取材協力/日本ミシュランタイヤ 取材・文/和歌山利宏  写真/徳永 茂 構成/バイクブロス・マガジンズ編集部
掲載日/2015年7月8日

2年前に登場したミシュランのパワースーパースポーツに、その進化形となるEVOが新登場。それは、公道での扱いやすさと経済性、サーキットでのスポーツ性能を両面で高水準化させていた。
IMPRESSION

画期的発想で性能を高めた
進化形EVO

新しいパワースーパースポーツEVOは、画期的な発想から生まれたタイヤだ。それは、目からウロコが落ちる気がするほどである。

そもそもラジアルタイヤは、コード角度が真横(90度)のラジアルカーカスを持ち、サイドウォールを柔軟にする一方、トレッドはベルトで固め、タイヤ各部の役割分担を明確にして、吸収性、安定性とグリップ性能を高めている特徴がある。

ただ近年は、ラジアルカーカスが90度でなく、70~80度程度に角度を付けたものを2枚重ねるセミラジアル構造が一般化している。サイドウォール部の剛性アップを図り、コーナーでの踏ん張り感と、バイアスタイヤにも通じるナチュラルな剛性感を得るためだ。ところが、そのことでトレッド部の剛性も高まってしまい、ラジアル本来の安定性とグリップ性能は損なわれがちとなる。

そこで、その両方の良さをひとつのタイヤに作り込むべく、このEVOに採用されたのが、ACTと呼ばれる新構造である。

ACTでは、2枚のラジアルカーカスの第一層の角度を70度とし、第二層を90度としている。トレッド部で両層のなす角度は20度だから、さほど剛性は高まらない。だが、サイドウォール部では、ビード部で折り返したカーカスは逆向きに70度の角度を持つことになり、お互いが40度の角度で重なり合うことになる。そのことで、サイドウォールの剛性が高められるのだ。

新型EVOは、従来型パワースーパースポーツの進化形であり、このACTの採用に加え、フロントもリア同様に、2分割コンパウンドのショルダー側を、シリカ0%のカーボンブラックコンパウンドとするのが大きな特徴だ。サーキットと公道の走行比率を50/50%とする位置付けも旧来と同じで、相反する公道とサーキットでの走行性能を両方、高水準化したものと解釈していい。


今回、乗ることが出来た車両は、左上から時計回りに、GSX-R600、BMW S1000RR、CB1000RR、MT-09の4モデル。パワースーパースポーツEVOはどれともマッチングが良く、車両そのものの素性がそのまま生かされていたことが印象的だった

だから、第一印象としてハイグリップタイヤにありがちな強い個性を感じさせない。取っ付きがよくて、気負いなく走り出すことができることは、従来型に勝るとも劣らない。軽快にきびきび走れるストリートタイヤといったところである。トレッド部がソフトなことも、その快適さに貢献しているのだろう。

前後サスストロークの大きいMT-09にもジャストフィットで、ハイグリップタイヤにサスや車体が負けるといったことがなく、ハンドリングはナチュラルなままである。

それでいて、バンク角を深くしていくと、このタイヤは爽快なスポーツ性を発揮。シャープに高い旋回性を発揮してくれる。しかも、旋回半径を大きくしてコーナリングスピードを高めるよりも、奥まで突っ込み小さく曲がる、今日的なレーシングスタイルが似合う特性である。

そしてこの新型EVOでは、シャープに旋回性を高めていく際の接地感が高まっている。自信が持てるから、さらに旋回性を引き出す気にもさせてくれる。やはり、ショルダー側のブラックカーボンコンパウンドは、シリカコンパウンドよりも強度的に勝り、手応えを得やすいのだ。

さらに、このEVOが素晴らしいのは、コーナー立ち上がりでリアの踏ん張り感があって、特に高速コーナーでスロットルを開けやすいことだ。リアが断続的に滑っても、安心感があって扱いやすい。限界を掴みやすく、攻めている実感もある。

ただ、リアに荷重を移し、ニュートラルに保てば最高でも、リッタースポーツでスロットルを開き切れない状況では、踏ん張り感のあるリアに対し、荷重が残ったフロントが負けて、ヨレる場面もあった。でも、いきなり破綻を来たす気配などはなく、走りを正しい方向に導いてくれていると捉えていいぐらいだ。

それにしても、こうしたフィードバックの豊かさは、実にミシュランらしい。それに接地感を、ゴムと路面の摩擦感よりも、タイヤ全体のたわみと荷重感から伝えてくれることも、やはりミシュランの味である。

DETAILS

EVOはリアタイヤにACTを新採用

リアに新採用のACT(アダプティブ・ケーシング・テクノロジー)は、タイヤに角度70度の第1カーカスと角度90度の第2カーカスを配置するもの。トレッド面を柔軟に保ち、接地面積を大きくする一方、ショルダー部の剛性を高める技術だ。

コンパウンドは2分割構造で、リアは中央のハード寄りコンパウンドを、ショルダー側のソフト寄りコンパウンドの下側に潜り込ませるように配す2CT+構造。下図はサーキット走行時の適正空気圧(下表の通り)で、より広い接地面を得ることができる概念図。当然、右がサーキット走行時の接地面を指す。

Power SuperSport EVO推奨空気圧(冷間時)
  一般公道 サーキット サーキット
(タイヤウォーマー使用時)
F 車両メーカー指定
空気圧を尊守
210kPa 210kPa
R 170kPa 150kPa

 

Power SuperSport EVO Sizes&Specifications
  タイヤサイズ ETRTOノミナル タイヤ寸法(mm) 標準リム幅
(inches)
断面幅 外径
F 120/70ZR17(58W)TL 122 600 3.50
R 180/55ZR17(73W)TL 178 630 5.50
180/60ZR17(75W)TL 180 648 5.00
190/50ZR17(73W)TL 190 622 6.00
190/55ZR17(75W)TL 190 642 6.00
200/55ZR17(78W)TL 200 652 6.25

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試乗ライダープロフィール

和歌山 利宏

一緒に写真に収まる車両は、ミシュランカラーに塗られたBMW S1000RR。単なる展示車と思いきや、テスト車としても使えるとのこと。というわけで、本レポートの走りのメインカットを飾ることになったのだ。