【スズキ ジクサー150 試乗記】125ccとは一線を画する万能車としての資質

掲載日:2020年03月27日 試乗インプレ・レビュー    

取材・文/中村 友彦 写真/井上 演

【スズキ ジクサー150 試乗記】125ccとは一線を画する万能車としての資質の画像

SUZUKI GIXXER 150

日本市場ではメインになり得ないものの
東南アジアでは絶大な人気を誇る150ccクラス

125ccをひとつの区切りとする、日本の免許制度や保険料金を考えると、どうしたってメインにはなり得ない150ccクラス。ただし近年の東南アジア市場では、150ccクラスが定番カテゴリーになっていて、ホンダ/ヤマハ/スズキ/カワサキは多種多様なモデルを現地で生産しているのだが、日本に正規導入される150ccモデルは一部のスクーターのみ。マニュアルミッションのオートバイが欲しい場合は、全国各地のショップが独自に輸入販売した車両を購入するのが、昨今の我が国における150ccクラスの現状だった。

そんな状況に一石を投じたのが、スズキが2017年から発売を開始したジクサーだ。バックボーンタイプのスチールフレームに、ロングストローク指向の空冷150cc単気筒エンジンを搭載するこのモデルは、東南アジア市場では2014年から発売が始まり、生産国のインドでは爆発的なセールスを記録。もっとも冒頭で述べた事情があるため、日本ではインドほどの人気は得ていないけれど、発売から3年が経過した現在、125ccや250ccとは一線を画する、150ccならではの魅力を備えたジクサーは、日本でも着実に支持層を拡大しているようだ。

SUZUKI GIXXER 150 特徴

外装を中心とした大幅刷新を行いながらも
親しみやすいキャラクターと価格を維持

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日本人にとってはまだニューモデルと言いたくなる印象だが、東南アジア市場でのデビューから6年が経過したジクサーは、2020年型で初の大幅刷新を敢行。エンジンと車体の基本構成に変更はないものの、先代が東南アジア市場の趣向を反映した外観だったのに対して、全面新設計の外装を得た新型は、ヨーロッパや日本市場で主力になっている、ミドル以上のスポーツネイキッドに通じる雰囲気を構築。先代のルックスは好き嫌いが分かれそうだったけれど、楕円形の薄型LEDヘッドライト、流麗なデザインのシュラウド/サイドカバー、セパレートタイプのシート、スイングアームマウント式リアフェンダーなどを採用した新型は、多くの日本人が素直にカッコイイと認めるんじゃないだろうか。

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先代と新型の車体寸法に注目してみると、装備重量は135→139kg、ホイールベースは1330→1335mm、シート高は785→795mm、キャスター/トレールは25°45′/105mm→24°50′/100mmに変化している。ABSの追加が主な原因と思える装備重量の増加はさておき、安定性に寄与するホイールベースを延長する一方で、シート高とフロントまわりの数値が軽快感重視になっていることは、何となく不思議な気がするが、おそらくスズキは各部の寸法を微調整することで、先代を上回る素直さと扱いやすさの実現を目指したに違いない。

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なおジクサーと言ったら、先代でも新型でも話題になるのが価格である。近年の日本市場では、125ccクラスでも40万円代が珍しくないというのに、ジクサーは大幅刷新を受けた新型でも先代+約3万円に収まる、35万2000円という価格を実現しているのだ。もちろん、価格の安さがルックスや乗り味の安っぽさに直結するなら、それは誠に残念なことだけれど、実際にジクサーを体感して明確な欠点を述べるのは、なかなかの難事業だと思う。

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SUZUKI GIXXER 150 試乗インプレッション

実用性能と親しみやすさを重視した
ライトウェイトオールラウンダー

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125ccクラスの車体に、250ccに匹敵する……とまでは言えないものの、常用域で必要にして十分なパワーを発揮するエンジンを搭載。端的に表現するなら、ジクサーはそういう乗り味なのだが、それだけではまったく言葉足らずである。と言うのも、近年の150ccクラスのキャラクターは、千差万別なのだ。例えばスズキがGSX-S125と基本設計を共有する兄貴分として、東南アジア市場で販売しているGSX-S150は、スペックや車体構成から推察すると、ジクサーとは別物のようである。おそらく、昔ながらの小排気量車特有のスポーティさが満喫しやすいのは、エンジンが高回転指向で、ジクサーより1サイズ細い前後タイヤを履く、GSX-S150のほうだろう。

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では弟分を想定することなく、150ccとして専用設計されたジクサーがどんな乗り味かと言うと、超軽量な200ccクラス……?という感じだろうか。具体的な話をするなら、マシンに跨った際は極端に小柄や細身という印象は持ちづらいし、前後タイヤが250ccと同等のサイズだからか、驚くようなヒラヒラ感は味わえない。でも実際に走り始めると、装備重量が139kgの車体は、200cc以上のバイクとは一線を画する軽快な反応を示してくれるうえに、低中回転域を重視した特性のエンジンには、200cc以下のバイクでときとして感じる非力な気配がまったくない。つまりジクサーは、実用性と親しみやすさを重視したキャラクターなのである。もっともホンダCB150ベルザやヤマハYBR150Zなど、東南アジア市場で販売される150ccはそういった特性のモデルが少なくないのだが、現地での絶大な人気を考えると、ジクサーの完成度の高さ、バランスのよさは、ライバル勢を凌駕しているのではないだろうか。

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さて、何となく分析的なことを書いてしまったが、新型ジクサーをじっくり体感した僕は、やっぱりこのバイクはムチャクチャ楽しいし、ムチャクチャ使えるなあ、という印象を抱いた。前述した言葉と矛盾するけれど、単体で乗っているぶんには、ジクサーは相当に軽快でスポーティだし、車体が抜群の剛性感と安定感を備えていることに加えて、エンジンがどんな領域でも従順な反応を見せてくれるので、峠道ではなかなかの高揚感が味わえる。もっとも高速道路に足を踏み入れると、さすがに14psのパワーには物足りなさを感じるものの、100km/h巡航はソツなくこなせるし、125ccと比較した場合は、高速道路に乗れること自体が美点なのだから、その点に文句を言うのは野暮というものだろう。なおインターネットで実用燃費を調べると、一般的な走行で45km/L前後、ツーリングなら50km/L以上という意見が多く、この数値は現代の日本で正規販売されている250cc以下のロードスポーツの中では、ダントツに良好である。

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ジクサーの主な購買層を、スズキとしては若者や小柄なライダーと考えているらしい。とはいえ僕自身は、体力の低下を感じるようになったベテランや、久しぶりに2輪に復帰するリターンライダー、あるいは、メインとしてビッグバイクを所有し、セカンドバイクを探している人にも、このバイクは琴線に触れる資質を備えていると感じている。もっとも、単純に軽量&コンパクトで維持費が安いバイクが欲しいなら、125cc以下を選んだほうがいいのだけれど、ジクサーのオーナーになったら、125ccとは一線を画する行動範囲の広がり方や使い勝手のよさに、誰もが大いに感心することになるはずだ。

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SUZUKI GIXXER 150 詳細写真

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尖った印象の先代とは異なり、新型のフロントマスクは丸みを帯びたデザイン。ボディが薄型となったヘッドライトは、バルブをハロゲン→LEDに変更。正立式フロントフォークのインナーチューブ径は、150ccクラスでは太目となる41mm。

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ハンドルはオーソドックスなセミアップタイプ。グリップラバーとスイッチボックスは、1990年代から数多くのスズキ車が採用してきた汎用品だ。クラッチレバーの基部に備わるダストカバーは、現代の日本車では珍しくなりつつある装備。

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液晶デジタルメーターはデザインを刷新。この写真では表示していないけれど、ギアポジションの下にはオイルチェンジインジケーターが備わる。なお2020年から日本での発売が始まるジクサー250は、このメーターの白黒を反転した仕様である。

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新設計のガソリンタンクカバーは、シュラウド/サイドカバーとの統一感を意識したデザイン。小排気量車ならではの美点を強調するため、ニーグリップ部はかなり絞り込まれている。容量は先代と同じ12L。

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先代が前後一体型だったのに対して、新型のシートはセパレート式。クッション材の厚みは前後とも十分に確保されているので、快適な長距離走行が楽しめそうだ。シート下の収納スペースはごくわずかだが、ETCユニットは収納できそう。

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新型はスイングアームマウント式リアフェンダーを導入しているが、先代と同様の一般的なリアフェンダーも装備。テールカウルとLEDテールランプはデザインを刷新。なお先代と同じく、グラブバーのカラーリングは車体色によって異なる。

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今どきのスポーツバイクの基準で考えると、ステップ位置はやや前方。東南アジアのライダー事情を考慮して、ブレーキペダルにはヤケド防止のガードを装備。なおシフトロッドの剛性不足が原因なのか、シフトタッチはあまり良好ではなかった。

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SEP:スズキエコパフォーマンスと命名されたSOHC2バルブ空冷単気筒は、近年になって設計されたエンジンでは珍しいロングストローク型で、ボア×ストロークは58×62.9mm。ちなみに、GSX-S150は62×48.8mm、ジクサー250は76×54.9mm。

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ショートタイプのマフラーに2つの排気口が備わることは先代と同様だが、新型はエンド部のカバーを刷新。パッと見の印象は兄貴分と似ているけれど、150の開口部が丸みを帯びた三角形であるのに対して、250は四角形。

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ブレーキディスク径はF:260/R:220mmで、キャリパーは前後ともインドで生産されるバイブレ。新たに導入されたABSは、フロントのみで作動する1チャンネル式。先代から継承したY字4本スポークホイールはF:2.50×17/R:3.50×17。

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純正タイヤは、バイアスのK275+ラジアルのK510という構成で、サイズは150ccクラスでは太目の100/80-17・140/60R17。ちなみにGSX-S150は90/80-17・130/70-17。ジョイント部にクリップを用いるドライブチェーンは428。

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リアサスはカンチレバー式モノショックで、アジャスターは7段階に調整できるリアのプリロードのみ。スチール製スイングアームの前部には、インナーリアフェンダーが設置されている。

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現代のミドル以下のロードスポーツでは、無くて当然と言う雰囲気になっているけれど、ジクサー150はセンタースタンドを標準装備。なお2012~2017年に販売されたGSR250や、現行車のVストローム250も、センタースタンドは標準装備である。

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