
テクニクスは2002年1月に創業した、バイク用サスペンションのプロフェッショナルショップ。米国MX-TECH社にて本場の技術を習得した専門のスタッフが作業を行う他、近年はレースシーンなどで得たノウハウをいかしたオリジナル商品(TGR)の展開も始めている。基本であるサスペンションメンテナンスの技術力を見ながら、TGRの魅力と実力に迫ってみたい。
オフロードバイクと
サスペンションの関係
ストリートバイクユーザーに比べれば、オフロードバイクユーザーはサスペンションの重要度について体感している事が多いかも知れないが、それでもサスペンションのメンテナンスを定期的に行っているライダーは少ない。エンジンの場合は、オイルやフィルターの交換をまめに行わないと「エンジンが壊れるのでは」という恐怖感がはたらくからだろうが、実はサスペンションもエンジンと同じように……いや、それ以上に定期的なメンテナンスが必要とされる部品である。オイルシールからオイルが漏れてきたから、ロッドが錆びたから……なんて状態まで放っておくのは問題外!
とくにオフロードバイクの場合、サスペンションの性能が正しく発揮されていない状態というのは致命傷と言っていいほど。中古車を購入したら、まずやってほしいのはサスペンションのメンテナンスだ。モトクロスやエンデューロなどのレースに出る選手は、新車を購入した時にまっ先にするのがサスペンションのリバルビング(チューニング)。新車でもチューニングが必要である事を考えると、ある程度走った車両の場合の必要性は言うまでもないだろう。
サスペンション専門ショップ
テクニクスとは
埼玉県春日部市に今年(2013年)移転、新たに広く美しい店舗を構えたテクニクスは、クロスカントリー、エンデューロライダーの間では知らぬ者のいないほど有名なサスペンションチューニングブランドだ。2011年以来、JNCCを3連覇している鈴木 健二を筆頭に多くのライダーたちがテクニクスにサスのモディファイを依頼している。
「オフロードでは、多くの場合初期作動性を高めるモディファイになります。JNCCなどではモトクロッサーを使用する場合が多いのですが、速度が高く、高いジャンプも飛ぶモトクロス用サスペンションはかなりハードなセッティングになっています。そのサスペンションを、小さな衝撃でも素早く吸収するように初期作動を柔らかめにし、奥ではしっかりと粘るセッティングにします。初期作動性を上げるには、まず摩擦を取っていく事が特に重要ですね」。(井上 浩伸代表)
井上代表がテクニクスを立ち上げたのは今から12年近く前になる2002年。もともとバイクショップでメカニックを務めていた井上さんが、サスペンションメンテナンス専門店として立ち上げたファクトリーだ。
「もともとはバイクショップを目指していたのですが(笑)、サスメンテナンスの需要が多く、結局サスペンション専門のまま今に至っています」。サスペンション専門店を立ち上げた井上さんは2003年にアメリカに渡り、モトクロッサーのサスペンションチューンで知られるMX-TECHと技術提携。サスペンションメンテナンス以外に、チューニングのオーダー受注も増やしていく。
「オーダーの8割はメンテナンスですが、チューニングを依頼する方も増えています。そこにわずかなコストを追加するだけでより性能が上がるわけですから」。確かに、フロントフォークの場合、フルメンテナンスが2万円程度。そこに2万円強プラスすれば(メニューにより異なる)リバルビング出来るわけで、これは実に魅力的な価格設定だ。
2002年1月創業。米国MX-TECH社にて本場の技術を習得し、欧州のサスペンションメーカーで理論を学んだ専門のスタッフが作業を行う、バイク用サスペンションのプロフェッショナルショップ。近年はレースシーンなどで得たノウハウをいかしたオリジナル商品(TGR)の展開も始めている。
仕事が増えるに従い2004年に最初の移転を行い、2006年に自社ファクトリーを建設。2013年に3度目の移転を行い設立したのが、この新しいショールームを兼ねるファクトリー。
住所/埼玉県春日部市備後東4-5-40
電話/048-733-9055
営業/09:00-19:00
定休/日曜、祭日
追加オーダーしたい
テクニクスのリバルビング作業とは
リバルビングの内容は、モトクロスの本場アメリカで高い評価を受けているMX-TECH社の技術を受け継ぐもの。スタンダードサスの基礎データを正しく収集するショックDYNOシステム(サス各部の作動速度や機能判断をするツール)などを用いて築いてきた膨大なデータから、顧客1人1人の要望に合わせたセッティングを施しておりそれが人気の理由となっている。
「体重、身長、乗り方、今何が不満なのか……そんな要望を聞いて作業します。これらの要素を伺えば、なにしろこれまでの作業データが膨大なので、求める性能を提供する事が出来ます。もちろん、乗って見て違うという場合は、納得いくまで作業させてもらっています。まあ、あまりそういう事はありませんが」(井上さん)。サスペンションのリバルビングには、膨大な種類が存在するシムと呼ばれるワッシャー状の部品や、オイルシール、オイルなどが必要になるが、テクニクスではほとんどの場合すぐに対応出来るだけの部品を在庫し、迅速に対応している。
新社屋の2階に設置されたファクトリーはじつに整然としていて、まるで歯医者のように清潔だった。その一角にある棚には、膨大なシール、シム、ショックボディなどがこれまた整然と並ぶ。僕らが訪れたその日も、テクニクスのメカニックたちがそのフロアのなかをキビキビと動き回り、サスを1本1本生き返らせていた。
レースシーンから得たノウハウで
輸入パーツの販売も開始
サスペンションのメンテナンス、リバルビングを行ううちに顧客からの様々な要望を受けるようになった事で、テクニクスではいくつかのスペシャルパーツも取り扱うようになった。2005年にイギリスのショックメーカーであるナイトロン(2007年にナイトロンジャパンに輸入販売権を譲渡)、2009年にCNC加工パーツで知られるXTRIG、2010年にインナーチューブで知られるTNK、そして2011年には優れた性能を発揮するオイルシールで知られるSKFの、それぞれ日本輸入販売元となっている。そして、2013年からは自社ブランドである「TGR」もスタート。オリジナル製品としてレーシングホイール、サスペンションスプリングの製造・販売を開始した。
「スーパーモタードでは真っ先に必要になるパーツがホイールなので要望が多く、オリジナルで作る事にしたんです。パーツはオーダーして制作していますが、ホイール組は弊社ファクトリーで1本1本行っています」(井上さん)。カスタムパーツとして考えた場合、まったく目立たないパーツであるオイルシールのSKFも取り扱う。
「KTMも2012モデルから純正採用するなど、これ1つでサスの作動性がアップすると言っていいくらい効果の高いパーツです」(井上さん)。SKFのパーツは、フォークシールはもちろん、ホイールシール、リアショックシールヘッドなどが各モデル用に揃えられている。リバルビング時に合わせて使うと効果的だろう。
耳寄りなのが、現在『SKFトライアルキャンペーン』と称して、フォークメンテナンスの際にはプラス2,100円で(1キット左右セット)、ショックメンテナンスの際にはプラス5,250円でそれぞれ、SKFフォークシール、ショックシールヘッドを組み込んでくれる事。フォークシールが1キットで3,780円、シールヘッドが8,820円な事を考えると大幅なプライスダウンに加え作業工賃もメンテナンスに含まれるので、トータルのプライスは相当に抑えられる。メンテナンスと同時に是非お願いしたいオプションだ。
※SKFトライアルキャンペーンの期間はテクニクスのホームページ上でご確認下さい
SKFフォークシール
スタンダードで使われる事の多いOEMシールに比べ、クロームメッキのインナーチューブに対し25~45%、チタンコートなどハードコートされたインナーチューブと組み合わせれば75%もフリクションを低減させる事が出来るフォークシール。その理由は、素材自体が非常に高い潤滑性をもっているためだ。対応メーカーも幅広く、手軽なサスチューンとしても最適(3,780円~・1キット)。
SKFリアショックシールヘッド
フォークシール同様、非常に潤滑性の高い素材を使って作られたリアショックユニット内部パーツ。ロッドの先端に装着され、オイルの漏れを防ぐ肝心要の部品だが、SKFではこのパーツをラバーの一体構造で製造。そのため、エアの混入がしにくく、サスペンションの性能を高く維持する構造となっている(8,820円)。
SKFホイールシールキット
素材自体に潤滑性をもつ『ローティングプラスチックシールド』を採用、ベアリングへの泥や砂、水の進入を防ぐ機能を果たしながら超低フリクションを実現したSKF製ホイールシールキット。専用のアクスルカラーも付属する(4,410円)。
オリジナルレーシングキット『TGR』とは
どのような製品群か?!
TGR(TECHNIX GEAR)は、テクニクスがオリジナルで企画、設計、製造するオリジナルブランドだ。現在ラインアップされている商品は、スーパーモタード用、モトクロス用に用意されたTGRレーシングホイールと、テクニクスのノウハウを注ぎ込んだTGRスプリングだ。
TGRレーシングホイールはCNC仕上げのアルミビレットハブを採用した完組ホイール。TYPE Rは『リアルパフォーマンス』を追求したレーシングホイール。アルミ削りだしのハブにD.I.D.製Dirt Starブラックリム、ダブルバテッドスポーク、スプラインドライブ・アルミニップルを採用する。しなやかさと剛性の高さを絶妙にバランスさせていて、全車両36本スポークとしている事も特徴。モトクロス用(10万5,000円・前後セット)、スーパーモタード用(13万6,500円・前後セット)をラインアップ。
TGRスプリングは、様々なテストを重ねて用途に最適なスプリングレートをテクニクスが設定し製造したもので、車種専用設計となる。前後とも、バイク用スプリング素材として最適なシリコンクロム鋼を採用。現在のラインアップは、WR250R(ヤマハ)ソフトスプリング(前後セット2万3,100円)、ミニモト用ハードスプリング(前後セット2万1,000円)、D-TRACKER(カワサキ)ハードスプリング(前後セット2万3,100円)となる。
ハイクォリティーな新社屋
非常に良好な環境で作業される
2002年にサスペンションメンテナンス専門ショップとして埼玉県・春日部で創業したテクニクス。サスペンションのメンテナンスだけを行うファクトリーというのは日本では少なく、仕事が増えるに従って2004年に最初の移転を行い、2006年には自社ファクトリーを建設。そして2013年、3度目の移転を行い、同じ春日部市内にショールームを兼ねるファクトリーをオープンした。多数のサスペンションメンテナンスを同時に行えるよう配慮されたファクトリーと、顧客のバイクを預かるために余裕のあるスペースと駐車場も確保している。昔ながらの『整備工場』とは一線を画したイメージの新社屋。社長もスタッフもとても気さくな方ばかりなので、自分のバイクのハンドリングに不満のあるライダーは、ぜひ訪れて相談を。なにしろ、バイク好きが高じてこの会社を作ったのが井上社長。スタッフも、バイクに関わりたくて転職してきた人もいるほどだ。ライダーの気持ちをよく理解してくれるショップなのだ。