取材協力/KTMジャパン  Photo/Gold and Goose/Bergamaschi O./編集部  Report/編集部
記事提供/ロードライダー編集部
掲載日/2013年07月05日

KTMモーターサイクルAGがそのお膝元、オーストリア・ザルツブルグで開いた 390 DUKE の試乗会では、集まった世界40カ国のメディアに本社工場など施設取材も許された。早速、“READY TO RACE” を謳う同社の全貌を紹介しよう。

KTMのオレンジにはバイク愛と情熱が詰まっている!

主要部品を自社生産するのも、品質へのこだわり

まず訪れた本社工場は、125/200/390 の、いわゆるスモール DUKE シリーズ以外の、全モデルを生産する。390 を含むスモール DUKE はインド・バジャジ社で組み上げられ、その後、車体はほぼ全量が KTM 本社に送られて完成検査の後、全世界に出荷される。“ほぼ” と書いたのは、日本仕向けが例外だからで、現在はインドから九州・福岡のデポに運ばれ完成検査を受けて、国内各地に送り出される。その理由は「日本のユーザーの品質要求は、インドはもとより欧米よりも高く厳しいから」と、KTM ジャパン・野口英康社長。

 

さて、本題の KTM 本社工場は、主要部品の大半を自社生産するのが特徴。多くのアルミ削り出しパーツも自社生産するほど(鋳造パーツは社外発注)だ。例えば、DUKE シリーズの完成車では、ホイールはマルケジーニ、ブレーキはブレンボ(あるいはバイブレ)、サスペンションやラジエーターはグループ企業の WP 社製とするなど、他社からの供給も受けはするが、同社ほど内製率の高いバイクメーカーは希とか。

 

第2の特徴はクォリティ優先の思想。作業は目標生産台数に向かい進むのではなく、1台1台の品質を重視し、多くのスタッフの手を介し丁寧に組み上げる。いわばハンドメイドに似た感覚。そんな本社工場の生産ラインは現在、2ライン。日産上限が 380 台というのも頷ける。

 

日本のライダーを、そして世界中のファンを魅了する KTM のバイク群は、こうした堅実さとスタッフの愛情で支えられていた。

完成へと向かうライン。生産ラインは2本だ。この日は1190アドベンチャーが流れていた。インドで生産されるスモールDUKE(125/200/390 DUKE。690 DUKE/990 DUKE Rは含まない)以外の全モデルを生み出す、本社工場の1日の生産上限は380台ほど。写真にないが、先のスモールDUKEも日本仕向け以外がこの本社工場に送り込まれて完成車検査を受ける。これも、手間を惜しまないクォリティ重視の証だ。

 

組み立て時間よりその質が何より大事!

エンジン組み立て風景。日本の2輪&4輪関連工場で見られる、いわゆるカンバン方式(○×秒内に作業を終えるスピード感に主眼を置く)と違って、KTMが掲げる優先事項は何よりクォリティという。そのテーマ通り、工場全体の雰囲気にも目標ノルマをこなすガツガツ感は皆無で、自らに課せられた仕事を淡々とこなす、スタッフたちの様子は職人を思わせる。左写真は組み上げたエンジンの完成検査工程。

組み付けを待つパーツの多くは自社製?!

1991年以降、KTM AG(クロス・インダストリーズAGという企業を筆頭株主とするグループ会社)傘下の、バイクメーカーとして再スタートしたのが現在のKTMだ。2012年は全体売り上げの半数がモトクロッサーを含むオフロードバイクで、DUKEシリーズを含むストリートバイクが約3割、残り約2割が用品や補修部品で構成されている。写真はライン横に整然と並んだ、組み付けを待つパーツ群。その多くは社内生産されたパーツだ。

KTMの歴史はモータースポーツとともに!

栄光と未来が同居する
ファクトリーレーシング

今でこそ、キャッチフレーズを 『READY to RACE』 とするなど、モータースポーツ色の濃さをアピールする KTM だが、そのモータースポーツとの結びつきは長い。

 

1953年創業の2年後となる1955年からロードレースに、1964年からは ISDE に参戦。1984年の WMX 250cc クラスではハインツ・キニガードナーのライドでシリーズチャンピオンを獲得…と、レース活動は活発だった。1991年以降の新体制化後もダカール・ラリーで2001年~2013年の間、12回連続優勝(2008年は大会中止)を筆頭に、ロードレースでも2004年の WGP 第14戦・セパンGPの GP125 クラスで初優勝(ライダーはケイシー・ストーナーだった)、昨季はライダーにサンドロ・コルテセを擁して WGP ・モト3クラスでシリーズチャンピオンを獲得、また2013年シーズンに向けては、そのモト3用 KTM ワークスマシンを基とした市販レーサー・Moto3 250 GPR を受注生産するなど、レディ to レースを地でいく活躍を続けている。

 

本社工場の次に訪問したのは、KTM 本社工場と隣接する、KTM ファクトリーレーシングの建物。モトクロスにエンデューロ、ラリー、ロードレースと、世界中のモータースポーツで活躍する、KTM レーシングマシンの開発とレースマネジメントを統括する部署だ。建物内には歴代のレーサー群とそれらの残した輝かしい戦績を物語るトロフィー群、そしてダカールラリー用のサービストラックなどが収容され、取材陣の目を奪っていた。

 

KTMワークスの統括本拠地も訪問!

取材が許されたのはお昼休みの時間帯とあって、ファクトリー内の実作業を見ることはできなかったが、建物内には KTM Moto3 250 GPRがズラリと並ぶほか、歴代のワークスマシンも展示されていた。

 

 

このトラックは今年のダカールラリーで使用されたサポート車。

#222はアントニオ・カイロリのライドで2010年WMX・MX1シリーズチャンピオン車となった350SXF。

#1はシリル・デプレが2007年ダカールラリーで駆った優勝車。

#36は2008年GP250でミカ・カリオの駆った2スト250レーサー。

 

 

不発に終わったプロトンKR用エンジン?!

2005年、ケニー・ロバーツ率いるプロトンKRチームに供給された、MotoGP用KTM製エンジンがオブジェとして飾られていた。75度V型4気筒エンジンはボア・ストローク=φ82×47mm。238psを1万5,500rpmで発揮した。ニューマチックバルブも装備されたらしい。当時のライダーはシェーン・バーン(現・英国スーパーバイク選手権参戦中)。2007年からMotoGPの排気量の800cc化も決まって、参戦は2005年のみに終わった。

 

 

KTM車の独特なデザインは
キスカ・デザインが生み出す

現在のKTM製バイクのデザインの一切を手がけるのが、同じザルツブルグにあるキスカ・デザイン。KTMイメージカラーのオレンジもキスカからの提案。ちなみに、キスカ自体もKTM AGの傘下企業だ。KTMに関わる仕事量はキスカ全体の半分程度で、スキー用品など同社がデザインした製品は多い。社内には2013年末に市販型を発表予定の1290スーパーデュークR(プロトタイプ)も置かれていた。