ライダーインタビュー【モーターサイクル・ザン・パラダイス Vol.8】 服部 直樹さん

掲載日:2025年03月04日 フォトTOPICS    

取材・写真・文/森下 光紹

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Vol.8 服部 直樹(はっとり なおき)

バイクと長く付き合うための気持ちは
みなそれぞれ違うというお話です

腐れ縁という表現がある。これは良い意味で使われたり、悪い意味で使われることもある。どちらの使われ方でも縁が切れないという意味では同じだが、嫌な縁ならまっぴらごめんと行きたいところだ。そして時には、微妙なニュアンスとして表現することもあるだろう。いずれにしても、できることならば味わい深い腐れ縁であることが望ましいものだ。その意味では、今回は実に良い出来事からの腐れ縁なのだと思う。

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紹介するライダーは、元々筆者の高校時代の後輩なのだが、在学中はお互いにほとんど面識が無く、バイク乗りであることも全く知らなかった。僕は応援団員で、彼は??? という感じ。もちろんバイクでの通学は禁止されていたので、学年が違えば学校内でバイクの話を交わすこともなく3年間は過ぎて行ったのだ。その後、社会人となってからやたらと一緒に走り回る仲となったのだが、そのきっかけは現在まったく思い出すことができない。

ここでは服部くんと呼ばせてもらおう。普段はもちろん呼び捨てで、気兼ねなく付き合える仲だ。それは昔から変わらない。しかし、彼とは実に30年もの空白があったのだ。出身はお互い名古屋で、それぞれが違う道を選んで東京に移り住んだ。僕はカメラマンとしての道を進み、彼はインダストリアルデザイナーとして、ホンダに就職した。

「バイク雑誌の広告で、ホンダがデザイナーを募集してたのね。それで応募したら採用されたの。各自作品を持って来いと書いてあったから、自分で改造したSR400を乗って行ってさ。窓をガラガラって開けて、あれが作品ですって言ったら合格しちゃった」

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その時のSRはよく覚えていて、名古屋時代からどんどん様変わりして最後はトライアンフのタイガーカブそっくりになっていた。当時はまだカスタムパーツなどは皆無だから、まるでオリジナル。ガソリンタンクはヤマハTX500用だし、マフラーはホンダのCL250用を左右逆付けしたものだった。スピードメーターはイギリスのスミス製に似たカワサキのTR250用。塗装はもちろん自分で施したものだ。

当時、僕がそのSRを撮影した写真が数枚だけ残っている。住んでいたのが杉並区だったので、一緒に走って国立方面に行き、確か五日市街道のどこかで撮影したはずだ。

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「そうそう、僕の兄貴がいたアパートに遊びに行った日だと思うよ。夕方に撮影したよね。帰りは真っ暗になってしまったけど、楽しい思い出だね」

しかしそんなエピソードを最後に、彼とはあまり会わなくなった。上京して、仕事に明け暮れた日々だったのだと思う。お互いバイクを降りることはまったくなかったが、「いつでも会えるさ」という意識のまま時間が経ちすぎて、そのまま「あいつは今、何をしているのだろう」という存在になってしまったのだ。

服部くんは3人兄弟の末っ子で、一番上のお兄ちゃんがバイク乗りだったことからバイクに興味を持った。憧れのお兄ちゃんの真似をする可愛い弟だったのだ。お兄ちゃんは東京でアニメーターになり、やはり絵を描くことが好きだった彼も高校はデザイン科を選び、工業デザイナーとして上京した。バイク乗りとして憧れたのは、映画「大脱走」でスティーブ・マックイーンが演じたヒルツ大尉だ。彼は、あの草原を大ジャンプするシーンに今でもシビれているという、当時の典型的なバイク乗りなのだ。

「憧れのお兄ちゃんの存在とか、マックイーンが大好きという点で、あんたと同じだったというわけだわね。だから気が合ってよく一緒に走っていたんだと思うよ」と、現代の彼は笑って話す。顔をクシャクシャにして笑うその表情は、昔と何も変わっていない。

お互いに上京した後、会わなくなって30年が過ぎた。時々「服部は今何をしているのかなぁ」と思うのだが、そのまま時は過ぎていく。そして、時代も移り変わっていった。

数年前のある日、SNS投稿をなんとなく始めた僕は、フェイスブック上に服部くんの投稿を偶然見つけた。その内容からきっと本人に違いないと思い、直接メッセージで「あの服部くんですか?」と送ってみると、「そう、その服部くんですよ」と返事が帰って来たのだ。さっそく会ってみることを提案すると、OKの返事。彼はもう東京を離れて名古屋に戻っていたので、彼の地元近くのコンビニ前で待ち合わす約束をした。そして、その当日……

「やぁ、やっぱり服部だったなぁ。でも随分会ってないはずなのに、昨日も一緒に居たような気がするぞ」

「そうだね。不思議だけどちっとも懐かしい感じじゃないね」

「しかし、何だか、老けてる容姿に違和感があるなぁ」

「そりゃ、あんたも同じだけど仕方がないね。気持ちが前のままでも、肉体は老いるからねぇ」

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ニコニコと笑いながら良く喋るところは以前とまったく変化ないのだが、聞くと生死を彷徨う大病も経験したらしく、現在は、大好きだった酒はいっさい飲まず、心臓にはペースメーカーが埋め込まれているらしい。それでも彼が元気に乗ってきたバイクは最新トライアンフのボンネビルで、彼流のカスタムが、これでもかと言うくらいに施してあった。

「キックペダルが付いているけど、キックしたらアカンよ。フェイクだからね。他にも色々インチキなカスタムがてんこ盛り。動かないアンメーターとかね。ルックスのクオリティが高ければ、機能しなくても良いというスタイルだからさ」

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元々インダストリアルデザイナーだから、モデルを製作するのは得意技。その集大成が彼のトライアンフだったが、その点も30年前のSR400トライアンフバージョンと変わらぬテイストだったから、本当に笑えた。

会わなかった30年の間にも、スズキのテンプターをベースに1950年代のベロセットそっくりなカスタムバイクを製作したり、カワサキのWや、ハーレーのスポーツスターにも乗っていたことがあるらしい。

「でも、カスタムが一段落すると飽きちゃうんだよね。それに、だんだん体力的に重いバイクが乗れなくなってきてさ。このトライアンフも売る予定なんだ」

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その後、付き合いが復活して数年の間に、彼は5台以上のバイクを乗り換えた。自分の体調と相談しながら、クラシカルなモデルを封印して、現代のツーリングスポーツを選ぶ。しかし昨年、ついにバイクを止めると言い出したのだ。それは彼の体調不良が原因なのだが、憧れのお兄ちゃんをガンで亡くしたことが大きいように思えた。そしてスポーツバイクは手放してしまい、通勤用のスクーターを手に入れたが、「スポーツバイクはもう乗れないと思う」と、寂しそうな目をして言っていた。

「少し元気になれば、また乗りたくなるさ。俺はいつでもまたツーリングに誘うし、待ってるよ」と、彼には告げたが、少し心配だった。しかし、きっとまた時間が解決するのだろうとも思っていた。

以前のように音信不通にはならず、徐々に元気を取り戻した服部くんは、やはりライダーとして帰ってきた。スクーターだけではもちろん満足できないし、体調も以前より良くなってきたということだろう。亡くなったお兄ちゃんへの想いも、自分が元気いることでより強くなったのかもしれない。そして最近手に入れたヤマハのMT07は、やはり彼流のカスタムが施されていたのだった。

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「あはは、やっぱり服部のバイクはこうなっていくのね」

「さすがに現代のスポーツバイクにフェイクのキックアームは付けないけどね」

撮影したのは2ヶ月ほど前だから、その後細かいカスタムは着々と進んでいる。そして4月に数人の仲間を誘って三重県へのツーリング企画を立ち上げると、真っ先に「行きますよー!」と返事が来たのが彼からだった。もう安心だ。

あまりバイクに乗れなかった時には、もう一つの趣味でもある絵画製作に没頭していた服部くん。最近の作品は、ウクライナの復興がテーマとなったものもあって、美術展の教育長賞を獲得したり、僕とバイクを描いてくれたこともある。その穏やかなタッチの作風は、彼の朗らかさが現れているものばかりだが、バイクに乗せると意外なほどアグレッシブでスポーティーな走りをする。

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「絵を描くのも好きだけど、やっぱりバイクは良いね。できるだけ長くバイクには乗っていたいと本当に思うよ」

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昔から降りずにバイク乗りであり続ける仲間数人で、「ローガンズ」というチームを作った。みな60過ぎのレジェンドで、老眼だからローガンズ。ただ今、会員は4名だけで増やす予定も計画も無いが、筆者と服部君は、もちろんその一員である。

ライター プロフィール
森下 光紹(モリヤン)
旅好き野宿好きで日本全国を走り回り、もう足を踏み入れていないエリアがほとんど残っていないと笑う。とにかくバイクで行かないと気が済まないから、モンゴルとカザフスタンの国境まで気の合う友人と行ってしまったこともある。乗って行くバイクはいつの時代もポンコツで、メンテも得意な自称ポンコツ大魔神。本業はカメラマンで、人生行く先々のどんなシーンでも写真に収めるのがライフワークのひとつ。その人生訓は「我が生命は水が如き」という。

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