ドゥカティ Multistrada 1200 S Touing
ドゥカティ Multistrada 1200 S Touing

ドゥカティ Multistrada 1200 S Touing – デビュー以来トップの座に君臨し続けるムルティストラーダ

掲載日:2013年02月28日 試乗インプレ・レビュー    

写真/山下 剛  取材・文/友野 龍二  取材協力/Ducati Japan

デビュー以来トップの座に君臨し続けるムルティストラーダが
ドゥカティ史上初となる強力なアイテムをまたしても手に入れた

新設計の水冷ユニットを前衛的なフォルムで包み込み、2009年の EICMA ミラノショーでベールを脱いだムルティストラーダは入場者及びオンラインでのアンケートによって「Most Beautiful Bike of the show」を獲得し、「最も美しいバイク」として華やかなデビューを飾った。

その後もアメリカのサイクル・ワールド誌による「10 Best Bikes」の「ベスト・オープン・ストリートバイク」部門で 2010年・2011年と2年連続の栄誉に輝き、2012年にはドイツの Motorrad 誌による「ベスト・モーターサイクル・オブ 2012」の中で「ベスト・オールラウンダー」部門の首位の座に就くなど、微塵も色褪せないデザインと性能は今日でも世界中から高い評価を得ている。

これほどまでに完成されているムルティストラーダが、またもや革新的な技術を投入してエミッションコントロールを前進させ、さらなる高性能化を果たすと同時に、セミアクティブサスペンションの開発にも成功し DSS (ドゥカティ・スカイフック・サスペンション) と名付けられた魔法の脚を手に入れた。

ドゥカティ Multistrada 1200 S Touing 特徴

ドゥカティ Multistrada 1200 S Touing 写真 ドゥカティ Multistrada 1200 S Touing 写真 ドゥカティ Multistrada 1200 S Touing 写真

最先端技術の粋を尽くしたムルティストラーダ
スポーツ性と快適性という相反する要素を高い次元で融合

Multistrada 1200 S Touing 写真2013年モデルの変貌内容を綴る前に、まずは従来モデルの復習から始めよう。

ムルティストラーダ (イタリア語で“多様な道”を示す) が表す通り、ドゥカティの新たなチャレンジとなった新ジャンル (マルチパーパス) の開拓モデルとして 2001年に空冷エンジンを搭載した先代ムルティストラーダが登場し、見事にその地位を築き上げた。そして 2009年に発表された二代目はスーパーバイク系の水冷 1200cc テスタストレッタ・エンジンが搭載された。とは言っても高回転域での充填効率を上げて大きな出力が得られるようバルブオーバーラップアングルを 41°に設定したエヴォルツィオーネ・エンジンではなく、吸気と排気の両バルブが開いている時間が短縮されるよう 11°に変更したことによって、最高出力は抑えられるものの (それでも本国仕様では 150HP) 低速から中速までの実用域がスムーズで扱いやすいテスタストレッタ 11°(イレブンディグリー) エンジンが生み出された。さらにライドバイワイヤ (RdW) が採用されたことにより、アクセルケーブルは直接スロットルボディを操作するのではなく、コントロールユニットに電気信号を送信し、スロットルボディは電子的に操作される。これによって、あらかじめプログラミングされた4種類の走行モードごとにエンジン特性やパワーデリバリーを変化させることが可能となった。

それに合わせてオーリンズと共同開発された DES (ドゥカティ・エレクトロニック・サスペンション) が前後サスペンションのリバウンド (伸び側)・コンプレッション (圧側) の減衰力および、リアのスプリングプリロードまでをもボタン操作ひとつで最適な状態へとセットアップする。DES に連動して8段階のレベルに細分化された DTC (ドゥカティ・トラクション・コントロール) の介入度や ABS (アンチロック・ブレーキ・システム) のオン/オフまで、すべてを自動で設定してくれるのだ。これら最新の電子デバイスを駆使し、「快適な長距離ツーリングができ、スポーツ走行に耐えうるハンドリングを有し、市街地を気楽に走れ、オフロード走行も難なくこなせる。それもワールドスーパーバイク直系のテスタストレッタエンジンで……」そんな夢物語を真剣に考え、「4台のバイクが1台に」という開発コンセプトを見事に具現化させたのである。

これほどの衝撃的デビューからまだ3年足らずしか経過しておらず、今日でも何ら不足も古さも感じられないのだが、2013年モデルではザックスとの共同開発による DSS (ドゥカティ・スカイフック・サスペンション) という魔法の脚を手に入れ、再び我々に大きな衝撃を与えた。

Multistrada 1200 S Touing 写真DSS とはスカイフックダンパー理論に基づき、路面の起伏に関係なく常に車体姿勢を均一に保ち、まるで空から宙吊り (スカイフック) されているかのようなスムーズで快適な乗り心地を求めたセミアクティブサスペンションである。

外観上の変更点では、フロントカウルが新たにフェイスリフトされ、ウィンドプロテクション効果を高めるためスクリーンの幅が (縦 18mm、横 43mm) 拡大された。このスクリーンもまた上下に 60mm のスライド調節が行えるが、従来は左右のダイヤルノブを緩め、スライドさせた後に再びダイヤルノブを締める必要があったが、2013年モデルではピンチ&スライド式のアジャスターとなり、走行中であってもグローブを装着したまま片手で容易に操作できるので、市街地から高速道路そしてまた市街地というように、走行シーンが刻々と変化するようなシチュエーションでは実に便利である。

ヘッドライトの形状はやや切れ長な目つきへと変更された。このヘッドライトは常時点灯のロービームに LED が採用され、6000 ケルビン並みの白さと HID 並みの明るさを誇る。ハイビームは従来どおりハロゲンバルブを使用するが、それまでのハイ/ロー切り替えではなく同時点灯となったため、ハイビーム点灯時の照射範囲が広がり、足元から遠方までを実に明るく照らす。使い勝手を向上させるパーツは他にもあり、カウル内の小物入れは容量が増え、蓋の開閉方法もワンタッチで行えるプッシュ式へと改められた。また、この手のモデルとしては珍しく備わっていなかったハザードランプが市場のニーズに応えて新たに装備されるなど、快適性を向上させる工夫が随所に凝らされている。

Multistrada 1200 S Touing 写真その他でも見えない変更点は多岐にわたり、DSP (ドゥカティ・セーフティ・パック) に含まれる ABS と DTC にも改良が加えられた。ブレーキシステムには次世代 ABS と謳われるボッシュ製 9ME が搭載された。このシステムは制動距離の短縮と車体姿勢の安定化を図るためブレーキ圧力をリア側へも配分するアンチリフトアップ機能を備えており、4つの圧力センサーがフロントブレーキ圧力を分析し、選択された4種類の各走行モードに合わせてリア側へ配分するブレーキ圧力を制御する。8段階のレベルを有する DTC は点火タイミングの変更および燃料の噴射カットを実行してリアホイールの空転を抑止するシステムだが、新しい DTC ソフトウェアによってナチュラルな介入を実現するよう再編されている。

そして注目すべきポイントは、やはりテスタストレッタ 11°DS エンジンである。低速域の扱いやすさに磨きをかけたこのエンジンは排気量や圧縮比に変更はないが、以下に挙げる三点の改良により 105hp/11.9kgm (従来比+3hp/+0.5kgm) の性能アップを果たした。

Multistrada 1200 S Touing 写真一つめは、インジェクターの取付位置変更である。従来は吸気ポートの側面に吹き付けられていたが、噴射角度を高温の吸気バルブ背面方向へ向けたことにより燃料の気化速度を早めた。

二つめは、1気筒あたり2本のプラグを使用する DS (デュアルスパーク) 化だ。燃焼室内で2ヶ所の発火点から効率よく短時間で混合気を燃焼させられることにより、燃焼安定性が向上し、トルク変動の少ないスムーズな特性を得た。

三つめは、少々地味で分かり難いセカンダリーエアシステムである。低回転・低負荷時であってもフレキシブルなトルク特性を得るためには燃料噴射量を増やす必要があるが、ただやみくもに増やしたのでは触媒の浄化能力が追いつかず、エミッションをクリアすることができなくなる。そこで考案されたこのシステムは排気ポートにフレッシュエアを送り込み、排気ガス中に残った未燃焼ガスを再度引火させて完全燃焼させるのである。

以上のようにインジェクター角度・デュアルスパーク化・セカンダリーエアシステムの変更や導入により、更なる燃焼効率アップに成功したため、燃料噴射量を増やしても触媒の反応状態が良好なストイキオメトリ (理論空燃費) を維持することが可能となった。その結果、4%増加したエンジントルクの恩恵により燃料消費量を抑えられ、90km/h 定速走行時の燃費は 10% も向上している。…この記事の続きをバージン・ドゥカティで読む

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SPECIFICATIONS - DUCATI MULTISTRADA 1200 S Touring

ドゥカティ Multistrada 1200 S Touing 写真

価格(消費税込み) = 219万円

世界が「最も美しいバイク」と評したデビューから3年、ドゥカティ・スカイフック・サスペンションの装備やエミッションコントロールの向上など、さらなる高性能化を果たしたムルティストラーダのツーリングパッケージモデル。

■サイズ = 全長2,200×全幅985×全高1,420-1,480mm
■シート高 = 850mm
■車両重量 = 234kg
■エンジン = テスタストレッタ11°DS 水冷4ストローク4バルブL型2気筒
■バルブ駆動 = DOHC デスモドロミック駆動
■総排気量 = 1,198.4cc
■ボア×ストローク = 106×67.9mm
■クラッチ = 湿式多板
■ミッション = 6段リターン
■最高出力 = 77.2kW(105HP)/6,000rpm
■最大トルク = 116.6Nm(11.9kgf・m)/6,000rpm
■駆動方式 = ドライブチェーン
■タイヤサイズ = 120/70ZR17/190/55ZR17

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