取材協力/大阪単車用品工業株式会社(ハリケーン) 取材・文/motortoon  撮影/若林 浩志
構成/バイクブロス・マガジンズ編集部
掲載日/2014年2月26日
東大阪を拠点に、職人による高い技術力、そして材質選びまで徹底した、高い安全性とクオリティを持つ『HURRICANE(ハリケーン)』。ブラックとゴールドで仕上げられたセパレートハンドルのお世話になった人も多いだろう。セパレートハンドルでありながら快適なポジションを実現したジュラルミンセパレートハンドルシリーズやバーハンドルkitをはじめ、多彩なラインナップを展開している。ハンドル周りのアフターパーツメーカーとして、業界を牽引する存在だ。

FEATURE

ジャパンメイド、そしてメイドイン東大阪
ハリケーン製品に込められた作り手の想い

鋳物業を営んでいた阿部金属工業所を前身に、オートバイ用補修部品や荷台などのアフターパーツ開発を行ってきた大阪単車用品工業株式会社。『ハリケーン』とは同社におけるブランド名だ。バイクブームとともに歴を紡ぎ、特にハンドル周りのパーツで大きく認知度を上げていった。半世紀を越える長い歴史にあっても、基本となる物作りは“誠実”の一言だ。

 

阪神工業地帯の中にあって、高い技術を持つ町工場が多い東大阪エリア。人工衛星の開発でその名を知った人も多いだろう。そんな街の特性を活かし、材料調達をはじめ、表面処理、金型製作など、職人の手で作り上げている。それらはジャパンメイドと言うだけでなく、メイドイン東大阪と言うにふさわしいもの。昨今、特に注目される日本の職人技術。それがハリケーンでは受け継がれているのだ。

 

技術力の高さは、過去の手法だけでなく最新の機械の導入にも表れている。最新型のマシンと歴史を重ねた機械。いずれも使いこなし、常に技術改善が行われている。ユーザーへ安全で高品質な製品をストレス無く届ける、というこだわりで製作のみならず、製品管理や在庫管理も徹底している。いずれも安易な手法に頼ることなく、ひとつひとつ、地道な努力でクオリティの向上を計っている。ハリケーン製品は、そうした多数の努力の集合体と言えるだろう。

 

【写真①】現社長と工場長の幼年時代の写真。右手に見えるのが当時輸出向けに生産していたというマフラー。【写真②】過去にモーターサイクルショー出展のために製作されたヤマハSR。いま見ても斬新なこの車両は、先代、そして今の社長を支えるベテラン社員、樋口さんの手によるもの。【写真③】社内最大で最古参のプレスマシン。【写真④】導入されたばかりの最新CNCパイプベンダー。モーター直結の可動部により高い精度を誇る。【写真⑤】近年では、ビッグバイクのパーツ展開を積極的に行っている。写真はBMW S1000RR(2012)用バーハンドルkit。

現社長と工場長の幼年時代の写真。右手に見えるのが当時輸出向けに生産していたというマフラー。

過去にモーターサイクルショー出展のために製作されたヤマハSR。いま見ても斬新なこの車両は、先代、そして今の社長を支えるベテラン社員、 樋口さんの手によるもの。

導入されたばかりの最新CNCパイプベンダー。モーター直結の可動部により高い精度を誇る。

社内最大で最古参のプレスマシン。

近年では、ビッグバイクのパーツ展開を積極的に行っている。写真はBMW S1000RR(2012)用バーハンドルkit。

INTERVIEW

オートバイ用パーツメーカーとして59年の歴史(2014年現在)を持つハリケーン。その歴史は戦後オートバイ業界、そしてアフターパーツの発展とほぼイコールと言えるだろう。そうしたハリケーンのこれまでとこれからを、先代社長であり現在の相談役でもある阿部泰和さん、現社長である阿部豪人さん。そして2人をつなぐキーパーソンとして、勤続33年になる現役最古参社員の樋口さんに話を伺った。

「商売がきついとは思わなかったね。
苦労と言うよりは楽しかった。」

相談役 阿部 泰和さん

「元々は鋳物屋やったんですよ。聞いた話では、イギリスからサンプルを取り寄せてジャッキを作ったりしてたみたいですね。戦争が終わっていつの頃からかオートバイの部品を作るようになって。最初はマフラーを作ってたんですよ。ダイハツのツバサとか、キャブトンとか。当時はバイクメーカーが乱立していた時代だったんだけど、メーカー自体が補修部品まで手がまわらなかったんやね。それで結構売れたわけ。あと、オートバイのキャリアは、当時から作ってましたね。まだ“最高速度”よりも“積載量”が大事な時代だったんで(笑)」

 

その後、JOGやDioなどのスクーター用チャンバーを皮切りに、オリジナルパーツの開発を開始。そしてハリケーンの代名詞ともいえるセパレートハンドルが登場する。

 

「セパハンを作りはじめたのは、1980年頃かな。トマゼリとかの固定式のセパハンはあったけど、うちは最初から可変式でした。元々はセパハンが滑って回らないようにと、セレーションを切ったんですよ」

 

そうしてチャンバーに続いてセパレートハンドルも大ヒット。折しもバイクブームとともにその名をとどろかせていくこととなる。空前のレースブームでもあり、ハリケーンもミニバイクレースから鈴鹿8耐、F1(現在のスーパーバイク)へと参戦していった。

 

「社内チームだったので、ライダーからメカニックまで全員従業員でした。だからワークスなんかには全然かなわなくてね。マシンの重量もパワーも全然違うから。仕事終わってから整備をして、お金もかかったし、遠征も多くてね。お金が無いから健康ランドに泊まったり。数年はやりましたね。会社にもおらんと走り回ってて、今そんなんやったらやっていけんちゃうかな(笑)」

ベテランが見てきた2人の社長
そのスタイルの違い

樋口 裕二さん

「19歳の夏にアルバイトに来て、翌年の4月に正社員になりました。物作りがやりたかったんです。もちろんバイクは好きですよ。ただそれ以上に物作りに興味があったのでこの会社に来ました。なんの技術もわからない、工具の名前もわからない状態で入って、ヤスリのかけ方から溶接のやり方、治具や金型の作り方まで、全て会長(相談役)に教えてもらいました。会長の技術はやっぱりすごいですね。人に教えるようになって、そのすごさがよりわかります。厳しい人でしたね。厳しいけど優しかった。でもやっぱり認めてくれるところは認めてくれる。職人の最大の武器は技術でも知識でもなく、努力すること。それを教えられましたね。

 

今の社長は、僕が入社したときにはまだ小学生だったんですよ。幼い頃から我々の仕事を見ていたせいか、今でもよく目が届いていますね。作業の進行や、健康なんかも非常に気を遣ってくれる。従業員とすごくコミュニケーションがとれていますね。会長の頃は一方的だった(笑)。

 

これからは、今まで以上にコミュニケーションをとって、工場を見渡して叱咤激励してくれるような、それで会社も大きくしてもらったらいいと思います。会社の成長は、もちろん我々従業員にも課せられたものだと思いますから、一緒にね」

創立60周年を迎える
ハリケーンのこれから

代表取締役 阿部 豪人(たけひと)さん

現場主義、職人としての色合いを強く持った父の後を継ぎ、社長になった阿部家長男の豪人さん。小さい頃から見守ってきた家業を背負い、新しいスタイルの社長としてハリケーンのこれからを考えている。特に大きな変化は、全社員をあげての自由な意見交換の場を作ったことだろう。

 

「うちは奇数週の土曜は出勤なんですが、その朝に必ず全体会議をやっているんです。新製品とか開発の話は当然ですけど、それ以外にも品質の向上や工程の改善とか、そういうのを現場や営業とか関係なしに意見を出し合うようにしています。ハンドルなんかは、思いついたらすぐに試作出来ますし。そうやって作ったものが製品になって、街で見かけたバイクについていたら嬉しいじゃないですか。そういう喜びを感じて欲しいので、出来るだけ自分は黒子にまわるっていう気持ちですね」

 

新たなスタイルを取り入れつつも、先代から続く長所も大切に護られている。例えば品質。メイドイン東大阪、メイドインジャパンへのこだわり。技術者を大事にすること。そして意外な点では、5300アイテム以上に及ぶ在庫の管理も、先代から続く大事な要素だと言う。

 

「うちの特長として、欠品率の低さがあるんですよ。それは先代の頃からですね。自社で管理している強みでもあります。究極的な目標は、欠品ゼロ。とにかくお客さんに迷惑をかけたらあかん、と。うちはなかなか廃盤にしないし、新商品も増えているので大変ですけどね。

 

あと、数年前からラベルに“メイドインジャパン”って入れるようにしたんですよ。最初から入れればいいのに、今までやってなくて(笑)」

 

昭和の時代とは、また違った意味で大きく激動していくバイク業界。その中で、ハリケーンはこれからどうしていくのか? どうなっていくべきか? 最後に、ハリケーンのこれからについても聞いてみた。

 

「これからも様々なライダーが自分の体型や志向、好みに合わせてハンドルポジションを変更して効果を実感したり楽しめたりできる製品を、長年のノウハウを生かして作り続けることが基本。ハンドルポジションのカスタムを気軽にわかりやすくできるよう提案していくことも大事ですね。

 

今後はとくに大型車や輸入車のパーツを充実させていかなければならないと思っています。フェンダーレスkitやリアキャリアなどでは大型車向けのラインナップを拡大しています。

 

バイク人口の高年齢化が進んでいますが、チャンバーやセパハンをイメージしていただいている世代とは別に、認知度が低いと思われる若年層に対してハリケーンというメーカーに興味を持ってもらえるような活動も将来を見据えてやっていく必要があります。

 

今回のWEB記事もそのひとつですし、2013年の鈴鹿8耐MOTOMAXカスタムビレッジには初めて出展しました。2015年には創業60周年を迎えるので、モーターサイクルショーにも出展したいですね」

PICKUP PRODUCTS

入念なチェックと蓄積されたノウハウ
そして技術レベルの高さが美しい仕上がりを生む

ハンドル1本作ると言うと、そんなに難しそうには思われないかもしれないが、実際には材料の向きひとつで仕上がりや強度に大きな差が出てしまう。それだけにチェックには余念が無く、パイプの自動研磨、メッキなどの工程から戻ってきた時も、必ず念入りな確認を行うことで、実質的に全ての工程において検品をしているのと同様の体制を作り上げている。ひとつのハンドルが完成に至るまでに約1~2ヵ月。もちろん材料を含め、外注加工は基本的に東大阪エリアの協力工場によるもの。長年にわたる付き合い、そして研鑽された技術により、安全で高品質なパーツを作り上げているのだ。そうしたハリケーンの生産工程を、ハンドルを例に見てみよう。

 

パイプを自動研磨機によって粗工程から仕上げまで、設定を変えて何度も通し、素材を作り上げていく。ここで最終的な仕上がりが変わると言われるほど、重要な作業だと言う。使用される材料自体も、幾度ものテストを通過した、厳選されたもののみを使用している。

溶接ハンドルなどの場合、パイプを決められた角度に切断し、製作するハンドルのサイズに合わせた最適な長さにする。切断する前には、当然のように仕上がりのチェックが行われる。一見すると単純な作業だが、この段階でもすでに職人の経験やノウハウは表れてくるのだ。

カットされたパイプは、十分な確認を経て刻印打ちされる。打ち込まれるのは4桁の品番であり、ハンドル交換時の参考にもなる。また、正確に中心へ打ち込むことで、ハンドルのセンター出しにもなっているのだ。2桁目と3桁目の中心がセンターになる。

最新のCNCパイプベンダーを使った曲げ加工。数値を入力すれば機械が自動的にやってくれるが、言うほど簡単なものではなく、パイプの芯に入るマンドレルと言われるジグの先端形状のチョイスや、長さの設定などにより、難しい角度の曲げを行うことが可能になると言う。また、この機械で出来ないような加工は、手動の旧型機も活用される。

ハンドルの種類によっては、溶接やスイッチ用の穴開けなどの工程も行われる。写真では、ハンドル自体を回転させることで、ムラのない正確な溶接でパイプ同士をつなげている。熟達した職人の溶接は、機械では出来ないような加工も可能。もちろん溶接箇所や形状などによって、様々な溶接方法を使用される。

溶接が終わると溶接痕を削り、滑らかに仕上げていく。ただし、これもケースバイケースで強度や安全性などを考え、必要な部分を必要なだけ仕上げていかなければならない。ハンドル作りの専門家の知識と経験が活かされた作業とも言えるだろう。ちなみに、写真の製品はステンレス製マフラー。

曲げ加工を行ったことで、伸びた側は分子構造が荒れてしまう。そのままメッキに入れると伸び側の仕上がりに見劣りが出てしまうので、目と手で確認をしつつ、手磨きで仕上げていく。こうして均一に仕上げられることで美しいハンドルが生まれる。

最終仕上げであるメッキ加工。ハリケーンでは三層に重ねたニッケルの上にクローム層を張る、トリプルニッケル・クロームメッキを採用している。通常のクロームメッキよりも手間はかかるものの、仕上がりの美しさ、そして耐久性や耐食性にも優れる高品質なメッキなのだ。

トップブリッジなどのパーツは、マシニングセンタを用いて作り上げられる。マシニングは型を作らなくてもよいため、少量生産・多品種展開を行う上で生産コストを下げることが出来る。多彩なラインナップを展開するには欠かせない手法とも言えるだろう。

PRODUCTS

攻めのスタイルから快適スタイルまで
ライダーの理想を実現するハンドルラインナップ

基本となるセパレートハンドルは、ノーマルよりも攻め込んだスタイルにしてくれる。またセレーション部は共通なので、それらを組み合わせることであらゆるハンドル角度を作り上げることができる。ジュラルミン削り出しのセパレートハンドルは、ノーマルよりも垂れ角がマイルドな設定。スタイルは変えず、通勤などの日常使いからツーリングまで、様々なシーンでの快適さを向上してくれるのだ。そのほかバーハンドルkitなど、あらゆるハンドルが用意されている。ハリケーンの特長は、とにかくラインナップが豊富で、どれもユーザー本位なのだ。

セパレートハンドル

独自のアジャスタブル機構を採用。展開の豊富さも魅力。

ジュラルミン削り出しセパレートハンドル

垂れ角を0度に設定。ライディングの疲労を軽減してくれる。

ハンドルバー

7/8インチのミリバーと1インチバー、ミニ用などを展開。

ハンドルkit

車種専用でバーハンドルの交換に必要なパーツを同梱。

ケーブル、ホース、ハーネス各種

ハンドル交換の際に必要な各種延長アイテムも豊富。

タンデムグリップ

より快適なタンデム走行の必須アイテム。荷掛けにも便利。

フェンダーレスkit

リアビューをよりスマートに。専用ハーネスなども同梱。

シーシーバー

アメリカンの定番アイテム。車種用の取り付けプレートも。

BRAND INFORMATION

HURRICANE(ハリケーン)
大阪単車用品工業株式会社

住所/大阪府東大阪市高井田本通3-3-6
電話/06-6781-8381(代)
営業時間/8:00-17:00
定休日/日曜、祭日、第2・4土曜日

ハンドル周りのパーツを中心とする老舗パーツメーカー。長年に渡って作り続けてきたことによる経験値、蓄積された数値データなどは同社の誇る財産のひとつ。そして卓越した技術力と、在庫を含めた製品管理意識の高さも特筆もの。安全で質の良い、オートバイライフをより充実させるパーツ作りを行っている。今後は大型車や輸入車のパーツ展開に目が離せない、実力派メーカーだ。