掲載日:2025年09月11日 試乗インプレ・レビュー
取材協力/ウイングフット
写真/BSA
取材・文/河野 正士
衣装協力/クシタニ、アルパインスターズ
BSA BANTAM 350 / SCRAMBLER 650
BSAが新たに「バンタム350」と「スクランブラー650」を発表したことで、世界の二輪市場における中間排気量セグメントは、ますます面白くなってきた。この中間排気量セグメントは、インドや東南アジアなど、とてつもない販売台数を記録する新興国市場のボリュームゾーンであり、そこに欧州や北米、日本と言った二輪成熟市場も加わり、いまや世界二輪市場の主戦場だ。ここでのシェア獲得が、今後10年の発展を左右するとあって、世界各国の新旧さまざまなブランドがひしめき合っている。そのなかでも存在感を示しているのが、インド企業だ。ロイヤルエンフィールドを筆頭に、トライアンフやKTMファミリーの390〜400ccモデルを開発および製造するバジャジ・オート、BMWの310シリーズにくわえ、2024年EICMAで発表されたF450GSシリーズを手掛けるTVSモーター、インド市場のみにハーレーダビッドソンのX440シリーズを展開するヒーローがその筆頭だ。彼らは欧州北米ブランドとの協業で技術力を磨き、そのノウハウを活かした自社ブランドの中間排気量モデルも数多く展開している。
BSAも、そのインドを主戦場とするジャイアント企業がバックに付いている。20世紀中期頃にイギリスの、いや世界の二輪市場を席巻したBSAは、日本車の台頭によって1973年に二輪市場から姿を消した。しかし2016年、インド二輪大手マヒンドラ社が起こした子会社/クラシックレジェンズ社によって復活。2021年に「ゴールドスター650」を発表し、二輪市場に復帰した。そして2025年初夏に「バンタム350」と「スクランブラー650」の2台の新型車が加わった。
スクランブラー650
先に発売した「ゴールドスター650」と、今回ラインナップに加わった「スクランブラー650」は、水冷単気筒エンジンを搭載するネオクラシックモデルであり、中国ブランドを含めて日本/欧州ブランドがニューモデルを次々と投入し苛烈を極めるサブ750ccカテゴリーにおいて唯一無二の存在であり、両モデルの背後には煌びやかなヒストリーがある。
バンタム350
また「バンタム350」が参入するサブ500ccカテゴリーは、いまや世界中の二輪市場でシェアを拡大する新しいボリュームゾーンであり、販売台数も多く、シェア獲得による経済的およびマーケティング的価値も大きい。しかもBSAにとって“バンタム"のモデル名は、1948年から1970年代に掛けBSAブランドを代表する普及モデルであり、今なお英国でもっとも売れた英国車として知られている。
BSAは2021年に復帰初となる市販車「ゴールドスター650」を発表したが、そこからの復活劇はとても限定的で、英国を中心にごく僅かな地域でしか販売を行ってこなかった。しかし2025年に入り、その販売地域を広げるとともに、2台のニューモデルを一気に市場投入してきた。BSA曰く、この新型車2台に関しても市場の反応を見て徐々に販売台数を増やし、販売地域を広げていきたい、と話していたが、ブランド復活の道筋は速度を上げているのも事実だ。今後のBSAからの発表にも大いに期待したい。
バンタム350
「バンタム350」は、ロイヤルエンフィールドのクラシック350シリーズや、ホンダGB350シリーズが戦うクラシック路線とは違う、ネオクラシックなスタイルが採用されている。具体的なライバルはロイヤルエンフィールド・ハンター350だと明言していた。
たしかにスタイル的には、クラシックシリーズとは一線を画す、よりモダンなロードスタースタイルが採用されている。しかもライバルであるハンター350が狙うのは初心者や若いユーザーで、街中での移動手段として使うことを意識してディテールを選び、パフォーマンスを造り込み、若々しいカラーリングをチョイスしている。またハンター350は前後17インチホイールを装着している。
対する「バンタム350」も、街中での移動手段としての存在も強く意識している。そもそもBSA にとって“バンタム"というモデル名は、1948年にデビューした、排気量123ccの2ストローク単気筒エンジンを搭載した「D1 バンタム」に由来している。その旧バンタムシリーズは、150ccおよび175ccのバリエーションエンジンをラインナップし、スタンダードなネイキッドモデルはもちろん、スポーツバージョンやスクランブラーバージョンもラインナップ。1971年まで約35万台を販売した人気モデルだった。そして多くの人々をバイクの世界に導き、そこでバイクの楽しさを広めたBSA の基幹モデルだったのだ。「バンタム350」も、旧バンタム・シリーズと同じ任務を課し、開発されている。
しかし「バンタム350」がハンター350と違うのは、少しクラシカルな佇まいだ。エンジンこそ、クラシックレジェンズ社が展開する兄弟ブランドで既に市場投入されている、排気量334cc水冷単気筒DOHCだが、フロント18インチ/リア17インチというホイールサイズをチョイス。カラーリングも、往年のBSAモデルをモチーフにした落ち着いたデザイン。市場では、より幅広いライダーに気に入られるに違いない。
スクランブラー650
「スクランブラー650」は、エンジンやフレームと言ったプラットフォームを、先に発売した「ゴールドスター650」と共有している。エンジンは、排気量652cc水冷単気筒DOHC4バルブ・ツインスパークのドライサンプ。それをスチールパイプ製のダブルクレードルフレームに搭載している。ただし、スクランブラースタイルの採用に合わせて、フロントホイールの19インチ化や前後サスペンションを変更。フロント周りが大きく、そして長くなったことでフレームのフロントパートをアレンジして対応している。
またスクランブラーハンドルの装着にくわえ、シート形状を変更。前後サスペンション変更と合わせて、シート高は「ゴールドスター650」から38mmアップの820mmとなり、車体全体のサイズ感も一回り大きくなっている。
今回の試乗は、英国ロンドンの中心部からスタートし、郊外のカフェまで片道約50kmのコース。そのほとんどが混雑した市街地であり、カフェ到着前のほんのわずかな時間だけ、交通量の少ない開けた道を走った。その往路を「バンタム350」で、復路を「スクランブラ650」で走ることができた。
バンタム350
まずは「バンタム350」。朝の通勤ラッシュ時間だったこともあり、どこもかしこも渋滞していて、また制限速度が20マイル/h(約35km/h)から30マイル/h(約50km/h)と低く、ペースを上げることができなかった。しかし「バンタム350」は、混雑した街中での使いやすさも徹底的に造り込んだと開発陣が言うだけに、そこでも「バンタム350」はじつに使いやすい。
上記の制限速度内なら3速を使っていれば何の不満もないが、あえて4速や5速を使い、2〜3000回転を使って走っても、車体はスルスルと前に出て行く。DOHCエンジンは高回転型のイメージが強く、高いギア+低回転域は乗りにくいのではないかと考えていたが、その領域もしっかり造り込まれていた。
郊外に出てペースを上げると、DOHCエンジンらしい伸びやかさも堪能することができた。5000回転を超えたあたりからビート感が高まり、そこからのエンジンの伸びも良い。この高回転域は、ライバルたちが持ち得ていないキャラクターであり「バンタム350」の個性となるだろう。
スクランブラー650
「スクランブラー650」も、「バンタム350」とはまったく別物だが、DOHCエンジンを搭載していて、ビッグシングルでありながら伸びやかな高回転域を楽しむことができた。それは、大排気量シングルエンジンを搭載したオフロードやモタードマシンとは違う少し大らかな回転上昇とパワー感だが、なんとも気持ちが良い加速を味わうことができた。
それでいて低回転域は非常にスムーズで力強く、さっさとシフトアップして高いギアをキープしたままでもアクセル操作だけで滑らかに加速していく。そして、どのギアを選択しても、どの回転域でも、アクセルを開けると滑らかに加速するのだ。このエンジンは、ふたつのバランサーによって振動をしっかりコントロールしているほか、燃調や点火時期、ギアレシオを吟味して最大トルクの約70%を1800回転ほどで発生するというセッティングの妙も加わっている。どこからでも、スルスルと滑らかに加速する理由は、ここにあったのだ。
BSAの歴史の中には、単気筒モデルはもちろん、2気筒/3気筒エンジン搭載車両も数多くあり、アイコニックなモデルが多数存在する。そのなかで新生BSAはあえて単気筒エンジンを選び、そのフィーリングを造り込んできた。戦略的にはとても面白いし、発表された2台の新型車はとてもキャラが立ったバイクであった。この2台の登場によって、二輪車市場がさらに活気づくことを大いに期待する。
エンジンは排気量334cc水冷単気筒DOHC4バルブ。BSAを運営するクラシックレジェンズ社がインドを中心に展開する兄弟ブランド/JAWA(ヤワ)やYezdi(イェズディ)にも採用されているエンジンで、ケース類などが変更されている。
デジタルメーターディスプレイは中央に速度計を配置。それを囲うようにエンジン回転計をデザインする。ギアポジションや走行距離、時計を表示。装着角度が悪く、若干見えづらかったのが残念。
インドのガブリエル製正立フロントフォークを装備。直径320mmのシングルブレーキディスクにバイブレ製ブレーキキャリパーをセットする。
リアのツインショックは5段階のイニシャル調整機構付き。最弱から2段目というセッティングであった。リアブレーキもバイブレ製。直径240mmのシングルブレーキディスクに組み合わせる。
先に発売されたゴールドスター650と同じ、排気量652cc水冷単気筒DOHC4バルブエンジン。軸配置などの設計はロータックス社から提供を受け、大学との協業によって開発されている。
クロームメッキとイエローに、美しく塗り分けられた燃料タンク。フレームはゴールドスター650と同じダブルクレードルだが、フロント足周りの変更に合わせ、フレームのフロントパートをアレンジ。
フロントフォークはガブリエル製インナーチューブ径41mmの正立タイプ。フロントブレーキは直径320mmのシングルディスクブレーキに、ブレンボ製2ピストンキャリパーをセット。
フロント19インチ/リア17インチの前後ホイールにはピレリ製スコーピオンラリーSTRタイヤをセット。タイヤの特性にくわえて、前後サスペンションセッティングによって、舗装が荒れた市街地での走行でも安定感が高く、乗り心地もよかった。
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