取材協力/オーヴァーレーシング  取材・文/淺倉 恵介  撮影/木村 圭吾  構成/バイクブロス・マガジンズ編集部
掲載日/2013年7月31日
吸排気系、足周り…と、カスタマイズを進めていくと、次に気になってくる部分が車体。特に、人気が高いのがスイングアームの交換だ。軽量で高剛性な高性能スイングアームが、走りの面でもたらす恩恵は大きい。また、ルックス面での効果も抜群だ。
そのスイングアームで高い評価を得ているオーヴァーレーシング。今回、特別に同社のスイングアーム生産工程を公開。クラフトマンシップ溢れる物作りの現場から、オーヴァーレーシングのフィロソフィーを感じて欲しい。

FEATURE

シャシーコンストラクターが作るスイングアーム

オーヴァーレーシングがスイングアームの生産を開始したのは、創業時まで遡る。立ち上げ当初からオリジナルフレームの製作を行っていたため、レーシングマシンを中心に数々のスイングアームを作り上げてきた。

オーヴァーレーシングのスイングアームのルーツは、このオリジナルフレームにある。その特徴のひとつが、アルミパイプを使用したトレリス構造だ。これは様々な径のパイプを複雑に組み合わせて作られるフレームで、強度と剛性、そしてしなやかさをバランスさせるには高度な技術を必要とする。レースの世界で数々の勝利を獲得してきたオーヴァーレーシングにはその技術力があり、フレーム製作技術を用いて、カスタムパーツとして作り出されたのが、オーヴァーレーシングのスイングアームなのだ。パーツ単体ではなく車体をパッケージで捉えた上で、スイングアームの存在を考えることができるのが、他にはないオーヴァーレーシング独自の強みなのかもしれない。これができるメーカーは、そうは無い。

オーヴァーレーシングのスイングアームには、全て 7N01 材と呼ばれるアルミを使用している。アルミと一口に言っても、その組成により特性は様々。スイングアームの製造には溶接工程が欠かせないが、この時に加えられる熱がアルミにとって問題となる。一般的なアルミは熱を加えられると、極端に強度が落ちてしまうのだ。しかし 7N01材は熱に強いというメリットがある。正確に言えば、溶接で一度は強度が落ちてしまうのだが、その後、常温で放置すると溶接前と変わらないレベルまで強度が回復するのだ。

オーヴァーレーシングでは、7N01材を使用したのオリジナルのパイプを製作。メインパイプ用の素材だけでも5種類以上、スタビライザー用のパイプまで入れれば、その種類は膨大なものになる。パイプは金属メーカーにオーダーするのだが、規格ものではなく独自のパイプを作るには、想像以上に高いコストがかかる。ビジネスだけを考えるのなら、既存の材料で作るのが正しい。少なくとも見た目はさほど変わらない。だが、それを良しとしないのがオーヴァーレーシングのモノヅクリ。何よりも優先されるのは、“品質” と “性能” だ。理想のパーツを作り上げるためには、全ての面で手抜きはしない。それが、オーヴァーレーシングのスイングアームなのだ。

フルカスタムが施されたZRX1200Rに装着された、オーヴァーレーシングのスイングアーム。倒立フォークを採用したフロント周りに勝るとも劣らない、力強いリアセクションだ。走りのパフォーマンスもさることながら、スイングアーム交換による見た目のインパクトもかなりのもの。カスタムフリークならば、どうしても手に入れたいパーツだ。

オーヴァーレーシングの代名詞とも言えるのが、オリジナルフレームのレーシングマシン。ストリップ状態のマシンは、シングルレーサー『OV-20』。90年代後半にシングルレースの本場であるヨーロッパで常勝を誇り、オーヴァーレーシングの名を世界に知らしめた。フレームとエンジンだけの画像は、鈴鹿8耐参戦マシン『OV-23』のもの。パイプと削り出しメンバーとのコンビネーション構造は、現在のオーヴァーレーシングのスイングアームに通じるものがある。

MAKING

オーヴァーレーシングのスイングアームはこうして作られる

これがスイングアームの基本骨格ともいえるメインパイプ。素材はスイングアームに最適といわれる7N01材。

メインパイプは、あらかじめ曲げ加工が施され、おおまかなサイズにカットされた状態でストックされている。

メインパイプを曲げるベンダー。機械式ベンダーで均一な加工を行うことで、精度の高い製品作りを実現している。

仕様に合わせてメインパイプをカット。使用するメタルソーという工作機械は、切断時に部材が歪みにくく、高い精度が確保できる。

左右のメインパイプをつなぐメンバーに、プレスでオーヴァーレーシングのロゴを刻印。

機能には関連しないし、バイクに装着してしまえば見え難い部分ではあるが、こういった細部へのこだわりはユーザーが嬉しく感じるところだ。

加工の済んだ部位は、有機溶剤に漬け込み入念に脱脂される。この部分に手をかけるか否かで、溶接の仕上がりに差が出る。

メインパイプの加工のため、設計に従いケガキを入れる。ここが狂っていては、完成形の精度が出ない。作業者の練度が問われる作業だ。

ケガキに合わせメインパイプを加工。素手での作業は、軍手などの巻き込み事故の防止の意味合いもあるが、指で直に触れる感覚を大切にしているからだ。

10溶接はTIG溶接で行う。高い技術力が要求されるTIG溶接だが、人間の目と手で確認しながら作業するので、確実な溶接が行える。仕上がりも美しい。

11ピボットの部分をフライスで加工。最終的にはこの部分に、削り出しで作られたピボットが取付けられる。

12パイプで構成される部分のパーツ。ここまで来ると完成形が見えてくる。この状態でバフ加工が施される。

13加工前(右)とバフ仕上げ済み(左)のパーツ。映り込みが仕上げの美しさを物語る。元が同じ素材とは思えない。

14各部のパーツを治具に固定し、溶接で最終形へと仕上げていく。溶接では熱が発生するので、どうしても部材に歪みが出る。少しでも歪みを小さくするために、溶接する順番やどの方向から作業するかを調整する。ノウハウと経験が物を言う作業だ。

15スイングアームの構成パーツはパイプだけでなく、削り出し部品も重要。素材には、削り出しに向いていて溶接可能なアルミ材では最高レベルの強度を持つ5083材を使用している。

16削り出し部品は、大型のマシニングセンターで製作されている。コンピュータ制御の工作機械だが、オペレーション次第で仕上がりが大きく変わる。この工程も職人技の世界なのだ。

17全ての部品が繋ぎ合わされて完成形となったら、バーナーで全体に熱を加える。均一に熱を加えて、治具に固定した状態で常温まで冷ますことで、形を整え歪みを修正する。

18最後に定盤の上で各部の計測を行い、設計通りの寸法に仕上っているかを確認する。もちろん、設計に合っていない場合は出荷されない。ここで合格した製品だけがユーザーの元に届けられるのだ。

PROFESSIONAL COMMENT

スイングアームは技術の集大成

今回は、オーヴァーレーシングでスイングアームの開発を取りまとめる山本裕之氏にお話しを伺うことができた。

「スイングアームを作りはじめた当初は、軽量化を重視していましたね。現在もその基本思想は変わっていませんので、当社のスイングアームは軽く作られています。バネ下の軽量化による効果は大きいですから。もちろん剛性も高めてありますので、スタビリティも向上しますし、ライダーに伝わる剛性感が違います。切り返しなどでは、ダイレクトな操作感に気付かれるでしょう。現行モデルでも性能アップを体感していただけると思いますし、旧車でしたら、さらに効果は大きい。装着されれば、その違いにきっと驚かれると思います。

基本的に受注生産なので、細かい仕様変更に対応できるのもメリットだと思います(※公式サイトに専用のオーダーシートが用意されている)。当社がスイングアームをラインナップしている車両であれば寸法を把握していますから、どのようなモディファイが可能なのか、という相談にもお答えできます。イージーオーダーで、ご自分だけのスイングアームを作ることができるのです。ただし、極端に長いものとか、これは危険と判断したものは製作できません。操縦安定性に関わる重要な機能部品ですから、そこは譲れません。

スイングアームは目立つパーツですから、デザイン面も考えてはいます。ですが、オーヴァーレーシングには “機能を追求すれば美に繋がる” という考えがありますので、まずは性能の確保が最優先です。そして “性能が良いものはスタイルも良い” 、いわゆる “機能美” ですね。当社の物作りの考え方に共感していただいて、製品を気に入っていただけたら嬉しいです。

当社では様々なバイク用パーツを作っていますが、技術の基本は切削加工、溶接、パイプの曲げ加工の3つなんです。スイングアームの製造工程には、この全てが使われています。逆に言えば、3つの技術を持っていなければ、スイングアームというパーツは作れないんです。スイングアームは、オーヴァーレーシングの持つ技術の集大成と言えるでしょう。」

スイングアームの製造工程を実際に目にして感じたのは、人間の手が介在する工程の多さだ。素材が金属なので工作機械を使用してはいるが、それを扱うのはあくまで人間。ほとんどの工程は手作業で行われている。山本氏によれば、少量生産であることも理由のひとつだが、素材の製品誤差を人間が手を加えることで吸収し、より精度の高い製品とすることができるため、あえて自動化を行わない部分もあるのだと言う。

熟達した職人の高い技術があって、はじめて製造が可能なスイングアーム。仕上がりの美しさもあり、まるで美術工芸品のようでもある。オーヴァーレーシングのスイングアームは、実に魅力的なパーツだと改めて感じた。

オーヴァーレーシングでは、パーツの設計にCADや3D CADなどの手法を多く取り入れている。最新のテクノロジーと職人技、相反するような2つの要素が交互に作用し、オーヴァーレーシングのハイクオリティなパーツが生み出される。

中央の人物が山本さん。スイングアームをはじめ、オーヴァーレーシングのマフラー以外のほとんどのパーツに企画から設計、開発までに関わる。右の坂口さんと左の岡本さんはスイングアームの製造を担当。この3人の手で、オーヴァーレーシングのスイングアームは作られている。

LINE UP

マシンに合わせて選択できる豊富なラインナップ

TYPE-1

60mm×40mmの角パイプを使用した、スタンダードなスイングアーム。旧車のカスタマイズに最適なモデル。

TYPE-2/TYPE-3

TYPE-1をベースにスタビライザーを追加し剛性アップ。TYPE-3は、OW01タイプのチェーン引きを装備。

TYPE-4/TYPE-5

45mm×35mmの楕円パイプを使用したS1タイプデザイン。ピボット部のボックスはオイルキャッチタンクになっている。TYPE-5はワイドホイールに対応。

TYPE-6

TYPE-4の強化モデル。メインパイプは「田の字」断面を持つ60mm×40mmの極太パイプを採用し、高い剛性を確保。高出力車や、スリックタイヤの高負荷に対応。

TYPE-7

80mm×40mmの「目の字」断面構造を持つ角パイプを使用。大排気量、高出力車に対応するハイスペックモデル。

TYPE-8

TYPE-7にスタビライザーを追加し、さらに強度と剛性を高めたモデル。最新の大排気量ハイパワー車に適したモデル。

TYPE-9

TYPE-7と同様のメインパイプを使用。チェーン引きは新型デザイン、ピボット部は最新スーパースポーツに採用されるボールベアリング支持を採用。レーシングスタンドフックを標準装備する。

TYPE-10

最強モデルTYPE-9にスタビライザーを追加。スタビライザーとメインパイプの接合部は削り出しパーツを使用し、精度と剛性が高められている最高峰モデル。

for VMAX

シャフトドライブのVMAX用もラインナップ。スタビリティが大幅に向上。STD長と35mmロングの2タイプが用意されている。

for HARLEY 883/1200

ハーレー・スポーツスターにも対応。2003年モデルまで対応品と、2004年モデル対応品がラインナップされている。

for mini bike

オーヴァーレーシングはミニバイクも得意。モンキー、ゴリラをはじめ、エイプ系、KSRなど、人気の高いミニバイクを中心に、様々なタイプのスイングアームをラインナップ。

オーダーシステムで自分だけのスイングアームが製作可能

オーヴァーレーシングでは、スイングアームのオーダー製作に対応している。オーダーするには専用のオーダーシートに必要事項を記入し、まずは見積もり。
オーダーシートはオーヴァーレーシングの公式サイトからダウンロードできる。

スイングアーム オーダーシート(PDF) >>

BRAND INFORMATION

株式会社 オーヴァーレーシングプロジェクツ

住所/三重県鈴鹿市国府町石丸7678-5
電話/059-379-0037
FAX/059-378-4253

1982年創業。マフラーをはじめ、ステップなどのビレットパーツやスイングアームなどの車体関連パーツ、ホイールまで自社で生産する総合バイクパーツメーカー。レース活動にも長い歴史を持ち、2013年は前年に引き続きアプリリアRSV4Rで鈴鹿8耐に参戦。。