取材協力/ADVANTAGE 取材・文/和歌山 利宏  撮影/PHOTO SPACE RS
掲載日/2014年9月3日


スーパーバイクのホモロゲマシンとして2000年に登場したSP-1。レース参戦に照準を当てていたため、公道での評価は決して芳しいものではなかった。ところが、あれから14年を経て、『ADVANTAGE』(アドバンテージ)によって全面的に手が入れられたSP-1は、公道で楽しめるものに変貌していた。上質のパーツを投入し、然るべきセットアップを行えば、バイクが蘇るという見本である。

INTRODUCTION

ワークスマシンVTR1000SPWを参考とし
ライダーが尖っていると感じる部分を徹底排除

VTR1000SP-1は、2000年にホンダが放ったスーパーバイクマシンである。それまでのVフォアエンジンのRVF(RC45)に代わり、ワークスマシンとして世界選手権や鈴鹿8耐にも参戦するだけに、その位置付けはストリートスポーツではなく、あくまでもレース参戦のための認定を得るホモロゲーションマシンであった。

 

そんなSP-1に、バイク用パーツを企画、製造・販売する兵庫県尼崎市のアドバンテージが大きく改造の手を入れた。ホモロゲマシンという生い立ちから、私自身、SP-1をワインディングロードで走らせて面白いと思ったことがないというのが正直なところだし、自らこのマシンの造り込みを行ったアドバンテージ代表の中西昇さんも、ノーマル状態はスパルタンで乗りにくいものであったという。

 

当然、アドバンテージSHOWAやアドバンテージNISSINなどといった、同社のサスペンション、ブレーキパーツが投入されていくのだが、尖った部分を排除することを目的に、ワークスマシンVTR1000SPWを参考とし、車体ディメンジョン変更やタイヤサイズ変更にも着手、さらにマフラー変更やダイノジェットの最新機であるDynojet WinPEP 7による完璧なインジェクションセッティングによって乗りやすさを高め、公道で楽しめるものへと生まれ変わっている。

 

アドバンテージSP-1のノーマルからの変更点は、じつに多岐に及ぶ。このSP-1で印象的なことは、一部のパーツだけが威力を発揮しているのではなく、ひとつひとつの効果がハーモニーとなって、大きくキャラクターを変貌させているということである。やはり、バイクは全てのマッチング次第なのである。

IMPRESSION

走りは乗りやすくフレンドリー
車齢14年であることを忘れ無心にさせてくれる

Vツインのリッタースーパースポーツとくればもっと軽快でスリムなマシンを期待してしまうが、現在の水準からすると決して軽いわけではない。車体は幅広ではないにしろ、重心も少々高めに感じてしまう。実際、2000年当時の水準としても車重は決して軽くはなく、Vツインゆえの重心の高さもあるのだから、これは致し方ない。

 

ところが、私が覚えている14年前のSP-1には、どうにも記憶が繋がらない。まるで別物のようなのだ。ただ、はっきり言えるのは、かつては公道を走って面白いとは思わなかったSP-1なのに、このアドバンテージSP-1は乗って楽しく、また楽しむ気にもさせてくれることである。

 

ハンドルはやや垂れ角が強めで、下っ腹に力を入れて上体を低く身構えることになり、ステップはノーマルより後方高めにあるため、ワインディングで自然と身体が踊りだす位置にある。もちろん、街中でも違和感はなく、尖っているわけではない。

 

ただ、そうなると、楽しくても、レーサー寄りのやや先鋭化したキャラをイメージしがちだが、尖った印象は一切ない。むしろ安定感に満ち溢れている。まずその点で、ノーマルとは大違いである。

フォークオフセットを小さくして、スイングアームを30mm延長。トレールを大きくするとともに、前輪をエンジン側に寄せて前輪分布荷重を高め、ホイールベースも伸ばし、安定性を向上させている。ただ、トレールの大きさからか、ステアリングの重さが気にならないでもないが、こうした変更はワークスマシンSPWに倣った方向であり、マッチングとして悪かろうはずはない。

 

加えてリアタイヤは、扁平率が50%から55%となり、ショック吸収性が高められ、挙動も寛容になっていて、タイヤのたわみによるフィードバックも豊かになっている。このイグザクトと呼ばれるホイールは、空気容量が大きく、タイヤのショック吸収能力が高められることも、そのことをより効果的にしているのだろう。SP-1はフレームが剛性過多とされ、後継型のSP-2では剛性を弱める方向でアレンジされているのだが、もはや、このマシンはフレームが固いとは感じさせない。

 

そんなスポーツフィーリングをさらに高水準化させているのが、軽量のアルミ鍛造ホイールと、ハイグレード化された前後のサスペンションである。軽量になったバネ下は路面から影響も受けにくく、路面の凹凸を忠実にトレース。そして前後のサスペンションはその動きを小気味良く伝え、路面の状態と接地感をリアルに伝えてくれる。

 

そして、楽しさに貢献しているのが、トラクションの掴みやすさである。ノーマルのSP-1はVツインとしては高回転型で、トルクではなく回してパワーで乗るフィーリングだったが、これはオリジナルのマフラーにインジェクションマップを合わせ込んだことで、パーシャルで中速域トルクでコーナリングを楽しむことができる。タコメーターのレッドゾーンが始まる10,000rpmまですんなり回ることに変わりはないが、やはり、バイクにとってトラクションをダイレクトに感じ取れることが大切なのである。

 

またそれだけではない。このSP-1は乗り手に信頼感を与え、いたずらに緊張感を与えることがない。そのひとつがトラクションコントロールクラッチである。クラッチの特殊なフリクションプレート材によって、急激なトルク変化を逃がしながらトラクションを柔らかに伝えてくれるので、加減速に対して尖ったものを感じさせないのだ。

 

もうひとつ、忘れてはならないのが特殊な支持方式のフローティングディスクである。ディスクの変形を吸収しても、回転方向には遊びがないので、ブレーキ操作が遅延なくダイレクトに伝わる。フィーリングがこの上なく上質なのである。コントローラブルなこともあって、ブレーキの効きはもっと強くてもいいと思われるほどである。

 

ここ近年においても、各メーカーから登場するバイクは進歩し続けている。しかしそれにも負けないぐらいにアフターマーケットのパーツも独自のアイデアが投入され、進歩している。14年前のバイクの変貌振りから、そのことを実感せずにはいられない。

 

TEST RIDER

和歌山 利宏

Toshihiro WAKAYAMA

某メーカーの開発&レーシングライダーを経験した後、ジャーナリストに転身。マシンの挙動を科学的に解説できるライダーとして、業界内での信頼も高い。

PICKUP PRODUCTS
  • フロントキャリパーはアドバンテージNISSINのラジアルマウント式。4ピストンの削り出し品。『advantage DIRECT DRIVE RACING DISC』と呼ばれるφ320mm径のフローティングディスクは、T型に突起のあるディスク内周がブラケットに噛み込み、外側のステンレスプレートで固定。KTMのモト3ワークスマシンにも採用されており、その効果は折り紙つき。

  • フロントフォークは、アドバンテージSHOWAφ43mm倒立型。フルアジャスタブルで圧側減衰力は高速/低速2系統調整式。インナーチューブはチタン・グラデーション・コーティングが施され、アウターチューブはワンオフの削り出し品。

  • フロントブレーキのマスターシリンダは、アドバンテージNISSINのφ19mm径ラジアルポンプ式。

  • クラッチマスターにもブレーキ側と同じ同じアドバンテージNISSINのラジアルポンプ式が奢られる。クラッチには、アドバンテージFCCのトラクションコントロールクラッチが採用される。

  • セパレート式のハンドルバーは、アドバンテージのオリジナル品。アッパーブラケットもオリジナルの削り出し品で、オフセットはノーマルの30mmから25mmに短縮されている。

  • ステップとそのブラケットは、モリワキエンジニアリングの4ポジション調整式ライディングステップ。

  • リアショックユニットは、アドバンテージNISSINのフルアジャスタブル。

  • スイングアームはノーマルをベースとして新たに耐久仕様の7N01材削り出しエンド部を溶接し、アーム長のロング化を可能にしている。リアディスクもフロントと同じ方式のフローティングタイプで、ディスク径はφ220mm。キャリパーはアドバンテージNISSINの削り出し2ピストン式だ。

  • マフラーはアドバンテージのスリップオン式。サイレンサーはチタン製。

  • スプロケットは、XAM JAPAN EXACT専用スペシャル品。アルミ削り出しでゴールドアルマイト処理が施されたスタンドフックが美しい。

  • 前後ホイールはアドバンテージEXACTのアルミ鍛造品でサイズは6.00-17。タイヤはBS・S020でサイズは190/55R17。55%扁平となり、一般的な50%扁平よりもハイトが高い。

VTR1000SP-1


BRAND INFORMATION

ADVANTAGE

常に最高を目指すフットワークパーツとカスタムバイクのプロショップ。SHOWA/KYB/NISSIN/F.C.C./NHK/D.I.D./XAMなど一流メーカーとコラボレートし、OEMではなくアドバンテージのエッセンスを注ぎ込んだオリジナルカスタムパーツとして、開発・販売を行う。レース向けに開発したパーツを世界標準とする事を目的とし、スズキグループでの経験を元に、AMA/FIMが主催する世界最高峰のモータースポーツに、一石を投じ続けている。

 

住所/兵庫県尼崎市昭和通9-324
電話/06-6412-6145(代表)
メール/ama@advantage-net.co.jp
営業時間/10:00-17:30
定休日/日曜、第2・第4・第5土曜