「自分のマシンから発生するタイヤの “カス” から保護したい、と思ったのがラジエターコアガードの開発の動機ですね」と、エッチングファクトリー(冨士精密工業株式会社)代表の竹見升吾さん。それは竹見さんがサーキットライセンスの最高位である国際A級(当時)に昇格し、8耐に参戦した1994年のことだ。それまでのロードレースでは問題にならなかったラジエターコアの潰れが気になるようになったのである。その原因はストリートのような小石などによるものではない。自車のフロントタイヤが走行中に作り出すタイヤの削りカスが、ラジエターに当たっていたのである。コアが潰れれば、それだけ放熱能力が低下し、結果としてパワーダウンの要因にもなってしまう。そして何より、プライベーターとしては高価なレース用ラジエターを損傷させたくはなかったのだ。
「最初はホームセンターで金網を加工して取り付けてみましたが…」と竹見さん。結果的にそれは “無いよりはマシ” なレベルだったそうで、決して満足のいく物ではなかった。そこで、金網に変わる物はないか? と考え、行き着いた先が竹見さんの本業であった “エッチング” を用いてコアガードに仕立てることだったのである。
“1枚の板を自在に加工できる” エッチングの特色を活かし、最も当たりやすい中央部分は目を細かく、左右は冷却性能を損なわぬよう目を粗くするなど、独自の工夫がなされている。今ではその有効性が認められ、ワークスレーサーにも採用されるほどになった。サーキットのみならず、ストリートにおいても飛散物からラジエターやオイルクーラーを保護すると機能性と共に、ルックスの向上にも貢献するドレスアップ的な要素も持ち合わせているパーツと言えるだろう。
| エッチングファクトリー(冨士精密工業株式会社)代表の竹見升吾さん。国際ライセンスを持ち、夏の鈴鹿8耐にはライダーとして1994年から欠かさず参戦している。本文中にもあるように、8耐での経験からラジエター保護の必要性を感じ、コアガードの開発に至った。 |
『チームエッチングファクトリー』として、2012年も鈴鹿8耐に参戦。ベースとなっているマシンはヤマハYZF-R1で無事完走、34位の成績を残した。カウルなどの陰で見えないが、この車両にも当然同社のラジエターガードが装着されている。
エッチングを簡単に述べれば、金属を薬品で部分的に溶解させる手法である。身近なところでは電気機器のプリント基板が上げられ、銅やステンレス、真鍮などに加工が可能だ(ラジエターコアガードではステンレスが用いられている)。
エッチングは打ち抜いて作る “プレス” では不可能な目の細かいメッシュの製作も可能であり、またコストの掛かかる “金型” が不要なため、少量生産の製品ロゴなどにも応用されている。
では、実際にラジエターコアガードとして生み出されるまでにはどのような工程を経ているのか? を見てみよう。
採寸し、その寸法を入力してカッティングマシンでボール紙をカット。型紙を起こす。製品になったときに不具合が出ないかを検証する。
イラストレーターを用いてデザイン的な要素を決定し、それをパソコン上でデータ化する。
データ化された物を専用のフィルムに出力し、それを暗室で現像処理する。フィルムは表、裏の2枚が必要なため、現像終了後にそれを貼り合わせる。
感光剤が塗布されたステンレス板を、STEP.03 で貼り合わせたフィルムに挟み、紫外線ランプで焼き付け(片面ずつそれぞれ約150秒)を行い、その後現像処理する。
現像後のステンレス板を機械にセットし、腐食液(塩化第2鉄液)を吹き付ける。すると感光剤が残っている部分には腐食液が当たらず、腐食液が当たった部分だけが溶ける。
必要な部分に曲げの加工を行う。型紙の起こしから、最終工程の曲げに至るまで、エッチングファクトリーでは社内で一貫して行っている。
エッチングファクトリーでラジエター及びオイルクーラーのガードとして用いられているのは、厚さ 0.8mm のステンレス板だ。その薄さゆえに微細な穴を抜くことが可能であり、またその際にもバリの発生が極めて低いのも特色である。
ホームセンターなどで売られている焼き網などとの大きな違いは、1枚板で構成されていることにある。焼き網のような針金を組んだものでは、物が当たるとそこが凹んで他の部分が伸びる。そのためガードとしての機能が著しく低下してしまう。
ラジエターガードは機能的に相反する機能を併せ持ったパーツだ。プロテクション性を重視すれば網目は細かい方が良い。だが冷却性を考えれば、網目は逆に荒い方が良い。それを両立すべく考え出されたのが、中央と左右とで網目の大きさを変えることだ。そのようなことが可能なのも、エッチングならではと言える。その美しくも機能的なパーツの詳細を見てみよう。
メッシュ部分は六角形が連続した、いわゆるハニカム構造。これは開口率を稼ぐための合理的な手段だ。0.8mmの薄板のため、それぞれの穴がシャープに仕上がっているのも特色である。
フロントタイヤが巻き上げた物でヒットしやすい中央部分は目を細かく、左右の部分は目を粗くして冷却性能を確保している。穴の大きさや位置を自在に変えられるのエッチングならでは。
曲げの部分はプレスによって成形されている。採寸からエッチング、最終工程である曲げに至るまで、エッチングファクトリーでは一貫した製造を行っている。
エッチングは基本的にはステンレスの地色だが、こちらのように着色も可能。少量生産品のロゴなどにも活用されている。
XJR1300に装着されたオイルクーラーガード。ネイキッド系ならば、本来の機能であるオイルクーラーの保護と共に高いドレスアップ効果が得られるのも大きなメリットといえるだろう。
エッチングファクトリーのラジエターガードとサイドスクープが装着されたV-MAX。上下に設定されたラジエターの存在感が増し、エアインテーク部分もさりげなくドレスアップされている。
住所/大阪府東大阪市金岡3-22-32
電話/06-6721-1509
営業時間/10:00-17:00
定休日/土曜日、日曜日、祝日
1974年創業。元々は電子部品に向けてのエッチング製品を製造していたが、現代表の竹見氏が現役のレーサーだったこともあり、バイク関連の製品を手がけるようになった。エッチングを用いたラジエター&オイルクーラーコアガードの先駆け的な存在。
※表示価格はすべて税込みです
Z1000(2007-)用
ラジエターガード
?15,750.-
素材には研磨された厚さ0.8mmのステンレス(SUS304)を使用。中央部分のメッシュは細かく確実にラジエターをガードし、両サイドは目が粗く、冷却性能を確保。2003?06年モデル用もあり。
CB1300SF(2003-)/
SUPER BOLD'R(2005-)用
ラジエターガード
?15,750.-
CB1300SF(1998-2002)/CB1000SF(1992-97)用もあり。
GSX1300R(2008-)用
ラジエター&オイルクーラーガードSET
?29,925.-
ラジエターとオイルクーラーのガードのセット。1999?2007年式用もあり。
XJR1300/1300SP(1999-)用
オイルクーラーガード
?13,440.-
オイルクーラーの保護という機能性と共に、ネイキッドバイクならではのドレスアップ効果も高い。
V-MAX1700(2009-)用
ラジエターガードSET
?44,100.-
上下にセットされている2つのラジエターを保護するためのガード。
V-MAX1700(2009-)用
サイドスクープ
?5,250.-
エアインテークの入り口部分のガード。3つのタイプがある。