【スズキ Vストローム1050XT 試乗記事】気軽でフレンドリーなVツインアドベンチャーツアラー

掲載日:2020年05月26日 試乗インプレ・レビュー    

取材・文/中村 友彦 写真/井上 演

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SUZUKI V-Strom 1050XT

大排気量アドベンチャーツアラー界のロングセラーと言ったら、誰もが最初に思い浮かべるのは、1980年から発売が始まったBMWのフラットツインGSシリーズだろう。とはいえ、近年のこの分野を振り返ってみると、見方によってはスズキのVストロームが最もロングセラー、と言えなくもないのだ。2000年以降のフラットツインGSが3度の大改革を行っているのに対して、2002年に登場した初代以来、Vストロームの基本構成は変わっていないのだから。ちなみに同時代のホンダは、XL1000Vバラデロ→VFR1200Xクロスツアラー→CRF1000/1100Lアフリカツインと、まったく異なる3種類の大排気量アドベンチャーツアラーを世に送り出している。

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オンロードバイク的なツインスパータイプのアルミフレームに、TL1000Sをベースとする水冷90度Vツインを搭載。タイヤサイズはF:110/80R19、R:150/70R17。これが2002年に登場した初代から一貫している、Vストロームの特徴だ。もっとも、2代目となる2014年型ではフレームとエンジンを含めた数多くの部品が仕様変更を受け、スポークホイール仕様のXTが追加された2017年型からは、トラクションコントロールとABSの精度を高めるIMUを搭載しているのだが、初代で構築した基本構成を、Vストロームは長年に渡って頑なに守り続けているのである。

スズキ Vストローム1050XT 特徴

エンジン/電装系/足まわりを刷新すると同時に
往年のパリダカレーサーを思わせる外観を構築

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初代から数えると第3世代になる、2020年型Vストローム1050/XTの最もわかりやすい特徴は、1980年代末のパリダカレーサーDR-Zを再現したルックスだろう。スズキはこのルックスを構築するにあたって、当時のパリダカレーサーを担当したデザイナーを起用。クチバシを思わせるフロントマスクの造形は、昨今では他社のアドベンチャーツアラーも採用しているけれど、2020年型Vストローム1050/XTを目の当たりにしたら、やっぱり本家は違う!と感じる人が多いのではないだろうか。

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もちろん、2020年型 Vストローム1050/XTのトピックは見た目だけではない。1036ccの排気量に変更なないものの、電子制御式スロットル+ドライブモードセレクターの導入や、吸排気系やカムシャフトの刷新を行ったパワーユニットは、最高出力が99→106psに向上しているし、前後ショックやタイヤなども見直しを敢行。また、上級仕様のXTは、走行状況に応じてトラクションコントロールとABSの最適化を図るS.I.R.S(スズキインテリジェントライドシステム)やクルーズコントロールを導入している。

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ただし、現代の大排気量アドベンチャーツアラーの基準で考えるなら、Vストローム1050/XTのエンジンパワーと電子デバイスは控えめである。スズキの技術力を持ってすれば、さらにパワフルなエンジンを搭載し、さらに高度な電子デバイスを盛り込むことは可能なはずだが、先代と同様にライバル勢を大幅に下回る価格設定を考えると(STDは先代と同じ143万円で、XTは先代+4万4000円の151万8000円)、同社はこの分野の先鋭化と高価格化に危惧を抱いているのかもしれない。

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スズキ Vストローム1050XT 試乗インプレ

ライバル勢とは方向性が異なる
スズキならではの姿勢で万能性を追求

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試乗車の外装がかつてのスズキワークスカラーを彷彿とさせるチャンピオンイエローだったためか、初対面の新世代Vストローム1050XTは、何となく大柄に見えた。でもシートに跨ってハンドルに手を伸ばしてみると、意外にコンパクト。そうそう、Vストロームってこうだったよなあ……と思ったのだが、新世代は先代よりスリムな気もする。それはさておき、Vストロームは相変わらず気軽に走り出せるモデルだった。近年の大排気量アドベンチャーツアラーは、走り出す際に気合いやアジャストを必要とすることが少なくないのに、このバイクは勝手知ったるオンロードバイクのように、スムーズかつ自然に走り出せるのである。

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そういうキャラクターだから、市街地は楽々だ。気分的には背が高めで視界が広いビッグネイキッドという感触で、混雑した幹線道路をスイスイ走って行ける。もちろん高速道路も至って快適で、直進安定性も防風性もすこぶる良好。20年以上に渡って熟成を続けて来た水冷90度Vツインを堪能しながら、どこまで走り続けたくなってくる。もっともエンジンの主張という見方をするなら、Vストロームはライバル勢より控え目なのだが、それをマイナス要素と感じるかどうかは、乗り手の感性によりけりだろう。エンジンの強烈な主張は、状況によっては疲労の原因になることがあるのだから。

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というわけで、好印象からスタートした新世代Vストロームの試乗だが、撮影場所の峠道に向かう最中の僕は、あまりワクワクはしていなかった。と言うのも、先代はフロントまわりにちょっと硬い印象があって、アドベンチャーツアラーであるにも関わらず、荒れた路面のチマチマした峠道があまり得意ではなかったのである。僕はその原因を、剛性が高すぎるアルミツインスパーフレーム+倒立フォークだと思っていたのだが……。車体の基本構成を維持したまま、前後ショックやタイヤなどを刷新した2020年型は、予想外にして極上のフレンドリーさを獲得していたのだ! 低中速域でも前輪の接地感がわかりやすいし、車体をバンクさせた際に前輪に発生する自然舵角も実にナチュラル。この特性なら先代が不得手としていたオフロードも、適度に楽しめるに違いない。

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そしてフロントまわりのフィーリングに好感を抱いた僕は、Vストロームの資質に改めて感心することとなった。細身の19/17インチタイヤと幅が狭いVツインならではの軽快感は、以前から知っていたつもりだったけれど、新世代ではさらに磨きがかかっているし、熟成が進んだ前後ショックはセミアクティブサスなんて不要? と言いたくなるほど、路面の凹凸を巧みに吸収してくれる。また、フォークのストロークが長めだと言うのに、フロントブレーキをガッツリかけた際に、車体姿勢が極端に前のめりにならなかったのも印象的で、これはXTのみが採用するS.I.R.Sの恩恵だろう。なおXTの車重はSTD+11kgの247kgで、クラストップの軽さが魅力だったVストロームにとって、この重量増はマイナス要素になるのだが、撮影中の押し引きを除いて、今回の試乗で重さが本来の資質を阻害していると感じたことは、ただの一度もなかった。

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試乗後に僕の頭にふと浮かんだのは、1970年代後半にスズキの旗艦を務めた、並列4気筒車のGS1000である。もちろん、GSとVストロームのエンジン特性はまったく異なるし、車体の信頼感はVストロームのほうが格段に上だが、軽快感と安定感を程よい塩梅で両立した操安性や、乗り手の操作に対する実直な反応は、両車に共通する要素。言ってみれば新世代のVストローム1050/XTには、ベーシックモデルと言いたくなる資質が備わっていて、アドベンチャーツアラーに興味がなくても、この乗り味に共感する人は大勢いるんじゃないだろうか。

スズキ Vストローム1050XT 詳細写真

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フロントマスクは’80年代末のパリダカレーサーDR-Zを再現。角型LEDヘッドライトは、ローで上、ハイで下が点灯する。ナックルカバーやLEDウインカーはXTならではの装備だが、純正アクセサリーとして部品単体で購入することが可能だ。

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XTのスクリーンは前側に設置されたレバーを手で操作することで、11段階/上下50mmの高さ調整が可能。STDは工具を用いたボルトの差し替えが必要で、調整は3段階のみ。

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ハンドルは近年のアドベンチャーツアラーで定番になっている、アルミ製テーパータイプ。スイッチボックスは、クルーズコントロール用のボタンが備わった右側のみが新作である。グリップラバーはGSX-RシリーズやKATANAと共通。

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6段階の輝度調整が行える多機能液晶メーターは、STD:ポジ、XT:ネガ表示で、左側面にはUSBポートが設置されている。円型の速度/回転計の右下に備わるのは、ドライブモードセレクター/トラクションコントロール/ABSの設定。

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ガソリンタンク前半部を樹脂製シュラウドが覆う構成は先代と同様だが、新世代のデザインはかなりシャープ。なおXTに設定されたチャンピオンイエローとホワイト/オレンジも、’80年代末のパリダカレーサーのイメージを踏襲している。

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シートの座り心地は抜群。座面高は、STD:855mm、XT:850/870mmで、使い勝手に優れるリアキャリアは標準装備。なおVストローム1050/XTの純正アクセサリーは50種類以上で、その中には当然、トップ/パニアケースも存在する。

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ステップはラバー付きのオフロードタイプ。純正アクセサリーパーツに変更すれば、前後2段階/上下3段階の位置調整が行える。その後方にちらりと見えるセンタースタンドはXTのみの装備だが、このパーツも純正アセサリーとして購入可能。

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20年以上の歴史を誇る90度Vツインは、ユーロ5規制対応とパワーアップを両立するため、シリーズ初の電子制御スロットルを導入。余談だが、レースに特化したスズキ製90度Vツイン、1998~2003年型TL1000Rの最高出力は135psだった。

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フルアジャスタブル式の倒立フォークはKYBφ43mm。場面によって硬さを感じた先代とは異なり、新世代はあらゆる状況に対応できる従順さを獲得。もっともその柔軟さには専用設計された前後タイヤ、ブリヂストンA41も貢献しているようだ。

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絶大な制動力を発揮するフロントブレーキは、φ310mmディスク+トキコ・ラジアルマウント式4ピストン。オイルフィルターやエキゾーストパイプの保護を意識したのだろうか、フロントフェンダーはかなり長め。

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アルミツインスパーフレーム+スイングアームは先代の構成を継承するが、リアショックは設定を刷新。φ260mmディスク+ニッシン片押し式1ピストンのリアブレーキは、コントロール性がなかなか良好だった。

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STDのアルミキャストに対して、XTはチューブレスに対応するスポークホイールを採用。なお近年のアドベンチャーツアラーのタイヤは、年を経るごとに太くなる傾向だが、Vストロームは初代と同じF:110/80R19、R:150/70R17を維持。

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