

掲載日:2012年04月19日 試乗インプレ・レビュー
取材・文/佐川 健太郎 撮影/渡邉 英夫(MOTOBASIC)
目の前に現れたフルカバードの巨体。薄暗いガレージの隅に横たわるその姿は“黒い悪魔”を連想させる。従来型より彫りが深くエッジの効いたフォルムになり、顔つきも一段と鋭くなった。見ただけでより強力にアップデートされた機体であることを理解させてしまう説得力が ZX-14R にはある。
エンジン始動。排気量 1,441cc が奏でる図太い排気音が響き渡る。跨ってみるとシートは意外と低く足着きは良好だが、ハンドルはやや遠い感じで、腕に余裕を持たせようとすると上体を軽く前傾させた姿勢になる。スーパースポーツとツアラーの中間的なライポジだ。
ギアをローに入れ、クラッチをじんわりリリースすると、アイドリングだけでガレージの坂をぐんぐん登っていく。それだけでもエンジンの力量が分かるというもの。
街を流してみるが、スロットルはほとんど開けなくてもいい感じ。何も意識しなくても、排気量にものを言わせてスルスルと前に出てしまう。まるで大排気量のアメ車のようだ。
大柄で重量感のある車体は、混雑した市街地ではさすがに本来の機動力を発揮できないが、そこは余裕でどっしり構えたいところ。こちらにはその気はないのに、信号待ちで横に並んだバイクが前に出ようとしないのには笑える。皆知っているのだ。ZX-14R が世界最速マシンであることを。
高速道路は ZX-14R の独壇場だ。加速しながら本線に合流していくが、いつもと流れる景色が違う。スーパースポーツの軽さを生かした鋭い瞬発力とは異なる、エネルギーの塊のような重厚な加速感! 「ちょっと待てよ…」と速度計に目をやると、ああ打ち止め。1速でちょっと引っ張るだけで、法定速度を遥かに上回る速度に達してしまうため、とにかく自制心が必要だ。ただ、その加速感も決して暴力的なものではなく、どちらかといえば穏やかと表現できるほどよく調教されている。新型モデルからパワーモードが装備され、「ローパワー」では 75% にパワーを押さえられているため、それはさらに顕著になるのだが、「フルパワー」でも従来型以上に力強くかつ扱いやすい出力特性になっている。いつもながら、技術の進歩というのは素晴らしいと思う。
あり余るパワーは実用面では快適性に大いに貢献する。高速巡航がとにかく楽で疲れないのだ。テストでも都心からワインディングまで 100km ほどの距離を移動したが、飛ばしているわけでもないのに、いつもより時間が短く感じる。安定した車体としなやかなサスペンション、回さなくても速いエンジン、優れたエアプロテクションなどのお陰だろう。しかしながら、本当の意味での空力特性は完全に最高速狙いで、低いスクリーンに潜り込むように、上体を伏せたときに風切り音は静まり返り、上空をきれいにエアフローしていく感じ。逆に上体を起こしたツーリングポジションだと適度に風を感じる。このあたりの設計思想からも、ZX-14R は真の最速マシンであることがうかがえる。
ハンドリングは正しくメガスポーツのもの。軽快感の中にもしっとりとした落ち着きがあり、コーナーの倒し込みでも車体の反応が鋭すぎないので安心できる。軽量級スポーツモデルのようにヒラヒラと切り返すことはできないが、重量のある分、どっしりとした接地感を伴った手応えのあるコーナリングを楽しめるはずだ。従来型の ZZR1400 は、ピッチングによる姿勢変化を生かしたスーパースポーツ的なハンドリングが魅力で、新型にもその血筋は受け継がれているが、より安定志向が強くなったような気はする。スペックデータ的にもホイールベースが 10mm 伸び、重量が増えていることからも、スケールアップした排気量とパワーに見合った、余裕のある車体が与えられたと考えていいだろう。
特筆すべきはトラクションコントロール 『KTRC』 だ。実際に試してみたが、最も介入度の高い「レベル3」に設定すると、マンホールや水たまりでちょっと後輪が空転しただけですぐにパワーカットされてグリップを取り戻してくれるし、コーナー立ち上がりで不用意にスロットルを開けすぎたときなど、点火を間引いたような感じでリアスライドをコントロールしてくれる。個人的に最も自然に感じたのは「レベル1」。たとえば加速中、あり余るパワーにフロントが浮き気味になったときでも、KTRCが適度にパワーをコントロールして唐突なフロントアップを防いでくれる。しかも、トラクションコントロールが作動していることをメーター内のバーグラフがリアルタイムで教えてくれるのだ。KTRC に加えて ABS も装備されているので安心だし、これら最新デバイスによって、精神的なバックアップが得られることが大きいと思う。200馬力オーバーのマシンを安全に乗りこなすためには、もはや必要不可欠な装備だろう。
ZX-14R のスペックを本気で試せる場所など日本の公道には存在しない。否、世界を探しても無いかもしれない。でも、それでいいではないか。この地上で最も速いバイク、『量産市販車世界最速』 という称号。それだけで所有するに値すると思うのだ。
愛車を売却して乗換しませんか?
2つの売却方法から選択可能!