掲載日:2025年05月24日 フォトTOPICS
取材協力/RCエレファンテ 取材・写真・文/森下 光紹
Vol.13 戸波 淳(となみ じゅん)
子供の頃に遊ぶ要素は、無邪気に野山を駆け廻るにしても家の中で過ごす時も、いわゆる大人ごっこなのだと思う。生まれたての赤ん坊はとにかく生きるために必死で泣いて母親のおっぱいにすがりつくが、他の時間はほぼ眠っている。それがおもちゃに興味が湧くころになると、いきなり自分の手足を使って驚くべきスピードで様々な行動に出る。それはすべての人が同じだが、男女問わず大人の真似をしていくのだろう。長年のDNAに刷り込まれた要素から、男性は自分の外部に意識が働き、女性は内部を探求する方向に興味が行くようで、その結果が男性は道具。女性は人そのものに関わる遊びを始める。
乗り物に興味を持った男性は、クルマのおもちゃが手放せなくなり、その世界をどんどん広げていくことに多くの時間を費やすようになっていく。オトコのバイク乗りなんて、そんな子どもが大きくなっただけなのだと思うのだ。おもちゃには、おもちゃ箱が欲しい。つまりそれに尽きるのが男子のロマンなのかも知れない。
今回登場する戸波さんは、普段のお仕事が米軍基地内。名刺の肩書は「在日米軍基地管理本部緊急業務局統合本部相模原住居地区消防班長」というもの。
日本語というのは、まったく凄まじい勢いで漢字を並べて肩書として表すから驚くが、つまりは米軍基地内で勤務する緊急時の消防隊スタッフということなのだろう。そんな戸波さんの趣味がバイクなのだが、これまで掲載してきたツーリングが主体の楽しみ方のライダーとはかなり違っていた。それは、その仕事の勤務体制にもある。
「24時間勤務で、その翌日はまる一日お休みです。それを繰り返す日常だから、まず遠くにツーリングということは、なかなかできませんねぇ」
現在、戸波さんが所有するバイクは3台。ハーレーの少し古いソフテイルクラシックとカワサキのZ550。そしてモンキーのカスタム車だ。普段良く乗っているのはカワサキで、実は元の車両はKZ550D(国内バージョンはGPZ)なのだという。
「メーターを見ると分かるのですが、FX時代には装備されていないガソリンの残量計があるんです。つまりこれは外装をFX系に交換したGPZのカスタムということで、そのユニークさが魅力で手に入れた感じですね」
戸波さんが普段良く行く近所のバイクショップで作り上げられていた個体を購入。さらにご自身でバックステップの装着やCRキャブへの交換など、さらなるカスタムを施した一台なのだ。
自宅は少し古い一軒家で、元々は店舗付き住宅だったものを中古で購入し、店舗部分をガレージに改造した。戸波さんの父親が大工ということもあって、ほとんどの作業は業者を使わずに実施。現在はそこでのガレージライフを満喫している人なのだ。
「元々は原チャリからのライダーですよ。その後は大型スクーターとかにも乗りましたが、ホンダのスティードに乗ったころからハーレーにも興味が湧いて、その後はスポーツスターに5年くらいは乗ったかな。友人もハーレー乗りになったことからステップアップして最新のツーリングモデルに乗り換えてバガーカスタムとかもやってみましたが、どうも僕の趣味には合わなかった。それでハーレーは少し古いスプリンガーソフテイルというモデルに落ち着いたんですよ。これは元々がビンテージモデルの復刻スタイルだから自分でカスタムするというカテゴリーじゃなくて、当時のカスタムパーツで仕上げていくのが楽しい。つい最近も、千葉でオフ会があって参加しましたが、とても楽しかったですね」
普段使いのカワサキは、まだ手に入れて数年だが、バイクらしさが最高潮時代のカワサキだからその乗り味にはおおいに満足。現在52歳の戸波さんにとってやはり80年代のスポーツバイクが最も感性に合う乗り物なのだろう。
「僕はあまり遠くには行きませんね。気分の良い日に近所を流すぐらいかなぁ。もちろん乗るのも大好きですけど、自分の好きなイメージにバイクをカスタムしていく工程を楽しんでいるのだと思います」
そういうと、戸波さんはガレージの奥にあるモンキーを引っ張り出してきた。これはもう、元のモデルがどのモンキーなのか判断できないほどカスタムされていて、その内容はエンジンのチューニングから足周りの変更、外装にいたるまで、手を入れていない場所が無いというほどカスタムされていた。
「小さいモデルは自分でほとんどできるから、こちらも楽しいですよ。だからモンキーをカスタムする人って大勢いるのでしょうね」
店舗を親子で改造したこじんまりしたガレージは、まさに大人のおもちゃ箱である。やはりこのような環境がないと続けられないバイク趣味というものは存在する。カスタム好きのバイク乗りにとってガレージは、バイクを収納するためのものだけでは済まないのだ。
家の角には自動販売機が設置してあるのだが、それはこのガレージを使って友人たちとバイク談義になる時など、とても便利なのだと戸波さんは笑った。
天気が良いので少し走りませんか? と誘うと、お気に入りのカワサキに火を入れる。しばらく暖気運転したあと、自宅から数キロ離れた田園地帯へと移動した。まだ田植えが始まっていない田んぼの脇からは東丹沢の山々がそびえて見える。もう山は新緑の季節となったから吹き下ろす風も心地良く田んぼに吹き抜けて、丘からそこを一気に駆け下りる一直線の県道は、ライダーの気持ちを高揚させる条件がてんこ盛りだった。
「いやぁ、気持ちいいねぇ今日は。久しぶりに走ったよ」
満面笑顔の戸波さん。普段の激務から開放されてバイクに乗っている瞬間こそ、彼にとって特別な時間であることは間違いない。
その後、行きつけのバイクショップ「RCエレファンテ」に顔を出すと、お店の代表である工藤さんと何やらゴソゴソと周囲のものを片付けだした。
「これね、空冷ツインカム時代のCB750なんですよ。工藤さんがレストア始めているんだけど、めちゃくちゃ今気になってます。たぶん、AMA時代のフレディー・スペンサーが乗っていたレーサーのレプリカになるんじゃないかなぁ。かっこいいに決まってるでしょ」
戸波さんは、勤務時間外で体が自由な時には、このショップに顔を出して少し業務も手伝っているらしいのだが、工藤さんのセンスに心惹かれる同族でもあるのだろう。自身のガレージライフの延長線上にあるショップだろうから、戸波さんのハートを掴んで離さないのだ。
男子は子供の頃から秘密基地を作ったりプラモデルにハマったり、とにかく道具を使うホビーに魅せられたらもう足抜けできなくなる。戸波さんの子供のような笑顔には、その答えが書いてあるのだと僕は思った。
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