリッターSSやアドベンチャーツアラーと同様の慣性測定ユニット、ボッシュの6軸IMUを使用している。
「ムチャクチャ楽しいですよ。市街地でのちょっとした加速で、ヘルメットの中でオーッ!ていう叫び声を挙げて、こんなにニヤニヤしたバイクは初めてです」
試乗前に編集部のIが語ってくれたチャンレンジャーの印象は、僕としてはかなり驚きだった。と言うのも、Iは基本的にオフロード指向のライダーで、クルーザーには興味がなさそうだったのである。もっとも逆に言うなら、クルーザーに対する免疫がほとんどないわけで、これまでにそれなりの台数のクルーザーを体験して来た身としては、Iの言葉を鵜呑みにするつもりはなかったのだが……。
僕の口から出て来た声は、オーッ!ではなくオォォだったものの、本当にニヤニヤしてしまった。ハーレーのビッグツイン系のようなドコドコした感触でなければ、ホンダ・ゴールウイングのようなシルキータッチでもない、チャレンジャーの加速は豪快にしてジェントルなのである。あえて言うならそのフィーリングは、かつてのハーレーが販売していた、V-RODのレボリューションを思わせるところがあるけれど、大排気量Vツインならではの鼓動とトルクの太さはパワープラスのほうが上。いずれにしてもこのエンジンには、乗り手を笑顔にしてくれる資質が備わっているのだが、チャレンジャーの魅力はそれだけではなかった。
バガースタイルの外観からは想像しづらいけれど、チャレンジャーはハンドリングが上質、と言うか、スポーティなのである。もちろん車重は377kg、ホイールベースは1667,8mmもあるので、一般的なスポーツバイクのように峠道をスイスイ走れるわけではないのだが、前後ブレーキ&サスと電子制御がいい仕事をしてくれるからか、このバイクはソノ気になったときに結構無理が利くし、コーナー進入時にはナチュラルでわかりやすいセルフステア、コーナーの立ち上がりでは濃厚なトラクションが堪能できる。
もちろん直線区間では、前述した豪快にしてジェントルな加速が味わえるのだから、乗り手の気分は自然に盛り上がってしまう。改めて言うのも気が引けるのだが、このバイクに乗っていると、スポーツライディングの楽しさに、ジャンルや排気量は関係ないのだなあ……という気がして来るのだ。
既存のインディアンを基準に考えると、サンダーストローク搭載車とスカウトの中間より前者寄り、と言うのがチャレンジャーに対する僕の印象で、このキャラクターはインディアンの支持層拡大に大いに貢献しそうである。ちなみにハーレーを比較対象とするなら、価格と装備的には、ロードグライドスペシャルやストリートグライドスペシャルなどがライバルになりそうで、個人的には、運動性ではインディアン、巡航ではハーレーに軍配が上がると思えた。とはいえ、それはあえて言えばの話で、インディアンの巡航はなかなか快適だったし、ハーレーだって侮りがたい運動性を備えているのである。
丸型LEDヘッドライトを中心に据え、その左右にポジションライトとウインカーを配置したフロントマスクは、過去に例がない独創的なデザイン。フェアリングはフレームマウント。
無段階調整式の電動スクリーンは、左スイッチボックス下部に設定されたレバーで操作。ある程度の高さにすると、内圧調整用の切り欠きが現れる。
ハンドルバーやスイッチボックス、ブレーキマスター、クラッチレバー&ホルダーには、上質なクロームメッキが施される。速度/回転計はオーソドックスなアナログ式。
タッチパネル式のTFTモニターは、2輪用としては大き目の7インチ。スポーツ/スタンダード/レインの3種が存在するライドモードは、このモニターを介して切り替えを行う。スマホとの接続は可能だが、ナビは日本非対応。
コクピットの左右に備わるスピーカーは、6.5インチ/100Wのミッドレンジ用と、高音を担当するツイーターの2系統。なおイグニッションはスマートキー式。
必要にして十分な肉厚を確保したシートはガンファイタースタイルで、側面にはパンチングメッシュを使用。タンデムベルトは内部に収納できる。なお675mmのシート高は、インディアンの中では高い部類。
スチールパイプ製のエンジンガードは標準装備。フットレストはボード式で、ムキになってコーナーを攻めない限り、地面とはなかなか接触しない。
マフラーは左右出しで、後輪駆動にはベルト+プーリーを使用。リアウインカーはテール/ストップランプ一体型だ。
サドルバッグは専用設計で、容量は34L×2=68L。オープン時のストッパーは、なかなかオシャレなメーカーロゴ入り。
スカウト/FTR1200用として、すでに水冷60度Vツインを手がけていたインディアンだが、OHC4バルブヘッドはチャレンジャー用のパワープラスが初めて。デュアルタイプのスロットルはφ52mmで、ミッションは6速。
プライマリーカバーは伝統的な形状。ただし内部の1次減速機構は、昔ながらのチェーン+スプロケットではなくギア式。
フロントフォークはφ43mm倒立式。ブレーキは、F:φ320mmディスク+ラジアルマウント式4ピストン、R:φ298mmディスク+片押し式2ピストン。
F:130/60B19・R:180/60R18のタイヤは、メッツラー・クルーズテック。リアショックユニットはフォックス。
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