掲載日:2025年10月14日 フォトTOPICS
取材・写真・文/森下 光紹
Vol.22 高橋 正美(タカハシ マサミ)
夢中になるものを探したい。それは万人に共通の感覚だろう。生きていくために最大のモチベーションであり、日々その「夢中」を求めて過ごしているのが人間本来の姿だと思う。人の歴史はそんな夢中の歴史である。トーマス・エジソンは、自宅が火事になった際「これでまた一からやり直すことができるぞ!」と笑ったと言うから、さすがの発明家だと思うが、そんな感覚は誰でも少しは持っていて、バイクに乗るライダーという人種もまた、かなりの夢中人なのだと僕は思う。
高橋正美さんは現在50代の半ばだ。少年期には空前のバイクブームで、世代的には新人類とか言われていたはずである。尾崎豊は「盗んだバイクで走り出す」と歌い、中学校の窓ガラスは行き場のない焦燥に駆られた生徒に叩き割られた時代。バイク乗りは野蛮で暴力的と思われて免許を取得するのもなかなか困難だった。多くの若者が荒れていた時代。しかし、今や少し懐かしい気さえする。
「僕は17歳からバイク乗りですね。最初はホンダのロードパルだったな。その後スポーツタイプの原付きを何台も乗り継いだけど、先輩や仲間から回ってきたり、ポンコツを買ってきて走れるように直したりという毎日でしたね。18歳で普通自動二輪の免許を取得してからはスーパーホークⅢに乗りましたが、盗まれてしまいました。当時はまぁ、そんな時代でしたよ」
見せられた古い写真には、荷物を後部座席に積み込んだスーパーホークⅢと、当時はスリムだった高橋さんの姿がある。場所は鳥海山山頂にあったキャンプ場で、当時からツーリング好きのライダーだったようだ。そんな思い出のバイクは盗まれてしまい、しかたがないのでベーシックなホークを1万円で手に入れて、ダメなパーツは剥ぎ取り、自分なりのカスタムを施して乗っていたと笑う。
「昔からそんなポンコツばかり乗り継いでいるから、メンテナンスはほとんど自分で出来るようになりました。現在のメインバイクであるモトグッチは新車購入で、今はショップとのほど良い関係も大切だから、点検してもらうためにお店にも行きますけどね。もう大人ですから、アハハハ」
自動二輪免許の限定解除をするとまずはビッグなCB1300に乗り出したが、どうもマルチエンジンのバイクは性に合わなかったらしく、スポーツスターの1200に乗り換える。2004年モデルなので、以前のハードだったモデルから、エンジンがラバーマウント化されてツアラーとしても性能アップしたバイクだったので、それはけっこう長く乗ったが、次のトライアンフは失敗だったと言う。
「何だか乗りやすいだけで、気に入らなかったですね。ハーレーでOHVツインエンジンの楽しさを味わって、他はどうなんだろうなんて思って乗り換えたんだけど、僕には合わなかったなぁ」
それでさらに乗り換えたのが現在の愛車であるモトグッチのV7ストーン850なのだ。このモデル、2021年型のモトグッチ誕生100周年の記念モデルである。高橋さんは発表されるとすぐに注文したのだが、ヨーロッパから輸送途中、船が中東を通過する時点で混乱に巻き込まれ、なんと予定よりも11ヶ月も遅れて日本に到着したのだった。その、待ちに待ったバイクに乗ってみると、何とも独特のフィーリング。OHV空冷エンジンの古めかしいイメージも色濃く残しながら、コンパクトな車体と短いホイールベースの影響で軽快なハンドリングを実現している不思議さが魅力だった。車重も軽いので、出足も意外と鋭く、以前のモトグッチのイメージとは違う印象のバイクだった。
「これはやっぱりユニークで、買って良かったと思いましたね。だって他に似ているバイクが無いですもん。モトグッチに乗るライダーって、徹底的にグッチにハマるって良く聞くけど、なるほどねー、とは思いました。歴代、他のモデルも全部個性的なんでしょうね」
独特な乗り味をどのモデルでも発揮するのがモトグッチ。長い歴史に翻弄されながらも決して多くない熱烈な支持者に支えられてこれまで歩んできた不思議なメーカーでもある。どこまでも空冷の縦置きVツンエンジンに拘るそのアイデンティティーは、時代を超越して大きな存在感を常に放っている。そんなメーカーが世に出すバイクは、長くバイク乗りだったベテランを虜にしてしまうのかもしれない。
高橋さんはこれまでの人生で20台以上のバイクを乗り継いできた。つまりバイクと共に生きている人である。それは今後もまったく変わることがないだろう。
現在の愛車はこのモトグッチとヤマハのYBR125。このヤマハは完全にホビーとしての扱いで、高橋さんのカスタム欲を満足させるためのおもちゃだ。そして、最近、サンダー250という中国生産のカスタムバイクも手に入れる予定だという。
「リジッドフレームにヤマハのドラッグスター250のエンジンを搭載したバイクでね。フロントフォークはスプリンガーです。でもリジッドフレームは在庫が無くて、小さなリアサスが付いたソフテイルフレームモデルなら納車が早そうだから、そっちを買おうかなぁ。」
長い人生を共にしてきたバイクという存在は、高橋さんにとって、様々な存在であると思う。ホビーであり、相棒であり、兄弟や、時には恩師でもあるのかもしれない。ツーリングは大好きだが、基本的には気ままな一人旅やキャンプという目的に、お気に入りのバイクを選ぶ。キャンプはみんなで宴会をするようなグループキャンプよりも、一人でただ焚き火を前にして、自分だけの時間を楽しむことが好き。そのすぐ脇にはバイクの存在が不可欠なのだ。それは長くバイクと共にある人生を過ごしている人の共通の感覚であるように思う。
「サンダー250は、今の時代に新車で買える旧車という感覚が楽しくてね。だって、リジッドフレームなら、チェーンをパンパンに張って、エンジンのトルクをダイレクトな感覚で伝えてくるわけですよ。それは凄い刺激になりそうで興味津々でしたね。少し妥協して短いリアサス付きのソフテイルモデルを買ってしまいそうだけど、まぁ納車が楽しみですよ。良い歳をして、そんなおもちゃにローンを組むのも、仕事や生活のモチベーションを上げるためと言っておこうかなぁ。あっははは!」
いつまでたってもバイクに夢中。やっぱりこんな人は一生夢中人に違いない。彼がいつも持っているウエストバッグには「雨男」という大きな刺繍がされているが、それはきっと雨が降ってもお構いないしにバイクで遊んでいるからだ。人生を楽しむことを自虐的なギャグにして、人を笑わせる。そんなバイクライフには、終わりがあるはずもない。
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