取材協力/プロト 取材・撮影・文/木村圭吾 構成/バイクブロス・マガジンズ編集部
掲載日2011年12月15日
バイクはエンジンが作り出したパワーでリアタイヤを駆動させて前に進む。その伝達機構としてはいくつかの種類があるが、原付クラスからオーバーリッタークラスまで、スポーツバイクにおいて最も一般的な駆動形式が、前後のスプロケットとチェーンの組み合わせによるものだ。昔からそのメカニズムに大きな変化は無いが、その時々においてさまざまな改良が加えられて進化しており、これからも使い続けられることだろう。さまざまなメリットや特色を持つ駆動形式ではあるが、使い続けているうちにスプロケット、チェーン共に摩耗し、やがて交換が必要となる “消耗品” でもある。それが進むと、スプロケットでは刃先が忍者の手裏剣のように尖るようになり、チェーンは弛みが多くなる(俗に「伸びる」とも言う)。摩耗が目に見えて明らかだった場合、そこからは進行が早くなる傾向があるので、摩耗に気づいたら速やかに交換するのがベストである。
バイクにおける代表的な消耗品と言えばタイヤだろう。タイヤの場合、溝にいくつかの浅い部分があえて設けられ、「スリップライン」を表示させることで摩耗の程度と交換時期を視覚的に解りやすくしている。一方、スプロケットとチェーンには摩耗度を示すインジケーターのような部分は無く、またエンジンオイルのように、走行距離や時間などによって交換時期を管理するものでもない。その寿命は使用状況やメンテナンスの度合いによって異なってくるもの。目視によって交換時期を把握するしかないので、時にはチェックを兼ねて、スプロケットやチェーンのメンテナンス(クリーニングや注油)を行うべきなのだ。
※メンテナンスの際は事故防止のため、必ずエンジンはオフにすること(キーも抜いておいた方が確実)。また使用するケミカル類はチェーンのシール類を痛めないよう専用の物を使用すること!
摩耗が進んできたら前後のスプロケット、チェーン共に同時交換することを推奨したい。チェーンだけ交換するケースも見られるが、そうすると未交換のスプロケットに対してより大きな負担となり、摩耗がさらに進行してしまうからだ。
アファムの輸入元であるプロトでは、『プロトアファム』として前後スプロケットとチェーンを組み合わせた『車種別専用セット』を用意している。これはフロントスプロケット(エンジン側)がほとんど “オマケ” 的に付属してくるもので、お買い得なセット価格となっているのが嬉しいポイント。チェーンは車種ごとのリンク数に設定されたカシメ式。前後スプロケットの丁数(歯数)はスタンダードと同じ。また、リアスプロケット(ホイール側)のデザインは車種によって異なっている。
スプロケットの世界的なトップメーカー、それがアファムだ。1977年に開発を開始して以来、積み重ねられてきたノウハウは膨大であり、その信頼性は極めて高く、オンロードレースの最高峰であるモトGPにおいても相当数のトップクラスチームに採用され、ヨーロッパの車両メーカーを中心に純正装着されるなど、駆動系のリーディングブランドとして不可欠な存在となっている。
フロントスプロケット(エンジン側)は C45鋼を用いたスチール製で、耐久性に優れチェーンとのマッチングも最適。純正品を上回る品質の高さも特徴のひとつになっている。リアスプロケット(ホイール側)はアルミ合金製で、その素材は最高強度を持ち、航空機にも用いられる超々ジュラルミンA7057だ。それを削り出し、さらに T6加工(硬化熱処理加工)を施している。さらに表面には従来のアルマイトに比べて約1.5倍の表面硬度を持つハードアルマイト処理が施されており、優れた高度と耐久性を実現しているのである。
スプロケットとチェーンの組み合わせが、長い間バイクの駆動形式として使われているのにはさまざまなメリットがあるからだ。そのひとつが、最終減速比を比較的容易に変えられること。例えば、リアプロケットの丁数を増やせば加速性が向上(ショート)、逆に減らせば高速巡航(ロング)になる。ただし、それぞれにデメリットがあり、ダッシュ力が強まった分燃費が悪化したり、逆に高速型になった分燃費は良くなるが、発進時の加速力は弱くなる、といった感じだ。それらのメリット、デメリットを理解した上で「自分のバイクの味付けを少し変えてみたい」という場合に、有効なカスタムの手段と言えるだろう。なお当然のことながら、スプロケットの丁数を増やした場合はチェーンのコマ数を増やす(延長する)、減らした場合はコマ数を減らす(短くする)ことも必要である。リアスプロケットは素材がアルミ合金なので、重量は純正よりも軽く(Ninja1000での比較では約65%)なり、車体の軽量化になることもメリットだろう。
機能的な面もさることながら、ドレスアップパーツとしての役割も忘れてはならないポイントだ。純正とは異なるデザインで、車体の左側におけるワンポイントにもなるのだ。車種によってはチェーンサイズを変更する「コンバート」も可能で、それによって軽快感や逆に重量感の演出も果たせるのである。