ライダーインタビュー【モーターサイクル・ザン・パラダイス Vol.7】 磯田 美帆さん・田中 一岳さん

掲載日:2025年02月18日 フォトTOPICS    

取材・写真・文/森下 光紹

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Vol.7 磯田 美帆(いそだ みほ)田中 一岳(たなか かずたけ)

人生には、様々な分岐点や転機があるけど
バイク乗りは、突然スイッチが入ってしまうのかも

今の時代、コンプライアンスの重視とか差別用語の撤廃とか、色々と細かい決まり事が多くなったけど、どんな表現なら普通に使って良いのやら、時々困ることがあるよね。例えば最近のメディアは女優という表現をやめて、男女共に俳優と表記することに統一されたようである。

ニッポン男児とか九州男児とかOK? ……ではヤマトなでしこはどうかな。考えれば考えるほど良く分からなくなる。そんな中、バイク乗りとかバイカー、ライダーっていう表現はきっと差別用語ではないだろうけれども、いわゆる「こんな人たち」という解釈で考えれば、どれもこれも同じ気がする。

僕の知り合いに、生まれつき目が見えない人がいたのだが、彼は「メクラ」と呼ばれることに何も抵抗がなかった。しかし「目が不自由な人」という表現には違和感があると言っていた。彼いわく、「目が見えないのだからメクラだよ。でも、不自由な人なんかじゃないさ。ほら、目明きは停電でもしたら不自由きわまりないだろ。そんな時は君らのほうが不自由さ」と笑うのだ。

僕はバイク乗りで、バイクを取り上げられたらそれこそ不自由きわまりない。電車に乗ったりするとオロオロして間違いばかりしでかす。そう、実はみんなそれぞれの人生を必死に生きているだけだ。そして、ライダーならではの世界がある。それは、「区別」とでも言えば、良いのかなぁ。

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今回は、気持ち良いくらいバイク旅にハマってしまった女性と、その相方を紹介する。バイクに興味を持って、その後の展開がロングランへと繋がって行く。まだ見たことがない場所や世界を探求するアイテムにバイクを選ぶと、もう良い意味で泥沼だ。そして一人ぼっちが二人ぼっちになると、どんどん加速していくことになるらしい。「女性ライダー」という言い方は今や微妙なのかもしれないが、彼女は驚くべき公道スペシャリストな女性ライダーだった。

「ワタシ、バイクの免許を取得してまだ数年なんです。それまでは、とにかく仕事と子育てで一生懸命だったというか。体を動かすのが趣味だからラテンダンスとかは、やっていましたけどね」

磯田 美帆さんは小柄でキュートな女性だ。立ち姿勢が美しいので、なるほどダンスが趣味なのは理解できる。しかし、なぜバイクに興味を持ったのだろうかと聞いてみると、実は昔から乗ってみたかったのだと答えられた。しかし遠い昭和時代はただの憧れでしかなく、女性がバイク乗りという時代は、まだまだ先だったのである。

「シングルマザーで二人の子育てが一段落したことで、いよいよバイクに乗ろうと決心したんです。でも知識も何もないから、最初は苦労しましたね」

初めて手に入れたバイクはカワサキのGPX400。その後知人から譲られたGPZ400Rに乗り換えたのだが、2台共に少々旧車だったがゆえのトラブルに悩まされた。メカの知識も乏しいし経験も浅いことで、なかなか普通にライディングすることができずに困っていると、知人にバイクショップを紹介される。良いバイクショップというのは、機転の効く町医者のような存在だと思うのだが、そこを見極めるのはなかなか大変なこと。美帆さんは、良い出会いで救われたと話す。

「もう旧車は止めようということにして、現在の愛車に乗り換えました。紹介されたバイクショップはモトガレージ・ネストという店で、そこの代表である金坂 学さんは本当に信頼できるメカニックなんです。だからもうその後は、安心して出かけられるようになりました」

以前のバイクは車格も大きくて、美帆さんの体格には少し無理があった。ゆえに、一度走り出したら目的地まではほとんど止まらずに、ただただ走り続けるという乗り方だったという。当時は、「ツーリングって大変だ」という印象が強くて、あまりテリトリーは広げられなかったようである。

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現在の愛車、ニンジャ400に乗り換えてからは、サスペンションのローダウン化やステップ位置の変更、ハンドレバーの変更等を行って、乗りやすいライディングポジションも探求。ユーチューブチャンネルを観て上手な乗り方等も研究すると、バイクに対する意識が変化してきた。

「普通のツーリングが楽になったのと、もっと積極的にライディングそのものを楽しむようになりましたね。ある意味、これはスポーツだと気付きました」

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そんな時期に美帆さんは、今回ご一緒の田中 一岳さんに出会う。とあるSNSからのツーリング企画に参加されたお二人が意気投合して、その後のツーリングライフをほとんど共にすることになっていったのだ。

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田中さんは、いわゆるリターンライダーである。30年以上のブランクを経てライダーとして帰ってきた人。昔はただバイクを飛ばすことだけに情熱を注いだ青年だったが、リターン後は長旅の楽しさに目覚めた。そんなタイミングで出会ったお二人なので、最高の相棒としてバイクが楽しめているのだろう。

「僕はもう一台大型バイクも所有していますが、この250も楽しくてね。バイクは排気量に関係なく、どんな楽しさを見出すかということなのかもしれないです。どちらも好きで乗っていますし、どこにでも行きますよ。お互いに温泉が大好きだから、気に入ると何度も通ったりしてね。目的地までの道を考えるだけでも楽しいし、その行程全部を楽しんでいます」

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取材当日、待ち合わせは千葉県の海岸線ほど近くにあるコンビニ前だったのだが、お二人は東京都内と神奈川県在住。しかし真冬でも快適なツーリングができる場所として、お気に入りの千葉県、富津岬に向かう途中の海岸線が撮影ポイントになった。

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「ワタシたち、お気に入りのポイントがいっぱいあるんですよ。休みの日はほとんどバイクで出かけているので、5年間で12万キロ以上走ってしまいました。でもピカピカでしょワタシのバイク。メンテンスは完璧ですよ」

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バイクのメンテも完璧だが、真冬のツーリングでも快適に走れるように、電熱インナージャケットの装着や、電熱グローブも装備済み。足の冷え防止には、靴下を二重履きにして、その間には小型の使い捨てカイロを装着するなど、冷えへの備えは最強だった。

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東北地方の温泉めぐりも楽しいし、四国や山陰地方を廻ったことも大切な思い出がたくさんあるという。今年は、まだ上陸していない九州ツーリングを計画中で、もちろん北海道へも思いを馳せるお二人だ。

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先導する田中さんは交通の流れをリードしながらも、常にすぐ後ろを走る美帆さんのペースを乱さないように、抑えた走りを徹底している。ジェントルマンだ。美帆さんいわく「本当はぶっ飛ばすのが大好きなやんちゃ坊主なんですけどね」らしいのだが、極めて大人なライディングが見事だった。

撮影も終えてアクアラインから都内方向へと戻る。湾岸道路の分岐で田中さんとは別れて、僕は美帆さんの後ろについた。彼女は交差点で停止している際にこちらを振り向き、「自分の走りをしても良いですか?」と聞くので、「もちろんです」と答えると、そこから一気に走りが変わった。

公道には様々な危険要素が存在するが、ライダーが自分の身を守るには、積極的な自己主張がある意味必要だ。それはただペースを上げるということではなく、自分自身の存在を広くアピールすること。具体的には、他のドライバーの動きを注視しながら、バイクの存在感を分かりやすくしなくてはならない。自分がどう動こうとしているのか。加速や減速のタイミングを周囲に主張しながら走るのだ。

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美帆さんは、美しいライディングフォームを維持している。上半身は常にリラックスな状態をキープして、余分な入力はどこにも感じない。そして、自分の前方には常に安全マージンを確保しながら、バイクらしい軽快な動きで前に出る。しかも広範囲な視野を持って周囲の動きも観察しながら走るので、横断歩道を渡ろうとする歩行者にもすぐさま気付いて減速する。その彼女の動きを見ることで、後ろを走るクルマも安全に減速することができる。そして、そのような急減速時でも車体の安定性を失わない理由は、完璧なリヤブレーキの使い方にあった。もちろん減速に有利なのは強力なフロントブレーキなのだが、リヤブレーキは、そのフロントブレーキの効力を安定させて生み出す上で、重要な役割を果たす。つまり、車体のピッチングを抑えるためのものなのだ。初心者ライダーが低速域や小さなUターンなどで転倒してしまう大きな原因は、このリヤブレーキを上手く使えず、フロントブレーキのみで対応しようとしてピッチングを起こしてしまう失敗にあるのだが、美帆さんはどんな時でも右足はステップから離れず、完全に車体が停止するまで上手くリヤブレーキを使っているのだった。結果、車体は常に安定していて、減速後の一時停止時は、ほぼ100%左足だけを着く。

「凄い!美帆さんは公道スペシャリストだ」と、僕はヘルメットの中でつい言葉に出てしまった。

ほどなくして、モトガレージ・ネストに着いた。田中さんが人生と旅の相棒なら、メカニックの金坂さんはバイクメンテナンスという点で、代わりの居ない相棒である。最近装着したタイヤはミシュランのパワー6なのだが、このチョイスも彼女の走り方を考慮した金坂さんの意見が反映されたもの。

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「美帆さんは、ただ長旅を楽しむだけのツーリングライダーじゃないですから。ワインディングロードでも不満のない性能で、なおかつロングライフというタイヤが必要なんですよ」

多くのライダーにとって、バイクショップの存在は重要である。美帆さんは、その点でも実に完璧なバイクライフを送ることができているということなのだ。

「12万キロも走っていると驚かれることが多いですけど、ワタシ、バイクはこれしか乗らないし、週末のほとんどをバイクと共に過ごしていると、数年で10万キロなんて行ってしまいますよ」

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ニコニコと笑いながら、彼女はそう言った。本物のバイカーなのだ。おっとこれ、差別用語なのかな。いや違う。しかし、乗らない人との区別はある。バイク乗りという世界を心から楽しんでいる人としての区別だ。きっと彼女はこの先も、人生という長いようで短い旅を、素敵な相棒とバイクで楽しみ続けることになるのだろう。

ライター プロフィール
森下 光紹(モリヤン)
旅好き野宿好きで日本全国を走り回り、もう足を踏み入れていないエリアがほとんど残っていないと笑う。とにかくバイクで行かないと気が済まないから、モンゴルとカザフスタンの国境まで気の合う友人と行ってしまったこともある。乗って行くバイクはいつの時代もポンコツで、メンテも得意な自称ポンコツ大魔神。本業はカメラマンで、人生行く先々のどんなシーンでも写真に収めるのがライフワークのひとつ。その人生訓は「我が生命は水が如き」という。

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