【ヤマハ YZF-R9 試乗記】突如現れた次男はファミリー随一の暴れん坊

掲載日:2025年12月04日 試乗インプレ・レビュー    

取材・文・写真/小松 男

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YAMAHA YZF-R9

最高峰ロードレースの技術をフィードバックしたハイエンドモデルから、ファンライドを楽しめるエントリーモデルまで、幅広いラインアップを展開してきたYZFシリーズ。そのファミリーに、初の三気筒モデルとなる「YZF-R9」がついに登場。

CP3エンジンを搭載したスーパーバイク
多くの要望に応え、満を持して誕生

ヤマハ党の間で長年ささやかれてきた「CP3エンジンを積んだ本気のスーパースポーツがほしい」という声に、ついにメーカーが真正面から応えた――それがYZF-R9だ。もはやヤマハの看板の一つともなった887cc直列3気筒のCP3エンジンは、トルクの厚みと扱いやすさを両立したユニークな存在で、ストリートからサーキットまで幅広く楽しめる懐の深さが魅力。そのポテンシャルを、YZFシリーズらしい鋭いハンドリングと最新の電子制御パッケージに組み合わせたことで、既存のR7とR1の間を埋めるだけでなく、新たな価値を提示するモデルとして登場した。

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近年、スポーツバイクは「極端なハイパワー」か「扱いやすいミドル」へと二極化する傾向があった。しかしR9はそのどちらにも属さない“ちょうどいいスーパーバイク”として、ライダーの期待をいい意味で裏切る存在だ。日常域での扱いやすさを保ちつつ、ワインディングでは鋭く、サーキットではしっかり走れる。そんな万能感が濃縮されている。多くの声に応えて誕生したという背景も含め、R9はまさに満を持してリリースされた“待望のCP3搭載スーパーバイク”と呼ぶにふさわしいモデルなのだ。

ヤマハ YZF-R9 特徴

MTシリーズが種をまいた畑に
YZFシリーズが花を咲かせる

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2013年にデビューした初代MT-09(国内販売は2014年)は、それまでのミドル〜リッタークラスの常識を揺さぶった。軽く、鋭く、ラフに扱っても破綻しない——そんな新種のアグレッシブさの根底となったのが、新開発された並列3気筒エンジン「CP3エンジン」であり、それは、まさにヤマハが新しく耕した“畑”だった。独特の鼓動感と中回転域の伸び、そしてトルクを自在に操る楽しさは、多くのライダーに強烈な印象を残した。

一方で、開発自体は並行していたものの、やや遅れて市場に投入されたのがCP2エンジンのMT-07だ。こちらは日常域での扱いやすさと素直な応答性が魅力で、MT-09とは別の方向で「こんな気持ちよさがあったのか」と感じさせる名機となった。そこから派生したモデルは数知れず、中でもYZF-R7は良くも悪くもセンセーショナルな存在だった。扱いやすさという利点の一方で、“ピュアレーサーの血統ではないRシリーズ”として議論を巻き起こしたが、その現実的なパッケージングは世界的に大成功を収めた。

そんな流れの中で、昨年登場した最新のMT-09は完成度が一段と上がり、さらにCP3エンジンを使用した派生モデルとして新たに追加された、XSR900GPではネオクラシックの外観でありながら、スパルタンなハンドリングと高剛性フレームを武器に「実は本気のスポーツモデル」という驚きをもたらした。もはやCP3は“ただのストリート向けエンジン”ではなく、ヤマハのスポーツ哲学そのものを体現するコアユニットへと進化していたのだ。

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そして満を持して誕生したのがYZF-R9である。「YZFシリーズにCP3を積んだらどうなるのか?」という10年来の問いへの答えが、ここでようやく提示された。MTシリーズで蒔かれた種が、YZFシリーズの血筋でどんな花を咲かせるのか……、それこそがこのモデルの本質的なテーマだ。トルクフルでフレンドリーな性格を持つCP3が、Rのシャープな車体と電子制御に組み合わさったとき、果たしてどんな走りを生み出すのか。

結論を急ぐにはまだ早いが、少なくとも“ただの派生モデル”ではない。R7・R1の間を埋めるという単純な存在ではなく、新しいRシリーズの価値観そのものを問い直すマシン——それがR9だ。では実際、走らせるとどうなのか? その答えを探るべく、いよいよインプレッションへと踏み込んでいきたい。

ヤマハ YZF-R9 試乗インプレッション

扱いやすくもスパルタン
これぞYZFだと唸らせる仕上がり

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昨年モデルチェンジが行われた現行型MT-09は、その完成度の高さだけでも、本気で触手を伸ばさせるに十分なものであった。そして、新たに追加されたXSR900GPは、外観こそ80年代レーサーを彷彿とさせるクラシカルなスタイルでありながら、中身は玄人をも唸らせる本格的なロードスポーツモデルに仕上げられており、往年のファンをも納得させる懐の深さを持っていた。こうした背景もあり、私は今回登場したYZF-R9に対しても、大きな期待を抱かずにはいられなかった。

実車を遠目に眺めると、R1と見間違うほどの迫力あるスタイリングとサイズ感を持っている。しかしYZFシリーズならではのアイデンティティであるM字ダクトの中央部にプロジェクターランプが備わっており、この点でR9と見分けることができる。車両にまたがり、セパレートハンドルに手を掛けると、ふと気づくことがあった。そう、このライディングポジションは、どこかXSR900GPに似ているのだ。数値的にはXSR900GPの方がややルーズな設定となっているが、ストリートを走る際に感じる前傾のきつさはR9も同じで、自然にライダーを前傾姿勢へ導く感覚があった。

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エンジンを始動し走り出すと、低回転からズンと体に響くようなしっかりとしたトルクが得られる。これはCP3ならではの特徴であり、しかもその力感はフラットに続くため、市街地や高速道路でも扱いやすさとして直結する。

前傾姿勢がやや強めであるため、このクラスのセパレートハンドルモデルに慣れていないライダーは、特に低速走行時にハンドルに力が入りやすく、コントロールしにくさを感じることもあるだろう。しかし、下半身をしっかりホールドし、背筋を使って上体をフリーに保つことを意識すれば、R9は自然と手中に収まる。こうしたライディング姿勢の習得は、スポーツ走行時にも大きな効果を発揮することだろう。

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市街地でクルマの流れに合わせて走らせる中では、確かに扱いやすさを感じることができる。しかし、R9の持つ真の魅力はまだ伝わってこない。そこで、高速道路を経由して郊外のワインディングロードへと向かうことにした。

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高速道路では、クルーズコントロールを使ってリエゾン区間の安楽な走行を楽しむこともできるし、他者に迷惑をかけない範囲で高速域ならではのライディングも味わえる。そのような状況の中で、エンジンの吹け上がりに関して、以前テストしたR1とは明確なキャラクターの違いを感じた。4気筒高回転型のR1は、回転が上昇するにつれて胸のすくようなドラマティックな加速感があるのに対し、R9はどこまでもトルクで攻める印象だ。例えるなら、R1が切れ味鋭い日本刀で、R9は一気に振り下ろす鉄斧のような感覚。好みは分かれるが、その違いははっきりと体感できる。

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郊外のワインディングロードに入ると、R9はまさに水を得た魚のようだ。コーナー前でのブレーキの制動力、フロントフォークの沈み込み、リーン中の安定感、加速時のリアタイヤの路面への食いつき——どれをとっても高水準で、走っていて心の底から楽しくなる。ついつい人目を気にせず、何往復もしてしまうほどだった。

足回りのセッティングについては、当初リアの沈み込みがやや固く感じられたため、プリロードを7ノッチ抜くことでちょうど良く収まった(借用車はおそらくスタンダードセットで、全抜きは13ノッチ)。フロントは回頭性が十分だったため調整せず。もちろん、少し触れるだけでもフィーリングは変化するだろう。バンク時の安心感は非常に高く、多くのライダーが深く寝かせても不安を感じることはないはずだ。

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R9に触れた方の中には、「ストリート重視に振ったスーパーバイク」と表現する人もいる。それも事実だが、R9の真の戦闘力を楽しむなら、やはりクローズドコース、つまりサーキットで走らせるのがベストだ。もちろんフラッグシップにあたるR1も、サーキット専用かと問われれば、ストリートでもその魅力は十分に味わえると私は考えている。そもそもR9とR1は100万円以上の価格差があるため、直接比較するものではない。むしろ、R9のライバルとなるのはスズキのGSX-8Rあたりだろう。機会があれば、両者を乗り比べてみたいところである。

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こうした背景を踏まえると、アンダーリッタークラスのフルカウルスポーツモデル市場は盛り上がりを見せており、その中でYZF-R9は期待通り、非常に完成度の高い仕上がりとなっていた。

ヤマハ YZF-R9 詳細写真

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ボアストローク78.0×62.0mm888ccの並列3気筒CP3エンジンを搭載。最大トルク99Nm、最高出力120PSと高めに設定され、MT-09やXSR900GPと比べて高回転域のレスポンスとサーキット走行向け特性が強化されている。

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320mmのデュアルディスク+Brembo Stylemaキャリパーでブレーキ性能を高次元のレベルで確保。軽量アルミホイールとの組み合わせが、ハイグリップとレスポンスの両立を実現。デフォルトのタイヤはブリヂストン・バトラックス ハイパースポーツS22F。

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フェイスマスクは左右に空力特性を高めるウイングレットを装備。M字ダクト中央にはプロジェクター式ヘッドライトを内蔵し、YZFシリーズの顔つきを形成。LEDポジションランプやスリムなカウル形状で、スタイリッシュかつ高効率なエアフローを実現している。

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ステップ位置はベースごと上下にポジション調整が可能となっている。クイックシフターはアップ/ダウン両対応でスムーズなシフトチェンジを実現。ヒールプレートはコンパクトながら強度があり、しっかり荷重をかけたコントロールを受け止める。

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ハンドルは、やや垂れ角を持たせた設定で前傾姿勢を自然に促し、スポーツライディング時の操作性を高める。左側スイッチボックスでは、ライディングモード切替、トラクションコントロール、ヘッドライト操作、ウインカーなど多機能を直感的に操作可能。

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トップブリッジは肉抜き加工により軽量化されつつ剛性を確保。フロントフォークトップにはプリロードと圧側・伸び側減衰のアジャスターを装備し、ライダーの体重や走行状況に応じてフロントサスペンションのセッティングを微調整することが可能。

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メーターは5インチのフルカラーTFTディスプレイを搭載。速度、回転数、燃費など多彩な情報を4つのテーマで表示可能。スマートフォンアプリのY‑Connectと接続すれば、着信通知や走行ログ、ナビ情報を映し出すこともできる。

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シート高は約830mmで、前後にやや絞ったコンパクト形状により、足つき性を確保している。パッセンジャーシートは標準装備でタンデムも可能ではあるが、コンパクトなので短時間かエマージェンシー用と考えたほうが良いだろう。

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アルミ製両持ちスイングアームに軽量ホイールを装着。タイヤサイズはフロント120/70ZR17、リア180/55ZR17。ブレーキには245mmディスク+シングルキャリパーを採用し、リアの安定性と制動力を両立する。

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テールセクションはスリムなデザインで、LEDブレーキ・ポジションライトを一体化。ウインカーは小型LEDでフロント同様に視認性を確保。ライセンスプレートホルダーは脱着可能で、サーキット走行時などに簡単に取り外せる設計となっている。

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リアサスペンションはリンク式モノショックを採用。プリロード、圧側・伸び側減衰の調整機構を備え、ライダーの体重や走行状況に応じて最適なストローク特性を設定可能。リンク機構により路面追従性と安定感も高められている。

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タンデムシートと、その前方に備わるカバーを外すと、そこそこのスペースが確保されていた。取扱説明書などの書類が収まるサイズで、ETC車載器+α程度の余裕がある。

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