ドッグファイトレーシングとRPMが共同開発した250ccスポーツ専用リアショック
掲載日/2018年5月29日
取材協力/ドッグファイトレーシング 
撮影/富樫秀明  取材・文/中村友彦  構成/バイクブロス・マガジンズ
ドッグファイトレーシングとRPMが共同開発した250ccスポーツ専用リアショック

レース界の名門として知られる『ドッグファイトレーシング』が、2018年春から発売を開始したリアショックとステアリングダンパーは、台湾に本拠地を置く『RPM』との共同開発品で、250ccスポーツモデルの特性を考慮した“専用設計”となっている。大多数のショックメーカーが既存品の設計を転用して250ccスポーツモデル用を開発する中、同社が選択した手法は異例にして画期的と言えるだろう。

既存のリアショックとは一線を画する
専用設計されたRPMならではの美点

ドッグファイトレーシングとRPMが共同開発した250ccスポーツ専用リアショック

1980年代後半からライダー/メカニックとしてレース参戦を開始した室井秀明さんは、1996年に自身のショップであるドッグファイトレーシングを設立。当初はNSRやTZRといった2サイクル車を主軸していたものの、2000年以降はエンジン形式や排気量を問わずに、多彩なモデルを取り扱っている。

ドッグファイトレーシングと言ったら、レース界の名門、あるいは、ヤマハ系の有力チーム、という印象を抱く人が多いのではないだろうか。もっとも、同社は一般修理や車検整備も行っているのだが、代表の室井秀明さんは昔から大のレース好きで、これまでに数多くのライダーを献身的にサポートし、多種多様なパーツの販売も行って来た。そんな室井さんにとって、2015年に登場したYZF-R25はサーキットランの裾野を広げる絶好の素材で、このモデルの資質を高めるため、マフラーやFRPカウル、ハンドル、バックステップなど、ドッグファイトレーシングはさまざまなオリジナルパーツを開発。そして今年度からはそのラインアップに、台湾のRPMと共同開発したリアショックとステアリングダンパーが加わることになったのである。

ドッグファイトレーシングとRPMが共同開発した250ccスポーツ専用リアショック

2015年以降のドッグファイトレーシングはYZF-R25を擁して、全日本選手権とエリア選手権に参戦中。RPMと共同開発したリアショックとステアリングダンパーを実戦に投入したのは、2016年のシーズン終盤からで、以後は約1年半に渡って製品化に向けての仕様変更を行ってきた。

室井「リアショックとステアリングダンパーを自社で開発しようと思った一番の理由は、これまでに使ってきた製品に対して、心から満足していなかったからでしょう。とくにリアショックは、その意識が強かったですね。一般的なショックメーカーは、既存のボディを転用して250ccスポーツ用を製作していますが、その手法ではダンパー容量や各部のフリクション、コストなどという面で、何らかの妥協が生じるのが普通です。でも当社がパートナーシップを結んだRPMなら、妥協を排除した250ccスポーツ用が新規で専用設計できる。もちろん、私としてもこういった試みは初ですから、最初からすべてが上手くいったわけではないですが、約1年半の開発期間を経て、市販モデルが完成した現在は、他社製を上回る製品が作れたと自負しています」

ドッグファイトレーシングとRPMが共同開発した250ccスポーツ専用リアショック

GIIレーシングサスペンションのボディはアルミ削り出しで、上下取り付け部には抜群の精度を誇るスフェリカルベアリングが圧入されている。

ドッグファイトレーシングとRPMが共同開発した250ccスポーツ専用リアショック

さまざまな体格のライダー、あるいはさまざまなコースや乗り方に対応するため、プリロードはダブルナットによる無段階調整式を採用。

ドッグファイトレーシングとRPMが共同開発した250ccスポーツ専用リアショック

ボディ下部には工具不要で調整できるリバウンドダンパーアジャスターと、ローダウンをも視野に入れたハイトアジャスターが設置されている。

ドッグファイトレーシングとRPMが共同開発した250ccスポーツ専用リアショック

大容量リザーバータンクの上部に備わるのは、HI/LOの2系統に分かれたコンプレッションダンパーアジャスター。調整は六角レンチで行う。

ボディの主要部品がアルミ削り出しで、無段階のプリロードアジャスター、高速と低速で独立したコンプレッションダンパーアジャスター、リバウンドダンパーアジャスターを備えることは、他社のハイエンドモデルに通じる要素。ただし、ドッグファイトレーシングとRPMが共同開発したリアショック、GIIレーシングサスペンションは、ダンパー容量を250ccスポーツ用としてはかなり大きめに設定し、ハイトアジャスターにはローダウンをも視野に入れた機構を導入。それでいて価格は、他社製ハイエンドモデルを大幅に下回る13万8,240円(税込)に抑えられている。

室井「外観からはわかりませんが、伸び切り時に作用するトップアウトスプリングも、GIIレーシングサスペンションの特徴です。このスプリングの有無によって、ライディングフィールは大きく変わってきますが、既存のボディで導入するのは難しいので、他社ではまだ採用例が少ないですね。また、各アジャスターの調整幅が広いこともGIIならではの美点で、サーキットからストリートまで、このショックにはあらゆる場面に対応できる守備範囲が備わっています。価格が安く設定できた背景には、台湾の政策という事情があります。台湾はリサイクルシステムがきちんと確立されていて、パーツ切削時に出る切り粉を高額で引き取ってもらえるので、そのぶんを価格に反映できるんですよ」

ドッグファイトレーシングとRPMが共同開発した250ccスポーツ専用リアショック

GIIレーシングサスペンションと同じく、ドッグファイトとRPMが共同開発を行ったロータリー式ステアリングダンパー。価格は6万2,640円(税込)。

ドッグファイトレーシングとRPMが共同開発した250ccスポーツ専用リアショック

RPMではストロークタイプのステアリングダンパーも販売。室井さんによると、この製品の作動性と耐久性も非常に良好とのこと。価格は4万1,040円(税込)。

もっとも、世の中には台湾製という事実に、不安を感じる人もいるだろう。とはいえ、1987年から活動を開始したRPMは、これまでに足まわりを中心としたカスタムパーツを数多く販売しているし、近年では欧米メーカーの依頼を受けて、ショックユニットや削り出しパーツのOEM生産も行っているのだ。

室井「実際に共同開発をして初めてわかったのですが、RPMは非常に技術レベルの高いメーカーで、こちらの要求に確実に対応してくれますし、逆にRPMから提案を受けることもあります。事実、リアショックとほぼ同時期に開発が始まったロータリー式ステアリングダンパーは、RPMからの提案で、この製品でも既存のステアリングダンパーとは一線を画する、抜群の作動性と耐久性が実現できました。ステアリングダンパーに関しては、近年の250ccスポーツでは不要と考える人もいるようですが、ライディング中にステアリングを積極的に使うライダーにとっては、かなり有効な武器になります。短時間で車体の向きを変えるS字コーナーなどでは、フロントまわりの安定感が劇的に変わりますからね」

YZF-R25用の開発が一段落した段階で、ドッグファイトレーシングは2017年型以降のCBR250RRでも、RPM製リアショックとステアリングダンパーのテストに着手し、こちらもすでに製品化が決定している。そして今後は、ニンジャ250やYZF-R1/6用も開発する予定で、その作業をスムーズに行うため、工場内にRPMのオーバーホール&仕様変更ができる設備を導入。こういった製品開発に対する真摯な姿勢は、レースとチューニングの世界を熟知した、ドッグファイトレーシングならではと言えるだろう。

室井「オートバイの楽しみ方は人それぞれですが、私はサーキットランとレースを通して、この世界の楽しさを多くのライダーに知って欲しいと考えています。RPMのリアショックとステアリングダンパーは、その楽しさの一助になるパーツで、レースやタイムを意識していないライダーでも、各製品の効果は十分に体感できるし、ノーマルとは一線を画するスポーツライディングを楽しんでもらえるでしょう。なお近年の当社では、年に数回のペースで、ビギナーを対象としたサーキット走行会を開催していますので、これからサーキットランやレースを始めたいという方がいたら、ぜひとも気軽に参加して欲しいですね。もちろん、当社に来店しての整備やチューニングに関する相談は、いつでも大歓迎です」

ドッグファイトレーシングとRPMが共同開発した250ccスポーツ専用リアショック

ベテランライダーの参加も可能だが、ドッグファイトレーシングが年に数回のペースで主催しているサーキット走行会“Easy Try Circuit”は、主にビギナーと女性ライダーを対象としている。

ドッグファイトレーシングが開発した
YZF-R25用レーシングパーツ

ドッグファイトレーシングとRPMが共同開発した250ccスポーツ専用リアショック

フルカウル(4万9,600円・税込)やシングルシートカウル(3万780円・税込)、レーシングマフラー(9万5,040円・税込)、サブラジエターキット(9万7,200円・税込)など、ドッグファイトのオリジナルパーツを装着したYZF-R25レーサー。同社では新車に数多くのレーシングパーツを組み込んだコンプリートマシンも手がけており、ST250仕様(85万1,040円)、JP250仕様(134万7,840円・税込)も販売している。

ドッグファイトレーシングとRPMが共同開発した250ccスポーツ専用リアショック

タレ角が10度のハンドルセットは1万7,280円(税込)。ハンドルストッパーは4,320円(税込)で、アクティブと共同開発したハイスロットルキットは2万3,760円(税込)だ。

ドッグファイトレーシングとRPMが共同開発した250ccスポーツ専用リアショック

ドッグファイトレーシングとRPMが共同開発した250ccスポーツ専用リアショック

6カ所からポジションが選択できるレーシングステップキットは5万2,488円(税込)。撮影車はシフトロッドにクイックシフター用のセンサーを装着している。

ドッグファイトレーシングとRPMが共同開発した250ccスポーツ専用リアショック

十数年前から発売が始まったエンドレスのブレーキパッドは、ドッグファイトがほぼすべての機種用の開発を担当。YZF-R25用の価格は1万1,880円(税込)。

ドッグファイトレーシングとRPMが共同開発した250ccスポーツ専用リアショック

近年のドッグファイトは、スピードハートと共同で4サイクル用エンジンオイルを開発。第1弾はYZF-R25の性能を最大限引き出すために特化した商品で、粘度は5W-35。2Lボトルの価格は8,424円。

INFORMATION

住所/千葉県松戸市栄町西4-1195-4
電話/047-703-3030
営業/10:00-19:00
定休/火曜
定休/土曜、日曜、祝日
Email/info@linksofjapan.jp
1996年の創業当初からレースに力を入れて来たドッグファイトレーシングは、筑波/菅生/もてぎなどで開催されるエリア選手権で、これまでに何度もシリーズチャンピオンを獲得。近年は全日本選手権のJSB1000やST600でも好成績を収めている。とはいえ、同社ではストリートバイクの整備やチューニングも行っており、取材当日も保安部品付きの車両が数多く入庫していた。