掲載日:2026年03月04日 試乗インプレ・レビュー
取材協力/ポラリスジャパン
写真/インディアン モーターサイクル
取材・文/河野 正士
衣装協力/クシタニ、アルパインスターズ

INDIAN Chief Vintage

ブランド創業から120年以上の歴史を持つインディアン・モーターサイクル(以下インディアンMC)。その歩みはそのままアメリカンモーターサイクルの歴史であり、同時にアメリカという国が生み出した工業製品の黄金期を象徴する存在でもある。とくに1940〜50年代、いわゆるミッドセンチュリーと呼ばれる時代において、インディアンMCの大型Vツインモデルは、世界中のライダーの憧れとなった。その中心にあったのが「Chief(チーフ)」の名を冠するシリーズである。
インディアンMCの新型「Chief Vintage(チーフ・ヴィンテージ)」は、まさにその時代の象徴的存在だったChiefの精神を、現代技術とともに再解釈したモデルだ。単なる復刻でも、懐古主義的な装飾車でもない。ブランドの伝統を正面から受け止めながら、現代の安全性、快適性、走行性能を高い次元で融合させた“現代のクラシック”である。
ベースとなるのは、2021年に刷新された現行Chiefシリーズのプラットフォーム。排気量1890cc、挟角49度の空冷OHV Vツイン「サンダーストローク116」エンジンを中心に、スチールパイプフレームを組み合わせた構成は、アメリカンモーターサイクルの王道そのものだ。そのうえで「Chief Vintage」は、前後スカートフェンダーやフローティングシート、専用ハンドルなど、歴史的モチーフを巧みに再構築している。
スカートフェンダーは単なる装飾ではなく、3ピース構造によって美しい曲面と機能性を両立。フロントフェンダー先端には照明付きヘッドドレスを配し、往年のチーフを想起させる象徴的なディテールを現代的に表現する。クラシカルな佇まいのなかに、4インチタッチスクリーンメーターや、エンジンの出力特性が変わるライドモード選択機能など最新装備が自然に溶け込んでいる点も、このモデルの完成度の高さを物語る。
歴史と技術、情緒と合理性。その双方を高いレベルで融合させた新型Chief Vintageは、単なるラインナップ追加モデルではない。ブランドの原点に立ち返りながら、その未来を示す存在なのである。

Chief Vintage最大の特徴は、伝統的スタイリングを徹底的に追求しながら、走行性能や快適性において一切妥協していない点にある。
まず外観で目を引くのが前後スカートフェンダーだ。前後タイヤを深く包み込む造形は、1940年代から50年代に市場に投入されたChiefシリーズが採用した象徴的なデザインを継承したもの。とくにリアフェンダーは、リム幅3.5インチの16インチホイールと150サイズタイヤを組み合わせることで、面積の広いフェンダーでありながら全体をスリムに見せている。ブレーキ系や駆動系を内側に巧みに収める構造設計によって、クラシックな美しさと整然としたメカニズムを両立させた。
エンジンはサンダーストローク116。空冷OHVでありながら、スポーツ/スタンダード/ツアーの3つのライドモードを備えるほか、停車時の油温上昇を抑えるリアシリンダーディアクティベーション機構も搭載。大排気量Vツインらしい鼓動感を残しながら、現代基準の扱いやすさを確保している。オイルクーラーをあえて装着せず、美しいフィン形状を活かした外観を保っている点も象徴的だ。

さらに特徴的なのがライディングポジション。専用設計の幅広ヴィンテージハンドルと、低めに配置されたフローティングシート、そして可倒式ステップボードの組み合わせにより、胸を張るような自然な姿勢を作り出す。往年のチーフが持っていた“堂々とした乗車姿勢”を再現しつつ、現代的な車体とのマッチングを最適化している。
メーターは4インチのタッチスクリーン式。アナログ風表示とデジタル表示をワンプッシュで切り替え可能で、クラシカルな外観と最新インターフェースが矛盾なく共存する。こうしたディテールの積み重ねが、Chief Vintageを単なるレトロモデルではなく、“完成度の高い現代クルーザー”へと昇華させている。

Chief Vintageを走らせてまず感じるのは、想像以上の軽快さだ。1890ccの大排気量Vツイン、そして堂々たる車格から想像する重厚なハンドリングとは異なり、走り出してしまえば車体は驚くほど自然に旋回していく。
その理由のひとつがリアホイールのスリム化だろう。3.5インチ幅リムと150サイズタイヤの組み合わせにより、バンク初期の車体の向き変えが穏やかで、コーナー出口へと自然に車体が向きを変えていく感覚がある。それはフロント19インチ仕様のスポーツ系チーフとも、ワイドタイヤを履く他の前後16インチホイール装着モデルとも異なる、独自の旋回フィーリングだ。
また、専用ヴィンテージハンドルの存在も大きい。やや幅広でわずかに垂れ角のついた形状は、低めのフローティングシートと相まって、上体を起こしたリラックス姿勢を作る。その状態でハンドルを軽く押し引きするだけで、車体は素直にラインを描く。まるで往年のクルーザーに現代の剛性感と精度を与えたかのような感覚だ。

エンジンは低回転域から力強いトルクを発揮し、スロットルをわずかに開けるだけで厚みのある加速を生む。スポーツモードではレスポンスが鋭くなり、巨体を忘れさせるほど活発な走りも可能。一方ツアーモードでは出力特性が穏やかになり、長距離巡航時の疲労を軽減する。鼓動感はしっかり残しながら、不快な振動は巧みに抑え込まれている。

特筆すべきは、クラシックなスタイルと走行性能がまったく矛盾していない点だ。スカートフェンダーを備えた優雅な外観からは想像しにくいが、ワインディングでも十分に楽しめるポテンシャルを持つ。歴史への敬意と現代的パフォーマンスの両立。そのバランス感覚こそがChief Vintage最大の魅力である。そして走行後に感じる、“時代を旅した”ような満足感は、Chief Vintageは単なる移動手段ではなく、アメリカンモーターサイクルの物語を体験させてくれる一台であることを証明している。

熟成を重ねた排気量1890cc挟角49度空冷4ストロークV型2気筒3カムOHVエンジン/サンダーストローク116エンジン。オイルクーラーを持たない美しいエンジンであり、クラシカルな見た目とメカニズムが特徴だが、「リアシリンダーディアクティベーション」システムも搭載するハイテクエンジンでもある。

フロントフォークはインナーチューブ径46mmのテレスコピック式フロントフォークを採用。サスペンションストローク量は132mm。16インチのスポークホイールに径298mmのシングルディスクと4ポットピストンキャリパーをセット。リアヘビーなクルーザーモデルは、リアブレーキを中心にブレーキングすることから、フロントシングルディスクでも制動力は十分。

2本タイプのリアサスペンションは大きく寝ているが、初期の動き良く、75mmストロークながら突き上げ感は少ない。そしてメインフレームからリアホイールアクスルまでを繋ぐ、スタイリング面においても重要なパートを担う。リアのスカートフェンダーは、車体右側には駆動系、左側にはブレーキ系を収め、なおかつ美しくスリムなラインを実現するために、サイドパネルは左右非対称だ。2本出しタイプのサイレンサーはやや上方に配置。

フロントフェンダー先端には、照明付きのヘッドドレスもデザインされている。前後のスカートフェンダーは、コの字型のセンター部分と、その両サイドの3ピース構造。コの字型のセンター部分は、1つの金型で一度のプレスで成型されている。フロントフェンダー左側にはブレーキキャリパーがあるため、キャリパーをカバーするパネルが追加。

可倒式のステップボード。Chief Vintage専用開発のハンドルとフローティングシートと合わせて、リラックスできるライディングポジションを構築している。

4インチのタッチスクリーン仕様のデジタルメーター。この針式表示と速度などが数字で表示されるデジタル表示の、デザインが異なる2種類の表示をワンプッシュで選択可能。3つのライディングモードの選択も、スクリーンをタッチして行うことができる。

1940年代のChiefシリーズに採用されていたサドルシートの形状を参考に、座面やレイアウトを造り込んだフローティングシート。Indianのエンボスロゴが入ったシート表皮の下には、肉薄ながら座り心地がいい厳選したシートフォームをセット。長時間のライディングも快適だった。








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