
AMAスーパーバイクなどに参戦したGSレーサーが活躍した1970年代から、スズキ4スト直4エンジンとレースは密接な関係にある。MotoGPレーサー、GSX-RRもそんな1台。2017年シーズンの振り返りと、来る2018年シーズンへの抱負を語ってもらおう。
スズキがそれまでのV4エンジン・GSV-RレーサーでのMotoGP参戦を2011年で終了し、3年の休息の後、直列4気筒の新作エンジンを擁して復帰したのは2015年のこと。以来、シーズン毎に熟成が進み、2016年のイギリスGPではマーベリック・ビニャーレスのライドで9年ぶりの優勝を果たすまでになった。そして2017年、そのビニャーレスがアレイシ・エスパルガロと共に移籍し、新しくアンドレア・イアンノーネとアレックス・リンスの2名を獲得。シーズンを迎えた。
1979年にAMAスーパーバイクに出場したウエス・クーリーの、GS1000レーサーの出力は約133ps、40年後のGSX-RRは公称240ps。エンジンも車体も隔世の感がある。そのGSX-RRは2017年シーズン、前型のネガを克服しようとエンジンと車体の両面を見直しトラクションを上げたが、結果、シーズン中盤までハンドリングやブレーキングの問題に悩まされ、思うような成績に結びつかなかった。一方で2017年で積み上げたデータは来る2018年モデルにフィードバックされるはず。大きなジャンプアップに期待!
「2017年当初のマシン開発テーマは、前型での加速時のネガを克服するため、エンジン、シャシー全体を見直して、トラクションを上げることでした。シーズン前テストは良かったものの、レース本番では、それがハンドリングやブレーキングに悪影響を及ぼすと知ったんです。ライダーも違う、タイヤも違う……。何から手を付ければといった感じでした」(テクニカルマネージャー・河内 健さん)
GSX-RRの製作に携わる、スズキのMotoGPマシン開発チームリーダーの面々を紹介。左から評価チームの鈴木俊行さん、エンジン実験チームの辻村定之さん、エンジン設計チームの塚本友希さん、テクニカルマネージャーの河内 健さん、プロジェクトリーダーの佐原伸一さん、電装・制御チームの竹内道記さん、車体実験チームの松下太亮さん、車体設計チームの今野 岳さん。今回の取材は、代表として佐原さんと河内さんにお話を伺った
中でもコーナー進入時の不安定感は問題だったようだ。さらにシーズン序盤はリンスを怪我で欠き、頼みのイアンノーネも下位に低迷。苦しい立ち上がりだった。
「イタリアGP(第6戦)でミシュランタイヤのケーシングが戻り、カタロニア(第7戦)後のテストで問題が分かり、チェコ(第10戦)から、規則上、手を付けられないエンジン以外の箇所の改修を始め、第14戦アラゴンGPでカタロニアから投入したフレームに合うスイングアームを見つけた。やっとイアンノーネが自信を持って走れる状態になった。まさにゼロからの積み重ねに近いシーズンでした」(河内さん)
2017年第15戦・日本GPで空力アップデートを施した新カウルを装着。#29アンドレア・イアンノーネが4位のシーズンベストとなり、#42アレックス・リンスも5位に入る
そして第15戦、ツインリンクもてぎでの日本GP。雨も味方して、イアンノーネとリンスは表彰台にあと一歩と迫る、4位/5位を獲得した。そして日本GP後は、ドライコンディションでも調子を上げ、最終戦のバレンシアでも4位/6位で終えたのだった。
「パーツ面の対策もあるけれど、イアンノーネが続けてきてくれた、ウチのバイクに合わせた乗り方が実を結び始めた。日本GPでは鈴木俊宏社長がピットの中にまで応援に来てくれて、チームの士気もあがりましたね(笑)」(プロジェクトリーダー・佐原伸一さん)。
2017年のシリーズランキングは、イアンノーネが13位、リンスは16位。
「2018年はふたりとも継続して乗るので、今まで積み上げてきたものをカタチにできる年。シーズンオフの間にネガをつぶして、イアンノーネとリンスがトップ争いの中に割って入るレースがしたい。皆さんに応援してもらって、初めて僕らはレース活動ができる。スズキファンが増えるようにがんばります」(佐原さん)
シーズン後半で導入された、カイゼル髭風のダクトウイングが、2017年型GSX-RRをより個性的に引き立てる。ちなみに社内通称もヒゲらしい。ボリューム感を醸しつつも、最大ダウンフォースを得ながら側面積を小さくして、空気抵抗やハンドリングへの影響が少ないという。「まだ改善の余地があり、デザインも変わるかも」(佐原さん)というが、メガスポーツのハヤブサにはピッタリのデザインかも。レースと市販の現場が近いスズキ(実際、佐原さんは2017年型GSX-R1000の全体まとめ役からの転任だ)というから、導入もある?!
メーターは1パネルTFTで、外部接続端子も持つ。アッパーブラケットはアルミ鋳造品だが形状を隠すカーボンカバーが付く
左右マスターはブレンボラジアルで、右スイッチは青がローンチコントロール、赤がキル、黄がピットレーンリミッター。左はマップのチョイス用で青/赤のスイッチで選択する
他社より曲線的なカウル。日本GPからは、車体のやや低めの位置にダクトウイングを追加しダウンフォースを強化
リアショックはTTXタイプのオーリンズでストロークセンサーも見える
肉厚と形状を工夫し剛性を最適化したフレームはピボット部からも分かる
ブレーキディスクは前カーボン/後スチールで、前はブレンボキャリパー冷却用ダクトを装着。ホイールはMFR鍛造