『T-REV』は、クランクケースを積極的に負圧にしてピストン下降時のポンピングロスを減らし、かつケース内の空気密度を低くすることで、ケース内の空気の攪拌抵抗を低減させるシステムだ。最新エンジンではケース内の負圧化が常識で、STDでもケース内抵抗は減っている。実はこうした最新並列4気筒にも効くのかという疑問があったのだが、『T-REVα』を装着したZX-14Rの走りは、加減速もシフトアップ&ダウンもすべてがスムーズだった。
「どの車両に装着しても明らかにスムーズになりますね。T-REVはスポーツ志向の強い方に支持されてきたんですが、最近はツーリング派の方が増えてきて、ウチだと半々ぐらいになりました。スムーズで乗りやすくて、疲れが少ないというのが要因でしょうね。また、排気量も問いませんね。ニンジャ250でもZX-14Rでもスムーズさが出ますから」
と語るのは、今回取り付け作業でお世話になったカワサキアトミックの伊藤武司社長だ。
ZX-14RはSTDでも低中速域がスムーズで、街乗りにもツーリングにも使いやすいバイクだ(高回転域は強烈なパワー炸裂だが)。それがT-REVαの装着でさらにシルキーになる。減圧作用でまず感じるのはエンジンブレーキの効きが程良くスムーズになること。3速から2速、2速から1速など、低いギアでのシフトダウンが安心してできる(リアのホッピングもない)。これは見知らぬ峠道やブラインドコーナーで余裕を生む。また、加速側も低回転域から回転上昇が滑らかで、スロットルが軽く感じられる。
エンジンブレーキに関しては、2ストロークエンジンみたいな“効かな過ぎ”感がない。これはT-REV開発・製作者の寺本幸司さん(2014全日本JSB1000にBMW HP4で参戦中のトッププライベーター)が、車種ごとに減圧させる加減を、念入りに実走テストを重ねながら設定しているからだ。だからT-REVαを装着した今回のZX-14Rは、STDを知らなければ“新型”と思ってしまうだろう。それぐらい自然で違和感がない。
今回の試乗では、クランクケース内圧の計測も行った。ZX-14Rのエンジンはさすがで、T-REVαなしでほぼ0kPa(大気圧)。このエンジンなら上がっても+0.5kPaだという。一方T-REVαを装着すると、-9.0kPaまで下がった。今回の試乗コースはあまり回転を上げられなかったのに、だ。本来なら-10kPa前後まで減圧するという。
「公道仕様はだいたい-10kPa前後の設定なんです。レース仕様だと-15~-20kPaまで減圧します。MotoGPマシンの中には-50kPa まで下げるバイクもあるといいますが、一般的に-30kPa以下になると油圧低下、オイルの泡立ち、オイルシール破損などの問題が出るとされています。宇宙の真空状態が-101kPa ですから、相当な減圧と言えます。-10kPaなら、潤滑やオイルシールの問題はまったく起きません」
と、開発者の寺本さん。普通の走り方で充分効果があることが数値でも実証されたわけだ。
しかしT-REVαは装着が面倒なのでは? という先入観があった。クランクケースから出るブローバイガスパイプの途中に装着するT-REVならば簡単だが、AI(ニ次エア)の排気負圧を利用するT-REVαは配管が難しそうに思えた。しかしよく考えれば、クランクケースとAIの配管に多少のバイパスを作って繋ぎ直すだけ。スペースはたしかに狭いが…。
「今回ZX-14Rには初めて取り付けましたが、そんなに手間はかかりませんね。カウル脱着も含めて1時間半ぐらいでしょうか。コツをつかんで慣れれば1時間ぐらいかなあ」
と、伊藤さん。KITは親切な設計なので間違いも起こりにくい。ユーザーだとカウル脱着自体が手間になるが、これさえ慣れていれば問題ないレベルだ。ZRX1200 DAEGなどのネイキッドモデルなら、T-REVαでもタンクを外すだけで簡単(手が入りやすい)。また、DAEG用は装着後にその姿が見えるので、ドレスアップ効果も抜群だ(フィッティング類も非常にキレイ)。
T-REV/T-REVαは、排ガスのCO2もHCもSTDと同等で問題なく車検OK。またエアクリーナーボックスが減圧しないので、ラムエア装備でも問題が出ない。メンテナンスは本体内部の洗浄(パーツクリーナーでできる)ぐらいで十分。走行距離や使い方にもよるが、半年~1年ぐらいで行えばベストで、最低でも車検毎に整備しておけばよいとのこと。
補修パーツは本体用Oリングやリードバルブなどが用意されている。今回は最新並列4気筒でも想像以上の効果と、そう難しくない装着作業(フルカウルのZX-14Rは最も面倒な部類だろう)が確認できた。これはスポーツ走行だけでなく、ツーリングにも街乗りにも、車種排気量問わず大いにアリだ。「ちょっとエンブレが強過ぎる」「もっとスムーズなエンジン特性にしたい」「シフトフィーリングを軽くしたい」「ツーリングでの疲れを軽減したい」と思うなら最適だ。環境にも身体にも愛車にも優しい、現代社会に合ったチューニングパーツだ。
T-REVαは、簡単に言ってしまえばクランクケース・ブローバイガスホース、エアクリーナー、AI(セカンダリーエアインジェクション=二次空気導入装置。以下AI)の3個所に繋がる配管の間に装着する。本体はクランクケース背面から出たブローバイガスホースの中間に配置。本体には3つの口があって、1つ目はブローバイガス(クランクケース)に、2つ目はエアクリーナー(フレッシュエア)に、3つ目はシリンダーヘッドカバーにあるAIキャップ(排気ポートに二次エアを導入する口)に繋げる。STDのソレノイドバルブ(AIをON/OFFする)はそのまま利用。T-REVαはAIの排気負圧を利用していて配管が増えるが、接続自体は難しくないのだ。