KEINZの代表である梅津幸治さんは、自身をデザイナーと名乗る。それは単純にパーツデザインという意味合いだけではなく、バイクパフォーマンスの一役を担うという広い意味での肩書きだ。バイクという乗り物は、ただ数字で表されるデータでは表現しきれない体感性能やニュアンスというものが豊富にあって、そのすべてが乗り味に直結している。カラダで感じる乗り物。それだけに、作り出すパーツのクオリティに大きなこだわりがあるのだという。
「元々は普通のバイク好きな少年ですよ。乗ることもイジることも大好きなバイク野郎です。それで素直にバイクショップ務めを始めたんだけど、 その頃、普通のショップって “バイクを売る” ことが商売で、“バイクを直す” ということにはあまり積極的ではなかったと思います。そこに深い違和感を持ちました。バイク大好き少年としては。」
ショップ務めは3年で辞めて単身オーストラリアに渡る。ワーキングホリデーの制度を利用して日本人の居ない場所で仕事を探すと、シドニーでバイクショップがメカニックを募集していた。そこでの半年は、梅津さんの人生観を決定付ける濃厚な時間となったようだ。
「彼らは徹底的に直すんですよ。エンジンの分解整備はあたりまえ。大切なバイクは買い換えないで長く使う。そしてシェイプアップやチューニングは日常的な仕事でした。僕はハンマーで頭を殴られたような衝撃を受けて、一心不乱に働きました。そして確信したんです。きっと日本にも、こんなショップを望んでいるライダーは居るはずだ、と。」
帰国した梅津さんは、KEINZ を立ち上げた。コンセプトは “1台のバイクを一生乗り続けるためのサービス&チューンナップ” というもの。時代はおりしもバイクブームでスポーツバイクが溢れていたが、どれも乗りっぱなしで本調子のものが少なく、梅津さんのメニューはユーザーの心を捉えた。しかし、チューニングやセットアップをする上で必要になる細かいパーツは自分で作るしかない時代。量産車に高級パーツを取り付けたり、性能や効率アップのためのワンオフパーツの製作で、てんてこ舞いの日々が続いたという。
「バイクユーザーと直接やりとりしているよりも、自分で考えたスペシャルパーツを徹底的に洗練させて送り出すという方向にスイッチしました。たぶん僕の性分ですね。本当にやりたいことは、バイク屋さんではなく、クオリティの高いパーツを制作することだったんです。それが、ユーザーが一生乗れるバイクを製作する上で大切なことだと思ってね。」
現在のファクトリーには、大型の NC 旋盤をはじめ大きな工作機械が数多くセッティングされている。しかし、最後の仕上げは人間の手作業だ。そのノウハウは簡単には語れないと梅津さんは言う。フルオートメーションかと思う大型機械でさえ、その日の気温や湿度でも素材の変化があり、金属の性質や機械のクセを細かく把握していないと、本当の意味での良質なパーツは生み出すことができないのだ。それは長年こだわりのパーツ製作を続けている KEINZ だからこその厳しいチェックポイントであり、生みだされるパーツには独特の個性が表現されているのである。それは言わば「男の作る料理」と梅津さんは表現する。素材や加工方法には徹底的なノウハウをつぎ込み、仕上げの手作業でも腕を振るう。まさに男の料理方法で仕上がったパーツは、珠玉の輝きを放つことになるのだ。
長く使っても輝きを失わない良質な性能。KEINZ が付き合うのはユーザーだけではなく、カスタムを得意とするバイクショップである。その高い品質は多くのリピーターを生み、その結果、ユーザーは “一生乗り続けられるバイク” を手に入れることになるのである。
KEINZの代表的なパーツと言えば、キャブレターのエアーファンネルであろう。『パワーファンネル』 と命名されたアルミ削り出しのパーツは、長年の経験から生み出された複合曲面を持つ独特のファンネル形状であり、そのフィニッシュワークは「美しい」の一言に尽きるものだ。長さは様々に取り揃えられ、高回転型エンジン特性に最適なショートから、低速トルク重視のロングまで、数多くラインナップされている。主にカワサキのゼファー750やゼファー1100、ZRX1100、ZRX1200、それに Z1 や Z2 といった車種用を多数ラインナップしている。
その他にもブレーキのキャリパーブラケットやトルクロッド、ヘッドライトステー等、リクエストの多い機能パーツを自社工場で数多く生産してい る。“100%メイドインジャパン”というこだわりも強い。
住所/福岡県糸島市志摩桜井8-13
電話/092-327-3502
営業時間/10:00-17:30
定休日/日曜、祭日
福岡市内から少し離れた自然豊かな場所にあるファクトリー。糸島という場所は数々のアーティストが居を構え、糸島ブランドとしての個性を発進しているエリアでもある。そのファクトリーから生み出される数々のパーツは、常に高品質で個性的な輝きを失わないのである。