鋳物業を営んでいた阿部金属工業所を前身に、オートバイ用補修部品や荷台などのアフターパーツ開発を行ってきた大阪単車用品工業株式会社。『ハリケーン』とは同社におけるブランド名だ。バイクブームとともに歴を紡ぎ、特にハンドル周りのパーツで大きく認知度を上げていった。半世紀を越える長い歴史にあっても、基本となる物作りは“誠実”の一言だ。
阪神工業地帯の中にあって、高い技術を持つ町工場が多い東大阪エリア。人工衛星の開発でその名を知った人も多いだろう。そんな街の特性を活かし、材料調達をはじめ、表面処理、金型製作など、職人の手で作り上げている。それらはジャパンメイドと言うだけでなく、メイドイン東大阪と言うにふさわしいもの。昨今、特に注目される日本の職人技術。それがハリケーンでは受け継がれているのだ。
技術力の高さは、過去の手法だけでなく最新の機械の導入にも表れている。最新型のマシンと歴史を重ねた機械。いずれも使いこなし、常に技術改善が行われている。ユーザーへ安全で高品質な製品をストレス無く届ける、というこだわりで製作のみならず、製品管理や在庫管理も徹底している。いずれも安易な手法に頼ることなく、ひとつひとつ、地道な努力でクオリティの向上を計っている。ハリケーン製品は、そうした多数の努力の集合体と言えるだろう。
【写真①】現社長と工場長の幼年時代の写真。右手に見えるのが当時輸出向けに生産していたというマフラー。【写真②】過去にモーターサイクルショー出展のために製作されたヤマハSR。いま見ても斬新なこの車両は、先代、そして今の社長を支えるベテラン社員、樋口さんの手によるもの。【写真③】社内最大で最古参のプレスマシン。【写真④】導入されたばかりの最新CNCパイプベンダー。モーター直結の可動部により高い精度を誇る。【写真⑤】近年では、ビッグバイクのパーツ展開を積極的に行っている。写真はBMW S1000RR(2012)用バーハンドルkit。
相談役 阿部 泰和さん
「元々は鋳物屋やったんですよ。聞いた話では、イギリスからサンプルを取り寄せてジャッキを作ったりしてたみたいですね。戦争が終わっていつの頃からかオートバイの部品を作るようになって。最初はマフラーを作ってたんですよ。ダイハツのツバサとか、キャブトンとか。当時はバイクメーカーが乱立していた時代だったんだけど、メーカー自体が補修部品まで手がまわらなかったんやね。それで結構売れたわけ。あと、オートバイのキャリアは、当時から作ってましたね。まだ“最高速度”よりも“積載量”が大事な時代だったんで(笑)」
その後、JOGやDioなどのスクーター用チャンバーを皮切りに、オリジナルパーツの開発を開始。そしてハリケーンの代名詞ともいえるセパレートハンドルが登場する。
「セパハンを作りはじめたのは、1980年頃かな。トマゼリとかの固定式のセパハンはあったけど、うちは最初から可変式でした。元々はセパハンが滑って回らないようにと、セレーションを切ったんですよ」
そうしてチャンバーに続いてセパレートハンドルも大ヒット。折しもバイクブームとともにその名をとどろかせていくこととなる。空前のレースブームでもあり、ハリケーンもミニバイクレースから鈴鹿8耐、F1(現在のスーパーバイク)へと参戦していった。
「社内チームだったので、ライダーからメカニックまで全員従業員でした。だからワークスなんかには全然かなわなくてね。マシンの重量もパワーも全然違うから。仕事終わってから整備をして、お金もかかったし、遠征も多くてね。お金が無いから健康ランドに泊まったり。数年はやりましたね。会社にもおらんと走り回ってて、今そんなんやったらやっていけんちゃうかな(笑)」
樋口 裕二さん
「19歳の夏にアルバイトに来て、翌年の4月に正社員になりました。物作りがやりたかったんです。もちろんバイクは好きですよ。ただそれ以上に物作りに興味があったのでこの会社に来ました。なんの技術もわからない、工具の名前もわからない状態で入って、ヤスリのかけ方から溶接のやり方、治具や金型の作り方まで、全て会長(相談役)に教えてもらいました。会長の技術はやっぱりすごいですね。人に教えるようになって、そのすごさがよりわかります。厳しい人でしたね。厳しいけど優しかった。でもやっぱり認めてくれるところは認めてくれる。職人の最大の武器は技術でも知識でもなく、努力すること。それを教えられましたね。
今の社長は、僕が入社したときにはまだ小学生だったんですよ。幼い頃から我々の仕事を見ていたせいか、今でもよく目が届いていますね。作業の進行や、健康なんかも非常に気を遣ってくれる。従業員とすごくコミュニケーションがとれていますね。会長の頃は一方的だった(笑)。
これからは、今まで以上にコミュニケーションをとって、工場を見渡して叱咤激励してくれるような、それで会社も大きくしてもらったらいいと思います。会社の成長は、もちろん我々従業員にも課せられたものだと思いますから、一緒にね」
代表取締役 阿部 豪人(たけひと)さん
現場主義、職人としての色合いを強く持った父の後を継ぎ、社長になった阿部家長男の豪人さん。小さい頃から見守ってきた家業を背負い、新しいスタイルの社長としてハリケーンのこれからを考えている。特に大きな変化は、全社員をあげての自由な意見交換の場を作ったことだろう。
「うちは奇数週の土曜は出勤なんですが、その朝に必ず全体会議をやっているんです。新製品とか開発の話は当然ですけど、それ以外にも品質の向上や工程の改善とか、そういうのを現場や営業とか関係なしに意見を出し合うようにしています。ハンドルなんかは、思いついたらすぐに試作出来ますし。そうやって作ったものが製品になって、街で見かけたバイクについていたら嬉しいじゃないですか。そういう喜びを感じて欲しいので、出来るだけ自分は黒子にまわるっていう気持ちですね」
新たなスタイルを取り入れつつも、先代から続く長所も大切に護られている。例えば品質。メイドイン東大阪、メイドインジャパンへのこだわり。技術者を大事にすること。そして意外な点では、5300アイテム以上に及ぶ在庫の管理も、先代から続く大事な要素だと言う。
「うちの特長として、欠品率の低さがあるんですよ。それは先代の頃からですね。自社で管理している強みでもあります。究極的な目標は、欠品ゼロ。とにかくお客さんに迷惑をかけたらあかん、と。うちはなかなか廃盤にしないし、新商品も増えているので大変ですけどね。
あと、数年前からラベルに“メイドインジャパン”って入れるようにしたんですよ。最初から入れればいいのに、今までやってなくて(笑)」
昭和の時代とは、また違った意味で大きく激動していくバイク業界。その中で、ハリケーンはこれからどうしていくのか? どうなっていくべきか? 最後に、ハリケーンのこれからについても聞いてみた。
「これからも様々なライダーが自分の体型や志向、好みに合わせてハンドルポジションを変更して効果を実感したり楽しめたりできる製品を、長年のノウハウを生かして作り続けることが基本。ハンドルポジションのカスタムを気軽にわかりやすくできるよう提案していくことも大事ですね。
今後はとくに大型車や輸入車のパーツを充実させていかなければならないと思っています。フェンダーレスkitやリアキャリアなどでは大型車向けのラインナップを拡大しています。
バイク人口の高年齢化が進んでいますが、チャンバーやセパハンをイメージしていただいている世代とは別に、認知度が低いと思われる若年層に対してハリケーンというメーカーに興味を持ってもらえるような活動も将来を見据えてやっていく必要があります。
今回のWEB記事もそのひとつですし、2013年の鈴鹿8耐MOTOMAXカスタムビレッジには初めて出展しました。2015年には創業60周年を迎えるので、モーターサイクルショーにも出展したいですね」
ハンドル1本作ると言うと、そんなに難しそうには思われないかもしれないが、実際には材料の向きひとつで仕上がりや強度に大きな差が出てしまう。それだけにチェックには余念が無く、パイプの自動研磨、メッキなどの工程から戻ってきた時も、必ず念入りな確認を行うことで、実質的に全ての工程において検品をしているのと同様の体制を作り上げている。ひとつのハンドルが完成に至るまでに約1~2ヵ月。もちろん材料を含め、外注加工は基本的に東大阪エリアの協力工場によるもの。長年にわたる付き合い、そして研鑽された技術により、安全で高品質なパーツを作り上げているのだ。そうしたハリケーンの生産工程を、ハンドルを例に見てみよう。
基本となるセパレートハンドルは、ノーマルよりも攻め込んだスタイルにしてくれる。またセレーション部は共通なので、それらを組み合わせることであらゆるハンドル角度を作り上げることができる。ジュラルミン削り出しのセパレートハンドルは、ノーマルよりも垂れ角がマイルドな設定。スタイルは変えず、通勤などの日常使いからツーリングまで、様々なシーンでの快適さを向上してくれるのだ。そのほかバーハンドルkitなど、あらゆるハンドルが用意されている。ハリケーンの特長は、とにかくラインナップが豊富で、どれもユーザー本位なのだ。
HURRICANE(ハリケーン)
大阪単車用品工業株式会社
住所/大阪府東大阪市高井田本通3-3-6
電話/06-6781-8381(代)
営業時間/8:00-17:00
定休日/日曜、祭日、第2・4土曜日
ハンドル周りのパーツを中心とする老舗パーツメーカー。長年に渡って作り続けてきたことによる経験値、蓄積された数値データなどは同社の誇る財産のひとつ。そして卓越した技術力と、在庫を含めた製品管理意識の高さも特筆もの。安全で質の良い、オートバイライフをより充実させるパーツ作りを行っている。今後は大型車や輸入車のパーツ展開に目が離せない、実力派メーカーだ。