排気ガス規制の強化によって、惜しまれつつも生産中止となったカワサキ W650。直立した2気筒空冷エンジンをパワートレインとし、それをネオクラシック調のスタイリングでパッケージしたモデルであった。スペック的に突出した部分は特にないが、そのぶん長く所有し、乗り続けられるバイクとしてロングセラーともなっていたモデルである。
W800 は、その名前からもわかるように先述の W650 の後継モデルだ。排気量が 98cc 増やされて 773cc になり、吸気系がキャブレターからインジェクションとなるなどの変更を受けたが、エンジンは形式や外観を W650 から踏襲し、またスタイリングにも大幅な変更は施されなかった。これからも生き続けていくための変更は受け容れたが、変える必要性のない部分は変えない、いわば時代に合わせたモデルチェンジといえるだろう。
そんな W800 に積極的に取り組んでいるのが、愛知県日進市に店舗を構えるカワサキの専門ショップ 『プレジャー』 だ。店長の生駒久喜さんに、その魅力は? と伺うと…
「皆さんWに乗ることを楽しんでおられますね。走って得られる振動、、音、デザイン…飽きの来ない、手放せないバイクとなっているようです。またカスタムの素材として方向性がいっぱいあり、それも楽しみ、楽しめる点ではないかと思いますね」とのことだ。
カスタムによって、さまざまなスタイルに変身させることが可能な点が、W800 の持っている魅力のひとつだと言えるだろう。セパハンにロケットカウルを装着して、往年のカフェレーサーのエッセンスを加えても似合うし、あるいはトラッカーという選択肢もある。さらには、4気筒系で行なわれている手法を取り入れたパフォーマンスの向上を図ってみるのも、大いにアリだろう。
今回プレジャーが手掛けた W800 は、スタイリング的にはスタンダードの持っているネオ・クラッシック路線を深化させたと言える。その外観的な特色のひとつになっているのが、“フロントのドラムブレーキ化” だ。それは、ただ単にノーマルのディスクブレーキを置き換えれば済むという簡単なものではない。車輪の中心部であるハブの大きさが異なるから、スポークの長さを変えなければならないなど、それに伴う変更点は多岐に渡っている。また、そのセットアップやチューニングも施されており、そのコントロール性はディスクブレーキと同等、いやそれ以上とされていることも特筆すべき点だろう。
さらに、W800 となって廃止されてしまったキックペダルを装備しているのも注目すべきポイントだ。もちろんこれを使ってエンジンを始動することができる。さまざまな方面から「それは W800 では無理だ」と思われていたのだが、それを可能にしてしまったことからも、プレジャーの持っている技術やノウハウの高さがうかがい知れるトピックと言えるだろう。
写真上/2リーディングダブルパネルドラムブレーキ。リムはあえて磨きを掛けたスタンダードで、スポークの角度を合わせるためにひとつひとつの穴に加工を施した。使用されているトルクロッドも強度計算がなされている。
写真下/W800 となって廃止されたキックペダルだが、この車両ではそれが組み込まれている。そのためにミッションの一部が W650 の物と入れ替えられたのだ。インジェクションではキック始動は無理と思われたが、それも可能にした。
その他にルックスの向上を図った部分としては、プレジャーの得意分野である外装のオールペイントや、アルミ部分などのバフ掛け、フレームのパウダーコーティング塗装などが挙げられる。そしてさらに特筆すべき点は、見えなくなってしまう部分にも、徹底的に手が入れられていることにある。
「バラさなかったのは、メーターとかスイッチボックス、ウインカーの中ぐらいですね」
と生駒店長。新車でありながらエンジンやミッションまでもが一旦分解され、各部のバランス取りを行なうなどして “公差” を限りなくゼロに近づけているのだ。またギアなどの可動部には表面処理の一種であるWPC加工やモリブデンショット加工までもがも施されているのである。
詳しい人でないと見過ごされてしまいそうなのが、シリンダーの色。元々の W800 はシルバーなのだが、この車両では W650 のようにブラックとされている。またカバー類もバフ掛けがされており、アルミの鈍い輝きを持つ。
この W800 は、お客さんからのオーダーを受けて仕立てられた車両だ。その徹底ぶりには目を見張るものがある。
「W800に限らず、要望があれば、トコトン付き合います」
とのこと。そんな同店の持っているポリシーが具現化された1台と言えるだろう。
写真左上/左右のマフラーは、ステンレス製のワンオフだ。ヘッドから伸びるエキパイは、スタンダードが直線的なのに対して、こちらの車両ではなだらかな弧を描く形状とされている。排気熱による淡いゴールドの着色も美しい。 写真右上/タンクのパターンはスタンダードに準じているが、淡いグリーン系を基調としたカラーリングに塗り替えられ、それに合わせて、サイドカバーやフロントフェンダー、リアフェンダーも。ペイントも同店の得意分野である。 写真右下/リアショックユニットは、オーリンズの S36D へと変更されている。リザーバータンクを持たず、クラシカルな外観が W800 とマッチ。減衰力の調整機構は持っていないタイプだが、乗り心地は大幅に向上しているのだ。 写真左下/フロントはスタンダードのディスクブレーキからドラムブレーキへと変更されており、それに伴って油圧式のマスターシリンダーは撤去、2本のワイヤーでシューを作動させるスズキのテンプター用を流用して装着。 |
WPC加工も承ります!
こちらの W800 のクランクシャフト、カムシャフト、ベベルギア、トランスミッションなど金属パーツにには WPC 加工が施されている。WPC加工とは、金属成品の表面に同等以上の硬度を有する超微粒のショット(微粒子)を 100m/sec. 以上で噴射し、表面温度を上昇させることを特徴とする金属成品表面加工熱処理法だ。
その過程で急加熱・急冷が瞬時に繰り返され、熱処理効果・鍛錬効果により加工強化が行われ、疲労寿命の延長、耐磨耗・耐ピッチング・耐チッピング性の向上、応力腐食・粒界腐食・電食等の防止、低温脆性(ぜいせい:金属がもろくなること)の防止、騒音の減少、電気抵抗を下げ磁界を安定させるなどなど、効果は多岐に渡る。
W800 では、べベルギアの歯打ち音の軽減やスムーズなミッション操作などに貢献、クランクシャフトやカムシャフトではオイル潤滑性も良くなり、耐久性のあるトータル的にバランスのとれたエンジンになるのである。さらに今回は、初期のなじみを良くするために、その上からモリブデンショットまでもが施されている点も見逃せないポイントだ。
WPC 加工やモリブデンショットは、W800 以外の車種でも有効であり、プレジャーではそれらに関する相談にも応じている。
カワサキの専門店として、平成2年にオープン。「オートバイを売ったところからがスタート!」をモットーに、安心、安全なバイクライフをサポート。ツーリングなどのイベントも開催し、長く付き合える「街のバイク屋さん」的な存在だ。またカスタムにも積極的に取り組んでおり、メカニズム的なチューニングやセットアップから、ペイントや F.R.P. などを用いたボディクラフトも得意分野だ。
住所/愛知県日進市浅田町平子4-1241
電話/052-804-7373
営業時間/10:00-21:00
定休日/毎週火曜日、第3水曜日