掲載日:2025年09月24日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/野岸“ねぎ”泰之
KAWASAKI Ninja 7 Hybrid
ニンジャ7ハイブリッドは、Z7ハイブリッドとともにカワサキがリリースしたストロングハイブリッドモデルだ。600ccクラスの車体に水冷パラレルツインの451ccエンジンと交流同期モーターを組み合わせたパワーユニットを搭載し、エンジン単体で58ps、モーター単体で12ps、システム全体のトータルで69psを発生する。特筆すべきはモーターの力のみで走行するEVモードを備えたいわゆる“ストロングハイブリッド”であることで、メーカーではスクーターを除く主なモーターサイクルメーカーの量産車としては世界初だとしている。
走行モードはEVモードのほかに、エンジンとモーターのパワーを最大限に発揮するスポーツハイブリッドモード(※以下スポーツHVモード)と、モーターでスタートしてエンジンが協調して作動するエコハイブリッドモード(※以下エコHVモード)が選択できる。クラッチレバーやシフトペダルは装備しておらず、左ハンドル部にあるシフトセレクターでマニュアル操作が可能な6速オートマチック機構を搭載している。EVモードはATのみで、4速60km/hまでという制約があるが、モーターだけによる駆動なので静かな走行が可能だ。
エコHVモードではスタート時はモーター駆動で、約18km/hを超えるとエンジンが稼働し、MT/ATを選ぶことができる。スポーツHVモードでは常にエンジンが稼働してモーターがそれをアシスト、シフトに関してはMTのみとなる。加えてこのモードでは「eブースト」という機能が使用可能。これはモーターの力で約5秒間だけ全域にわたって出力を増大させるシステムで、650ccクラスに匹敵するパワーを得られるとのこと。eブーストは発進時にも使うことができ、条件によってはニンジャ ZX-10Rを上回る発進加速も実現するという。
車体の取り回しに便利な「ウォークモード」を備えている点もユニークだ。これは停車時に選べるモードで、モーターの力でスロットルを回すと3km/hで前進、スロットルを逆にひねると2km/hで後退できるもの。駆動用モーターを備えたハイブリッド車ならではの装備といえる。
これらの機構はネイキッドモデルのZ7ハイブリッドと共通で、両者の違いはカウルのあるなしとハンドル形状(ニンジャ7ハイブリッドがセパレートハンドル、Z7ハイブリッドがパイプハンドル)ぐらいで、他は基本的にほぼ同じとなっている。
ニンジャ7ハイブリッドの実車を目の前にすると、パッと見は650ccクラスのボリュームなのだが、車体の割にホイールベースが長く感じる。実際スペックを見ると1535mmあって、これはクルーザーモデルのエリミネーターと比べても15mm長い値だ。そしていざ乗ろうと車体を起こしてみると、ずっしりと重量感がある。それもそのはず、車両重量は228kgもあって、これはニンジャ1100SXより8kg軽いだけという、かなり重めの値なのだ。
こんなヘビー級のマシンだが、実際に走り出すとそれほど重さを感じない。まずストロングハイブリッドならではのEVモードでスタートすると、ヒューンというわずかなモーター音のみで出だしからグイっと力強い加速を見せてくれる。4速60km/hまで、航続距離約10kmという制約付きではあるが(バッテリー残量はエンジン走行をすることで充電される)、深夜早朝の住宅街で迷惑にならない静粛性はもちろん、アベレージスピードが低めの都市部の道路などでも十分実用になる動力性能を持っていると感じさせてくれた。
エコHVモードではATとMTが選べるが、オススメなのはATモードだ。発進当初はモーターの力で音もなくスルスルとスタートし、18km/hを超えるとブルルンとエンジンが始動して動力が切り替わる。その切り替えはとても自然でまったく違和感がない。シフトアップのタイミングがやけに早いと感じる場面やシフトショックが大きくギクシャクすることもあったが、加速やトルク感は600ccクラスに匹敵するもので必要十分。なんといっても、スポーツバイクでありながらエンスト知らずのATでイージーライディングが可能なことが、特に混雑する都市部では疲れも少なく運転に集中できて楽だな、というメリットを感じた。
続いて試したスポーツHVモードは、MTのみのため左手でシフトセレクターを操作してギアをチェンジする。この際、シフトアップできるのはスロットルを開いている時のみ、シフトダウンに関しても閉じている時だけ可能、という制約がある。従来のMTマシンだと、シフトアップの際に一瞬スロットルを戻してギアを変えるので、それに慣れているとギアチェンジがうまくいかず、慣れるまでは戸惑った。だが一旦コツを掴めばクラッチレバーとシフトペダルを使うより素早く変速できて合理的だ。停止すると自動的に1速に戻してくれるALPF(オートマチック・ローンチ・ポジション・ファインダー)のおかげで、MTでありながら操作はかなり楽だ。
そんなMTモードでのみ使える興味深い機能が「eブースト」だ。これはハンドル右側のeブーストボタンを押すことで5秒間だけモーターの力で出力とトルクを増大させるもので、走行中のほか発進時にも使用が可能。高速道路を約80km/hで走っている際に追い越しで使ってみたところ、ボタンを押すと同時に体が後ろに持っていかれるほどガン!と加速し、あっという間に100km/hを超えてまだ加速し続けた。5秒は思ったより長いのだ。
この際の加速はリッタークラスのマシンに匹敵するほどだが、エンジンの回転数に合わせてトルクで押し出される通常のバイクの感覚とは全く違う加速感であり、映画「ワイルドスピード」などでおなじみのNOS(ニトロなどとも呼ばれる)のように、スイッチオンでドッカーンと飛び出すという、他にはない豪快さを味わえる。ただこのeブースト、「10km/h以上でスロットル開度20%以上」が作動条件なので、グリップをひねりつつボタンを押すという動作には慣れが必要だ。とはいえ一旦コツを掴めばこれほど楽しい機能はなく、ニンジャ7ハイブリッドの魅力の大きなファクターとなっている。
eブーストを使うと直線番長となるこのマシンだが、コーナーリングは少しクセのあるものだ。住宅街の曲がり角などは長いホイールベースと重さがあるため、想像よりも曲がりにくく少々緊張する。郊外のちょっとしたワインディングを走らせた際にも、高速コーナーでは意識することはないが、連続するコーナーでの切り返しなどではやはり重さとホイールベースの長さを感じずにはいられない。車格からくるイメージではもっとクイックなはずなのに、実際はゆったりとした挙動になりがちなところに当初は戸惑った。しかし一旦扱いに慣れてしまえば、スポーツHVモードなどでは650ccクラスのスポーツツアラー並みのライディングが楽しめる。
車重の割に前後サスペンションがスタンダードなことやスイングアームが角スチールな点、ABSのみでトラクションコントロールは未装備なこと、パーキングブレーキがないため坂道での駐車が難しいなど、改善を望みたいポイントはあるものの、ストロングハイブリッドというシステムとイージーライドを融合させたスポーツバイクを市販車として世に送り出したカワサキの英断と技術力には、賛辞を送りたい。ニンジャ7ハイブリッドは、バイクの未来を一足先に見せてくれる、貴重な1台だ。
灯火類はすべてLEDを採用。フロントエンブレムにはニンジャH2にも採用された川崎重工のリバーマークを掲げ、テクノロジーへの自信を感じさせる。
パワーユニットは水冷4ストローク並列2気筒451cm3エンジンと交流同期モーターを組み合わせたもので、EV走行のみも可能なストロングハイブリッドとなっている。
フルカラーTFT液晶のメーターには走行モードやAT/MT表示のほか、燃料系やバッテリー残量、EV走行可能距離など多くの情報が表示される。スマホとの接続機能付きで各種車両情報もチェック可能だ。
ハンドル左側のスイッチボックスには、走行モードやAT/MTの切り替えスイッチ、シフトセレクターなどが集約されている。
ハンドル右側にはスターター/キルスイッチと、eブーストボタンを装備。スロットルを開けながらこのボタンを押すには少々慣れが必要だ。
停止時にモーターの力で重い車体の取り回しをアシストしてくれるウォークモードは便利な機能だが、微調整が利きづらく思ったよりもグイッと動く。
eブーストを作動させたときはこんな表示となり、気分を盛り上げてくれる。ガツンと来る加速がとにかく楽しくてつい何度も使いたくなる魔の機能だ。
シートはスポーティなセパレートタイプを採用。スポンジはけっこうかための印象だ。
タンデムシートの下には標準装備のETC2.0車載器がある。フロントシート下には電動系ユニットが見えるが素人が触れるところはなさそうだ。
基本的に「マニュアル機能付きオートマチック」なのでシフトペダルもクラッチレバーもない。MTモードでもエンストはしない仕組みだ。
エンジンを冷やす大きなラジエターの右側に見えるのは、モーター冷却のためのラジエター。両者は独立した構造となっている。
タンデムステップはスポーティなタイプを採用。車体左側にはコの字ピン式のヘルメットホルダーを装備している。
リアサスはプリロード調整が可能。重い車体を受け止めるには少々力不足なのか、路面からの突き上げを感じる場面もあった。
フロントブレーキのディスク径は300mm、ニッシン製のデュアルピストンキャリパー装備で制動力は十分だ。タイヤサイズは120/70ZR17M/C (58W)。
リアブレーキのディスク径は220mm。タイヤサイズは160/60ZR17M/C (69W)で、ダンロップのSPORTMAX Q5Aを履く。
リアビューはニンジャZX-10Rなどと共通のイメージで、スリムでシャープなデザインだ。
テスターの身長は170cmで足は短め。ニンジャ7ハイブリッドのシート高は795mmで、片足なら母指球がしっかりと接地。両足でもつま先より深く足が着く。車体が重いので不意のフラつきには注意したい。
愛車を売却して乗換しませんか?
2つの売却方法から選択可能!