モーターサイクルの潜在能力を引き出すK&Hのシート造りの画像

モーターサイクルの潜在能力を引き出すK&Hのシート造り

  • 取材協力/K&H  撮影/富樫秀明  取材・文/中村友彦  構成/バイクブロス・マガジンズ
  • 掲載日/2018年3月27日

日本全国のみならず、昨今では海外からの注文も増えているK&H。同社のシートが多くのライダーから支持を集めている一番の理由は、単純に製品の出来がいいからだが、その製品の細部をじっくり観察すると、やっぱり手間のかけ方が普通ではないのである。世の中にはいろいろなシートメーカー/専門店が存在するけれど、K&Hのような製法のメーカーは、おそらく、他には存在しないだろう。

質実剛健にして懇切丁寧な手法を基盤に据えつつ
徹底的な走り込みで理想の座面形状を構築する

K&Hが手がけるシートの構造を見て、誰もが最初に驚くのは、尋常ではない手間のかけ方だろう。フレームとの接面になるゴム足は純正の2~3倍で、ハンドメイドで製作されるベースは肉厚で頑丈なFRP。そしてそのベースと一体成型されるスポンジは、抜群の安定性と耐久性を誇るインジェクション製法で、動きやすさを念頭に置いたパターン検討と入念な防水対策が行われるレザーは、多種多様なカラーと素材を準備している。逆に言うなら、こういった質実剛健にして懇切丁寧な手法を導入しているからこそ、K&Hのシートは数多くのライダーから支持を集めているのだ。

もっとも、手法以上にK&Hのシートで注目するべきは、同社の代表を務める上山さんの開発姿勢かもしれない。上山さんはどんな車両のシートを製作する際も、数千キロに及ぶテスト走行を行っているのだから。

具体的な話をするなら、まずはノーマルシートで数回のツーリングに出かけて素性を確認し、次に自らの理想を具現化した原型を製作し、以後は試作品のシートに何度も手を加えながら、雨天時や未舗装路も含めて、ありとあらゆる状況を体験しているのだ(詳細はK&Hのウェブサイトからアクセスできる上山さんのブログ、血と汗と涙のシート製作記をご覧いただきたい)。

その結果として、車両によっては開発期間が半年近くに及ぶこともあるのだが、上山さんの地道な実走テストを抜きにして、K&H製シートの魅力は語れないのである。

すべてを自社で生産するこだわりの手法

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取材当日のK&Hでは、2018年型でフルモデルチェンジを受けた、ハーレー・ファットボーイ用のシートを開発中だった。自らで製作した原型に手を添えているのは、同社の代表を務める上山 力さん。ちなみに、原型が一発で決まるケースは過去に1度もなく、この状態から何度も試乗&調整を繰り返すことになるそうだ。

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原型の素材はFRP(繊維強化プラスチック)なので、座り心地はカチカチ。素人目にはスポンジを使ったほうがいいような気がするけれど、理想の座面形状や高さを追求し、正確な寸法と形状を決定するためには、造形の自由度が高いFRPが最適なのだと言う。

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モーターサイクル用シートのベースは、1970年代以前はスチールが一般的だったものの、以降は柔軟なPPやABSが主力になっている。どんな素材がベストかは人によって見解が分かれるところだが、ベースの変形をマイナス要素と捉え、車体との一体感を重視するK&Hでは、一部機種用を除いて肉厚で頑丈なFRP製を採用している。

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カスタムシートと言ったら、ノーマルの加工や、汎用スポンジの積層・接着をイメージする人が多いかもしれないが、K&H製シートのスポンジは、各車種用として専用設計した型の中で、原料となる2液を混合・発泡させるインジェクション製法。写真は撮影用として、計量カップを用いて混合・発泡を行ったところ。

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インジェクション製法はノーマルシートにも用いられている。ただし、ノーマルのスポンジが単体で作られるのに対して、K&H製はスポンジとベースのズレをゼロにするため、両者を一体成型。なおインジェクション製法には、原料の配合によってスポンジの硬度を自在に調整・維持できるという美点もある。

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オーナーの個性を演出する手法として、K&Hではレザーのセミオーダーシステムを導入している。レザーのカラーは約40種類で(近年はカーボン系が人気)、その他に本革に近い質感のリアルレザーとして、バイソン系やオーストリッチ、カントリー、ダークチェリーなどを準備。機種によってはタックロール仕様も設定されている。

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セミオーダーシステムで選択できるのはレザーのカラーだけではない。パイピングは約40種類、ステッチは17種類を設定しているのだ。ハーレー用には丸/星形のカラースタッド、一部の日本車用としてステンレス製サイドリベット、というオプションも存在。

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自社製品の魅力を体感してもらうため、K&Hでは数多くの試乗用シートを準備。同社のシートは同じ機種用でもさまざまな高さ/形状が存在するため、2~3種類の乗り比べを行うライダーが少なくないそうだ。なお試乗用シートは全種類をラインアップ。実際に同社を訪れる際は、事前に営業日を確認したほうがいいだろう。

K&H

K&H

K&H

住所/埼玉県朝霞市上内間木381-2
電話/048-456-3830
営業/10:00-19:00
定休/日曜、祝日、第1・3月曜

1976年に創業したK&Hは、もともとはFRPパーツの製作を得意とするカスタムショップで、これまでに独創的なカフェレーサーを数多く製作。1990年代からシートの製作に力を入れるようになり、以後は国内外の幅広いモデルに対応する製品を販売している。