取材協力/オーヴァーレーシング  取材・撮影・文/木村 圭吾  構成/バイクブロス・マガジンズ編集部
掲載日/2014年9月10日


耐久レーサーに採用され、ストリートを走るバイクにもカスタムパーツとして装着されるようになったのが『スライダー』だ。エンジンや前後アクスルをアクシデントから護り、ダメージを最小限にする役割を担っている。オーヴァーレーシングではスライダー本体をアルミ製のプレートを介して装着し、衝撃を分散。さらなる機能性とルックスの向上を果たしている。

FEATURE

レースで培われたノウハウや技術を
惜しむことなく製品にフィードバック

サーキットのある街、鈴鹿。その地に拠点を持っているのが『オーヴァーレーシングプロジェクツ』だ。佐藤健正氏によって1982年に設立され、その名のとおり舞台をレースに求めたのである。当時のTT-F3クラス(4ストローク400cc以下、または2ストローク250cc以下の市販車がベース)で活躍し、レーシングコンストラクターとしての地位を築いたのだった。その後に市販車をベースレーサーとして最高峰のTT-F1(4ストローク750cc以下、または2ストローク500cc以下)へとスイッチ、ホンダCBX750F、ヤマハFZR750などをベースとしたオリジナルマシン(コードネームはオーヴァーを意味する“OV”)で参戦した。そして4気筒ばかりではなく、シングルやツインでもオリジナルのアルミフレームでレーシングマシンを作成。さらに公道走行可能なコンプリートマシンも世に送り出し、世界中のバイクファンを唸らせたのである。

 

レース活動を通じて得られたノウハウや技術は、市販向けの製品へ惜しみなくフィードバックされ続けている。それはモンキーのような小排気量車からビックバイクにまで至る。車種によっては“定番アイテム”ともなっているロングセラー商品も多い。これは信頼のブランドとなっている証左だろう。ラインナップの拡充やニューパーツの開発も積極的に取り組んでおり、今回取り上げるスライダーは、マフラーやスイングアーム、ステップなどと比べると比較的新しい分野のアイテムだが、“オーヴァーらしさ”が盛り込まれた製品になっているのである。

INTERVIEW

耐久レースではピットまで戻れるように
アクシデントからバイクを守るスライダー

いつの頃からかは定かではないが“走る実験室”と言われるようになったのがサーキットだ。レーシングマシンに装備されて機能が認められ、後にストリートバイクにフィードバックされたアイテムも多い。

 

今回取り上げるスライダーも、そのひとつと言えるだろう。元々は耐久レースでの使用にルーツがあり、長丁場のレースで、仮に転倒してもピットまで戻って来ることさえできれば、復旧させて再び戦線に戻ることも可能だからだ。つまり、走行不能なほどのダメージを与えないためのプロテクトパーツとして考え出されたのである。

 

オーヴァーレーシングも、2004年頃のレーシングマシンから採用が始まり、それがストリート向けのカスタムパーツとなっていったのである。その開発を行っている山本裕之さんにお話を伺った。

 

「スライダー本体の素材は“ジュラコン”と呼ばれている樹脂の一種で、適度な強度や硬さを持っています。熱などで変化しにくく、色あせも少ない特徴があります。最初の頃は白色でしたが、今は全て黒色の物を使用しています。

 

オーヴァーレーシングの山本裕之さん。これまで何度か登場していただいており、マフラー以外のほとんどのオーヴァー製パーツの企画から設計、開発に関わっている。車両の後ろに写っているのは2004年頃のオーヴァーレーサーで、現在の“スライダーのはじまり”的なパーツが装着されていた。

現在市販している製品は、基本的にはボルトオンで装着できることを前提に開発していますが、特色としては大半の車種でアルミ削り出しのプレートを介して取り付けることにあるかと思います。ダイレクトにフレームやエンジンマウントに取り付ける方法もありますが、当社ではアクシデントの際の衝撃を、スライダー本体だけでなくプレートでも受け止める方が少なくなるんじゃないか、本来の機能であるプロテクト性をより発揮できるのではないか、という考えから採用しています。

 

当社製スライダーの機能の一部を担っているプレートですが、クリアアルマイト仕上げのシルバーの物は、黒一色の本体よりも目立ちます。そのためデザイン的な要素にも気を遣っていますし、車種によってはサブフレーム的な要素を組み込んでいるプレートもあります。ですから、ほとんどが車種専用品になっています。ホントは共通化した方が、コスト的には有利なのですが(笑)。

 

カウル付き車両では“レーシングスライダー”、ネイキッドでは“エンジンスライダー”と名前を使い分けていますが、どちらもストリートオンリーの方からサーキットを楽しむ方まで、幅広く御愛用いただいています。一昔前なら“まずはマフラー交換”だったのが、近年は“まずはスライダー”にもなっているそうで、ユーザーの関心が高まっているアイテムになっています。またエンジンスライダーだけでなく、アクスルスライダーもさらに注目されていて、同時装着されるケースも少なくありません。それだけバイクを大切に思う方々が増えているのかもしれませんね。

 

ただ、スライダーを装着しているからといって、全てのアクシデントから車体を護れるわけではありません。もちろん開発時には、それぞれの車種で倒れた時にどこが当たり、どこにスライダーを着ければ良いか? を検討していますが、全ての状況を再現できてはいません。そのあたりがスライダーの製品開発の難しい部分でもあるのですが…。極端な話をすると、立ちゴケでもその場に運悪く岩があれば、それはスライダーでも護りきれません。スライダーは100%バイクを護るアイテムではないのです。幸いにも、今のところ大きな問題になるような事象は無く、むしろスライダーがあって良かった、助かった、というユーザーさんの声が多数寄せられており、機能としての役割は果たせていると思っています。

 

ヤマハMT-09用では、新たに格納時に姿が現れる“タンデムステップスライダー”を開発、製品化しました。どちらかと言えばドレスアップ要素の強いパーツという位置づけです。じつはエンジンスライダーやアクスルスライダーも、本来のプロテクト機能を発揮する場面に遭遇せず、ファッションアイテムとして役立っている状態が良いことなのかもしれませんね」

新たに製品ラインナップに加わるカワサキZ1000用のエンジンスライダー。プレートを介して車体に装着する手法は変わらないが、車体に合わせてブラックアルマイト処理に。

設計はパソコン上で行われ、試作品が出来上がってくると実際に車体にあてがって、その様子を確かめる。実際にバイクを倒して(横にして)どこが接地するか? も検証される。

一見すると左右共通で使えるように思えるアクスルスライダーだが、フォーク側には出っ張りの有無がある。そのため、それぞれで使用するカラーの厚みが変えられており、スライダー先端部が左右で同じ出具合にあるようにされているのだ。

PICKUP PRODUCTS

基本は前後のアクスルとエンジンの保護
スポーティーなイメージでルックスの向上も

スポーツバイクで設定されているのは、前後のアクスルとエンジン(カウル付き車はレーシング)スライダーだ。共に耐久レースから発祥しており、致命的なダメージをエンジンやアクスル部分に与えないための機能を持っている。

 

  • 前後のアクスルスライダー、エンジンスライダー、タンデムスライダーが装着されたMT-09。スタイリングにおいては小モノながらもデザインアクセントとしての存在感がある。

  • 代表的な存在のエンジンスライダー。アルミ削り出しのプレートを介して取り付けられ、万が一の際にはプレートも衝撃吸収の役割を担う。

  • フロントアクスルスライダー。フロントのアクスルを守り、走行不能になることを防ぐ。左右の位置が対称となるように、アルミのカラーで突き出し具合が調整されている。

  • リアアクスルスライダー。フロントと同様にアクスルを守り、走行不能になることを防ぐ。リアも左右の位置が対称となるよう、アルミのカラーで突き出し具合を調整している。

  • ステップが格納されている時に姿を現すタンデムステップスライダー。もちろんスライダーとしての機能パーツだが、ファッションアイテム的な要素が強い。

  • カワサキKSR-PRO用のエンジンスライダー。この他にも小排気量車からビッグバイクまで、多数の車種専用スライダーが用意されている。

株式会社
オーヴァーレーシングプロジェクツ

1982年創業の老舗のパーツメーカー。ミニバイクからビッグバイク、クルーザーにいたるまで、幅広い車種に対応するパーツをラインナップする。マフラーを始め、ステップなどビレットパーツや、スイングアームなどのシャシー用パーツ。ホイールまで自社生産する高い技術力を誇る、総合バイクパーツメーカー。

住所/三重県鈴鹿市国府町石丸7678-5
電話/059-379-0037
FAX/059-378-4253
営業時間/09:00-19:00
定休日/第2・4土曜日、日曜日
WEBサイト/http://www.over.co.jp/

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