積み重ねられたノウハウをベースに柔軟で新しい発想を加えて進化を続ける
取材協力/Kabuto  取材・写真・文/木村 圭吾  構成/バイクブロス・マガジンズ編集部
掲載日/2014年4月25日
1990年代後半、ヘルメットの世界に “革命” を起こしたのが Kabuto の製品である。いち早く “空力” の考えを取り入れ、今となっては当たり前の装備である『トップベンチレーション』や『エアロベンチレーションフィン』、『ウェイクスタビライザー』などの空力デバイスを採用した製品をリリースしてきたのだ。その後も Kabuto は進化を続けており、最良への追求は留まることを知らないのである。

INTERVIEW

いち早く取り組んだ空気の見極め
それはヘルメットの世界に革命を起こした

2014年春の大阪・東京モーターサイクルショーでお目見えしたフルフェイスヘルメットが Kabuto の RT-33(アールティー・サンサン)だ。大ヒットとなったエアロブレード・3(※1)とフラッグシップのFF-5V(※2)のハイブリッドとも言える位置づけのモデルだ。その開発に携わった南 裕之さんに同社の製品作りについて伺った。

 

「エアロブレード・3は、私どもの予想を超えた多くのユーザー様にご愛用いただけるようになりました。このモデルのコンセプトは、“ズバリ! ツーリングユース” です。そのために適したヘルメットはどうあるべきかを考えて、そのために徹底的な軽量化を目指しました。重いヘルメットでは首に負担がかかって疲労の元になりますし、また万が一のアクシデントの際にも軽いほうが有利です。重ければ、慣性の法則によって衝撃力が増すからです」

 

その軽さに大きく貢献しているのが、シェル(ヘルメットの外側)の構造だ。Kabuto では、FF-5V を開発する際に全面的に見直し、一から探っていったとのことである。その結果、生み出されたのが『A.C.T.(高強度複合素材帽体)』だ。ヘルメットのシェルは見た目からではわかりにくいが、単層ではなく幾重もの層で構成されている。その素材は何種類かあり、組み合わせとなると相当数になることは想像できるだろう。その中からさまざまなテストや検証を経て、モデルに合わせて最適な組み合わせが採用されているのである。

 

「エアロブレード・3では、穏やかなフィット感とでも言いましょうか、被った際に頭部や頬の締め付けがキツくならないようにしています。いくら軽くても、締め付けられて頭が痛くなっては魅力が半減してしまいますから。“ツーリングで一日中かぶっていても苦にならないから、ライディング時の集中力が損なわれない” という面からも安全性に寄与します。ヘルメットをかぶる、脱ぐも容易にしていますし、内装には眼鏡用のスリットも設けました。

 

オージーケーカブト開発部 製品開発課 課長の南 裕之さん。歴代の製品や現行製品のラインナップがズラリと並ぶ同社のショールームにてお話を伺った。手にしているのが、ニューモデル RT-33 だ。

空力の解析から、後部にフィンを装着した最初のモデルが 1999年に発売された手前のラグレスだ。その後、FF-3、FF-4、FF-5、FF-5V へと進化してきている。

雑誌の最高速チャレンジ企画用に、ヘルメット後部を長く伸ばしたオリジナル仕様 RGX-MAX を製作。ライダーが空力の優秀さを実感したことで、ヘルメットにおける空力の研究をさらに進めていくきっかけとなった。

社内にある風洞実験装置。写っているのはごく一部分であり、大型トラックが丸ごと入りそうな大きさの部屋にたくさんの機器が置かれている。風圧による力のかかり方が数値として現れるのはもちろん、ヘルメットに糸を貼り付けて視覚的にも風の流れを調べる。

FF-5V は、エアロブレード・3とは真逆に近いポジションです。レース使用を前提としていて、かぶったり脱いだりも少々難しいです。その代わりに “MotoGP マシンで 300km/h 出してもブレない” スペックとしています。四輪レースカーのように、乗り降りの際にハンドルを外さなければならない、そんな感じです。レースをするためにはしかたがないけれど、日常的ではありませんね。

 

RT-33 は、2つの中間を埋めるモデルとなっています。国内外の規格を満たし、国際レースにも出場可能なスペックを有しながらも、ツーリングにも使える。“自走してサーキットに行って、コースでフルスロットル&フルバンクを楽しんで、また自走して帰る” そのような状況をイメージしていただければ良いかと思います。

 

3つのモデルにはすべて、当社の得意とする『空力』の考えを取り入れています。あまり知られていませんけどね(笑)。風洞実験装置の導入も先駆けていたと自負しています。20年以上前には、最高速アタック用に後ろの裾の部分を伸ばした形状のヘルメットも、スペシャルで製作しています。風洞実験の目的は “ヘルメットそのものの空気抵抗の減少と、走行時に安定性を増す” ことです。

 

そこで辿り着いたのが、ラグレス(※3)で採用した後部への『エアロブレードフィン(※4)』の装着でした。当初はキワモノ扱いでしたが、その効果は徐々に認められていきました。我々としては風洞実験で研究しているのですから、当たり前と言えば、当たり前なのですが……。当時のトップライダーからも、首が安定するという評価をもらいました。空力の研究を進めていくうちに FF-5 の開発段階で、大学の航空分野の第一人者(教授)から協力を得られまして、そこでまた我々には思いつかなかったアイディアをもらい、実現することができました。それが『ウェイクスタビライザー(※5)』です。

 

アクシデントの際に衝撃が加わると、エアロブレードフィンなどは割れて外れるようになっています。実際のレースでは、エアロブレードフィンが潰れることでも衝撃を吸収しているようで、脳震盪を起こさずに済んだという話もあって、これは予想外の副産物でした。余談ですが、イギリスでレース規格を取得する際に、丸くないことになかなか理解を得られませんでした。そのため、認証テストラボまでヘルメットを大量に持って行き、目の前で机の角にヘルメットを叩きつけてエアロブレードフィンを割って見せ、『問題ないやろっ!』と認めさせたこともありました」

 

「風洞実験では、ベンチレーターの効果も重要な項目のひとつです。“効率良くヘルメットの内部に外気が入り、頭部を冷やして排出される” そのような位置や大きさを設定しています。RT-33 のテーマは、国際レースにも出場可能なスペックを持っていることですが、さらに今回は初のチャレンジとして日本仕様での『ECE 規格の取得』を目指しました。これは本場であるヨーロッパの規格で、他の JIS、SG、スネルにはないテストもあります。例えば、あごへの衝撃に耐えられるかとか、縁石を想定した落下試験です。その一方で、側頭部への落下テスト位置が他の規格よりかなり低いなど、バイクに適したテスト方法を採り入れている規格だと思いますね。もちろん、日本国内のレースにも使える MFJ の公認も取得しています。

 

ヘルメットは、いろんな要素が入っている製品です。素材では、繊維とプラスチック樹脂と布と金属の組み合わせです。頭の形や、耳の聞こえ方も人によって違います。数字には現れない、人間のフィーリングも重要です。それに、安全規格をパスしなければならないという命題があって、開発するのがホントに大変なんですよ(笑)。だから、膨大なノウハウが必要。売れているからといって、他業種が簡単に参入できる分野ではありません。“形だけ” をコピーすることは可能でしょうが……。

 

当社は 1983年に最初のフルフェイスタイプヘルメットを作り、それから今日に至るまでの積み重ねたノウハウがあります。これからも機能性と安全性を追求した製品を、アタマを柔らかくして、また新たな発想を加えて送り出していきたいですね」

 

※1 エアロブレード・3/2012年4月発売。『この軽さ、次世代へ』のキャッチコピーで業界に衝撃を与えた超軽量モデル(参考重量/1,350g)。

※2 FF-5V/進化した空力デバイスを装備するフルスペック・レーシングモデル(SNELL 規格、FIM 公認)。

※3 ラグレス/1999年発売。空力の解析から後部にフィンを装着した最初のモデル。その後、FF-3、FF-4、FF-5、FF-5V へと進化してきている。そのフォルムは世界的にも斬新で、コピー商品も多数出回ったほど。

※4 エアロブレードフィン/ヘルメット帽体の後頭部に装着した空気整流パーツの名称。空気抵抗を減らし、安定性を増す効果がある。

※5 ウェイクスタビライザー/帽体後下部にスタビライザーを設けることで、ヘルメット後部で発生する気流の乱れを整える Kabuto の特許システム。エアロブレードフィンはパーツ名称だが、こちらは機能効果の名称。

代表的なのが落下テストだ。2階の天井くらいの高さから落として、衝撃の吸収性や貫通性を調べる。開発段階でも行われているが、発売されている製品についても抜き取りテストが実施されており、その全体量は年間 2000個にもなる。

あごひもの強度テスト装置。強い力で引っ張って、破断の有無を調べる。これ以外にも、温度の影響を調べるために低温や高温の状態で長時間置いたり、水に浸した際の強度変化を測定したりと、想像以上に多角的なテストが行われている。

PICKUP PRODUCTS

ヘルメットがライダーの手に届くまで
開発?テスト?生産の模様

ヘルメットが開発からテストを経て、製品として量産される様子をピックアップして見てみよう。ライダーがヘルメットを手にするまでには、さまざまな『人の手』が関わっている。

 

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BRAND INFORMATION

Kabuto(株式会社オージーケーカブト)

住所/大阪府東大阪市長田西6-3-4
Tel/06-6747-8031

1948年に大阪グリップ化工株式会社(現 オージーケー技研株式会社)として設立され、1982年に独立すると同時にバイク用、自転車用ヘルメットの製造販売を開始。2006年に現在の株式会社オージーケーカブトに社名変更した。革新的なヘルメットを送り出すブランドとして『Kabuto』の名は海外のライダーからも注目される存在となっている。