掲載日:2023年05月16日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/伊井 覚
BRIXTON CROSSFIRE 125XS
BRIXTONはイギリスの首都ロンドンの南部にある街の名前で、70年代に活躍したパンクバンド「ザ・クラッシュ」の曲「The Guns of Brixton」でも知られている。ではBRIXTONはイギリスのメーカーなのか、と思いきや、実はそうではない。BRIXTONはイギリスのストリートカルチャーをリスペクトする意味で名付けられた、オーストリアのメーカーだ。母体となるKSRグループが、ディストリビューターとしてモーターサイクルビジネスに着手したのは1996年。2016年にLambrettaを再興し、2018年に全く新しいオリジナルモーターサイクルブランドとしてBRIXTONを誕生させた。
BRIXTONのラインナップはストリートモデルとスクランブラーモデルが中心となっている。中でもCROSSFIREはネオクラシックと呼ぶのが相応しい近未来的なスタイルを持つストリートモデルだ。現在日本に導入されているラインナップは5種で、水冷500ccエンジンを搭載したCROSSFIRE 500/X/XCと、水冷125ccエンジンを搭載したCROSSFIRE 125、そして空冷125ccエンジンを搭載したCROSSFIRE 125XSとなっている。
CROSSFIREシリーズに限った話ではなく、BRIXTONのモーターサイクルは全てデザインに大きなこだわりを持って作られている。同じオーストリアのブランドKTMのデザインを手がけているKISKAでデザインリーダーを務めていたクレイグ・デント氏が立ち上げたデザインスタジオ「RIDE」と、BRIXTONのエンジニアが共にコンセプトやモデリングから作り上げており、美しさと性能を併せ持っていると言える。
その中でも今回紹介するCROSSFIRE 125XSは前後ホイールサイズが12インチのコンパクトなモデルで、試乗前の僕はそのサイズ感から「ちょっと非力なバイクなのではないか……」と思っていた。ところが走り出してみると、そんな先入観は一瞬で吹き飛んでしまった。低速から力強く前に押し出すパワーを感じ、エンジンの出力特性はフラットで扱いやすい。軽量かつ重心バランスがよく、コーナーで寝かせても転びそうな気配が全くない。
よく大型バイクに対して「扱い切れない」という表現をする人がいるが、そもそも250ccであっても本当に扱い切るためには相当なスキルが必要だ。しかし125ccで、かつこのミニマムなサイズ感ならばかなり限界まで性能を引き出すことができる。それでいて身長175cmの僕が乗っても窮屈な感じはない。ちょっとアクセルを開けすぎたり、バイクを寝かしすぎたりしても破綻することなく掌中に収まってくれる安心感。これは12インチの前後ホイールと、ショートめのスプロケット設定によるところが大きいだろう。
エンジンの最高出力は8.2kW/8,500rpmなのだが、実際に高回転まで回してみると10,000rpmくらいまでパワーが出ている。5速まで入れると無理してアクセルを開けなくても国道やバイパスの車の流れに乗れるし、3〜4速くらいで峠のワインディングを走れば、場所によっては大型バイクとも張り合えてしまう。
車体について触れておくと、全長1,690mm、全幅780mm、全高990mmでホンダのグロムやカワサキのKSRと似たようなサイズ感だ。前後サスペンションはしなやかに動くが安定性は高く、本国サイトで最高速が95km/hとなっているのも納得できる。それでいて12インチホイールなので旋回性能は抜群に良い。車両重量は111kgで、リアタイヤを持ち上げてみると見た目の印象よりも少しずっしりしているが、それが安定性の高さに繋がっているのかもしれない。
シート形状が少し特殊でシート前方、タンクと接する部分がせり上がっており、最初は違和感を覚えたのだが、乗っているうちに、その部分にお尻を預ければコーナーでフロント荷重がかけられるのだと気づき、目からウロコな気分だった。
可愛いサイズ感でありながら、ミリタリーテイストなデザイン、そして意外なほどパワフルなエンジン。街乗りからツーリング、さらにはサーキットまで楽しく遊び倒せる一台であることは間違いない。