【モーターサイクル・ザン・パラダイス Vol.34】Ingly-monglyさん

掲載日:2026年04月25日 フォトTOPICS    

取材・写真・文/森下 光紹

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Vol.34 Ingly-mongly (イングリ モングリ)

自分にとって等身大のバイクを選んで乗る
それは時代に関わらず、ごく当たり前のことなのだ

時代には色があって匂いがある。音にも違いがあるだろう。そして、考え方や目指す姿なども変化していく。本当の意味でのグローバル・スタンダードなんて、きっと存在しないのだ。しかし、人間そのものは数十年くらいではさほど変化していなくて、その身体に心地良いものは、実はどの時代でも共通なのかもしれない。

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バイクは変化した。100年前に発明されてから急速に。それが本当の意味での進化かどうか分からないけれども、その時代で最高の性能や品質を求め続けて現在の姿になったのだろう。つまり僕らは、その100年分の個性から、自分にとって最良のモデルを選ぶことができるのだ。

日本のバイクメーカーは、戦後の復興期に飛躍的な発展を遂げた。特に1960年代のモデルは日進月歩の進化で、実に個性的なモデルが多い。今回紹介するバイクオーナーは、当時の日本をリアル体験した世代ではない。しかし彼にとって、その古いバイクは最も心地良く、頼りになる存在なのだろう。

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普段の足に使っているのは2台のホンダ。今回乗って来られたモデルは1963年のホンダC72である。昭和38年に生産された、ホンダのスタンダード250ccだ。フレームは一般的なパイプ構成ではなく、鉄板から加工したプレスバックボーンというスタイル。フロントフォークやリヤサスも、いっさいパイプを使用しないという徹底的なプレス整形なのだが、当時のホンダは、製品の価格を抑えるのと生産性を高める目的で多くのモデルに採用していた。その方法は、大ヒットとなり今でも生産が続けられるスーパーカブも理念はまったく同じである。

C72は、スタンダードモデル。シングルシートにリアキャリアを装備するビジネススタイルだ。その、どこか無骨なイメージから、神社仏閣スタイルと呼ばれてもいる。同じ時代のスポーツモデルだったCB72は、同一エンジンブロックを用いたバイクだが、より高剛性なパイプフレームを採用していた。そしてC72はシングルキャブレター。CB72はツインキャブレターという違いもある。

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「僕はOHVエンジン時代のカブも持っているんですけど、そっちも古くて1964年モデルです。C105だから55ccのモデルですね。基本的に大きなバイクは好きではなくて、最初に乗り始めたバイクは普通のCB400だったけれども、その後はカブとかゴリラとか、小さなモデルばかり乗って来ました」

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ゴリラは前世代のモデルだから本当に小さい。モンキーから派生してガソリンタンクだけが大きくなったスタイルだ。10年乗り続けたが、置く場所の問題が発生して手放し、その後3年はバイクの無い生活を送っていた。もちろん興味を失ったわけではないので、気になるバイクは存在した。それがOHVエンジンを搭載していた黎明期のカブなのだった。

彼は写真の撮影が趣味で、気になるバイクは撮影して自分のインスタグラムに掲載していた。古いバイクのイベントレースやミーティングにも通うようになって、旧車を扱うショップオーナーとも接点が生まれると、ついに実車を手に入れた。それが現在も所有するC105なのだ。そして、同じショップから2台目のビンテージを手に入れる。125ccのC92か250ccのC72にするか、かなり悩んだ末に選んだのはC72となった。

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「僕は、バイクにあまりスピードを求めていなくて、扱いやすい車体にやさしいトルク特性のエンジンが載っているモデルが好き。そうなると自然に旧車へ興味が湧くのだと思います。現代の感覚からすればかなり遅いと思うけど、僕には十分です。いちおう高速道路も乗れる250ccですしね。シルエットも好きですよ。とても人間味があって、柔らかいですよね」

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1960年代に生産されたバイクは、どのメーカーのモデルもすべてシンプルで人間臭い。それはすべての作業がアナログだったからだ。イメージスケッチも設計図の制作も、クレイモデルの造形もアナログだった。そして工作機械の精度もあまい。製品の仕上げや塗装もすべて人の手で行うことが当たり前の時代なのだ。産まれてくるバイクが人間臭いのは当然のことだった。

彼の乗っているC72をどの角度から見ても、無骨な中にも緩やかな曲線美を感じたり、躍動感を見つけたりするのは、筆者だけではないだろう。特に乗車姿勢から眺めるハンドル周辺のデザインやメーター周りの造形など、高品質で優しいイメージが印象的なのだ。それはとても日本的で落ち着いた雰囲気に溢れている。ホンダ製60年代車の、大きな特徴でもあるのだろう。

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バイクは東京にあるアニマルボートという店で購入している。そこには本当に数多くの国産旧車があるけれども、いわゆるピカピカに磨き込まれている商品というイメージではなくて、昔からそのままタイムスリップしてきてそこにあるような風情を称えているのだ。ショップオーナーは、B.O.B.L「バトル・オブ・ボトム・リンク」という、1964以前に生産されたボトムリンク式サスペンションモデルのみが参加できるロードレースイベントを主催していて、彼はそのレースに参戦はしないのだが、参加者とバイクの様々なシーンを撮影するために足を運ぶようになっていった。

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Ingly-monglyは彼のインスタグラムでの検索名である。その撮影スタイルは、基本的に「絶対、非演出」であることが多い。そこにある空気をそのまま切り取ってしまうイメージだ。自然の中にドラマを感じたら、素直にシャッターを切る。それは言わば土門拳の撮影スタイルである。戦前戦後の日本をリアルに写真にしてきた名カメラマンは、大戦前のその昔、日本で最初のデザインスタジオと言われた日本工房を主催する名取洋之助と撮影スタイルについて真っ向から意見が対立した。写真家でもあり、プロデューサーでもある名取氏の演出に完全反発した土門拳が、その後自分のスタイルを生涯通して世界的な作品を世に残したのは周知の事実。それが土門拳の言う写真力だった。

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彼のインスタグラムには、とても良く似た空気感が存在する。インスタに投稿する彼は、自分が大好きな世界の持っているイメージのすべてを一枚の写真に表現するということに注力し、常に自分にとっても無理のない撮影スタンスでシャッターを切っているのだと、僕は強く感じた。

今回の取材中も彼は僕の写真を撮影していたが、そのカットの中には、その日のその空間に存在したあらゆるものが、自然に閉じ込められている1枚になっていた。

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自分にとって心地良いという感覚は、生きていく上で最も重要なことだと思う。それはきっと生まれ持った感覚と、経験の中で徐々に完成されていくものだとも思うのだが、絶対的な事柄も存在する。

例えば、美しく輝く夕焼けを見て気持ちが悪くなる人はいないだろうし、涼やかな風鈴の音を騒がしいと感じるはずもない。どこまでも青く透き通った夏の海辺に何の興味も持てないのでは困るし、心地よい音楽に耳を傾けるのはごく自然な感覚だ。そんな意味では、人間臭い60年代のバイクはあらゆる意味で「足りている存在」なのかもしれない。1000年前に生きた弘法大師空海は、「足るを知るは、富む」と解いた。それは絶対的で不変な感覚として、人が健やかに生きる上で、この先の時代でも最も重要なはずだ。C72を気持ち良さそうに走らせている彼の後ろ姿を眺めながら、僕は大切なことを思い出したような気持ちになった。

ライター プロフィール
森下 光紹(モリヤン)
旅好き野宿好きで日本全国を走り回り、もう足を踏み入れていないエリアがほとんど残っていないと笑う。とにかくバイクで行かないと気が済まないから、モンゴルとカザフスタンの国境まで気の合う友人と行ってしまったこともある。乗って行くバイクはいつの時代もポンコツで、メンテも得意な自称ポンコツ大魔神。本業はカメラマンで、人生行く先々のどんなシーンでも写真に収めるのがライフワークのひとつ。その人生訓は「我が生命は水が如き」という。

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