掲載日:2025年10月16日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/野岸“ねぎ”泰之
KAWASAKI Z7 Hybrid
Z7ハイブリッドが初めて公開されたのは、2023年のEICMA(ミラノショー)。一足先に発表されていたニンジャ7ハイブリッドとともに、満を持して国内での発売が開始されたのは2025年の2月のことだ。その注目ポイントはなんといっても、パワーユニットに独自のハイブリッドシステムを採用していることだろう。451ccの水冷並列2気筒エンジンと交流同期モーターを組み合わせた独自のシステムの最高出力は69PS(エンジン58PS+モーター12PS)で、リチウムイオンバッテリーのみの力によるEV走行も可能な、いわゆるストロングハイブリッドとなっている。スクーターを除く量産車でストロングハイブリッドの採用は世界初とのことだ。
外観はZシリーズ共通のSUGOMIデザインを踏襲したシャープなルックスで、ダイヤモンドタイプのフレームにはエンジンと、その後方のシート下にモーターを駆動するための大型リチウムイオンバッテリーを搭載している。そのためもあってか、ホイールベースはクルーザーモデルのバルカンSに迫る1535mmもあり、よくよく見てみればそのフォルムは一般的なネイキッドよりも前後に長い独特のものとなっている。
走行モードは3つで、エンジンとモーターのパワーを最大限発揮する「スポーツハイブリッドモード」(以下:スポーツHVモード)、モーターでスタートしてエンジンが協調して作動し、低燃費を優先した「エコハイブリッドモード」(以下:エコHVモード)、モーターのみで走行する「EVモード」が選択可能。ミッションは6速ATで、クラッチレバーやシフトペダルは装備しておらず、スポーツHVモードでのみ左手のセレクトレバーでマニュアル操作もできるようになっている。
また、追越しの際や発進時に一時的にパワーを増加させて素早い加速を実現する「e-boost機能」や、モーターの力で取り回し時にアシストしてくれるウォークモードを備えるなど、モーターを搭載したハイブリッドマシンならではの機能を備えているのも興味深いところだ。
Z7ハイブリッドを目の前にすると、ホイールベースは長いものの、車格としては600ccクラスでそれほど大きくは感じない。しかしまたがって車両を起こしてみると、車両重量が226kgもあるため、ズシリとした重さを感じる。そこでモーターの力で取り回しをアシストしてくれるウォークモードを試してみた。スロットルを普通にひねると3km/hで前進、逆にひねると2km/hで後進してくれる。力強くていいのだが、意外とスピードが速くぐいっと進むため、シートに座っていてもハンドルを持って取り回すにしても、車体が斜めになるとグラリとくるので注意が必要だ。とはいえ使いこなせば便利な機能であることは間違いなく、前下がりの駐輪場などからまっすぐ引き出す際などには重宝するはずだ。
まずはスポーツHVモードで走り出してみる。このモードはMTのみで、ハンドル左手のシフトセレクターでギアを操作するのだが、シフトアップはスロットルを開けているときのみ、シフトダウンはスロットルを戻しているときのみ受け付けられるので、少々慣れが必要だ。しかしいったん慣れてしまえば、クラッチレバーやシフトペダルもなく、運転に集中できるのでメリットは大きい。重めの車体と長いホイールベースのため、小回りには気を遣うものの、ストリートファイター然とした自然な前傾のライディングポジションと少し幅広なハンドルのおかげで、乗りやすくフレンドリーなものとなっている。
そんなイメージを吹き飛ばすのが、スポーツHVモードでのみ作動する「e-boost」機能を使った時だ。これはハンドル右側のボタンを押すことで5秒間だけモーターの力で出力とトルクを増大させるもの。ボタンを押すと同時に体がガクンと後ろに持っていかれるほど強烈な加速を見せてくれる様は、まさにビーストモードと呼びたくなるほど荒々しい。メーカーでは650ccクラス並みの出力、としているが、体感では900ccクラスにも迫るイメージだ。特に高速道路での追い越し加速時に使うと痛快かつ便利で、楽しくなってついつい多用してしまった。ちなみにこのe-boost機能は発進時にも使うことができ、使い方によってはNinja ZX-10Rを上回る発進加速も可能となっている。
一方、混雑する都心部や一般道のツーリングで便利だと感じたのがエコHVモードだ。発進はモーターのみの力で、音もなくスーッとスタート。スピードが18km/hを超えるとドルルンとエンジンが始動する。このモーターとエンジンの切り替えはとてもスムーズでナチュラルで、乗っていて全く違和感がない。このモードではATとMTを選ぶことができるのだが、ATにするとライダーのクラッチ操作やギアチェンジは不要で、すべてバイクにお任せ。まるでスクーターのような気軽さでスポーツバイクを走らせることができるので、渋滞気味の道路などでの疲れはグッと減ってとにかく楽なのだ。
ツーリング途中のワインディングなどではMTに切り替えることで、好みのタイミングで自在にギアチェンジができ、キビキビとしたスポーツ走行も可能。停止すると自動的に1速に戻してくれるALPF(オートマチック・ローンチ・ポジション・ファインダー)が便利で、もちろんエンスト知らずだ。ちなみに、アイドリングストップ機能も有している。
また、ストロングハイブリッドならではのEVモードでは、モーターの力のみで静かな走行が可能。ツーリングに早朝出発する際や深夜の帰宅時など、騒音を気にせず走れるのは便利。このモードは4速60km/hまでという制約はあるものの、アベレージが遅めの都市部の道路ではEV走行だけでも十分周囲の流れに乗れるぐらいの実力を持っている。ちなみにEV走行の航続距離は約10kmだが、エンジン走行をすれば充電容量は復活するので、それほど気にする必要はない。
先進的なマシンだけにかなり高額なところは仕方がないが、パーキングブレーキがないため坂道での駐車が難しい点や、車体の重さの割に装備するサスペンションがスタンダードレベルな点、ABSは装備しているがトラクションコントロールは未搭載な点など、気になるポイントも少なくない。だが、様々なモードを持つZ7ハイブリッドの近未来感や秘密メカっぽいところは、乗っていてワクワクするし、間違いなく楽しい。ストロングハイブリッドとATの組み合わせという先進のシステムを搭載した新世代のスポーツバイクを、いち早く市販車として実現させたカワサキのチャレンジには、大きな拍手を送りたい。
Zシリーズ共通の「SUGOMI」デザインを踏襲したフロントマスク。エンブレムはニンジャH2にも採用された川崎重工のリバーマークだ。
ハンドル左側のスイッチボックスには、走行モードやAT/MTの切り替えスイッチのほか、シフトセレクターなどが集約されている。
ハンドル右側にあるe-boostボタン。作動は10km/h以上でスロットル開度が20%以上が条件となる。スロットルを開けながらこのボタンを押すには少々慣れが必要だ。
フルカラーTFT液晶のメーターには走行モードやAT/MT表示のほか、燃料計やバッテリー残量、EV走行可能距離など多くの情報が表示される。スマホとの接続機能付きで各種車両情報もチェックが可能。
モーターの力で取り回しをアシストしてくれるウォークモード。前進3km/h、後退2km/hの設定だが思いのほか速く微調整が利きづらいので、使いこなすには慣れが必要だ。
シートはライダーとパッセンジャーで完全にセパレートされたタイプ。座り心地はかための印象だ。
タンデムシートの下にはETC2.0車載器を標準で装備。フロントシートの下にはモーターを駆動するためのリチウムイオンバッテリーを搭載している。
水冷4ストローク並列2気筒451ccエンジンと交流同期モーターを組み合わせたパワーユニットはシステム全体で69psを発生。EV走行のみも可能なストロングハイブリッドを採用している。
エンジン冷却用のメインラジエターのほかに、モーターを冷やすための独立した小型のラジエターを備える。
ミッションはマニュアル機能付きの電子制御オートマチックのため、シフトペダルやクラッチレバーは備えていない。
車体左側にはコの字ピン式のヘルメットホルダーを装備。ステップはフロント、タンデム用ともにラバーのないスポーティなタイプだ。
リアサスはプリロード調整が可能だが、路面からのショックを吸収しきれていないと感じる場面もあった。重めの車体に応じて、もう少しグレードの高いタイプを装着してほしいところだ。
フロントブレーキのディスク径は300mmで、タイヤサイズは120/70ZR17M/C (58W)。銘柄はダンロップのSPORTMAX Q5Aだ。
リアブレーキのディスク径は220mm。タイヤサイズは160/60ZR17M/C (69W)となっている。
灯火類はヘッドライトを含めてすべてLEDを採用。リア周りのデザインはニンジャZX-10Rなどと共通のシャープなイメージのもの。
足つき:
テスターの身長は170cmで足は短め。Z7ハイブリッドのシート高は795mmで、片足なら母指球がしっかりと接地し、両足でもつま先より深く足が着く。シートは高くないが車体が重いので不意のフラつきには注意したい。
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