【ヤマハ MT-25 試乗記】新たな地平を切り開いた、パラレルツインネイキッド

掲載日:2020年07月30日 試乗インプレ・レビュー    

取材・文/中村 友彦 写真/伊勢 悟

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YAMAHA MT-25

コンセプトは全モデルに共通でも
MTシリーズの構成と乗り味は各車各様

近年ではヤマハの中軸を支える機種として、世界中で認知されているMT:マスター・オブ・トルクシリーズ。もっともこのシリーズの歴史と構成は、少々ややこしいのだった。まず車名の原点は、XV1700用の空冷Vツインを搭載する2005年型MT-01で、それに次ぐモデルはXT660の水冷単気筒を転用した2006年型MT-03。ただしこの2機種は、プロローグと言うのか様子見と言うのか、以後のシリーズとは関係がない車両で、現行MTシリーズのトップバッターは、2014年から発売が始まったMT-09というのが、ヤマハの認識のようである。

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ちなみに、09を起点とするMTシリーズが、例えばYZF-Rシリーズのように、一貫した構成やキャラクターなのかと言うと、必ずしもそうではない。リスタート第1弾の09と第2弾の07が全面新設計だったのに対して、以後の25/03、10、15は、いずれもYZF-Rシリーズのネイキッド仕様である。そしてアグレッシブな特性だった09とは異なり、07や10は明らかに親しみやすさを重視していた。とはいえ、ライダーとマシンの一体化を目指す、シンクロナイズドパフォーマンスバイクというコンセプトは全車に共通で、MTシリーズの開発陣は各車各様の姿勢で、操る楽しさを追求しているのだ。

ヤマハ MT-25 特徴

専用設計の外装部品や灯火類で
兄弟車とは異なる、独自の地位を確立

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2015年から発売が始まったMT-25/03は、前述したように、YZF-R25/R3のネイキッド仕様で、スチール製ダイヤモンドフレーム+スイングアーム、前後17インチホイール、180度クランクの並列2気筒エンジンなど、基本設計の多くを共有している。でも大幅刷新を受けた2020年型は、派生機種というイメージが大幅に薄れ、独自の地位を確立した気がする。

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その一番の原因は、アイブロウタイプのポジションランプとプロジェクター式超小型LEDヘッドライトを組み合わせたフロントマスクだ。どことなくSFアニメのキャラクターを思わせる造形には、2017年以降のMT-09や、2019年以降のMT-15との関連性を感じるものの、2020年型MT-25/03はそれら以上にトガッている印象で、インパクトは抜群。

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また、“マスフォワード”というコンセプトに従って設計されたガソリンタンクカバー+シュラウドは、グラマラスかつボリューミーで、パッと見ではミドルクラス?と言いたくなる雰囲気。いずれにしてもそういった構成は、ヤマハ内での独自性を築くだけではなく、ライバル勢との差別化を図るという意味でも、有効な手段だろう。

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外観以外の2020年型MT-25/03の新機軸は、φ41mm正立式→φ37mm倒立式に変更されたフロントフォーク、アナログ式回転計を廃して、フル液晶マルチファンクションとなったメーター、第一世代よりアップタイプになったバーハンドルなど。もっともフォークとメーターは、2019年型で第二世代に移行したYZF-R25/R3からの転用だが、ハンドルの高さにはMT-25/03開発陣の主張が表れている。と言うのも、第二世代のYZF-R25/R3のハンドルグリップ位置が、第一世代より22mm低くなったのに対して、第二世代のMT-25/03は逆方向、+44mmという数値を採用しているのだ。第一世代のYZF-R25/R3とMT-25/03の差異が39mmだったことを考えると、第二世代は100mm以上に広がったわけである。この数値からは、YZF-R25/R3はスポーツ指向、MT-25/03はフレンドリーさを高めようという意図が伺えるものの、2020年型MT-25を体験した僕は、ヤマハ製250ccパラレルツインのキャラクターは、ハンドルのグリップ位置だけでは語れない……と感じることとなった。

ヤマハ MT-25 試乗インプレッション

倒立フォークとアップハンドルの採用で
フレンドリーさとスポーツ性に磨きをかける

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親しみやすくて軽快。それが2020年型MT-25に対する、第一印象である。もっとも試乗前の僕は、実はハンドルのアップ&ワイド化と倒立フォークの採用に、ちょっとした抵抗を感じていた。と言うのも、かつてのヤマハが販売したXJR1200/1300シリーズは、市場の要望に従ってハンドルグリップ位置を徐々に上げた結果として、本来の運動性が味わいづらくなった時代があったし、倒立フォークは車両によって、硬さや作動性の悪さを感じることがある。でもMT-25には、そういった気配が微塵もなかったのだ。第一世代と比較すると、まず跨って走り出すのが気楽だし、上半身が起きているから視界が広いし、ワイド&アップタイプのバーハンドルがライダーの入力に素早く反応してくれるから、混雑した市街地をスイスイ走って行ける。おそらく、第一世代のオーナーが試乗したら、速攻で買い替えを考えるだろう。

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続いて走った高速道路も、なかなかの好印象だった。もちろんネイキッドスタイルである以上、巡航は楽々ではないのだけれど、コンパクトなビキニカウルとガソリンタンク左右のシュラウドが、適度に走行風を散らしてくれるようで、法定速度での巡航は至って快適。なおハンドルのアップ化は、前輪分布荷重の減少を招き、場合によっては安定性に不満を感じることがあるのだが、この点についても違和感は皆無だった。

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そんなわけで市街地と高速道路を通して、第二世代のMT-25に好感を抱いた僕ではあるものの、ワインディングロードに向かう道中では、まだ抵抗……と言うより、そこはかとない危惧を抱いていた。前輪分布荷重の減少でフロントまわりの接地感がボヤけるんじゃないか、重量増となる倒立フォークの採用でヒラヒラ感が失われるんじゃないか、親しみやすくなった結果としてMT-25本来の運動性が失われるんじゃないか、という感じで。

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ところが、そういった心配は杞憂に終わった。具体的な話をするなら、前輪分布荷重の減少による接地感のボヤケは、作動性が良好で剛性が高い倒立フォークで補われているようだし、倒立フォーク本体の重さは特に気にならず、路面の凹凸の吸収性やブレーキング時の踏ん張りという意味で、美点ばかりが感じられた。さらに言うなら、上半身が起きて視界が広くなったことで、第一世代より安心かつ、より速いペースで、第二世代のMT-25はスポーツライディングが満喫できるのだ。

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言ってみれば2020年型MT-25は、親しみやすさだけではなく、スポーツ性にも磨きをかけてきたのだが、こうなって来ると分が悪くなりそうなのが、フルカウル+セパハン仕様の兄弟車、YZF-R25である。もちろん、高速道路での防風性や、サーキットのように見通しがいい良路での運動性は、YZF-R25に軍配が上がるのだけれど、常用域ではMT-25のほうが、何かと使い勝手がいいのだから。とはいえ、誤解なきように言っておくと、ルックスがレーシーでも、YZF-R25は通勤・通学やツーリングに余裕で使えるのだ。そう考えると、外観が完全な別物になって、得意なステージに明確な差異が生まれても、やっぱりMT-25とYZF-R25は兄弟車なのである。

ヤマハ MT-25 詳細写真

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独創的なフロントマスクは、海外で販売されているMT-15とよく似ているけれど、アイブロウタイプのポジションランプの上下幅や角度を見直すことで、シャープかつ精悍な雰囲気を構築。超小型LEDヘッドライトはプロジェクター式。

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グリップ位置は、第一世代より44mm上方に移動。ハンドル幅に関するアナウンスはないものの、全幅は745→755mmに増えている。トップブリッジは専用設計。

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アナログ式回転計+液晶モニターだった第一世代とは異なり、第二世代のメーターはフル液晶。上段にはバーグラフ式タコメーター、その下にはギアポジションとスピードを表示。左上にはMTのアイコンが表示される。

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第一世代に対して、ガソリンタンクカバーは51mmワイド化。とはいえ後端はかなり絞り込まれているので、違和感はまったくナシ。インナータンクの容量は、現代の250ccスポーツネイキッドの平均よりやや多い14L。

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ガソリンタンクカバー左右には、兄弟車の手法を踏襲する形でエアダクト……風パーツを装備。なおヤマハがこういったパーツを導入したのは、1985年型V-MAXが最初である。

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YZF-R25/R3と共通のシートはセパレート仕様。メイン部の座面は現代の250ccスポーツネイキッドで最も低い780mmで、荷かけフックの類は存在しない。タンデムシート下の収納スペースはごくわすか。

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ステップ関連パーツもYZF-R25/3と共通で、バーはラバーなしのスポーツタイプ。ただし、肉抜きが施されたヒールプレートは250ccならではの特徴で、YZF-R3とMT-03はソリッドなヒールプレートを採用。

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180度クランクの水冷並列2気筒エンジンは、第一世代用をそのまま踏襲している。クランクケース右側前部のウォーターポンプの位置は、1980年代に大人気を獲得したヤマハ製2ストパラレルツイン、RZやTZRシリーズと同様だ。

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基本設計の大半を共有するMT-03と比較すると、MT-25のエンジンは高回転指向。最高出力:35ps/12000rpm、最大トルク:2.3kgf・m/10000rpmの25に対して、03は42ps/10750rpm、3.0kgf・m/9000rpm。

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フロントフォークはφ37mm倒立式。MT-25の純正タイヤはバイアスのIRC RX-01だが、MT-03は近年の250ccクラスで採用車が増えている、ラジアルのダンロップGPR-300が標準。

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ブレーキは、F:φ298mmディスク+片押し式2ピストン、R:φ220mmディスク+片押し式1ピストン。第一世代ではナシも選択できたABSは、第二世代では標準装備となった。

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左右非対称のスチール製スイングアームやリンク式モノショック、F:2.75×17、R:4.00×17のアルミキャストホイールなどは、第一世代と共通。ドライブチェーンサイズは520。

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