80年代スポーツを当時のイメージで復刻する“オールドスタイルコンセプト”とは?
取材協力/スーパーバイク83  取材・撮影・文/モリヤン  構成/バイクブロス・マガジンズ編集部
掲載日/2014年1月22日
80年代のバイクにカスタムやレストアなど手を加えると、どうしても違和感が出てしまう。それは塗装や溶接、メッキなど、現代の技術は仕上がりが美しく、車体の年式相応にならないからだ。“オールドスタイルコンセプト”を提唱する『スーパーバイク83』では、当時の雰囲気を現代の技術で再現している。それはまるで、AMAスーパーバイクが熱かったあの時代にタイムスリップしたかのような仕上がりだ。

INTERVIEW

当時のテイストを色濃く復刻させ
数々のマフラーを制作するプロショップ

代表の田代光輝さんは、元レーシングライダーという肩書きを持つ。活躍したのは主に1990年代であり、1995~2003年まで、計6回鈴鹿8時間耐久ロードレースに参加している。その後もアメリカのデイトナに遠征。改造無制限のアンリミテッドクラスやスチールフレームのクラスにも参戦した実績がある人である。

 

「幼稚園児の頃の夢がレーサーだったので、まっしぐらに突き進んでしまいましたね。僕らの年代は、いわゆる“バリ伝”世代ですよ。だから僕も主人公のグンが乗っていたのと同じCBを買って、レプリカにして学ランで乗っていました。その後、グンが本格的にレースを始めると、僕もホンダのNSR250に乗り換えて初レース。完全に、本気になっちゃいました」

 

なんという真っ直ぐな青春時代なんだろう。その後はバイトで貯金したお金を全てつぎ込み、レース専用のヤマハTZ250を購入。選手権レースに参戦してポイントを獲得し、国際A級ライセンスも取得する。そしてスーパーバイク選手権に参戦。8耐ライダーにもなった。

 

現在、ショップの屋号にもなっている『スーパーバイク83』は、当時の田代さんがスーパーバイクで参戦していたゼッケンそのものである。それと同時に、アメリカのAMAライダー、スティーブ・マクラフリンの固定ゼッケンもまた“83”であったことにもちなんだものだ。

 

「マクラフリンは様々なバイクで参戦したライダーですが、有名なウエス・クーリーと共にUSヨシムラのライダーだったこともあるんです。日本だと少し影に隠れた存在のような人物ですが、AMAの第一人者でもありました。僕は彼が乗っていたカワサキZ1やスズキのGSが大好きなんです。僕のゼッケンが83だったのはまったくの偶然。おもしろいものですよね」

 

田代さんがマフラー製作を始めたのは1999年である。もともと手先が器用なうえに、工業高校を卒業していたので、加工に必要な基礎知識は最初から備わっていた。そして、ほぼ独学でマフラー製作のノウハウも覚え、半年後には工房をオープンする。やるからには本格的に取り組み、冬にオープンした工房は3月には広告も打ち、その後は数々のサイレンサーやマフラーを手掛けるようになった。

 

「当時からのキャッチコピーは“あなたの思いをカタチにします”。というものでした。ライダーは皆、憧れる世界があります。とくにプロダクションレースが盛況だった80年代に憧れるライダーは多くて、僕もその1人です。だからその当時の雰囲気をしっかり表現できることが重要だと思ったんです。それは形だけではなく、仕上がりもね。今の製品に比べるとずっと荒削り。そこが表現できないと、ダメなんですよ」

 

現在の製品にも繋がるコンセプト。それは田代さん独自のこだわりが生み出したものだった。姿だけ真似ても、その“匂い”まで表現できなくては自分もユーザーも満足できない。田代さん自身スーパーバイクに参戦していたライダーだったからなおさら妥協できないことなのかもしれない。

 

今回、ここに紹介するスズキGS1000は、そんな田代さんが細かいノウハウとこだわりを注ぎ込んだモディファイがなされている車両だ。ベースは1979年の初期型。初期だけに存在する、レリーフが入ったガソリンタンクやテールカウルが特徴で、AMAスーパーバイクのライダーだったスティーブ・マクラフリンが駆ったヨシムラ製レーサーをかなり意識した仕上がりとなっている。

 

青春時代はレースに明け暮れていた“バリ伝”世代の田代さん。自身で製作したこのGS1000で、ツーリングの楽しさを初めて知ったと笑顔で話す。

「ウエス・クーリーは、最初の8耐で優勝したヨシムラのライダーだから日本人には有名ですが、その前のマクラフリンレプリカをやる人はいない。でもアメリカでは有名なライダーだし、僕のゼッケンと同じだから、なんだか強く意識しちゃってね。そんなわけで仕上げた1台です」

 

マフラーは当時のイメージにこだわったスチール製のオリジナル。また、フルエキゾーストの『SUPER BIKE 200Mile』という商品名は、もちろんあのデイトナ200マイルレースをモチーフとしたもの。ホイールはフロントが19インチでリアは18インチ。現代的なホイールサイズにならないようスポークで組み、ホワイトレターの入った細身のバイアスタイヤを装着している。当時のGSは、エンジンやミッションがオーバークオリティと思えるほどの頑丈さで、バイクとしての完成度は極めて高いと言う。田代さんは、今後も同世代のGSをアメリカから輸入して販売する計画を立てているようだった。

PICKUP PRODUCTS

初期型GS1000ベースのカスタムと
こだわりのオリジナル製品

フルエキゾーストの200Mileシリーズ。特にスチール製のマフラーは、音が独特である。それはエキパイの直径や厚み、集合する位置などでしっかりと当時のテイストを表現しているからであり、そこに現代のノウハウを持ち込むと、違う音色になってしまうという。仕上がりについても同様で、メッキや塗装の質感にも徹底的にこだわる。磨き過ぎてツルツルになってしまうと、当時の雰囲気は出ないのだ。それは、塗装屋にとってはかえって難しい表現になるらしい。磨き工程がほとんどないまま、美しくフィニッシュさせなければならないからだ。メッキもまた同様だ。

 

ヤマハを除く国産3メーカーでは最後発のビッグマルチであるスズキGS1000は、繊細な外観と軽快なハンドリングが信条の優れたスポーツバイクだった。AMAでも活躍し、その後、鈴鹿8耐を制すのだ。

1978年と1979年の初期型だけの特徴であるレリーフ入りのガソリンタンク。

テールカウルもまたガソリンタンク同様のレリーフが入る。ウインカーは直径80mmもある大型が標準装備で、あえて小型化はしない。

ブレーキキャリパーにはAPレーシング。かつてはロッキードと呼ばれたブレーキメーカーで、装着率は高かった。

リアサスペンションにはイタリア製のムッポを使用する。ブラックベースのシンプルなサスペンションが雰囲気を壊さない。

なんとも座り心地が良さそうなダブルシートは標準装備。表皮の張り替えのみで、他はオリジナルの状態だ。

エンジンは頑丈な空冷2バルブツインカム。ミッションも頑丈で、後期モデルでは変更されていくことになった。

モナカマフラーもワンオフで製作している。サイズも様々なチョイスが可能とのこと。

当時の復刻サイレンサーも様々なラインナップが揃う。国産4メーカーの個性的なレーサーを制作することができる。

10メッキの質感も徹底的にこだわり、当時の仕上がりを表現する。荒削りな印象を現代の技術で作るのは、難しいワザである。

11塗装にも当時の雰囲気を表現する方法がある。そのサンプルとして、実際に比較できるガソリンタンクを用意している。

12ピカピカに仕上げられた現代的なフィニッシュ。じつに美しく、非の打ちどころがない。ところが、それが問題なのである。

1380年代の塗装はこのような表情が特徴だ。これを表すには磨きの工程をほとんど省いたフィニッシュワークが必要なのだ。

14これは1980年にウエス・クーリーが乗った、GSの8耐レーサーを制作するためのカウルセット。

BRAND INFORMATION

スーパーバイク83

住所/〒812-089 福岡県福岡市博多区東光寺町2-8-11
営業時間/10:00-20:00(平日)、
不定休(レース日、イベント開催日休業)

【お問い合わせ】

電話/092-477-9483
モバイル/080-4288-0083(ソフトバンク)
スカイプ/skype-sb0083(スカイプID)
E-mail/メールでのお問い合わせ
FAX/092-477-9484

福岡市の博多駅から南へ約2km、筑紫通りを南下すればすぐにファクトリーに到着する。ショップと言うよりは完全な工房であり、作業はすべてここで行われている。メイン商品はマフラーやサイレンサーだが、トータルモディファイのサポートも行う。とくに1970~80年代の車両を得意とする。懐の深いショップである。