掲載日:2025年09月10日 フォトTOPICS
取材・写真・文/森下 光紹
Vol.20 玉島 聡子(タマシマ サトコ)
北海道ライダーの三人目は、上富良野でクレープ屋さんを営んでいる元気な女性ライダーだ。現在の愛車は、ハスクバーナのWR125とホンダGB350の2台。その使い分けは、ハスクバーナは普段の足。自宅からお店までの通勤スペシャルでもあり、気軽に出かけるときの相棒だ。そしてGBはツーリング用として、仲の良い友達ライダーと一緒に走る。バイクとしての性格も真逆な2台を楽しんでいる人だった。
まずは、お店の紹介をしようと思う。場所は、旭川から国道237号を南下して美瑛の丘を過ぎ、富良野に向かう途中。深山峠の道沿いにある。お店の反対側には観覧車が見える場所で、小さな個人商店が数店舗連なった、言わばドライブ中の休憩ポイントに良い場所だ。名前は「テーブルトップ」という。ポップなカラーリングと踊るようなアルファベットのロゴで描かれた看板がよく目立つ、明るいイメージのお店である。待てよ、「テーブルトップ」とは、もしやアメリカンモトクロスのスーパークロスで、巨大なジャンプ台のことを指すのだが、そこから命名されたものなのか? と、ピンときた。
店内は、アメリカン雑貨に溢れたポップな印象で二階建て。グッズの購入もできるが、メインはクレープやパフェ、各種サンデー等の甘いものを取り揃えたカフェである。クレープは品数豊富で、ちょっとした食事にもできるタコスや、ハム・チェダーチーズを巻いたメニューもあって、人気店なのだ。
「テーブルトップね。そうなのよ。ダンナがとにかくオフロードレース三昧の人でね。息子も娘も子供の頃は一緒にレースばかり出てたわね。私は出ないけど。アハハハ。お母さんはサポート役よ。でもバイクって、オフ車しか見たことないっていうか、身近な存在がいつもオフ車だったから、自分で免許取得して乗るようになっても、やっぱりオフ車が基本になっちゃったのかなぁ」
チームマネージャーに徹していた聡子さんだったが、自分のお店をやろうと思い立ち、その通勤のためにバイクを選ぶ際もヤマハのDT50というオフロードモデルを選んだ。しかしやはり50の原付きバイクではあまりに非力で通勤にも不都合なことから、普通二輪免許を取得して125ccのバイクにステップアップ。それがこのハスクバーナのWR125だったのだ。
「相談するのがダンナだからね。選ばれるバイクがどうやら普通じゃないみたいだけど、ウチの家族にとっては普通なのかなぁ。今どき2サイクルエンジンだし、オイルとガソリンを混ぜなきゃならない混合ガス仕様でキックオンリーの始動しかできないって、やっぱり普通は選ばないわよねぇ」
うーむ、確かに普通のライダーが通勤バイクを選ぶならば、他のモデルを探すだろう。しかし、彼女のバイクは前後のサスやホイールを変更したローダウン仕様で、小柄な女性でもライディングしやすいスペシャルになっていた。まぁしかし、キックでエンジンを始動すると完全にレーサーとしてのポテンシャルを全開で主張してくるので、「こりゃぁ凄いや!」と、思わず笑顔になってしまう。
聡子さんは脱サラしてこのお店をオープンさせた。子供も大きくなって子育てが一段落というタイミングを見て、自分自身の挑戦としての店舗経営に繰り出したのだという。北海道なので、お店の営業は4月の中旬から10月の下旬まで。その間の通勤は毎日このハスクバーナに乗ってくるという。
「お店をやってると、もちろんバイク乗りの人も来るじゃない。最近は女性ライダーも増えたから、あたしもそんなグループに混ぜてもらおうと思って、もう一台買ったのがGBなのよ。エヘヘ新車でね」
実はGBの以前に手頃な中古バイクを2台乗り継いでみたのだが、どうも不調で悩まされたという。ツーリングはグループで出かけることが多いから、みんなに迷惑がかかるといけないと考えて、最新モデルのGBを新車で購入したのだ。だからこちらは完全にツーリング用。なるほど性格の真逆な2台を所有する理由は明確だった。
ご主人もまたピュアオフロードモデルのKTMと、ツーリング用のCB400を所有しているということだが、一緒にツーリングすることはほとんどないらしい。
「仲が悪いんじゃなくてね。休みが合わないの。お店があると、休日はしっかり営業しなくちゃならないもんね。それと、あたしって極度の方向音痴だから、ツーリングはやっぱり友達とグループツーリングじゃないとダメなのよ。まぁつまりは楽しい女子会のノリね」
お店のできない冬の時期は、なんと大きな重機に乗って除雪の仕事もするという彼女。きっと基本的に乗り物が大好きなのだろう。そして極めてアクティブなのだ。冬の仕事も今年で4年目。除雪機の運転もとても楽しいと笑顔で話してくれた。
ハスクバーナの走行シーンが撮影したいとリクエストすると、彼女は「うーん」と唸っている。そうか、方向音痴なのだった。というわけで、僕が知っている眺めの良い場所に先導して走る。後ろを付いてくる彼女はヘルメット越しにも笑顔が分かるほど弾けていた。十勝岳をバックにした直前道路から美瑛の丘に向かい、眺めの良い場所で少し休憩。その後は彼女の自宅に向かって、今度はハスクバーナが前を走る。2サイクルの軽快なエンジン音を響かせて速度を上げていく後ろ姿は、肩の力が程よく抜けた綺麗なライディングフォームだった。実にスムーズにバイクを乗りこなす。家への帰り道なのだけれども、そこはやはり北海道。気持ちの良いことこの上無い。信号ひとつ無く対向車もほとんどすれ違わないルートが彼女の通勤街道なのだと思うと、なんだかとても羨ましいのだった。
最後は、彼女のお気に入りというこだわりのカフェにも案内されて今回の取材は終了。まだ夏真っ盛りだという時期だったが、夕方には少し爽やかな風が吹いてきた。最後までずっと笑顔のままだった聡子さんは、この空気の中を慣れたルートで自宅までハスクバーナを走らせることになる。それもまた気持ちの良いライディングシーンであることは間違いない。北海道は、なんだかやはり特別な場所なのだ。彼女の毎日は、その特別な日々の連続なのだと思うのだった。
女性にとってのバイクという存在は、僕ら男性とは少し違う立ち位置なのかもしれない。アイテムというよりも伴侶とでも言うべきか。一台のバイクを長く乗り続けるのは圧倒的に女性であるという統計を見てもそんな気がするのだが、彼女が所有する2台は、常に素敵な生活を支え続ける大切な伴侶として存在するのだろうと強く感じた。
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