ライダーインタビュー【モーターサイクル・ザン・パラダイス Vol.14】江口 成仁さん

掲載日:2025年06月04日 フォトTOPICS    

取材協力/ホットカインド 取材・写真・文/森下 光紹

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Vol.14 江口 成仁(えぐち しげひと)

自分にとって最高の相棒を見つけること
それが最も長く乗る秘訣なのでしょう

同じバイク好きでも本当に様々なタイプが居るものだ。新型車至上主義やらビンテージモデル好き。オフロード愛好家。レーサーレプリカ一辺倒の猛者。何でもOKのオールマイティー主義もあり。

20世紀初頭に登場した内燃機関を華奢なフレームに積んで走り出したバイクは、この100年の間に凄まじく進歩してきたわけだが、その進化過程で失った要素もたくさんあるように思う。それは工業製品全般に同じことが言えるのだろうが、ことバイクにとっては、何がライダーにとって良いことなのか、実に繊細で微妙な事柄なのではないだろうか。

速ければ良いわけでもないし、乗りやすければ良いわけでもない。利便性が優秀なら良いのかと思っても、そんなことでもない。バイクは不思議な乗り物。少し楽器と似ているかも。と、最近良く思う。

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佐賀県で長くバイクライフを送る江口さんの愛車は1980年モデルのBMW製R100RSだ。現代の観点で言えば、ビンテージモデル。しかし発売当時は高速巡航が得意なスーパースポーツモデルだった。このモデルを新車で買えた世代というのは、戦前生まれの昭和世代から戦後のベビーブーマー世代までか。

彼らは急速に走行性能が進化した60年代のバイクをたくさん乗り継いで、ついに最新型を手に入れたというイメージだったに違いない。その時の国産車は、すでにマルチエンジンのスポーツバイクが絶好調で世界市場を席巻し始めていた時代だが、超高速域で快適に疾走し続けることができるバイクは、まだ無かった。

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そんな70年代の後半に登場したR100RSは、古典的な空冷OHVフラットツインエンジンにフルカウルを装備したスポーツツアラーだった。それはドイツのアウトバーンを高速で安全に巡航できる性能を持ったスーパースポーツで、日本車のモデルでは、まだ真似のできない領域だったに違いない。

江口さんは、22歳の時に最初のバイク「ホンダCB250RS」を購入。このモデルはシングルエンジンを採用し、徹底的に軽量化を図ったスポーツモデルで、パワーよりも軽快な運動性が売りだった。その後、普通二輪から限定解除して選んだモデルもまたシングルの代表的なモデルである「ヤマハSRX600」という経緯をたどる。

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初期型のSRXはとても斬新なデザインであったことや、やはり軽快な運動性が楽しくて、乗り回した。写真が趣味だった江口さんは、このバイクでのイメージ写真も当時たくさん撮影したと笑顔で話す。そのころから専門誌も多く読むようになって、現在までのストック量は膨大。書斎の本棚以外にも、多くの専門書籍や雑誌が保管されている。

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「とにかくバイクが三度の飯より好きになってしまってね。本もバイクもぼくにとっては宝物なんですよ。本は購入当時、最新の情報を得る手段だったけど、今や貴重な資料ですからね。全然処分できないから奥さんに迷惑かけています。あははは」

SRXの次に乗り換えたのは80年代後半に復刻したBMWのR100RSだった。佐賀大和に開店したばかりのホットカインドで新車購入。実は他店でモトグッチのマーニを納車予定だったのだが、キャンセルすることになったという。

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「ホットカインドの富吉さんは、東京でメカニックをしている時代にBMWでレースにも出ていて、アマチュアながら国際A級ライダーと互角に走っていた人です。相手はドゥカティのフルチューンですよ。ビーエムって、そんなポテンシャルが実はあるんだということに興味が湧いたのと、富吉さんの人柄やメンテナンスの腕にも惚れ込んで、新車の100RSを購入しました」

しかし現在の愛車は、その時に購入したモデルではなく、さらに以前の旧型モデルである。

「実は身体を壊してしまって、数年間バイクに乗れない時代があったんです。その時に以前のRSは手放してしまいました。でも回復するとやっぱり乗りたい。そこで手に入れたのはかなり古いヤマハのXS750だったのですが、これがなかなか楽しかった。僕の求めているフィーリングは旧車にあるのかもと、その時に思いました。当時、友人が最新のビーエムだったロードスターに乗っていたから少し試乗させてもらったのだけれど、同じボクサーツインエンジンなのに何だかピンとこない。もちろん乗りやすくて良く出来ているのだが、自分の求めているフィーリングとはどこか違うと思いました。そこで富吉さんに相談したんです」

そんな経緯で、以前乗っていたRSより、さらに古いモデルを探すということになったのだ。BMWは1983年に水冷4気筒エンジンのKモデルを発表すると、それまで長く生産してきた空冷ボクサーエンジンの生産中止を発表した。しかし、世界中のライダーから猛烈な抗議を受け、数年で復活、今も進化を続けて主流バイクとなっているのは誰もが知るところだ。江口さんが乗っている1980年型のモデルは、トラディショナルなツインショックの最終型。それまで培われてきた伝統と技術のすべてを注ぎ込んだ、当時のフラッグシップである。

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「これがね、やっぱり僕にとっては理想形のバイクだったのですよ。一般道から高速道路、ワインディングロードを駆け抜けるのも楽しいし、ロングランでも疲れない。そう言うと、そんな性能は現代のモデルのほうがさらに優秀なものなどいくらでもありそうですが、フィーリングが合わないとだめなんですよね。どんな使い方をしていても楽しくないと意味がない。当時のモデルはどこか人間的なフィーリングが強く残っていて、長く乗ってもまるで飽きないから不思議です」

購入時の走行距離は2万キロ台だったが、現在は19万キロに達した。もちろんノントラブルというわけにはいかず、メンテナンスされて長く乗り続けている個体である。

「江口さんのはね、エンジンの始動時から違うんだよ。古い車両は電気系統の劣化が来るから、調子悪くなるんだ。あのRSは、点火コイルにもセルモーターにもばっちり規定電圧がかかるようにファインチューニングしてあるから、始動は一発。アイドリングもすごく安定しているしアクセルの開け始めからスムーズで力強く加速できる。エンジンの各部クリアランスの調整やオイルの管理、キャブレターの動きもスムーズだし、駆動系や足回りの状態も最高なんだ。20万キロ走ったって、行き届いたメンテをしていれば当時の性能は完全に維持できるというか、新車以上の性能にだってなるよ」と言う富吉さん。

このRSは富吉さんの作品と言っても良いのだろう。これぞ、ファインチューニング。チューニングとは、本来パワーアップが目的ではなくて、楽器で言えば調律である。ギターやピアノだって、チューニング無しで演奏することは有り得ないのだ。バイクもまったく同じである。

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古いBMWに魅せられて手放せないライダーは数多い。それぞれの年代のモデルに多くのファンがいるのだ。きっとそれは現代のモデルにも生かされているに違いないのだが、メカニズムが人間的だったアナログモデルのほうが親しみやすいというのも事実である。そんな時代のモデルを長く乗る幸せは、何にも代えがたいことなのだろうと思う。

江口さんのガレージには、このBMWの他、息子さんが乗っておられたホンダのGB500やスーパーカブ。ずいぶん昔に手に入れて、いつかは再生しようと考えているスズキのウルフ90などが収まっていた。それぞれが思い入れ深いバイクたちであり、江口さんの宝物だ。

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普段はソロで走ることが多いのだが、気の合う仲間とロングランに出ることもある。長旅の時は左右のパニアケースを取り付けているが、普段は外した状態で本来のハンドリングを楽しむ。フルカウルやセットアップできるツーリングバッグと言う発想も、当時のBMWが世界で最初にやり始めたことだった。その後の各社ツーリングバイクでは常識となっている装備も、やはり最初はBMWからなのだ。

「一日で650キロツーリングとか、四国に初ガツオを食べに行くとか、お気に入りのコースを走るのが本当に楽しいですね。沖縄とかに行くとレンタルバイクで走ったりするけれども、やっぱり自分のRSが一番楽しいって、必ず思いますよ」

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冒頭にバイクは楽器と似ていると書いた。たとえばギターのギブソンやマーチンなどは、50、60年代のモデルが最高なのだと言う人が多いが、そんなギターに親しんでいるミュージシャンいわく「ネックを掴んだ瞬間に分かる」と言うし、そんな年代物のモデルは倉庫にしまっておかないで、やはり演奏しなくてはいけないとも言う。それを「育てる」という表現で。そう聞くと、ますますバイクと楽器は似ているのだと痛感する。江口さんのRSは、オーナーとメカニック(チューナー)によって見事に育てられた、この上なき名機なのだと僕は思う。

ライター プロフィール
森下 光紹(モリヤン)
旅好き野宿好きで日本全国を走り回り、もう足を踏み入れていないエリアがほとんど残っていないと笑う。とにかくバイクで行かないと気が済まないから、モンゴルとカザフスタンの国境まで気の合う友人と行ってしまったこともある。乗って行くバイクはいつの時代もポンコツで、メンテも得意な自称ポンコツ大魔神。本業はカメラマンで、人生行く先々のどんなシーンでも写真に収めるのがライフワークのひとつ。その人生訓は「我が生命は水が如き」という。

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