シャシーコンストラクターが作るスイングアーム
オーヴァーレーシングがスイングアームの生産を開始したのは、創業時まで遡る。立ち上げ当初からオリジナルフレームの製作を行っていたため、レーシングマシンを中心に数々のスイングアームを作り上げてきた。
オーヴァーレーシングのスイングアームのルーツは、このオリジナルフレームにある。その特徴のひとつが、アルミパイプを使用したトレリス構造だ。これは様々な径のパイプを複雑に組み合わせて作られるフレームで、強度と剛性、そしてしなやかさをバランスさせるには高度な技術を必要とする。レースの世界で数々の勝利を獲得してきたオーヴァーレーシングにはその技術力があり、フレーム製作技術を用いて、カスタムパーツとして作り出されたのが、オーヴァーレーシングのスイングアームなのだ。パーツ単体ではなく車体をパッケージで捉えた上で、スイングアームの存在を考えることができるのが、他にはないオーヴァーレーシング独自の強みなのかもしれない。これができるメーカーは、そうは無い。
オーヴァーレーシングのスイングアームには、全て 7N01 材と呼ばれるアルミを使用している。アルミと一口に言っても、その組成により特性は様々。スイングアームの製造には溶接工程が欠かせないが、この時に加えられる熱がアルミにとって問題となる。一般的なアルミは熱を加えられると、極端に強度が落ちてしまうのだ。しかし 7N01材は熱に強いというメリットがある。正確に言えば、溶接で一度は強度が落ちてしまうのだが、その後、常温で放置すると溶接前と変わらないレベルまで強度が回復するのだ。
オーヴァーレーシングでは、7N01材を使用したのオリジナルのパイプを製作。メインパイプ用の素材だけでも5種類以上、スタビライザー用のパイプまで入れれば、その種類は膨大なものになる。パイプは金属メーカーにオーダーするのだが、規格ものではなく独自のパイプを作るには、想像以上に高いコストがかかる。ビジネスだけを考えるのなら、既存の材料で作るのが正しい。少なくとも見た目はさほど変わらない。だが、それを良しとしないのがオーヴァーレーシングのモノヅクリ。何よりも優先されるのは、“品質” と “性能” だ。理想のパーツを作り上げるためには、全ての面で手抜きはしない。それが、オーヴァーレーシングのスイングアームなのだ。
フルカスタムが施されたZRX1200Rに装着された、オーヴァーレーシングのスイングアーム。倒立フォークを採用したフロント周りに勝るとも劣らない、力強いリアセクションだ。走りのパフォーマンスもさることながら、スイングアーム交換による見た目のインパクトもかなりのもの。カスタムフリークならば、どうしても手に入れたいパーツだ。
オーヴァーレーシングの代名詞とも言えるのが、オリジナルフレームのレーシングマシン。ストリップ状態のマシンは、シングルレーサー『OV-20』。90年代後半にシングルレースの本場であるヨーロッパで常勝を誇り、オーヴァーレーシングの名を世界に知らしめた。フレームとエンジンだけの画像は、鈴鹿8耐参戦マシン『OV-23』のもの。パイプと削り出しメンバーとのコンビネーション構造は、現在のオーヴァーレーシングのスイングアームに通じるものがある。
オーヴァーレーシングのスイングアームはこうして作られる
スイングアームは技術の集大成
今回は、オーヴァーレーシングでスイングアームの開発を取りまとめる山本裕之氏にお話しを伺うことができた。
「スイングアームを作りはじめた当初は、軽量化を重視していましたね。現在もその基本思想は変わっていませんので、当社のスイングアームは軽く作られています。バネ下の軽量化による効果は大きいですから。もちろん剛性も高めてありますので、スタビリティも向上しますし、ライダーに伝わる剛性感が違います。切り返しなどでは、ダイレクトな操作感に気付かれるでしょう。現行モデルでも性能アップを体感していただけると思いますし、旧車でしたら、さらに効果は大きい。装着されれば、その違いにきっと驚かれると思います。
基本的に受注生産なので、細かい仕様変更に対応できるのもメリットだと思います(※公式サイトに専用のオーダーシートが用意されている)。当社がスイングアームをラインナップしている車両であれば寸法を把握していますから、どのようなモディファイが可能なのか、という相談にもお答えできます。イージーオーダーで、ご自分だけのスイングアームを作ることができるのです。ただし、極端に長いものとか、これは危険と判断したものは製作できません。操縦安定性に関わる重要な機能部品ですから、そこは譲れません。
スイングアームは目立つパーツですから、デザイン面も考えてはいます。ですが、オーヴァーレーシングには “機能を追求すれば美に繋がる” という考えがありますので、まずは性能の確保が最優先です。そして “性能が良いものはスタイルも良い” 、いわゆる “機能美” ですね。当社の物作りの考え方に共感していただいて、製品を気に入っていただけたら嬉しいです。
当社では様々なバイク用パーツを作っていますが、技術の基本は切削加工、溶接、パイプの曲げ加工の3つなんです。スイングアームの製造工程には、この全てが使われています。逆に言えば、3つの技術を持っていなければ、スイングアームというパーツは作れないんです。スイングアームは、オーヴァーレーシングの持つ技術の集大成と言えるでしょう。」
スイングアームの製造工程を実際に目にして感じたのは、人間の手が介在する工程の多さだ。素材が金属なので工作機械を使用してはいるが、それを扱うのはあくまで人間。ほとんどの工程は手作業で行われている。山本氏によれば、少量生産であることも理由のひとつだが、素材の製品誤差を人間が手を加えることで吸収し、より精度の高い製品とすることができるため、あえて自動化を行わない部分もあるのだと言う。
熟達した職人の高い技術があって、はじめて製造が可能なスイングアーム。仕上がりの美しさもあり、まるで美術工芸品のようでもある。オーヴァーレーシングのスイングアームは、実に魅力的なパーツだと改めて感じた。
マシンに合わせて選択できる豊富なラインナップ
オーヴァーレーシングでは、スイングアームのオーダー製作に対応している。オーダーするには専用のオーダーシートに必要事項を記入し、まずは見積もり。
オーダーシートはオーヴァーレーシングの公式サイトからダウンロードできる。
住所/三重県鈴鹿市国府町石丸7678-5
電話/059-379-0037
FAX/059-378-4253
1982年創業。マフラーをはじめ、ステップなどのビレットパーツやスイングアームなどの車体関連パーツ、ホイールまで自社で生産する総合バイクパーツメーカー。レース活動にも長い歴史を持ち、2013年は前年に引き続きアプリリアRSV4Rで鈴鹿8耐に参戦。。