掲載日:2019年08月21日 試乗インプレ・レビュー
取材・文/佐川 健太郎 写真/山家 健一
MOTO GUZZI V7 III Rough
モトグッツィのV7 IIIに新たなバージョン、Rough(ラフ)が加わった。「V7 III Stone」がベースのカスタムモデルで、元々V7シリーズが持つクラシカルな雰囲気の中に都会的なセンスが光るアルミ製パーツをふんだんに使いつつ、前後スポークホイールとブロックタイヤで仕上げるなど、洗練された中にワイルドさも併せ持つ「アーバンカントリースタイル」が特徴だ。最近世界的にも人気が高い“スクランブラー”を彷彿させるデザインもまた、V7シリーズの新たな魅力の一面を見せている。
現行V7シリーズは、2008年に「Breva 750」をベースに1960年代の名車「V7」をイメージしたクラシカルなデザインを施したモデルとしてデビュー。その三代目となるV7Ⅲは2017年にフルモデルチェンジを行った最新版で、空冷縦置きV型2気筒OHV2バルブを採用する伝統的なエンジンはV9用がベースとなり、独特の縦置きVツインの外観もさらに強調されている。
エンジン内部もシリンダーやピストン、ヘッド部分のパーツや潤滑システムも改良され、最高出力も48psから52psへと向上。また、二次エア導入装置や新設計エキゾーストシステムなどにより、出力特性を全域で10%向上させつつユーロ4に対応。駆動系もプライマリーギアの改良やギアレシオ変更などによるパワートレーン最適化に、クラッチも改良され操作力が軽減された。
フレームもスチール製ダブルクレードルタイプを再設計してフロントセクションの強度を向上。ブレンボ製ディスクブレーキ、2チャンネルABSや2段階で介入度をセレクトできるMGTC(モト・グッツィ・トラクション・コントロール)もV7Ⅱから踏襲されている。
そして、今回新たに加わったV7 III Roughは、スタンダードモデルのV7 III Stoneがベースの派生モデルである。「アーバンカントリースタイル」をコンセプトに、クラシカルでシンプルなアルミ製の前後フェンダーやロゴ入りサイドカバー、専用デザインのシートを採用。ブラックアウトされた車体まわりとマット調のカラーリングがシックでモダンな雰囲気を醸し出している。加えて、ブロックタイヤを標準装着したワイヤースポークホイールが、土の香りがするワイルド感を主張。ちなみに今回の試乗車には純正アクセサリーのArrow製ハイエキゾーストが採用され、一層ダート感が高められていることもポイントだ。
「アーバンカントリースタイル」という聞き慣れないコンセプト。都会と田舎という、一見相反するキーワードが並ぶので戸惑うが、ちょっと調べてみるとファッション業界やインテリアなどでも世界的に流行っている今風のスタイルらしい。たしかに、マット系の渋い色合いや無機質なアルミ地のフェンダーなど、飾らないシンプルさの中に都会的なエッセンスが散りばめられている感じがする。そして、スリムな車体から大きくはみ出すように左右に突き出した2本のシリンダーの造形美。既成の枠に簡単にはめることができない、変わり者的な個性がこのマシンの魅力でもある。
ちなみに「Rough」には“荒々しい”などの意味がある。荒れた道をラフロードと呼んだりするが、つまりは未舗装路を走ることも想定したモデルということだろう。ハンドルブレースやスポークホイール、ブロックタイヤなどの装備を見れば、それは一目瞭然だ。
中でも一番気になるのがArrow製のアップマフラーだろう。純正オプションだが、これによってマシン全体の雰囲気がガラッと変わっている。ノーマルはストーンと同じ左右2本出しタイプだが、このマフラーによって俄然“スクランブラー”らしさが増している。好みは分かれると思うが、オフロード好きの人にはYESだろう。
エンジンは伝統の空冷V型2気筒OHV2バルブ。シンプルな基本構造は何十年も変わっていないが、常にアップデートもされてきた。見た目は変わらないが、かつてのV7に比べるとエンジンはスムーズで高回転まで吹け上がり、クラッチ操作も軽くなり、ギアチェンジも滑らかで節度もあるなど格段に乗りやすくなっている。それでいて、路面を蹴飛ばして加速するVツイン独特の弾ける加速感は最新型にも継承されている。
音もいい。これはArrowによるところが大きいが、縦置きVツイン独特のパルス感に加え、よりドライな弾けるサウンドにチューンされている。心なしかエンジンの吹け上がりも軽やかになった気がする。車重も明らかに軽くなり、サイドスタンドを払って車体を起こすだけでそれは感じるし、コーナーの切り返しなどはさらに軽快になった。
V7のハンドリングは独特である。というより、モトグッツィそのものが他のバイクと違うのだが、その一番の理由は縦置きVツインという唯一無二のエンジンレイアウトにある。車体と同じ向きにクランク軸が配置されているため、まずロール方向(左右へ車体を傾ける)の動きが軽い。これはジャイロ効果が関係しているのだが、難しい話は退屈なので割愛させていただく。そして、アクセルを開けると、クランク軸のトルクリアクションによって車体が右に傾ぎ、シャフトドライブの特性によってリヤ側がリフトするクセがある。最近のモデルではだいぶ大人しくなったが、それでも良い意味で伝統的なクセは残っていて、それが味わい深い。
エンジンを剛性メンバーとするスチールフレームはしなやかで乗り味は柔らかく、フォークオフセット値は大きめ、かつフロントホイールは18インチとやや大径なこともありステアリングの応答性は穏やか。一方でタイヤ幅はフロント100、リヤ130と細めなので左右への倒し込みは軽快。加えて、前述の縦置きクランクの特性と軽量マフラーによって軽快感は強調されている。ひと口に言えば、古典的スポーティさを持ったハンドリングだ。
高速道路でも走ってみたが、100km/h巡行も楽々こなせるし、ハイギア&低回転でドコドコ流すのが楽しい。そして、ABSは奥のほうで効くのでハードに減速もできるし、トラクションコントロールのレベルも天候や路面によって3段階に切り替え可能など、現代のマシンらしく電子制御も必要十分なレベルで投入されている。ちなみにライディングポジションだが、シート高770mmと低くサスペンションも柔らかめで足着きは非常に良く、ハンドルもフラットかつ高めでステップ位置も低く前寄りにあるなど、自然でリラックスできるものだった。
また、今回はダートを走っていないが、マシンの装備から推測するにフラットダートなら気持ち良く走れるはずだ。本格的なブロックタイヤに軽い車体、フロント18インチのワイヤースポークの走破性も含め、ちょっとした林道遊びも楽しめると思う。いざというときにすぐに足を着けるシートの低さもまたメリットだ。
排気量やサイズ感も丁度いいレベルなので街乗りから気軽に使えるし、個性的なスタイルは都会のカフェからずっと眺めていても飽きることないだろう。そして、イタリアの老舗ブランドの伝統に裏打ちされた、ハンドメイドを思わせるグレード感もモトグッツィならでは。かなり気になる一台だ。
今回の試乗車にはモトグッツィ純正アクセサリーのV7 Ⅲ用「Arrow 2 in 1 High Exhaust マフラー」(価格19万2000円 税別)を装着していた。Rough以外のV7Ⅲシリーズにも装着可能だ。
最高出力52ps/6200rpmを発揮する伝統の空冷縦置きV型2気筒OHV2バルブ744ccエンジンを搭載。V7ⅢからはV9用がベースになっていることが、シリンダーヘッド形状からも一目瞭然。2in1構造のマフラーの取り回しなどもよく分かる。サイドカバーもアルミ製だ。
ドライブシャフト一体型スイングアームにリンクレスタイプのプリロード調整付きツインショックを装備。とてもシンプルで整備性にも優れる。チェーンと違って汚れず、調整や注油の必要がないところもいい。
トラディショナルな丸目1灯ヘッドライトはウィンカーとともに従来のバルブ球タイプだが、フォークブーツを採用するなどクラシカルなバイクの雰囲気にはマッチしている。
V7Ⅲシリーズ共通のスチール製燃料タンクは容量21リットルと十分なキャパシティを実現。タンクキャップは鍛造アルミ製のキー付きタイプにグレードアップされている。カラーはグラファイトグレーとミメティコグリーンの2色で、ともに落ち着いたマット仕上げを採用。
ノスタルジックな雰囲気のタックロールタイプのダブルシートを採用。専用ステッチが施されたグラブストラップ付きでグレード感が漂う。
無垢のアルミ地が美しい専用設計のフェンダーを前後に採用。クラシカルで上質な雰囲気を醸し出している。ちなみにベースモデルのStoneのフェンダーは樹脂製で前後それぞれ形状も異なっている。
アルミ製パーツを多用した上質感のあるステップまわり。最新モデルでは操作性やフィーリングもだいぶ進化している。
バーハンドルには専用装備のブレースが標準で取り付けられている。オフロードバイクなどによく見られるハンドル強化用パーツで、本来は転倒時にハンドルの変形などを防ぐのが狙い。パッドなどを巻けば、さらにオフロードテイストもアップするはずだ。
フロント足まわりは正立フォークとブレンボ製対向4ピストンキャリパー&シングルディスク、クロススポークホイールの組み合わせ。2チャンネルABSを標準装備。
クラシカルなアナログ式スピードメーターを採用。ブラックパネルとその中心を取り巻くように配置されたカラフルなインジケーターとの対比が美しい。パネル下面には各種情報をデジタル表示するウインドウを設置。
前後タイヤにはピレリのデュアルパーパス用MT60を標準装着。コンパウンドは割と柔らかめでアスファルト路面をしっかり噛んでくれる安心感がある。ダートのグリップも期待できそうだ。
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